5スレ>>150


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 人類が平穏に生きるには何を確保する必要があるだろうか。
 気を休められる家族? 腹を割って話せる友人? 何もかもを許せる恋人?
 どれも大事なものだ。人生を豊かにするという点では欠かせないピースであろう。
 しかし、もっと根本的に、明日の心配をせずに生きるのに必要なそれではない。
 では何だ。人が獣の如き刹那を永遠に続けていく生活を送らないために必要なものとは何だ。
 これはあくまで一人のトレーナーとして長年旅をした俺の個人的結論だが、それは安定した寝床と食事ではないだろうか。
 尤も、一つの土地にマイホームでもこさえて定住する必要は無い。
 テントと平原さえあれば春夏秋冬どんな時期でも安眠は可能だ。
 食事だって、パソコンだけで遠い地の他人と通信も出来るこの時代だ。よほどの失敗をしなければ心配はない。
 これに釣りなぞの時間を潰せる趣味さえあれば、刺激こそないが、この上なく平穏だと俺は思う。
 そう、この二つさえあれば。この二つだけならば。
 俺は今使い慣れた寝袋からのそのそと這い出て、テントの隙間から清涼な朝日を目にしている。
 一日の始まりだ。今日は下山するだけだから、寝床と食事への不安はゼロだ。
 だというのに、俺の裡には平穏どころか安息の二文字すら顔を出してくれない。
 それどころか寝袋にカムバックしてトゥモロウモーニングまでスリーピングしたい、そんな気持ちでいっぱいだ。
 無論、そんなわがままが許されるほどいい身分ではない。
 そんなグータラは、彼女達が許してくれないのだ。
 テントを出ると予想通りの晴天で、山頂独特の冷気が肌を打ってきた。
 深呼吸でもしようと思いっきり伸びたら空が目に入った。
 はるか彼方に黒い粒が六つ。
 停滞しているかと思ったら交錯を始めてまた止まり、時折赤やら青やらの光線が瞬く。
 その粒達は会話が出来るようだ。風もないのに額まで届いて、全身へと広まるその喧騒には覚えがある。
 気持ちよく吐こうと溜め込んだ肺の空気は溜息に変わってしまった。
「今日こそはわたしがマスターに乗ってもらうんですー! チルタリスはひっこんでてよぅ!」
「えー、私も乗ってもらいたいですよ。よろしいでしょうフライゴン」
「おめぇらホントーにわがままだな! 昨日の呑み比べで勝ったのあたしだろーが! なあラティアス」
「そんなのお酒の席での妄言じゃないっ。ラティオス、何か言ってやってっ」
「そうだよフライゴン。大体君と呑んで勝てるのなんてレックウザぐらいじゃないか」
「リザードンより私の方が乗ってもらってない」
 お、ちょうど一回りした。示し合わせでもしてるのか。
 いやいや、そんな感心してる場合じゃない。
 朝飯どころか顔も洗ってないが、低血圧を嘆いている場合じゃない。
 大きく息を吸う。今度は溜息ではなく、声にして息を吐き出した。
 おそらくは地上最強と呼べるだろう、ドラゴンパーティーに向かって。
「全員せいれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーつ!」
 かくして。
 本日も平穏に生きるのにはあまりにも余分すぎる、ドラゴン一家との華麗なる日常が始まる。


 都合七人分の炊き出しはキャンプなら日常茶飯事、どちらかといえば少ない方だと言える。
 だから昨日一日かけて探索した猪一頭が丸々消えてしまうのは、一人頭が異常な量というだけの話。
 正確にいうと、一人分はまともで、残り六人分がありえないのだ。
