5スレ>>136(1)


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どこ生まれなのかも分からない、銀色頭のカゲボウズは今日は何かを発見したのか
しきりにゲンガーの目を覗き込もうとしていた。

そしてそれは何故かエネコも同じで、ゲンガーは兄弟分ふたりにじろじろと
眺められていた。

正直言って、ゲンガーは視線を合わせられることを嫌っていた。
それは恥ずかしいとか、もちろんそういうことも関係していたのだが
とにかく苦手だった。


ゲンガーの目は赤い。
ゲンガーの赤い目は現実と虚構の境界線を崩すことができる。
それは、たった数十秒間しか見せられない、泡沫の幻影ではあるけれど。

たった数十秒間ではあるが、相手の心を壊すのには十分な時間だ。


だから、ゲンガーは不用意に目を合わせられることを嫌う。
相手に惨い幻影を見せてしまいそうな気がするからだ。他意はなくとも。


「…ああああああうざったいな! 何だよさっきからじろじろと!」


大きな黄緑色の目を瞬かせて、カゲボウズは慌てて視線をそらせた。
小さくごめんなさい と言ったような気がしたが、ちゃんと聴こえたわけではないので
本当のところはわからない。

バックミラーを見ると、シート席のエネコの姿が消えていた。
どうやらゲンガーの怒声に縮こまってしまったらしい。

ラジオをつけると、今流行りの曲がずんちゃ、ずんちゃと流れてきた。
大して変わらない音。旋律と言っていいのかわからないような幼稚なリズム。
プロとアマチュアの境界線が年々曖昧になっていく分野。
…いや、それはどこの世界でも言えることか。


ハンドルを切りながら、ゲンガーは思考を巡らせる。

いい加減どうにかしないと、本当に金がない。

喫茶店の店長にたかったり、残飯漁りをして食べるものは確保してきたものの
それでいつまでも何とかなる訳でもない。ましてや今は兄弟分が増えた身だ。

さてどうしたものか…と考える。
仕事は探せばある。このカオスなコンクリートの世界なら、子供であっても
望まれる仕事内容をこなせる力を持っていれば、仕事を請けることが出来る。

しかし、好んで薄暗い仕事に手を突っ込みたくないというのが本音だ。
ニ、三度ほどその手の仕事を請け負ったことがあったが、大抵の場合はロクな目に遭わないのだ。
しかも妙な輩との縁が出来てしまうというオマケつきで。

色々と思案してみたものの、堅実な手段は面倒くさいから嫌だ、とゲンガーは思った。
結局のところ、ゲンガーにはそういうのは向いていないのだ。しかも幸か不幸かゲンガーは
外道な手段のほうが効率が良かったりするのだ。

結論に辿り着いたゲンガーは再びハンドルを切った。
助手席の銀色頭は、気に入っている曲がラジオから流れはじめたらしく
ちょっとだけ身体を揺らしていた。

そんなところだけは変わったな、と横目で見ながらゲンガーは思った。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



ゲンガーがこの辺りを「カオス」と評価するには訳がある。

一つには、さっき言ったように子供でも能力さえあれば受けられる仕事があり、
それは裏と表のギリギリラインを走っているような内容が多いということ。

もう一つには、この辺り自体も裏と表のギリギリラインを走っているということ。

…つまり、建前としては法律などはあるのだが、現実にはちょっとした無法地帯に
成り果てているのである。

薬屋へ行けばあってはならないはずの代物が置いてあったり、診療所と称した個人病院というか
研究施設があったり、金さえ出せば何でも仕入れて売ってくれるような「よろず屋」があったり…などなど。

まあ、その分この三人のように捨てられた萌えもんなどでも、頑張れば文句一つ言われず
生きることができる世界でもあるのだが。

そんなわけで、この辺りの治安ははっきり言って良くはない。
ケンカを売られたら自分で何とかせねばならないし、誘拐されても誰も助けに来てはくれない。



――― そして、ゲンガーたちは今まさにケンカを売られている真っ最中だった。

ふはー と、大げさに溜め息をついて腕を組み、もっともらしく目を閉じるゲンガー。
周囲を取り巻く気配は、隠れているものも含めて十ニ、三人ほど。
とはいっても、このレベルであれば百人いてもどうにかできる程度だ。

どれもこれもが、どこか焦点の合わない目をしている。
ああ、何かまた変なのに因縁を吹っかけられたものだなあと結論付けて、ゲンガーは赤い目を開けた。

襲われる理由など、この辺りではあって無いようなもの。
まあ、それはここ以外の世界でも同じようだったが。

とはいえ悪いことばかり、というわけでもない。
今日のように金に困ったときには、こういう連中は良い収入源になる。
あまり裕福そうな顔立ちではなかったが、その財布の中身を合計すればそれなりの金額にはなるだろう。

とりあえずこういう事態になったら、ゲンガーは殴ることに決めている。
この辺りではそれが解決の早道だからだ。


「二人とも下がってろ」


その言葉に、カゲボウズもエネコも素直に従った。
小さな二人が心配だったということも勿論あるが、相手は何しろ自分に用があるのだ。
関わらせるのは筋違いというものだ。

