「・・・・・・・・・・イヤです。」
「なっ!?」
長く苦楽を共にし、お互いに知らないことはなにもない、そんなマッスグマからの意外な拒絶に俺は耳を疑った。
「ちょっと待ってくれよ、今がどういう状況かわかっているだろっ!」
「・・・・・・・・・・イヤなものはイヤなんです!わたしそんな恥知らずなもえもんじゃありませんっ!」
彼女にだって今がどんなときであるかはわかっているはずだ。
低レベルのモンスターを多くつれているときに限っての強敵からの挑戦。
相手のブラッキーの硬い守りの前に攻撃はほとんど効いていない。
簡単に言えば詰み。このままでは少しずつかじられての敗北は必至である。
とはいえ逆転の手がないわけではない。それが彼女の・・・・・・
「はらだいこだよ、は・ら・だ・い・こっ!あとでカムラの実あげるから!」
「ぜったいしません!それにカムラなんてやです!かわいくないです!モモンのほうがいいです!」
進化してからはすっかりお姉さんになったと思ってたけど急に駄々っ子になっちゃったなぁ。
ジグザグマだったころはあんなに喜んでポンポン叩いていたのに・・・・・・。
こういうときに厳しく接さないと駄目なのかなとも思うのだけど、どうもこいつには強く言えない。
そりゃそうだ、こいつときたらすまして見えるくせして
「私はマスターひとすじなんですから目移りしちゃイヤですよ」なんて可愛いことを言ってくれるのだから。
「わかったよ。モモンの実もつけるから。なっ?お願いだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ヒメリも・・・・。」
「ヒメリもだな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・毛づくろいもしてください。」
「わかったわかった。きのみもいっぱいやるし毛づくろいもしてやるし帰ったら好きなだけ遊んでやるからな!」
相手トレーナーがニヤニヤしている。ブラッキーもニヤニヤしている。
♂どもめ・・今に見てやがれ・・・・・
「・・・・・・・わり・・・・・」
「えっ?」
「・・・みがわりに隠れてやるのでもいいのなら・・・・・」
「わかったわかった、隠れてでもいいから!」
「・・・マ、マスターがどうしてもってゆうからやるんですよ?すごくはずかしいんですよ?」
マッスグマはどこからかみがわりの人形をだすと相手と自分の間に置き、こっちをむいてもじもじし始めた。
かわいい。実にかわいい。俺は一瞬でバトルがどうでも良くなった。
「はやく!はやく!」
「ぅぅぅぅぅ・・・・・・・なんでこんな・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぽんぽん。
ひかえめな音が二度響いた。いやおそらく俺の頭の中でだけ響いていた。
「( ゚д゚)ポカーン」
みるみるうちにマッスグマの顔が紅潮していく。
「う、う、うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
だからやだって言ったんです!恥知らずな痴女もえもんだと思ってるんですね!?もうお嫁にいけませんっ!
責任とってくださああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
そのままみがわりの陰から飛び出すとじたばたしながら敵に向かって突っ込んでいった。
俺はトランスしていて見ちゃいなかったが、ブラッキーと相手トレーナーは一瞬のうちにぼろくずのようにされた・・・らしい。
だがそんなことはもはや気にしてはいられなかった。
正気にもどった俺には泣きわめきながら野生のもえもんを蹴散らすマッスグマをとめるという仕事が残されていたのだから。
最終更新:2008年01月30日 20:42