5スレ>>213

――その少女は美しかった。
裏切られ自らが傷ついてもなお、人々を守らんと駆ける白い姿、
その姿に、思えば一目見たときから心を奪われていたのかもしれない。

彼女が現れるのは、いつも災害の前だった。
だから、彼女が災害の元凶だ、と信じた人々は、それぞれの持つ力をふるい、彼女を追い立てた。
彼女の瞳を見てしまった私は、なんとなくわかっていた。
彼女は、災害を起こしているのではない。人々を守ろうとしていたのだ。

傷つき物陰で休んでいた彼女を見つけてしまった私は、考えるよりも早く、話しかけてしまっていた。
「ねぇ、あなたは――」
「……」
厳しくもまっすぐな紅い瞳で見つめられて。私は言葉を噤んだ。
「……大丈夫よ、放っておいて頂戴。」
「っ、あなたは、どうしてそうなりながら……」
「馬鹿なのはあたしだってわかってるよ……でもね、あたしのこの力は……。」
「あっ大丈夫?!」
「大丈夫だって……言ったよ」
どうみても強がっているようにしか見えない。
「……うるさい。私から見るとちっとも大丈夫じゃない。」
私は、彼女を手当てすることにした。……といっても萌えもんセンターに運ぶ程度のことしか、できないのだが。
弱っている彼女をひょいと担ぐ。その軽さに少し戸惑ってしまった。
「……余計なことを……するもんじゃあないよ……」
「だったら。私をその爪で引き裂いてでも逃げるといい。」
「……馬鹿なのね。あんたも。」
「自分の思うままに行動して、それが馬鹿だというのなら、それでも構わない。」
「やれやれね……。」

萌えもんは、治癒力がとても高い。
絶好の環境さえあれば数秒~数分で元気になってしまう。
完全に回復した彼女に話しかける。
「便利だね、こりゃ。」
「……この便利さが、憎らしいこともある。」
「あなたは……」
「アブソル。そう呼んでもらって構わないわ。」
「じゃあ、アブソル。アブソルは……」
「待って。人に名乗らせておいて自分は何もなし?」
「そうだね……私はキリ。ぱっとしないトレーナーの一人だよ。」
「ふーん……うん、いいよ。何が言いたいかはなんとなくわかるし、あたしが話す。」
「う、うん。」
「あたしは危険予知の力があってね、災害を予知したら皆に知らせてたんだけど……」
「ぼろぼろになっていたね。あれは?」
「昔は、あたしが予知すると、皆がその対策をしてた。
 今は……あはは、その災害は、あたしが起こしてるんだってさ。」
「――」
「勿論、そんなことできないし、やろうとも思わないよ。でもね……上手くいかないもんよね。」
「それでも、アブソルは――。」
「かっこつけてるんじゃあないんだけど、それがあたしの使命、生まれてきた意味、と、いうかさ……。」
「アブソル……?」
「あはは、あはは、わかるでしょう?周りの目が……ほら」
周りを見回すと、冷たい目をした人々が、アブソルを見ている。
「あはは……馬鹿だよあたし、ほんとにさ。」
小声でひそひそと。呪いの言葉を紡いでいく。
「あは……えくっ……どうしちゃったんだろ、あたし……」
見ている――いや、これはもはや見ているなんてものではない。
彼女にとって、冷たい刃で貫かれるような痛み……

私は、彼女を強く抱きしめていた。

「ねえ、無理しないで、あなたはこんなに傷ついているのに……」
「んっ……やめてよ……っ」
彼女の爪が肩を貫く。私は突き飛ばされていた。
「っ……」
「ぁ……悪いけど……これ以上あたしに関わるとあんたもあたしみたいになりかねない。」
「……構うもんか。馬鹿だろうがなんだろうが、大事なものは曲げられない。」
痛みを堪え、力の入らない腕で再び彼女を抱きしめる。
「あ――」
「アブソルもそうだ……自分を曲げずにここまでやってきた。」
「しらないよ……」
「構うもんかと言った。」
「うぅううぅ……ごめん、借りるね……」
「私なんかで良かったら、胸で泣いてもいいし、引き裂いてくれても構わないよ。」
「うぅ……えうっ……うあああぁぁぁ……」

血の滲んだ肩も、食い込む爪の感触も、すがりついてくる彼女の存在も愛おしかった。
周りの人々の目は冷たいものだったが、今は彼女のことで頭がいっぱいだった。
そうしてしばらくの間、アブソルは泣いた。

……

「ねぇ、良かったら、一緒に来ない?」
「あたしはあたしの好きなように動くわ。」
「ふーん……」
「何だか寂しそうな顔してんじゃない。」
「……ぶっちゃけ、アブソルの存在は、全部ツボなんだよ……」
「何か言った?」
「知らないっ」
「まあ、あたしは自分で思ってるよりも自分が弱いことに驚いてるし、
 案外人間も災害には対応できることも知ってたんだよね……」
「それじゃあ……」
「ついていくとは言ってない。あたしはあたしのやりたいことをする。」
「えぇー?」
「キリ、あんたみたいなのはどっかで痛い目に遭いそうだから、ちょっとだけ手を出させてもらうね。」
「え?あはは……ありがとう。」
「なんとなく、使い道が分かった気がするんだ。」
「うん?」
「何でもないっ…… あ、さっきの……」
「え?あー……うん?うち、なんか言ったっけ?」
「ツボって何かなぁ?」
「あはははははは、知らないー」
「言ってみろよー、このっ、えぇ?」
ぎゅぅっ
「あっ……」
ぎゅぅぅぅー…
「うふふふふーw」
「あああ無理無理心臓止まっちゃうっw」
「そう?」
すっ
「あっ……ううう」
「何よ?その顔は。」
「アブソルさん?」
「はいな」
「一目見た時から、あなたに惹かれてました……」
「ちぇー……素直だなあ、もうw ……なんとなく気づいてたけどね。
 わざわざ寄ってくるのあんたくらいだったもん。
 まぁ、あんたの眼も綺麗だったから……気にしてなかったと言えば嘘になるけれど。」
「好きだー!全部たまらんっ」
「暴走したっ?!」
ビシィ!
「痛い……」
「急に飛び掛って来るんだもん」
「急じゃあなければ……あの、アブソル、抱きしめさせて……」
「んー……まぁあんたの胸借りちゃったしね、お返し。ん」
「ん」
ぎゅぅー……
「ねぇアブソル、アブソルが辛い思いをしたとき、その辛さを分けてもらっていいかな。」
「……ん、好きにしなよ。」
「アブソル……アブソル。」
「何よー」
「ありがとうね、アブソル。」
「あはは……こちらこそ。それとよろしくね。」
「よろしくね。」





/*
キリの初期パートナー?ヨマワルということでw
娘みたいなものです。妹といったほうがらしいと言えばらしいかもしれないけれど。
出てこないけどね。
*/

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年02月28日 16:33
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。