5スレ>>239


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【デートシリーズその1 -フシギバナ編-】


約束の時刻は午後1時。
本来ならばとっくに到着していておかしくない時刻だ。
「遅いな」
組んでいた両手をほどき、時計を確認する。
既に1時半をまわったところである。
女性は準備に時間がかかるとは聞いていたのでイライラはしないが、それでも待つのは苦手だ。
人の流れもまばらな2番道路で、俺は退屈な時間を持て余していた。

更に待つ事10分、ようやく今日の待ち人の姿を遠目に確認する。
さすがに文句の1つでも言ってやろうとしたのだが…
「お、お待たせしましたご主人様」
急ぎ足でこちらに近づき、申し訳なさそうに肩をすくめる彼女を前に、そんな気持ちは吹き飛んだ。
いや、本当はただ見惚れていただけなのかもしれない。
「出かける準備に時間かかっちゃって。遅くなってごめんなさい」
そう言った彼女のいでたちは、普段の快活な姿とは全然違ったもので…。
爽やかな花柄のワンピース、丹念にまとめ上げただろう髪、見慣れない可愛らしい靴、ほんのり化粧も
しているのだろう。その両手には、大きめのバスケットが握られている。
「ま、まぁ、とにかく行こうか」
落ち着きはらって言ってみるが、昂ぶる緊張を内心では感じていた。
可愛いじゃないか、ちくしょう。
普段着のままの自分が、少し恥ずかしかった。


さて、行くは言ったものの、目的地はすぐそこなのである。
2番道路の草むら、そこが今回の俺達のデートスポット。事実上の現地集合だ。
わざわざ実家から持ってきた、少し広めのレジャーシートを敷き、その上に腰掛ける。
風が穏やかなので、吹き飛ぶ心配は無いだろう。
「晴れて良かったですね」
そう言った彼女は、ニコニコしながらバスケットを置く。
楽しみにしていてくれたんだな、と思うと、嬉しさがこみ上げてきた。
日の光も優しく、肌に感じる気温は暖かい。絶好のピクニック日和である。
「それにしても、一緒に来れば良かったじゃないか。なんでわざわざ別々に来るんだ?」
「そ、それは…」
しまった。
うららかな陽気に誘われて、つい思ってたことをそのまま口にしてしまった。
「こういうのは…、雰囲気が大事だって、キュウコンさんが。せっかくのデートだからって…」
彼女の表情が少し沈む。
遅れたことを咎められていると思ってるんだろう。
「ああ、いや、ごめん。何も責めてるんじゃないんだ。ただどうしてかなって」
こちらも慌てて訂正する。
「それより、早くその中が知りたい。朝から作ってくれてたんだろ?」
彼女が大事そうに抱えているバスケットを指差す。
我ながら、なんとも稚拙な話題逸らしだと思う。
だがそれを知ってか知らずか、彼女もそれ以上この話をすることはなく、再び笑顔に戻ってくれた。
「えっと、あんまり自信は無いんですけど…」
そう言いながらも、おずおずとバスケットの蓋を開けてくれる。
「教えてもらいながら作ったんで、酷い失敗とかは無いとは思います」
少し照れくさそうだ。
安心しろ、俺も照れくさい。
「美味そうじゃないか。ほんと上達したなぁ」
確かに彼女の以前の料理は、冗談抜きで食えたものではなかった。
肉を焼けば、外は焦げてるのに中は生だし、野菜には消毒と称して殺虫剤かけるし…。
そんなお前が、食えるものを作れるようになるなんて…。感激だ。
サンドイッチ、ウインナー、唐揚げ、フライドポテト、そして小さなハンバーグか。
「俺の好物、ちゃんと覚えててくれたんだな」
「そりゃそうですよ。ちっちゃい頃から一緒なんですから」


