いつも通り、部屋のベッドでごろごろとしていると、下の食堂で何か音がする。
またギャロップが変なことでも企んでいるのだろうと解釈し、気にしない事にした。
そう考えた直ぐ後に、下からの音が消える。
変わりに、急いで階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。
足音は止まり、扉の向こう側から声が聞こえる。
「マスター。居るわよね?」
「ああ。」
悪戯っぽくはなく、何となく急いだ感じに俺を呼んだギャロップ。
珍しいと感じ、ベッドから起き上がり、腰掛ける体制になった。
扉を開けて、ギャロップが部屋へ入ってくる。
背中へ手を回し、軽く赤面していた。
酔っ払って・・・というわけでもなさそうだ。
「マスター?今日は何日か覚えてる?」
手を後ろに回したまま、腰を屈めて顔をこちらへ寄せてくる。
「んっと・・・2月の13日だっけ?」
「マスターの体内時計、1日ずれているわよ。」
呆れ顔で言ったと思えば、直ぐに先ほどの表情に戻った。
「で、14日って何の日?」
「へ?誰かの誕生日だっけ?」
「・・・他にない?」
パッと答えが出てこない俺に対し、もどかしそうに腰を動かすギャロップ。
「14日・・・あ。」
「何?何々!?」
「近所のばあちゃんの誕生日だ。」
物凄くどーでもいい事を思い出し、口に出してみると・・・ギャロップは振るえ始めた。
謝ろうと思った瞬間、俺の体はベッドへ倒された。
胸元を踏まれ、ド迫力の煽り視線の状態にされた。
よく見ると、ギャロップが小さな箱を手にしている事に気づいた。
綺麗なラッピングが施された箱だ。
怒っているにも関わらず、あまり力を居れずに大切に持っている。
「マスターの・・・」
「あ、そうか、バレンタインか。」
何か言おうとしたギャロップに、被せるように俺は言った。
ギャロップは、箱を隠せていないことに気づき、急いで後ろへ隠した。
「そ、そうよ。早く思い出しなさいよ。まったく。」
そういうと、胸元を踏んでいた足を急いで退かし、俺の正面へ立った。
「ごめんな。あんまり縁のないイベントだから・・・」
取り合えずベッドから体を起こすと、ギャロップは赤面させながら、俺に小さな箱を突きつけてきた。
「い、今までありがとう。」
ぶっきらぼうに言うギャロップが、とっても新鮮に思える。
そんな彼女に、俺は軽く笑ってしまった。
「な、何よ。」
「ありがとう。これからもよろしくな。」
お礼を言いながら、ギャロップから小さな箱を受け取った。
「あ、当たり前じゃない。」
ギャロップは言葉の足りない事に気づき、顔を背けてしまう。
その仕草が、とても愛らしく感じ、俺は空いた手でギャロップの頭を撫でてやった。
手の感触に驚いたのか、ギャロップはこちらを向きなおす。
「ありがとな。」
面と向かってお礼のいい直しをした。
俺はギャロップの頭から手を退けると、箱の方へ視線を移した。
「ん、一緒に食べるか?」
「私はいいわよ、一人で食べて。」
「そういわずに、折角世界で一番美味しいチョコレートを貰ったからには、一番好きな奴と食べたいものよ。」
俺が言い切ると、ギャロップは驚いたように目を丸くした。
そして直ぐに、普段の悪戯っぽい顔に戻った。
「うふふ・・・何か一言たりないわよ。」
「世界で一番好きな奴と、ね。」
俺は、そう言いながらギャロップの頭を再び、撫でてやった。
気持ち良さそうに目を細めるギャロップを横目に、部屋にある小さな机の椅子を二つ引いて、座った。
机の上には綺麗にラッピングされた小さな箱。
それを囲むようにして二人は座る。
俺は決して忘れないだろう。
そのとき食べたチョコの味と、ギャロップの表情を。
最終更新:2008年02月15日 20:27