相変わらず仲間との旅を楽しむ鼻血マスター一行。
日が暮れる前、今日中に街や村に着くのは無理だと判断して、川から少しだけ離れた平地に野営することに。
野宿の準備はとうに終えて、夕食もとって各々好きに過ごし、あとは眠るだけとなる。
歯も磨いて、本当に寝るだけとなり寝袋に包まれる。
少しだけ時間が過ぎ、誰かの寝息が聞こえてきた頃。少女の隣にいたプクリンが少女に話しかける。
このプクリン、以前仲間にした「歌う」の使えないプリンだ。
初めて会ったときの翳りはすでになく、過去は過去と割り切れていて今を楽しめているようだ。
「マスター起きてる?」
「んー起きてるよー」
「よかった」
何がよかったのだろう。でも本当にそう思っているらしく、表情にほっとしたものが浮かんでいる。
「今日なんの日か知ってる?」
「今日っていってもあと数時間たらずで終るけどね。
それはおいといて、なんの日か……」
なんの日だっけと眠りかけた頭脳を起こして考える。
眠気よりも、可愛く大切な仲間の問いに答えるほうが大事なのだ。
持てる力を総動員し頭脳をフル回転して行き当たった答えは、
「耳かき綿記念日?」
「そんな記念日あったんだぁ」
どうやらプクリンの望んだ答えとは違ったようだ。
「耳かきに綿をつけるという画期的な発想をした人を褒め称える日だった思うけど」
「雑学だね。どこでそんな知識しったの?」
「カレンダーに載ってたわ」
「はーカレンダーってそんなことも載せてるんだ」
そんなことはない。少女の見たカレンダーがおかしいのだろう。
「そんなふうに感心するってことは、違うことを聞きたかったんでしょ?
私は答えわからないから教えてくれる?」
その言葉にプクリンは少し慌てた様子を見せる。
もっともそれは心の中だけで、表情には出していなかったが。
「た、たいしたことじゃないよ。
なにかあったような気がして、気になってマスターが知ってるかなって聞いただけ」
「そうなんだ」
「うん。
そうだ! 起こしちゃったお礼に子守唄歌う」
「気にしなくていいのに。でも子守唄かぁ久しぶり。おねがいしよっかな」
プクリンが自分のために歌ってくれることを喜んで、横を向いてわくわくとした顔でプクリンを見る。
プクリンは起き上がる。小さく桃色の唇が震えて、声を響かせる。鳥や虫や風のざわめきを押しのけて、プクリンの声が周囲を支配した。
「あつくなれ! 夢見た明日をー! 必ずいつか捕まえる~」
それは子守唄というには、テンションの高い歌。
歌は続き、
「「世界をかえる風になれ~」」
つられて少女は歌ってしまう。おかげでテンションが上がり眠気が遠のく。
「って子守唄には程遠い選曲だ!?」
歌い終わってようやく突っ込んだ。
「間違えちゃった」
てへっと笑うプクリンに相好を崩し、可愛いよと悶える少女。
「可愛いから許す!」
びしっと決まったサムズアップが凛々しい。
「ありがとーマスター。次は童謡を歌うね」
歌うことはやめないらしい。
少しだけじっと考えたプクリンは、歌を決めたのか口を開く。
「毎日毎日僕らは鉄板のー、上で焼かれていやになっちゃうな♪」
「それって童謡だっけ?」
今度は即座に突っ込んだ。
しかも食べ物の歌を歌うからお腹が空いたように感じられる。さらに眠気がとぶ。
「私としては、もっとこう眠気を誘う歌がよかったりするなぁ?」
プクリンはリクエストに答えるため選曲で悩み、やがて決まったのか口を開く。
「今宵歌うはおなご歌、雪の景色が傷の心にしみて、一人帰る恋破れ。
こぶしをきかせて歌いましょう。歌い手はわたくしプクリン、題名は津軽海峡冬景色。
上野発の夜行列車おりたときから~」
拳を握って、瞼を閉じて、心を込めて、力強くプクリンは歌う。
少女はまさかこんな選曲されるとは思わず、おもいのほか上手く歌うプクリンを呆けて見るしかできない。
熱唱ともいえるプクリンの歌は終わりを告げた。
あまりにも強く歌ったため、ほかの寝ていた仲間たちも起きだしていた。
「たしかに静かでしんみりとした歌だけど、夢見は悪いわそれ」
少女が半眼になるのも仕方ないことだろう。
三曲ともわざじゃないかと疑える選曲だ。可愛くて許せるといっても、さすがに不審に思えてくる。
「んーなにかある?」
「なにかって?」
どことなく焦ったような感じのプクリン。それを見てますます疑わしさを深める。
「寝かせようっていう歌じゃないよね? むしろ寝かせないって感じ」
「そ、そうかな?」
「その反応が十分な証拠になりそうだけど。
それでなにがしたいのかな? プクリンは」
「なにがしたいって、なにも考えてないよ? ほんとだよ?」
「ほかの子達まで起こしてしておいて、それはないんじゃないかな?」
少女は起き上がって少しずつプクリンに近づいていく。
それに言い訳を考えているプクリンは気づかない。
近づいて捕まえようとしたとき、顔をいろんな方向へと傾け必死に言い訳を考えていたプクリンが何かに気づく。
その表情は嬉しそうなものだ。待ち望んでいた何かがやってきた、といった感じ。
急に表情を変えたプクリンに、少女や仲間たちは不思議に思う。
「上見て!」
空を指差すプクリンにつられて皆空を見る。
月がなく、雲一つない見事な星空だ。その夜空を駈ける粒が一つ二つと増えていく。
すうっと流れ、白色の線を残し消えていく。
流星雨、天体ショーの開幕だ。
皆それの見入る。旅をしていても滅多に見れるものではない珍しい光景は、少女たちを驚かせるのに十分なものだった。
「驚いた?」
期待と悪戯心がたっぷりと込められたプクリンの声。
秘密にしていた宝を自慢げに見せる気分なんだろう。楽しそうな表情が浮かんでいる。
「昨日ね、たまたま流れ星がたくさん見れるって知ったんだ。
それで晴れたら、皆に見せようと思って」
「事前に教えなかったのは、驚かすため?」
「うん」
「あー……たしかに驚いたわ」
「やった成功だ!」
「ありがとね、あのまま寝てたらこれ見れなかったんだぁ」
見やすい体勢になろうと地面に寝転がる少女。
皆それにならって地面に寝転がっていく。プクリンは少女の隣だ。
こうしていると光のシャワーを全身に浴びているような感じがして感慨深い。
そう言った少女に皆同意した。
少女は隣のプクリンを抱き寄せる。お礼にとギュッと抱きしめるが、
これではいつもと同じで感謝が気持ちが伝わらないかなと思い、もう一度言葉にする。
「ありがと」
「どういたしまして」
とプクリンは笑う。
少女は感謝し願う、こんな素晴らしい仲間たちと出会えさせてくれてありがとうと、これからも仲間たちと旅ができますようにと。
感謝がいつも口にしてる。願いは声には出さず、心に秘める。
願うまでもないことだとすぐに気づいたから。
すでに叶っているし、これからも続いてくと思ったから。
最終更新:2008年02月28日 16:51