5スレ>>175

私は待ち続ける、幾千もの時間が流れようとも。
私は信じ続ける、あの日皆と誓った永久の約束を。

空想なんかじゃない、だって皆との絆は、私の心の中で今も息づいているのだから。




――あれから3年の年月が流れた。
天井から覗く満天の星空を見上げて、彼女――年長のラプラスは歌っていた。

1人になってからというものの、彼女は夜になると歌いだすようになった。
それは孤独の寂しさを紛らわす為なのか、それとも皆の無事を祈って歌っているのか。

たとえ灼熱の日差しが彼女を打ち付けても、
凍えるような吹雪が彼女の体温を奪おうとも、
彼女は毎日、空を見上げて歌い続けていた。

3年という年月が流れても尚、再びこの洞窟に帰ってきた者は、未だいない。

それでも彼女は信じ続けた、皆が帰ってくるのを、自分が抱いている仲間との絆は、決して空想ではないということを。



今日も彼女は空の下へ立つ。
今宵は曇天。いつの日か見た空に彼女の胸が締め付けられた。
今まで何千もの空を見上げ、何千という時を過ごしてきた彼女だが、あの日の出来事とあの時の空は今も克明に覚えている。
そう、ちょうど雲のかかり具合がこんな感じで――――

――やあ、久しぶり。元気にしてた?

突如、彼女の頭に激痛が走った。
そう、この声も、この痛みも……片時も忘れることは無かった。

――もうあれから随分と時間が経ったのに……まだ空想にすがってるんだね。

――空想じゃないって……前にもそう言った筈だけど?

頭の痛みをこらえながら、彼女は強気に声に返答をする。
そんな彼女の姿が馬鹿馬鹿しいのか、声は失笑した。

――だから空想じゃないって何度言えば……何だか私、あなたが可愛そうになってきちゃった。

彼女は声に違和感を感じた。
声の口調がどこか女性らしくなっているからだ。

――外の世界はいいよ。こんな所にいるよりは百倍幸せな生活を遅れるんだから。

口調だけじゃない、声色まで変わっていた。
よりどこかで聞いたような声になってきたが、それでも彼女はその声が誰のものだったのか、思い出せない。

――誘惑には乗らない、私は皆を待ち続ける。だって約束したもの。

――ふふ、何を言ってるのかしら……

頭の痛みがスーッと引いた。
が、
それ以上に鋭い激痛が、彼女の頭を襲う。

――本当は、自分も外の世界に行きたいって思ってるくせに。

――!?

声はそう言った後、前の時のように何も言わなくなった。
まだ頭の痛みが残っている。
気付けば、彼女の体は熱く火照り、手には汗が滲み、呼吸が荒い。

彼女は自分の耳を疑った。
嘘だ、そんなことがあるわけが無い。

――――何故、さっきの声が、自分の声と似ていたのだろう。

似ていたというレベルじゃない、そっくりだった。まるでもう一人の自分がいるかのように。
呼吸を落ち着かせ、冷静になる。

――――そもそもここには私1人しかいない。声なんか聞こえるわけが無いんだ。
そう自分に言い聞かせるも、さっきの声が頭に付いて離れない。

――――きっと声が聞こえたのは気のせいなんだ……勝手に声が聞こえると自分で決め付けたからなんだ。
……だとしたら、あの胸や頭に走った激痛は?
あんな激痛を体感して、気のせいだって言えるのか?
じゃあ、あの声は、何?
どうしてあの声は、私の声とそっくりだったの?

自問自答しても、結論には至らなかった。
それにもう過ぎたことだ、と彼女は気持ちを強引に切り替えて、もう一度空を見上げた。
さっきまで曇天のせいで見えなかった月が、雲の合間から顔を出していた。
それまで暗闇に包まれていた視界が、ほんのりと明るくなる。

彼女は歌い始めた。
それは彼女が作った、ここを旅立った仲間達に送る、祈りの歌。
歌詞は無い、メロディーだけの歌。

歌詞は作ろうと思えば作れるのだが、作っても歌ってくれる人がいない。
歌詞を作って、歌おうとしても、メロディーを歌ってくれる人がいない。

彼女の歌声は年を重ねるごとに美しいものへと変わっていったが、
洞窟の中に響く自分の声は、とても虚しく、悲しいまま。

孤独。仲間を信じて選んだ道だとはいえ、それが仲間の存在を何よりも大切にしていた彼女にとってどんなに苦痛なことか。
歌い終えたとき、彼女は自分がいつの間にか涙を流していることに気付いた。

――泣いてるの?