それからは、2人でバスケットの中身をつつきながら、他愛もない話に華を咲かせていた。
旅を始めた時のこと、各地のジム戦で必死に戦ったこと、リーグを制覇したときのこと…。
時折、草むらにいた野生の萌えもんと戯れたり、膝枕をしてもらって昼寝をしたり…。
そうこうしているうちに、いつの間にか空は、澄んだ青から綺麗な夕焼けへと変わっていた。
ふと、彼女の口からこんな言葉が発せられる。
「ご主人様、今日はありがとう。わざわざ付き合ってくれて」
先ほどまでとは違うフランクな言葉遣い。
これが本来の彼女の口調である。
「こっちこそ、美味いもん食わせてもらったし、楽しかったよ」
夕焼けを眺めながら、自然と肩を寄せ合う。
「でもこれで良かったのか? 街で遊んだりしなくて」
他にも、2人で街の夜景を見ながら食事だってできた。それぐらいの金の余裕はある。
「うん。私はただ、ご主人様と2人きりになりたかっただけだから」
「そっか」
これ以上は何も言わなかった。本心だと思ったから。
黙って彼女の言葉に耳を傾ける。
「静かな所で、ご主人様と一緒の時間が過ごしたかった。もう何年もそんな機会なかったから…」
そういえば、もう記憶が曖昧だなぁ。最後にこいつと2人で過ごした時は。
「皆が良い人なのは分かってる。仲良くしてもらえるのは嬉しい。でも、やっぱりご主人様だけは特別
だから…」
すっと、俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
「一日だけでも、恋人気分を味わえて良かった。ずっと、こうしたかったから」
彼女の頭部に咲く花から、良い香りが漂ってくる。
その匂いに思わずクラッとなりながらも、俺は彼女の顔を見据えた。
「一日だけじゃないぞ? これからも2人で遊びに行ける。あの時、約束したからな」
「でも…」
彼女もまた、真剣な面持ちで俺の目を見た。
「チャンスは皆にも平等に与えられる。それは当然って分かってるけど、心のどこかで、ご主人様を
独占したいって思ってる。一緒にいる時間が増えるごとに、その気持ちが強くなっていって、いつか
とんでもない事をしちゃいそうな気がして…」
「良いんじゃないか?」
俺がそういうと、彼女の表情が驚きのそれに変わる。
「もちろん、過激な行動は止めてほしいんだが…。でもそれだけ強い気持ちで想ってくれてるなら、
俺としては文句なんか言えるわけないし。こっちも応えようって気になるし。何より遠慮しながら
デートしたって、つまんないだろ?」
恐らくこの時間まで終始、口調が敬語だったのも、そういう事なのだろう。
他の娘達より先にこうした機会を得たことで、内心恐縮していた。本心との葛藤があった。
だから、今日は一歩引いた感じで過ごしていたんだろう。
「そういえば言ってなかったな。服、似合ってるぞ」
「あ、え、えと…。うん、ありがとう」
顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「な? 俺はずっとお前を、元気で面倒見が良いやつとしか見てなかった。もちろん、大切な相棒とも。
でも最近になって、お前が意外に恥ずかしがり屋で、努力家で、芯の強いやつだったって分かってき
た。前の俺なら、お前が今みたいに照れるなんて想像もしなかっただろうけどな」
「ご主人様…」
「ガキの頃から一緒にいても、こんなに知らない事だらけなんだ。だからこれからも、2人で色んな所
に行こう。俺だってお前のこと、もっと知りたいんだ。じゃないと『結論』なんて出せない」
ここまで言って、急に俺が恥ずかしくなってきた。
くさい…。我ながらくさいぞ…。
「ご主人様ぁ…」
だが彼女には充分通じたようで、その瞳には綺麗な滴を湛えていた。
「私…もっと頑張りますから。いつかご主人様に選んでもらえるように、頑張りますから…」
俺の胸にそっと体を預けながら、嬉しい決意を示してくれる。
ちょ、そこの野生の萌えもん! ニヤニヤしながら見るんじゃない!
「それに…私も今日でご主人様のこと1つ、知りましたから」
しばらくすると、彼女は体を離し、スクッと立ち上がった。
そして夕日の方向に向かって走り出したかと思うと、少し遠目の所で足を止め、こちらに向かってこう
言い放った。
「ご主人様が、意外に熱弁家だってことです!」
「なっ!? (///)」
お、俺の顔が赤いのは夕焼けのせいだからなっ! 照れてないからなっ!
照れ隠しに彼女を追いかける。
そういえば、昔はよく追いかけっことかしたなぁ。
「足ならご主人様には負けませんよ~だ」
舌をベーっと出して、彼女も駆け出す。
「うっせぇ!」
幼馴染の彼女とのデートは、なんとも無邪気な戯れで、終幕を向かえましたとさ。



【あとがき】
(´・ω・`)ども、このコテでは初投稿となる嫁ドリルです。以前の172です。どうぞよろしく。通算で
は第5作目となります。

第1作『お月見山の酒宴』であったように、主人公には旅の傍ら、各キャラとのデートイベントをこな
すという役目があります。今回はその第一弾という事で、第4作『ずっと一緒にいようね』でヤンデレ
役を見事に演じてくれたフシギバナをチョイスしてみました。まぁあれはパラレルワールドの話なの
で、実際にヤンデレ化したワケではない、という設定で。

書いてて思ったのは、追い詰められたりしなけりゃ普通の可愛い女の子なんだなぁ、という事。正統派
ヒロインのハズなのに、私の意向(オニドリルが嫁)で不遇な状況になってしまった彼女に日の目を当て
たくて、この作品を書きました。バスケットの中身が栄養偏ってる? そんなの関係ねぇ。
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