すっかり戦闘態勢に入っていたゲンガーは、次いで吐かれた言葉にぽかんとなった。


「逃げ出してただで済むと思ったのか、HFOSA-42号、HFOSA-43号!
 さあ、大人しく我らの元へ帰ってきてもらおうか!」


どうやらご指名は、後ろの小さな二人のほうらしい。
訳の分からない単語を言っていたが、視線だけで窺ってみるとどうやら二人の別称だったらしい。

銀色頭の周囲で、小さな火花が散る。
小さなレディの周囲で、冷気が流れ始める。

風もないのに前髪がふわりと揺れた。
二人のいつもの雰囲気が、どんどん冷えたものへと変化していく。


あの日の死闘の時に見た、戦士の片鱗がそこにあった。
焦点の定まらない妙な連中は、その身で「わきまえる」ということを知るのだろう。
金色の雷と、凍える氷の力で持って。

そうは思ったが


ゲンガーは腕を、先頭の萌えもんに向かって思い切り振り下ろした。


大きな目がいっそう開かれて、瞬くのが視界の端に見えた。それはそうだろう。
己に売られたケンカを、勝手に持っていかれたのだ。ゲンガーだったらその場で
張り倒しているところだ。

我ながら破綻しているなあ、とは思ったが、己の行動に異論はなかったのでそのまま次の行動に移った。

行き場を失った雷と冷気が、途方にくれたように散った。
けっこう綺麗なんだなあと少しだけ見とれ、寄せられる敵意に対してゲンガーは
牙を剥いて笑った。

数日前に感じた、腹の底から煮え滾る感覚がよみがえる。
臓腑を煮えさせるほどに凶悪な感情が、ゲンガーを突き動かす。



「…こいつらを知らない馬鹿どもが、勝手につけた名前で、解ったような口効くんじゃねえよ」



何がHFOSA-42号だ。
何がHFOSA-43号だ。

こいつらは、俺が拾ったんだ。

まだ一度も、その名を呼んだことは、ないけれど。



「この小さなレディの名前は“エネコ”!
 この銀色頭の名前は“カゲボウズ”ってーんだよ!!
 
 …その足りない頭に叩き込んどけ、ボケどもが!」


影から、うねる気配が湧き出てきた。
それらは球体の形を取り、ゲンガーの周囲にふわふわと待機する。
ゲンガーが作り出した、ゲンガーの命令だけを聞くシャドーボールだ。

後ろの方で、ぼんやりとしているカゲボウズとエネコ。


( ――― あいつらを、守れ )


10個あった影色の球体のうち、4つほどが二人の元へ飛んでいった。
そして残りの球体は、主の目の前に立ちはだかる『敵』へと飛んでいった。

片方は守るために、そしてもう片方は敵を粉砕するために。

どんどん膨らんでいくゲンガーの凶悪な部分に呼応するように、大気がうねりを上げる。
うねりはやがて嵐のようになり、賢く逃げ出さなかったもの以外は、全て飲み込まれて消えた。


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ゲンガーとは異なり、カゲボウズとエネコにはそれほどケンカを買うことに執着はしていないらしい。
ゲンガーが回収という名の窃盗を行っている間も、二人とも黙ってそこに立っていた。

倒れた萌えもんどもから頂けるものは全て頂いて、上手いこと幻影が決まったゲンガーは
上機嫌で踵を返した。

ちょっと歩いて、すぐに気がつく。弟分たちがついてこないことに。
仕方ないので振り返って


「おーい、行くぞー?」


それから、付け足す。



「カゲボウズ、エネコ」



突っ立っていた体が、ぴくりと震えたのが分かった。気に障ったのだろうか?
でもゲンガーは構わなかった。

これから先、二人ともそう呼ぶのだ。
決定事項だった。


「置いてくぞー?」


二度目の呼びかけに、二人とも駆け寄ってきた。
今まで無表情だった黄緑色の目が揺れていたのが見えて、ゲンガーは少しだけ首をかしげる。

まっすぐにゲンガーの目を見てくる黄緑色の目と、開かれることのない糸目。


「…あの」

「…どした?」

「聞いても、いいですか?」

「何を?」

「あのね」


二人同時に話しかけてくるなんて、珍しい。
そんなどうでもいいことを思った。



「「 その目は、この世が赤色に見えるの(ですか)? 」」



ずーっと気になっていたのだと、緊張した声で問いかける二人。
あまりのアホらしさにゲンガーはずっこけそうになったが、これほどまでに真剣に問われては
きちんと答える他あるまい。


「…じゃあ聞くけどな、おまえの目はこの世が黄緑色に見えるのか?」

「「…あ」」


物凄いことを発見したように、声をあげる。
エネコの目の色は分からなかったが、ちゃんと彼女にも意味が伝わったらしい。

呆れ顔のゲンガーに恥じ入ったのか、エネコはうつむいて言い訳をした。
キレイな色の目だから、自分たちと同じものが見えているとは思えなかった、と。


「変わるかアホ」


少々投げやりにそう返し、愛車に向かって歩き始める。
本当に置いていかれるとでも思ったのか、二人ともぱたぱたと音をたててついてきた。
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