また声が聞こえた。
またお前か……と彼女は思ったが、口調にさっきのような棘々しさは無く、頭の痛みも、胸の苦しみも、ない。
そして何より、声と同時に、後方に何かの気配を感じた。

――誰?

年長のラプラスは後方を振り返った。
月の光に照らされて、人影が一つ。

――えっと……捕まえたりはしないよ。安心して。

人影はそう言うと、月明かりの下まで歩き、姿を現す。

――とても綺麗な歌声だったから……

人影――少年はややはにかみながら彼女の方を見た。
彼女は少年への警戒を見せるが、ゆっくりと少年の下へと近づく。

――あなたは……一体?

見慣れない生物に、彼女は首を傾げた。

――僕、タクヤっていうんだ。カントー地方のヤマブキシティってところに住んでて……

――タクヤ……

とりあえず少年の名前がタクヤだということは理解できた彼女であったが、
それ以降の彼の言葉がいまいち理解できなかった。

――え、えーと、とりあえず、ここの外に住んでるんだ。

ラプラスの気持ちを察したのか、とても漠然とした説明をするタクヤ。
お陰でラプラスはタクヤが外の世界の生物だということをようやく理解できた。

――外の世界の、生物……!

そうと分かった彼女は、タクヤから一歩退いて、戦闘体制を取った。
突然のことにタクヤは困惑している。

――ど、どうしたの?

――仲間を……どこにやった!

――な、仲間って?

――仲間を連れ去って、それからどうしたって聞いてるの!

――つ、連れ去った? そんなことした覚えはないけど……

――とぼけないで。黒ずくめの男たちが前にここに来て、仲間を連れ去っていったのよ!
  どうせあなたもその黒ずくめの仲間なんでしょ!

どうやらラプラスはタクヤのことを黒ずくめの男の仲間だと勘違いしているようだ。

――全身……黒ずくめ? 違うよ、僕はロケット団なんかの仲間じゃないよ。

――ロケット団?

聞きなれない言葉に、ラプラスは緊張を全身に駆け巡らせたまま、タクヤに問いかける。

――ロケット団っていうのは、各地で悪事を働いている悪い奴らのことで……
  とにかく僕はロケット団とは関係ないよ、信じて!

――本当に?

ラプラスの問いかけに、首を必死に上下に振るタクヤ。
その必死に否定をする様子を見て、どうやら彼はそのロケット団とかいう悪い奴らとは違うようだと判断した彼女は、
緊張をゆっくりと解いた。

――はあ~、びっくりした……

誤解が晴れたと分かったタクヤは、その場に座り込んでしまった。
彼の疲れ果てた姿を見て、ラプラスはなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。

――な、なんだか誤解をしちゃったみたいで……ごめんなさい。

――いいよ、平気平気。それよりさ……

タクヤは立ち上がって、ラプラスに向かって笑いかける。

――また来ても、いいかな?

自分の勘違いのせいで迷惑をかけてしまったし、
その屈託の無い笑顔でお願いされると、どうしても彼女は断るわけにもいかなかった。

――ええ、別に構わないけど……

――ホント!? やった~! そ、それじゃあ明日も来るからね、バイバイ!

さっきまで疲れを見せていたのが一変。
タクヤはとびきりの笑顔でラプラスに手を振ると、嬉しそうに帰っていった。

タクヤがいなくなって、再びこの洞窟に静寂が訪れた。
まるでさっきの出来事が無かったかのように。
試しにラプラスは自分の頬を抓ってみた。痛みが頬に来るだけで、特に変化は無い。