「それで、今日は何を揉めてた?」
 先ほどまで団欒と囲まれていた食卓は一転、簡易裁判所へと早変わり。
 被告六名。原告六名。裁判官一名。
 これでは裁判というより仲裁と呼ぶべきなのだろうか。
「言い出したのはフライゴンよマスター」
 何故ここにいなくてはならないのかと言わんばかりに不機嫌な発言をしたのはラティアスだ。
 怒り心頭なのか、髪の桃色以上に頬を染めている。
 しかし、それよりも激しく喰らいついたのは糾弾された深緑の精霊萌えもんである。
「違ぇよご主人、ラティアスが昨日の約束を反故にしたのが原因だ」
「だからあんなの約束に入りませんっ」
「じゃあどれならいいって言うんだよコラ!」
「ストップストップ。こんなとこで地震と超能力の争いする気かお前ら」
 さっきのは空中だったからともかく、足がついてる今やったらこの山崩れるぞ。
 自主発言を一切却下して、この面子でまだまともなラティオスに説明を求める。
「昨日マスターさんが寝入った後にみんなで酒盛りをしたんです。
 二杯ほど飲んだ頃に、フライゴンが急にこんな事を言い出しました。
『これから休みなしで呑んで、朝日を拝めた奴が明日ご主人を背にしよう』
 僕やラティアスは渋ったのですが、ほろ酔いで気分の良かったチルタリスが乗っかっちゃいまして。
 凄い勢いで呑んでく二人に何を思ったのか、リザードン、ラティアス、レックウザ、それと、その、僕と続いてしまい」
 それからはもう語るに語れませんよ、と羞恥と屈辱をまとめて噛み潰した顔をしてラティオスは話を打ち切った。
 結局は全員乗っかって馬鹿やった訳か。どうせ大勢が決まった頃に誰かがいちゃもんをつけたんだろう。
 しかし、それだけで怪獣大戦争まで発展するか普通。いや普通じゃないか。
 どうせ偶々早起きしてた町の長老さん辺りがまた伝説創っちゃうんだろうなー、と思いつつ被告に向き返る。
「フライゴン。やっぱお前が元凶か?」
「バッ! あのなご主人、あたしだって誰も乗らなきゃこんなに食い下がらないさ。
 けどチルタリスが乗るから、ついマジに」
「え?」
 名前が出たからか、猪の骨をしゃぶっていたチルタリスがこちらに視線を投げかけた。
 フライゴンが何かと呑み勝負を持ちかけるのは今に始まった癖ではない。
 ならばそれをスルーせずに約束として定めてしまったこいつが喧嘩の起爆点と言えなくもない。
 しかし当の本人は、そもそもこの席がどういう席なのかも分かってないらしく、疑問符を浮かべている。
「私が犯人なのですか? でも皆さん楽しそうでしたよ?」
 常に雲みたいにふわふわしているからか、思考も口調もどこか宙に浮かんで地に足がついていない気がする。
「いや、楽しければいいもんじゃないから」
「ですけど、皆さん本当に真剣でしたわ。
 旦那様に乗ってもらうんだーって。でも、フライゴンは強くて敵う相手ではなかったですね」
 少し口を尖らせるも表情は楽しげだ。本気でゲームか何かだと思っているのだろう。
 もう舐れる肉がないと分かると、今度は顔全体を歪めてごみ箱に捨てた。
 本来下品な行動なのだが、こいつは仕草そのものが美麗だからか、何故かそう受け取れない。
「ああ。そういえば私は三番目でした。旦那様、本日は私の羽毛でのんびりと旅をしませんか?」
「そ、そんな事言ったらわたし四番目だもん!」
 横槍を入れたのはチルタリスの右隣で俯いていたリザードンだ。
 しっぽの炎が今の叫びに呼応したかのように燃え盛っている。彼女にも譲れない部分があるのか。
「それにわたし、最近全然マスターに乗ってもらってないんだよ?
