5スレ>>243

あるトレーナーの家の話。
俺は机の上に広げた財布の中身やらレシートやらと、電卓片手ににらめっこしていた。

「足りない…どう計算しても足りないぞ。」
レシートの合計&思いつく限りの出費を足し合わせても、明らかに実出費のほうが高い。
「あ、マスター。家計簿付けは私のお仕事ですよ?」
モルフォンがそんな俺に気づいて声をかけてきた。相変わらずの世話焼きだな…ん?待てよ。
「モルフォン。俺、お前に家計簿付けるように頼んだっけ?」
「いえ、これは私の好意ですよ♪」
「いや、好意はうれしいんだが…、主人の家計簿を秘密裏でやってどうする。」
「え?あ、うぅ…そうですよね。」
モルフォンは世話焼きと言うか、おせっかいと言うか。

もともと俺は出費を数える人間じゃない。残りの所持金の量は覚えて使うもの、そう考えているからだ。
そんな俺が、今回金の勘定をしているのには理由がある。
この前買出しに言ったときのこと。俺はいつもの勢いで適当に食料を詰め込んでレジへ入った。
いつもこんな感じで、覚えている所持金で買える分を予測して買っている。
今までこのやり方で間違いなく通ってきたので、失敗する恐れはないはずだった。しかし。
「3920円になります。」
「3920円ね…あれ。これは…。」
足りなかった。財布の中身と記憶が明らかに食い違っていた…1000円札が一枚蒸発していたんだ。

…というわけで赤っ恥をかいた俺は、一回財布を整理してみることにしたわけだ。
「落としたわけじゃないよな…モルフォンやアメモースも近くにいるのに、誰も気づかないのは変だ。
 まぁボケ属性のお前らなら気づかないこともあるかもしれないがな。」
「マスターがボケ属性なんでしょ?」
「断じて違う。」
野次馬をしていたアメモースがつっかかってきた。…こいつ、いつの間に隣に。
「そんなことよりマスターっ。はい、これ!」
そのまま唐突に、机の上、しかも勘定している小銭の上に包み紙を置くアメモース。
「おい、邪魔だ。」
「いいから開けてよ!」
…強引な奴だ。仕方なく包み紙を開けてみる。
中から出てきたのは、コンビニで売ってる一箱のチョコだった。
「…アメモース、バレンタインデーは終わってるんだが。」
「違うわよ、これはマスターへのプレゼントっ。…あ、その、もちろん、マスターの餌付け用のね!」
まぁとにかく、相変わらず苦しい言い訳をつけつつ、俺にプレゼントを用意してくれたようだ。
頼んでもない、期待もしていないプレゼントは一番のうれしみだと俺は思う。確かにこれは純粋にうれしい。
…だが、ここで疑惑がひとつ。
「アメモース、これ、どうやって調達した?」
「マスターの財布からお金を拝借したの。」
「…ほう、なるほどな…。」
「?…あっ。」
真犯人が判明した。

数分後、俺はアメモースに正座させて叱りつけていた。
「萌えもんがマスターの財布を管理するならともかく、着服するなんて聞いたことがないぞ。どうしてくれるんだ?」
「あーその…。」
「…この無駄な出費でどれくらい予定がおかしくなると思ってるんだよ、おい。」
「うー…。」
アメモースはさっきからあーうー言ってばかり。謝る気はなさそうだ。
そんな態度が、俺の怒りのボルテージを上げる。
「本当にすまないと思ってるのかよ。」
「お、思ってるに決まってるじゃない!」
「じゃ俺の質問に答えろ!この落とし前、どうやってつける気なんだ?ええ!?」
「………。」
俺の迫力に押されてか、アメモースはうつむいて黙り込んでしまった。
「ま、マスター?アメモースちゃんのこと、許してあげてくださいませんか?」
「許せるかよ。謝りの一言も言わないんだぞ。」
「だけど、マスター!」
「だけども何もあるか!」
「マスターっ!!」
モルフォンが大声を上げた。いつもと違うモルフォンの様子に思わず俺は黙る。
「…アメモースちゃんは悪気があったわけではないんです。
 バレンタインデーにチョコを渡したときのマスターの喜ぶ様子…、あれを、アメモースちゃんはもう一度見たかったんですよ?」
「…何?」
黙ったままのアメモースを見る。膝に置かれたその手は、きつく握られていた。
「…アメモース…お前。」
アメモースはふるふる震え始めた。そのまま震える声で話す。
「だ、だって…、マスターがうれしそうだったから…もっと、喜んでくれるって、思ったんだもん…。
 もっと、たくさん、プレゼントを上げれば…、もっと、もっと、喜んでくれるって…。」
顔を上げたアメモースの目からは、玉のような涙がぼろぼろと落ちる。
「それなのに…、それなのに、マスター…ちっとも、喜んで、くれないんだもん…。
 私の、プレゼント…うれしく、なかったんでしょ…だから、そんなに、怒ってるんだよね…。」
…今更になって俺は過ちに気がついた。アメモースの好意を無視しちまったんだ。
「…すまん、アメモース。ちょっときつく言い過ぎたな…。」
俺はアメモースに優しくささやいた。

「何言ってるんだよ、うれしくないわけないじゃないか。」

「…ま、マスターの…、マスターのばかーっ!!」
アメモースは俺の胸にいきなり飛び込み、そのまま俺の胸をたしたし叩き、泣きじゃくった。
確かにこいつが大事な所持金に勝手に手をつけたのは事実。だが、それも無邪気な思いやりゆえだった。
そんな無邪気な子供みたいな奴を、俺は嗜めるどころか思いっきり怒りをぶつけてしまった。それこそ好意に気がつかないまま、だ。
…俺も間抜けだったようだな。
「ごめんな、アメモース。だがお前も悪いのは事実だぜ。…もう怒ってないから、次は気をつけろよ。」
「ううっ、ひっく。」
かすかに、アメモースがうなずいた気がした。

………

「ほれ、今日の分け前だ。ちゃんと使えよ。」
「あ、ありがとうございますっ。」
「えー、少ないよー。」
あれ以来、俺は2人に小遣いをやることにした。
相変わらず不平たらたらな奴もいるが、まぁ無視しよう。
アメモースも懲りたのか、俺の財布には全く手をつけなくなった。
それでいて、まだプレゼントを用意してくれる。素直にしてくれればかわいいやつだよな。
…まったく、俺も親ばかだ。まぁ、これで一件落着したならそれでよしとしよう。

「モルフォン?ちょっとさ、お金貸してくれない?その、この前の、使い切っちゃって…さっ。」
やれやれ…別の問題が発生してやがるか。

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※端書
とりあえずごめんなさい。萌えもん1人泣かせました(土下座)。
話的には前回のバレンタイン前日SSの続きです。数日後って感じです。
とりあえずモルフォンは俺の嫁、アメモースは俺の娘ってことで。え、贅沢だって?知りませんそんなことは(ぉぃ
駄文ながら最後までお付き合いくださってありがとうございます。

書いた人:蛾

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最終更新:2008年02月28日 16:48
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