5スレ>>204


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毎年行われる、製菓会社の陰謀のイベント日。

別に、気にしたって始まらないことは分かっているんだけど

それでも何もしない側から、渡す側になった という違いは

何だか大きく感じられた。




『 如月の14の日に。 』




ここ一週間ほど前から、そわそわしてしまって落ち着かない。
分からない外国の言語がもっと分からない。
皆の声がいつもより遠い。

そうしたことの原因は、二年生のプクリンさん…というより、例の製菓会社の陰謀の日にあった。


2月14日、バレンタインデー…外国では恋人たちの日だけど
この国では女の子が、男の子に気持ちを伝える日になっている。

今までは、馬鹿馬鹿しくて付き合う気にすらなれなくて、ずっと無視していた。
…でも、今回はこれまでとは違う。


――― どうしても渡したい存在が、いる。





調理室には昼間に入れておいた物を取りにきたのか、シャワーズさんとスターミーさんが
既にいて、冷蔵庫の近くで話していた。


渡す 渡さない 出来ない 頑張れ …


話し声に驚いて、慌てて扉の向こう側に戻ってしまった。
……ああ、早く出て行ってくれないかなあ。

ヨノワールには時間がなかった。

家で作ろうにも、母親はパートなどには行かない専業主婦だから見つかったら
アレコレ聞かれるに決まっているし、学園で前持って作ろうと調理室へ行ってみたら
必ず誰かが先に来ている。
食堂も同様だし、調理部室なんてもってのほか。

女であるのだから、何もそんなに恥じる必要はどこにもないのだが…
とにかく人の目につかない所でこっそり作ってしまいたかったのだ。

そんなわけで一度も練習できなかったヨノワールにとって
作り終わって誰も来なくなった当日しか調理室を使える日がない。
ぶっつけ本番というわけだ。



扉から二人が出てくるのを見届けて、急いで調理室内へ。

念には念を入れて、授業中で誰も来ない時間帯を選んできたけれど
早く、早くしないと。間に合わなくなってしまう。
誰か来てしまわないうちに、ここで授業が行われない今のうちに…!


時間が少ないことも焦りの原因だったが、さっきのシャワーズさんとスターミーさんの会話で
更に拍車がかかった。

…だって、彼女たちは、とても可愛らしかったのだ。


普通の女の子って、ああいうものなのか。
特に、誰かを想い慕う女の子ってあんなにも魅力的なのかと驚いた。

可愛いと、ヨノワールは思った。
知らなかった彼女たちの一面を見て、好感を持った。

自分も、早くあんな風になっていれば と、今更ながら後悔していた。


プクリンにはどうにも、何を考えているのか分かりにくい所がある。
自分に好意を持っていてくれているのか、そうではないのか。

何しろ顔を合わせれば大抵がカードの話題やら、何気ない日常会話にしかならないのだ。

それは相手も同じくヤキモキしているところなのだが、余裕の無いヨノワールに
そんなことを知る由も無い。




――― プクリンさんのことが、わからない…もっと、わかるようになりたいのに…


…あ

……とか何とか思っているうちに、焦がした。






実際に試すことが出来なかった分、図書室で必死に勉強した。
溶かして冷やして固めて終わり、という とても単純なものだけど。なんだけど。


頑張って作ったチョコレート
受け取ってもらえるだろうか。






やっと出来たと思ったら、今度はプクリンになかなか会えなくて。
チョコの入った包みを持ち、駆け回らなければならなくなった。

そしてその間、ひょっとしたら…と、ヨノワールは考えた。


ひょっとしたら、自分がチョコ作りなんて、間違っていやしないだろうか。
キミらしくもない、と 気味悪がられてしまうかもしれない。


…でも、仕方ない。


作ってしまった物はしょうがない。
プクリンは追いかけられる側で、自分は追いかける側。
玉砕覚悟でここまで突っ走ってきたのだから、腹をくくってしまえばいいのだ。



――― と、そんな風にぐちゃぐちゃ考えているうちに、辿り着いたのは
少し前までヨノワールのお気に入りの場所だった、体育館のすみっこの階段だった。

人気が少なくて、落ち着いてお昼を食べることが出来るから好きだと
カードゲーム同好会の部室に招待される前まで、昼休みに必ず来ていた場所だった。



「…なんだってまた、こんな所に…」

バレンタインデーということは、つまり2月。
外へ出てすぐの段差に腰掛けて、寒さに身をかがめているその姿に当然の疑問を投げかけた。


「…だって、中にいたら誰に何言われるか、わかったもんじゃないし」

「…ま、自信満々だことで」

「ち、違うよそんなんじゃないよっ!」


まったく、本当にこの人はこれだから分からない。

…まあいいか、今日こそはこのまま流す真似はさせない。
どうでもいいような会話の流れを断ち切ってみせる。

意気込んで、プクリンの隣に座ったヨノワールは



「あの、そのさ…これ、あげる…」



差し出された小さな包みに、それは驚いた。


「…へ…?」

「いや、へ、じゃなくて。早く受け取ってよ…」

「へ、え…は、はい…」


急かす声に押されて、おずおずとそれを両手に受け取り
視線はひたすらプクリンへ向けたまま。

ぽかーーん……


「い、いやあそのさあ…ヨノワールちゃん、バレンタインなんて邪道ですって
 言ってたからさあ。だから、男の僕が作ったら邪道を邪道で行くから
 許してもらえるかな、なんて思ってさ…。
 あ! いやねその、ホワイトデーに何か頂戴ねとか言ってるんじゃなくってね、あのその…!」


顔が、赤い。
いつもより盛大に慌てているように見えるのは、照れているからだろうか。


包み紙は、お店で買ったようなそれではなく、四苦八苦しながら自分で包んだのが
一目で分かるようなラッピングだった。

ということは、きっと手作りだ。

お菓子を、手作り?
プクリンさんが?

彼も、誰にも見つからないように、わたわたしながら周囲の気配を気にしながら作って、
ちょっと焦がしたりしながら作ったのだろうか。



…うわあ。

今絶対、自分アホ面している…

でも、こっちからも包みを渡したら、この人も同じような顔をするのだろうか?




ドキドキふわふわした心を落ち着けながら

後ろ手に、チョコレートの包みを確認。
ツールボックス

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