 ですよねマスター」
「む」
 そういえばこの山に登るまでの数週間はずっと海を渡ってたから、ほのおタイプの彼女はほとんどボールの中だった。
 そもそもリザードンはメンバーの中で一番飛行経験が浅い。生まれつき翼がないのは彼女だけだからだ。
 最初は飛ぶ事自体にひどい怯えを見せていて、飛行中に腰が抜けてしまう珍事まで起こしている。
 血の滲む努力の甲斐あって俺を乗せるのに問題はないが、それでも不安はある。
 だから少しでも悪条件が重なれば敬遠していたのだが、まさかそれが不満になっているとは。
「わたしってもしかして乗り心地悪いですか。
 空を飛ぶのはまだ怖いけど、でも、マスターの為に飛ぶ練習してます。この前とは違う筈ですっ」
「リザードン、その特訓に付き合ってあげてるの私じゃない。
 師匠を優先させるのが弟子の勤めじゃないかしら」
「あ、じゃあ僕も手伝ったから二人で主に乗ってもらおうかラティアス」
「いい考えねラティオス。手綱とソリを用意すれば馬車みたいで面白いかも」
「ソリを用意するのは大変ですから、二人の間に私が入るのがいいのでは?」
「テメーラあたしをシカトして楽しいデスカー?」
 リザードンの直訴に焦ったのか、他の面子が冗談じゃないと割り込んできた。
 希少種な分、元々自分が一番だと思い込みがちなドラゴンタイプである。協調性も譲り合い精神にも乏しい。
 ボールに戻せばこの場は治まるだろうが、それでは後で更に凄惨な事態になるか、俺に矛先が向かってくる。
 反発し合うのが前提みたいな連中をなだめすかして妥協点を探るしかあるまい。
 ニトログリセンの輸送が如き慎重さが求められる場だ。トレーナーの腕の見せ所である。
 とりあえずまだ話を訊いてない最後の一人に話を投げようと視線を渡すが、そいつは消えていた。
 やってられなくて逃げたのだろうか。見回してみると、シャツの裾を引っ張られた。
 最後の一人はすぐ傍にいたようだ。
「レックウザ?」
「…………」
 まだメンバーになって日の浅い少女は、ぼんやりとした目で俺を見上げている。
 お前はどう思うと口を開く間際、するすると裾を引っ張った手が反対側にまで伸びてきた。
 もう一方の手も同じく反対側まで伸ばし、その先で両手をがっしりと組む。
 簡単に言うと、抱きつかれた。
「なっ」
 そして一言。
「私、マスターに乗ってもらいたい」
 これをどう表現するべきだろうか。
 先ほどの例えを用いるなら、ニトログリセンにマルマインを叩きつけたと言えば分かりやすいか。
 目前の言い合いがピタリと止まる。
 長年油を刺してないロボットみたいに、ぎこちなくこちらに向いてくる五人の首。
 睨まれるレックウザと哀れな子羊(まきぞえ)約一名。
 さて。
 山一つの弁償額っていくらぐらいなんだろうか……?


 きっかけがあった。
 俺があんなに難儀な連中と共に旅をするのは決して自発的に始めたコトではない。
 ドラゴン族だけでのパーティ構成。それはトレーナーの一つの完成形だろう。
 希少価値。実力。ルックス。
 どれもがどこか神聖で尊いそれをまとった彼女達は、一人でも使いこなせれば勲章ものである。
 その勲章を求めて、その姿に一目惚れして、何人ものトレーナーが再起不能に追い込まれた。
 コラッタやサンドとは訳が違う。育てるどころか鱗に触れることすら叶わず廃人になった奴を俺は知っている。
 尤も、世の中にはそれをやってのけてしかも四天王まで上り詰めた怪物もいるから恐ろしい。
 しかもあろうことか、そいつは今パソコン越しに俺の目の前にいて、俺にきっかけを与えやがった奴でもある。
 名をワタルと言う。
 ワタルは平面でも分かりやすいぐらい腹を捩じらせていた。
「そうかそうか。今度は山半分か。相変わらずスケールがでかいな君は」
「そうかそうか。問題児押し付けた奴の発言にしちゃヤケに他人事だな。ええ大将殿」
 精一杯の作り笑顔をしてやると、ワタルは首をかしげた。
「大将? 君がそれを辞退してなけりゃ俺は今頃実家で修行してるよ」
 皮肉ってもんを知らんのかこいつ。
 根っからの天才は浮世離れしすぎててついていけない。目線を下げて話してくれよ。
 そう言うと今度は鼻で笑われた。コロシタイ。
「君の方が天才、というか変人だぜ?