――タクヤ。

彼女はさっきまでいた少年の名を呟いた。
呟いてみてなんだか胸が暖かくなった。

今まで孤独で冷え切っていた心に、火が灯ったような、そんな感じがした。



次の日。
約束通りにタクヤはやってきた。
ラプラスは彼が訪れるのを今か今かと待ちわびていた。
こんなに胸が躍るような感触は久しぶりだ。

タクヤは昨日とうって変わって自分に親しい態度を取るラプラスに最初は驚いたが、
しばらくするとすぐに慣れた。

ラプラスはタクヤから外の世界について沢山のことを教わった。
タクヤが住んでいるヤマブキシティのことや、
そのヤマブキシティにあるシルフカンパニーで働いているお父さんのこと。
ラプラスはタクヤにお父さんはどんな人なのか見たいと言ったが、
タクヤはそれは駄目だよ、と言って彼女をお父さんに会わせようとはしなかった。
彼女がどうして、と聞いても、その理由も教えてくれなかった。

――それで、お父さんの仕事で少しの間だけどジョウトにいることになったんだ。

楽しそうに話すタクヤの姿を見て、ラプラスに自然と笑みがこぼれた。
誰かとこうやって話すということがどんなに楽しくて、嬉しいことか。
3年もの間1人でいたのだから、楽しさも嬉しさもひとしお。

――そう、外ってホントに面白そうな世界なのね。

かつて、仲間達の話を聞いても、あまり外の世界に興味を持たなかったラプラスだったが、
いつの間にか彼女はタクヤの話す外の世界の事に興味を持ち始めていた。

――うん、とっても凄いんだよ、それに、クチバシティって所には年に1回、サント・アンヌっていう船がやってくるんだ!

――ふね?

――ああ、船っていうのはね……

ラプラスの分からない言葉にも、面倒くさがらずに楽しそうに説明をするタクヤ。
しかも説明がとても分かりやすい。
いつの間にか空は闇に染まり、天井から月が顔を覗かせていた。
タクヤは空を見上げると、月を指差した。

――見てラプラス、今日は満月だよ。

タクヤにそう言われて、ラプラスも空を見上げる。
満月なんて山ほど見てきた彼女だが、今回はその満月がいつもよりも美しく、輝いて見えた。

――ホントだ、凄く綺麗ね。

――うん……

互いに何も言わず、闇夜に染まった地上を仄かに照らす満月を、じっと見つめていた。
静寂。
嫌になるほど感じてきたが、彼女にとって今日の静寂は寂しくも、怖くも、辛くもなかった。

1人じゃない。
傍にタクヤがいる。
出会ってまだ2日だが、タクヤの存在は、ラプラスにとって大きなものとなっていた。

――ねえ、ラプラス。

少し遠慮がちにタクヤが口を開く。

――何?

――今日は、歌わないの?

タクヤにそう言われて、ラプラスは今まで月に見惚れていた自分を現実へと引き戻した。

――……忘れてた。

それを聞いたタクヤは笑った。

――歌わないわよ。

ラプラスの言葉にタクヤの笑いがピタッと止まって、今度は慌て出す。

――ご、ごめん。べつに馬鹿にしてたとか、そういうのじゃなくて……

タクヤの慌てふためく姿を見て、ラプラスは何故だか彼を無性にからかいたくなった。

――折角歌ってあげようと思ったのに。そもそも歌ってあげるのにその言い方は、ちょっと……

――わ、えっと、その……

――歌ってあげるんだから、それ相応の態度を取ってくれないと。

――う、あ……

慌てたところに、更に追撃。
完全にタクヤの頭はパニック状態である。
顔を赤くして慌てる様子が、余計に微笑ましくて、ラプラスの悪戯心をくすぐる。
が、これ以上やるとタクヤの頭がオーバーヒートしそうだったので、これ以上からかうのは止めることにした。

――ふふ、冗談よ。とりあえず落ち着いて……

タクヤをこんな状況にさせたのは彼女なのだが。

――……ラプラス、絶対僕のこと馬鹿にしてる。

多少は落ち着いたようだが、タクヤの頬はまだ赤い。

――さあ、どうかしらね?

――くそー、子供だからって馬鹿にしてー!

