1スレ>>539


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   ――前書き――


元設定に少し肉付けしているのでちょっと違和感あるかもしれません。
もし致命的な点があればご報告ください。

あと……続編書くかもしれないですが……勢いで書いたので未定だったりします。
でもこれだけでも読めるようにしたつもりなので気兼ねなくお読み下さい。。。

では、短いモノですが本編をどうぞ。










   ―――Majestic Shellworks―――



「はあ……疲れたぁ……」
雲ひとつ無く澄み渡った空に向かって言い放ちながら、パルシェンはぺたんと
足元の草むらに腰を下ろした。
少しばかり息が上がっている様子ではあったがスタミナはまだまだ残っているように見える。
「何言ってるんだ。まだ素振りを始めて半時間も経ってないじゃないか」
「まだそれくらいしか経っていないのか。……壊れてるんじゃないか? その時計」
「バカ言うな」
僕は深々とため息をつく。
「こうやって訓練しないと、勝てるバトルも勝てないだろう?」
「野良相手程度なら全く問題ないと思うんだがなあ……」
「その慢心がピンチを招くんだ。はい、もう一回!」
「…………」
頬を膨らませてむくれるパルシェンを見て、僕は再び大きなため息をついた。


ここはタマムシシティの東の草原の一角。
正午を過ぎた頃から始めたパルシェンの修行は、分針が盤面を回り切る事無く中断を迎えた。
本来はトレーナーやブリーダー、野良などを相手に戦闘訓練を積むものなのだが
実はこのパルシェン。生まれてこの方「一度もまともに戦闘をした経験が無い」のだ。
僕とコイツはサファリパークで出会った。この世に生を受けてからずっとサファリパークの
池の底で過ごしていたらしく、縄張り争い程度の小競り合いを繰り返すうち気付いた時には既に
この体だった、と本人は言う。
つまり野生種のような力強さもブリーダーと共に育ったような洗練された技も無い、
文字通り「箱入りで育ったお嬢様」なのだ。
……いや、箱じゃなくて貝か。まあそれは置いておくとして。
詰まるところ、今のコイツには武道で言うところの「心・技・体」のうち、心と技が大きく欠けていた。
それを何とかしたいと思い、僕の部屋を我が物顔で占拠して自堕落に過ごすこの引き篭もりの同居人を
陽照らし緑萌ゆるこの草原へと引っ張り出してきたのだが……。


「もう疲れたし陽射しが痛いくらい眩しいから早く帰ろう」
また座り込み、パルシェンがひらひらと長いドレス状の外殻の袖を振りながら言う。
そう、ずっとこの調子なのである。
「あのなあ……。そうやって幸せそうに引き篭もるお前を見てるとすごく不安になるんだ」
同じような生活を送り人生をダメにしていった友人を僕は何人も知っている。とても悲しい事だが。
ちなみに。元来とても活動的であるはずであるモンスターがこうも
引き篭もりたがるという話は今まで聞いた事が無い。
「他の子たちを見てみろ。立派に戦ってるだろ?」
少し離れた所でバトルが行われている。
黒い服を着た男性が植物系の力を操る子に支持を出しているのが見えた。
それを見たパルシェンは、反省はおろか、あろうことに。
「よそはよそ、うちはうちと言うじゃないか」
と、鼻を鳴らして不遜な態度で答えたのだった。
なんとなく無い胸を反らして威張っているようにも見える。
「どこでそんな便利な言葉を覚えて……」
「オマエの家は蔵書が多くて助かる。いやぁまったく、あの部屋は富に飽きが来なくて上々だ」
これであと十年は……とかなんとか言っているが聞き流す事にした。
「あのなあ……。訓練しないとろくすっぽ戦えなくなるぞ?」
「全く困ってないんだからいいじゃないか」
「今はともかく、いつかは困るだろう。ずっと僕の家に篭り続ける訳にもいかないんだから」
「それは確かにそうだが……やはり快適な生活というものはなかなか捨てられないものなんだぞ……」
過去の私はそりゃあもう大変だったんだ……。そう続けて言わんばかりに
遠い目をしてパルシェンが空を見上げた。僕も続いて上空に視線を上げる。
すると、偶然にも遠くから一直線にタマムシシティの方角へと飛んでいくそれが見えた。
メール輸送かもしくは小包の配達なのだろう、荷物を首元に下げたピジョンだった。
忙しそうに草原の上空をあっという間に駆け抜けていった。
「ほら、ああやって頑張って働いている子も居るんだ。お前だって―――」
そう言って再び彼女を見やる。……居辛さを感じたのだろう、いつの間にか別の方向を向いて
口笛を吹いている。
「~♪ ~♪♪」
彼女の額からは陽射しのせいではない、冷や汗みたいなものが見える。
そこまで後ろめたいのなら何故早く脱却しないのか。
「はあ……」
僕は今日何度目かも分からないため息をついて。
「そうやって怠けているからろくに氷系の技も覚えられな―――」
―――いんだ。
そう続けようとした僕の口が、メロディックな口笛の音律、朗らかだった辺りの空気と共々に一瞬で固まる。
言ってから僕は、しまった、と後悔した。それは彼女にとって最大の禁句であるのだ。
パルシェンとは本来、氷系能力を一番の得意としている種族である。それを一切使えないという事は
彼女にとって大きなコンプレックスとなっている。僕もそれについては重々承知していたのだが―――
「今、何て、言った?」
低いトーンの声のまま、くすっ、と上品な笑顔を浮かべてこっちを振り返るパルシェン。
あまりの気迫に周辺の空気が震えているようにすら感じられる。
何故か分からないが、怒っている時ほど美しい表情を見せるのがこの子であるのだが。
「ほら、続き。さあどうぞ?」
口調や怒気とは大きく反比例している、初めて見た者なら見惚れるほどの笑顔に僕は背筋が寒くなった。
(これは……相当ヤバい……)
顔を逸らしたい衝動に駆られるが、実際にそうしたらどうなるのか想像するだに恐ろしい。
よく見ると彼女の右手は既に握りコブシで、しかもその上に袖を巻き付けてあった。
パルシェンのドレス状の外殻は一見柔らかそうでその実、
他種のそれを寄せ付けない異常な硬度を誇っている。
「あの……パルシェンさん。それ、人間にとっちゃ致命傷ですって」
「そうなのか、勉強になるよ」
彼女の笑顔が更に輝いて、そして腕が大きく振りかぶられたのを見て、ここでもし死んだら
実家のPCをどうやって処分してもらおう、なんてことをこんな場面で考えて、そして気が付いた時には―――
「だが能力のことは大きなお世話だああああああああああああ!」
―――僕は空を舞っていた。
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