 リーグ優勝を果たしてもチャンピオンとして居座らずジムリーダーにもならず、ぶらり旅を続けると言う。
 だからボロ負けした俺はつい腹が立って、刺激的な提案をしてあげたんじゃないか」
 そう。その提案のせいで俺は今天文学的な負債を負いかけているのだ。
 事の始まりは、当時は終わりだと思っていた萌えもんリーグ優勝の翌日まで遡る。
 同じ事を考えていたのか、ワタルもその日の話を、まだ幼いミニリュウに言い聞かせるかのように話し出した。
「君は不貞腐れた顔をしていたな。またくだらない引き止めじゃないかと。
 だが俺が送ったのは言葉ではなく、古ぼけた地図とまだドラゴンとは呼べないひよっこを三人。
 戸惑う君に俺はこう言った」
「これ以上ドラゴン使いを志すトレーナーを犠牲にするのは忍びない。だが竜の魅力は取り除けない。
 ここは腕の立つトレーナーが率先してこの化け物に挑み、ある種の育成法を確立するべきじゃないか」
 あっちのペースに乗せられるのは癪なので台詞を奪ってやった。ワタルは階段を踏み外したような顔をした。
 これが俺がこうしているきっかけである。
 あの日渡された萌えもんはチルット、ヒトカゲ、ビブラーバ。
 地図にはワタルの生まれ故郷で伝説と誉れ高い、
 今朝ダブルサイコキネシスとはかいこうせんで暴れまくった萌えもんの居所が記されてあった。
 ワタルやその従姉妹は今の奴らで手一杯だし、彼の家伝統の、礼儀を重んじる育て方だけでは片手落ちだと言う。
 優勝したみんなは旅の疲れが溜まっており、俺は俺で気分を新たに旅をしてみたい気持ちもあった。
 二つ返事での了承は、リーグ優勝した瞬間よりも克明に思い出せる。
「ま、少なくともお堅いやり方ではないから安心しろよ。経過だってこうして報告してるんだし」
「それは分かるよ。そうでもなきゃ山を、ククッ」
 よっぽどツボに入ったのか、思い出し笑いを必死でかみ殺す。
 悪気が全くないのは分かりきってるので、胸のモヤモヤは発散しようがない。
 それに昔話に花を咲かせるには年が若すぎる。定期報告は済んだ以上、もう用はない。
 電源に手を伸ばすのが見えたのか、彼は目尻の涙を拭いつつ、こう結んだ。
「ああ、やめたくなったらいつでも連絡してくれよ。
 現段階でドラゴン族を六人同時に育成なんて、考えつくのは俺ぐらいなもんだ。
 君のような逸材をこんな無茶で潰すのは、一人のライバルとして耐えられないからね」
 本当に憎たらしい奴だ。
 一度倒したとはいえ、天下の四天王にそんな労いをかけられたら、苦手意識は持っても嫌いになれない。
 そろそろ弁償金額がはっきりする頃だろう。センターの出口に踵を返す。
 天才も見当違いな事を言うんだな、とぼやきながら。


「いいか! これでもう恨みっこなしだ!」
 トラブルメーカーは同時にまとめ役となり易い。どんな場面でも積極性があるからだ。
 山の管理所からキャンプ場に戻ると、フライゴンは珍しくチルタリスより高く浮かんで一角の武将みたいに演説をふるっていた。
 他のみんなは朝礼みたくその前に整列、してはいない。
「あ、マスターっ」
 リザードンが最初に気づき、それに連鎖して都合六人分のおかえりなさいを耳にする。
 彼女達は円を模っていた。
 時計周りにラティアス、ラティオス、フライゴン、リザードン、チルタリス、レックウザの順番だ。
 中央には桶を大きくした物がポツンと置いてある。空から見れば逆ドーナツに見えるだろう。
 ラティアスが今朝の激しさからは想像出来ない、沈んだ顔で俺に寄ってきた。
「大丈夫だった? 今朝は私も頭に血が上ってて、ごめんなさい」
「いやいや大丈夫だ。管理人さんもあまり怒ってなかったからさ」
 それどころか『ドラゴンがうちの山に来たとは僥倖じゃわい!』と大笑いされた。
 それでもとりあえずは復元費用のいくらかを少しずつ返してくれればいい話で済んだのは僥倖だろう。
 今度の定期報告でワタルに必要経費として請求しとかないと。
「なーにが頭に血が上った、だよ。ノリノリで破壊活動してたじゃねぇか」
