5スレ>>157

 遠くを見る目にはどこか憂いを湛えて。彼女は丘の上から遥か彼方を見渡す。

 ちらちらと舞う雪は彼女のそばで儚く消えた。

 そんな彼女を、ぽつんと座っているガーディが見つめている。

 声をかける訳ではない。ただ座って彼女を見ているだけなのだ。

「いつまでそうしてる気だい?」

 彼女は振り返りもしない。いや、きっと彼女は今まで振り返る事などなかったのだろう。

「わかんないけど……お姉さんが悲しくなくなるまで」

 ガーディには彼女が今にも泣きそうな顔になりながら、そこに佇んでいるように見えていた。

 なんとかして元気付けたいのに、自分は何も出来ない。

 だから、彼女が少しでも元気になるように一緒に居る。

 頭も悪いし、他の姉妹のように強くも無い。けれど元気ではあった。

 だから少しでも自分の元気が彼女に伝わればいいな。ガーディはそう思っている。

「難しいことを言うな、お前は。なんで私が悲しそうに見えるんだ?」

「……わかんない。でもね、なんだろう……ぼやーって顔がなってて……えーと」

 まだ幼いガーディは必死だった。何故? と問われても答えはなかなか見つからない。

 だが、漠然と彼女が抱えている悲しみだけはひしひしと感じる。

 初めて、ガーディが動いた。

「えいっ」

 もふっ

 彼女の尻尾は柔らかく、頬擦りするとほのかに日向のにおいがする。

 それはそう、父母や姉妹と一緒に眠っている時のあのにおい。

 彼女は少し困った顔で、はじめてガーディのほうを見ようと振り返った。

 けれど、ガーディはしっぽと一緒に移動する。

 そのガーディを追いかけて、彼女はまた回る。ガーディも回る。

 くるくるくるくると、斜陽の丘を二人は回る。

「……ぷっ」

 彼女がゆっくり動きを止める。

 そして――

「あっはははははは!!」

 初めて、笑った。

 その笑顔が嬉しくてガーディも笑っていた。

「変なコだな。本当に」

 初めてガーディは彼女の顔をまじまじと見る。

 左目の上の大きな傷、そして夕日を一杯に受けて金色に輝く髪。

 それが全て神秘的で。

「キレー……」

 口から素直な感想がこぼれる。

 それを聞いた彼女はくすぐったそうな顔でくしゃり、とガーディの頭を撫でた。

「ありがとう」

「お姉さんはなんていうポケモンなの? スーパーきんいろふわふわ?」

「ふふ、違うよ。私は……いや、知らなくていい。きっと……どこにでもいる普通のポケモンだよ」

 普通の、というのがなんだかすごく気になった。

 まだ生まれて間もないガーディだったが、友達のロコンちゃんや、姉妹たち、両親と彼女を比べてみても、全然違う。

 神秘的なその佇まいは幼いガーディの心にどんどんと広がっていく。

「……さて。そろそろお暇しよう」

 彼女はそう言うとゆっくりガーディに背を向けた。

「えっ? どうしたの?」

「……少し、ここに居すぎたみたいだ。そろそろ他所に行くよ」

 何故、居すぎては駄目なのか?

 ガーディにはいまいちわからない。

 ただ、もう少し彼女と居たかった。

「ヤダ! もっとお話しよ! あそんで!」

 彼女のしっぽにもふりと顔を埋め、いやいやと頭を振る。

 そんなガーディを優しく撫でて彼女は言った。

「それじゃあ、目を瞑ってみっつ数えてごらん? 私が最後にすごいものを見せてあげる」

「ほんと? すごいの見れる?」

 泣きそうな顔のガーディ。

 彼女はこくりと頷いた。

 ガーディは両手で目を隠し、数を数え始める。

 瞬間、ふわっと暖かい風がガーディの頬を撫でる。

 みっつ、数を数え終わったガーディの前に、もう彼女は居ない。

 その代わりに、赤い、小さな石が彼女の居た所に転がっていた。

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最終更新:2008年02月15日 20:06
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