――そうやって怒ると、本当に歌わないわよ。

――! はい。

ラプラスにそう言われて、気が変わったかのようにその場に正座をするタクヤ。
その単純さに思わず笑ってしまう。
彼女は視線をタクヤの方から再び月へと戻し、いつものように歌い始めた。
歌声は相変わらず洞窟内に虚しく響くものの、彼女は寂しくなんかなかった。
むしろいつもよりもたっぷりと、透き通った声で歌い上げる。
タクヤはそんなラプラスの歌声に、目を瞑って聴き入っていた。

――あれ? もう終わり? もっと聴きたいなぁ……

ラプラスの歌が終わり、目を開いてタクヤは物足りなさそうな顔をした。

――駄目よ。もうこんなに暗いんだから。

――ん……分かった、じゃあ明日も来るからね、バイバイ。

タクヤはそう言って、出口へと歩き出す。
去り際にラプラスの方を振り向いて、手を振った。
それにラプラスも笑って手を振り返して、タクヤを見送る。

手を振りながら、ラプラスはタクヤが見せた、ちょっと寂しげな表情がどうしても心に突っかかっていた。



翌日。
タクヤは昼過ぎ頃にラプラスの下を訪れていた。
その手には沢山の荷物。いつもと違うタクヤの姿にラプラスは不思議がった。

――タクヤ、どうしたの? その格好……

――あのね……お父さんの仕事も終わったみたいだから、ヤマブキシティに帰らなきゃいけないんだ。

とても言い辛そうに、視線を下に向けたまま喋るタクヤ。

――そ、そう……

ラプラスはそれを聞いて、胸のあたりが締め付けられたのを感じた。

――そ、それでね、ラプラスに頼みたいことがあるんだっ。

タクヤは少し恥かしげに、ラプラスの方へ視線を移した。
頬を赤くしながらも、その目は強い意思に満ちている……彼を見たときラプラスはそう思った。

――僕、あと2年経てばトレーナーになるんだ。トレーナーって言うのは、萌えもんを仲間にして旅する人のことで……
  それで、それで……その時は、

その後、タクヤは一瞬言葉に詰まってしまい、目を逸らしてしまったが、
大きく深呼吸をして、またラプラスの方を真っ直ぐと見据えて、

――僕の、ぱ、パートナーになってほしいんだ。

口早に、そう伝えた。
タクヤのその言葉を聞いて、ラプラスは困惑する。
外の世界の住人であるタクヤのパートナーになると言うことは、ここを出なければならないということ。
言い方を換えると、仲間達と交わした約束を諦め、所詮自分が抱いていたのは空想の絆だった、ひとりよがりでしかなかったと認めることになる。
タクヤの頼みとならば、了承したいのは山々だが、どうしてもその一言がいえない。

――言っちゃいなさいよ、行きたいんでしょ?

また、声が聞こえた。

――もしこの誘いを断ったら……きっとこの先孤独に埋もれて死ぬわよ。嫌でしょ? そんな惨めな死に方……

その声は、自分そっくりの声をしていた。
聞いてみて本当に気味が悪い。

――誰なの……あなたは……

いつものように走る頭の激痛に耐えながら、ラプラスは声に語りかける。

――まだ気付かない?ホントに鈍感ね……私は貴方の心の中に住んでいる貴方自身。
  貴方の本性……ってところかしら?

――本性……?

――そう、あなたがあまりにも善人ぶってるから、時々私が貴方に助言してたのよ。
  とってもお馬鹿さんで、空想の絆にすがっている可愛そうなもう一人の私にね!

声――もう1人のラプラスは、高笑いをして彼女を嘲笑した。
本性、これが、私の本性?
じゃあ何だろうか、今までこの声が喋ったことは全部、私が心の奥底で考えていたことだっていうのか?
ということは、
私が抱いていた絆っていうのは、本当は空想で……
でも、心の中で息づいていた、あの暖かくて強い何かはなんだったんだ?
それは、恐らく……自分がそこにある、と思い込んだだけ。
本当はそこには暖かい何かも、何もなくて……自分が勝手に作り出したもの。
自問自答の末、今度はようやく1つの結論に至った。

――はは。

笑いがこみ上げてきた。

――はは、はははははは。

馬鹿馬鹿しい。

――あははっ、あははははははは!

本当に空想だった。空想の絆にこんなにも長い時間、自分はすがっていたんだ。
初めて声が自分に語りかけたとき、空想だということを、自分の独りよがりだということを全否定して、
絆は自分の心の中で息づいているとか、無いのにあるって思っちゃって。
そんな自分が馬鹿で、どうしようもなくて、笑いが止まらなかった。

――ら、ラプラス!? どうしたの!?