「フライゴン? あまりデタラメ言ってるとミストボールが暴発しちゃうわよ?」
「へん、あんただけの攻撃は効かないさ。ラティオスとあれでもやれよあれでも。
 えーっと、お姉さまアレを使うわ。ええ良くってよ!」
「スーパーイナズマ……何でしたっけ?」
「チルタリス、分かんないのにあまり割り込まない方がいいんじゃ」
「マスターこれこれ」
「キックだよキック。ああもうラティアス、君もそんな怒らないで」
 唯一俺に声をかけたレックウザに反応して、指差してる中央の桶に近づく。
 桶をよく観察してみると、鎖が六本結ばれており、そのどれもが彼女達一人に一本ずつ伸びている。
 末端は各々で形が違い、首輪に繋がってたり剥き出しの鎖を握り締めてたりしている。そして何より。
「これ、かなり大きいな。俺ぐらいなら乗れるか?」
 二度三度と頷くレックウザ。どうやらそれが目的のようだ。
 俺の嘆息に気づいたのか、ラティオスが本日二度目の解説を始めてくれた。非常にありがたい。
「ええ。今朝の喧嘩はそもそもみんながみんな主を乗せたがったのが原因でした。
 だから主がセンターや管理所に行ってる間に話し合って、妥協案を探したんです。
 そこでラティアスがあの時言った『手綱とソリでも用意すれば』って発言がヒントになったんです」
 続きをリザードンが繋ぐ。自慢気に自分の首輪をいじっているのが愛らしい。
「だから、こうやって全員でマスターを運べるカタチにすればちょうどいいんじゃないかって。
 この桶にマスターが入って、皆で飛ぶんです。そうすると鎖に引っ張られて桶が宙吊りになるんですよ。
 これだと乗せるんじゃなくて、気球の原動力って感じですけど」
 わがまま言ってマスターに迷惑かけたら意味ないですし、と最後は恥ずかしげに顔を反らされてしまった。
 その反らした顔を押しのけて、フライゴンとラティアス。
「桶作り仕切ったのあたしだぜご主人」
「鎖調達したの私よマスター。この先にはがね萌えもんの生息地があってね」
 動作もタイミングも内容も見事なシンクロっぷりに、こいつらやっぱり仲いいなーとか思ってしまう。
 アピールの輪に入ってこようとはしないが、チルタリスもお詫びと期待を込めた笑みをたたえて俺を見つめている。
 不意に先ほどのパソコン通信がフラッシュバックされる。
 内輪揉めでとんでもない被害を生み出して、でも一応内輪で解決のカタチを見せた。
 こういう時、ドラゴン萌えもんにどう接してやればいいのだろう。何が後世にも分かり易いやり方なのだろう。
 数秒考えてみて、一番近くにいた二人の頭を平手で叩いてみた。
 残りの四人もちゃんと叩いてやった。その行動に、みんなただ目を丸くする。
 ワタル。本当に見当違いだ。徹頭徹尾上から下まで見込み違いだ。
 ある種の育成法なんてのが思いつく程俺はいいトレーナーじゃないし。
「こんなんでご機嫌とろうなんて百年早い。
 いいからさっさと飛んでくれ。みんなの知恵の結晶を早く体感したい」
 こんなに激しくて可愛くて面白い連中との旅、やめられる訳ないじゃないか。
 桶は意外と入り辛く、安定した座りを見つける頃にはもう全員がポジションについて俺に背中を向けている。
 顔、見たかったんだけどなぁ。
「じゃあ、頼む」
 鎖がピンと張り詰めて、わずかながら桶に振動が伝わる。
 その振動が堪らなく心地よいそれだったのはきっと気のせいではない。
 人類が平穏に生きるにはあまりにも、あまりにも余計なドラゴンという種族。
 それは余分が多すぎるせいか、平穏とは真逆の日常として目まぐるしく廻り周る。
「「「「「「せーの!」」」」」」
 尤も、まだ平穏を求める程達観してもいないのだし。
 当分は、この世にも珍しいドラゴン一家を楽しんでやろうじゃないか。


 飛行に成功して三十分後、操縦者の方向性の違いから気球は空中分解(文字通りの意味で)
 ドラゴン族の協調性の無さをすっかり忘れた俺が高度1000メートルから墜落したのは、もう全く別の話。
ツールボックス

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