「お腹すいた」
店もなければ、野生の果物もない、そんな山道で少年はお腹を押さえる。
少年のお腹からはぐぎゅるるる~と、盛大な音がしていた。
近道しようと道をそれて、見事に迷って山の中。
リュックの中には食べ物は何もなく、飢えは癒されそうにない。
そんな少年に、何かが入った器が差し出される。
「私の食べかけでよかったらわけてあげるわ。
あなたのために作ったわけじゃないんだからねっ、私が食べたかっただけなんだから」
ラプラスが赤い顔を背けて言う。
「ありがとぅ~」
少年は心底嬉しそうに器を受け取り固まった。
器の中身は、溶けかけのカキ氷。勢いよく現在進行形で溶けている。
「なにこれ?」
「カキ氷塩味」
「なんで塩?」
「唯一あった調味料だから」
「塩入りとはいえ、ただの氷じゃん! 栄養ないよ!」
この会話の間にカキ氷は溶けきって、とても冷たい塩水になった。
「私の作ったカキ氷が食べられらないっていうの?」
「せめて甘さがほしいよ!」
「一からの手作りなのよ? それくらいは我慢してもいいじゃないの」
「手作りって、そういえば水もないのにどうやって?」
「ハイドロポンプをれいとうビームで凍らせて、いわくだきで粉々にしたのよ」
どおりで氷の粒が粗かったはずだ。
「ほんとに一からの手作りかい」
少年は手の中の器をじっと見る。
やがて覚悟を決めたのか、ぐいっと一気飲み。
そこまで覚悟のいるものじゃないだろう、という突っ込みはしないでもらいたい。
「辛っ!?」
訂正しよう。覚悟の必要な飲み物だったようだ。
「あ、味の感想を言いなさいよ」
少しだけ期待の込められた声色で聞く。
「言わなくてもわかるだろ! っていうか一文字で表したよ!」
「海水よりましだったじゃない」
「海水を基準にするな」
水を確保できることがわかっただけでも儲けもの、そう考えて少年は歩き出す。
ラプラスも隣を歩く。
二人が街についたのは、この出来事から一日後のことだった。
最終更新:2008年02月15日 20:08