いきなり笑い出したラプラスを見て、タクヤは心配そうに彼女の顔を覗きこんだ。

――どうしたの、どこか痛いの?

――はは……は……ごめん、つい、可笑しくなっちゃって……
  うん、タクヤのパートナーね。喜んでお願いされるわ。

笑ったせいで乱れた呼吸を、深呼吸で元に戻す。
もはやこの洞窟にすがる必要もなくなったラプラスは、さっきまで渋って言えなかった事をあっさりと言った。
タクヤは一瞬嬉しそうな表情を見せたが、すぐに心配そうな顔をしてラプラスを見ていた。

――ホントに大丈夫?なにかあったら――――

タクヤがラプラスの肩に触れようとした、その時だった。

――タクヤ、こんなところにいたのか。そろそろ出発する……ッ!?

野太い声が洞窟に響く。
暗闇の中から、がっしりとした体格の、タクヤよりも2回りほど背の高い男が姿を現す。

――お、おとう、さん。

タクヤは目の前に現れた男――お父さんを見ると、しまった、とばつの悪そうな顔をした。
一方のタクヤのお父さんは、息子の隣にいたラプラスを見るや否や、目の色を変える。

――これは……ラプラス、ラプラスじゃないか! よ、良くやったぞタクヤ! これを社長に引き渡せば……

――お父さん! 違うんだ、ラプラスを捕まえないで!

腰に付けたボールに手をかけながら、一歩前に出ようとしていた父を、父とラプラスの間に割り込んで、タクヤが必死に制止する。

――違う? なにが違うんだ? タクヤも分かってるだろう、ラプラスは貴重な萌えもんだ。
  社長もラプラスに多額の賞金を賭けている。引き渡せばお父さんたち、楽しく暮らすことが出来るんだぞ?

ラプラスはタクヤが何故自分をお父さんに会わせようとしなかったか、その理由がようやく理解できた。

――僕、いい、楽しく暮らさなくていいから!お父さん、お願い!

半べそになって、父に頭を下げるタクヤ。

――どうしたんだタクヤ? 一体何があったんだ? お父さんに言ってみなさい。

――ラプラスは……僕の……僕のパートナーなんだ!

精一杯の声を振り絞って叫ぶタクヤ。
でも彼の父は血相1つ変えず、額に人差し指を当てて、何か考え込むような仕草を見せる。

――パートナー? ……ああ、トレーナーになるということか?
  タクヤ、トレーナーになるためには親の了承が必要なんだぞ?

――……?

――ここでお前がラプラスを捕まえないで、と言い張るのなら、トレーナーになるという話はナシにさせるぞ。それでもいいのか?

――! そ、それは……

――あんなにトレーナーになりたがってたろう?父さんにラプラスを捕まえさせてくれたら、約束どおり2年後にはトレーナーになる許可を与えるから。

――……大人はズルだ。何でも出来るからって、そんなこと……

タクヤはその場でがっくりとうな垂れてしまった。
所詮は子供。
どんなに強い意志を持っていたとしても、親の権力には刃向かえない。
目の前に護りたい者がいるのに、護ることが出来ない自分の弱さを嘆く。

――タクヤ、厳しいことを言うかもしれないけど、お前もまだまだ子供だ。子供で出来ることなんか、この程度が限界なんだよ。

父親を止める力を無くしたタクヤの制止を振り切り、彼はゆっくりと、ラプラスのほうへ詰め寄る。一歩、また一歩。
逃げたい。ラプラスはそう思ったが、どうしても足が動かせなかった。
抵抗しようにも、れいとうビームをどうやって打つのか、と、この場に来てわざの使い方を忘れてしまっていた。

――少しもったいない気もするが……社長も分かってくれるだろう。

タクヤの父は右手に持っていたボールを高く掲げる。
上部が紫色になっていて、中心には「M」の字。
そして、そのボールを勢い良くラプラスへと投げる。
成す術も無くボールに入れられたラプラスは、抵抗することも無く、ボールの中へと収まった。
そのボールを手にして、有頂天で洞窟を去るタクヤの父。去り際にうな垂れたままのタクヤを抱きかかえて。
タクヤは唇をかみ締めて、声に出さずに泣いていた。




そして。
誰もいなくなってしまった洞窟内に、永遠の静寂が訪れた。

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最終更新:2008年02月15日 20:11
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