5スレ>>292


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ある田舎の話。
僕は旅人だ。そして、旅を続ける理由がある。
名前も地図にも書いていないような小さな村。
そこに、僕はふらりとやってきた。
彼女に出会った、この村に。

………

あの時彼女は、村はずれの一本の大木に寄りかかり、独り空を見上げていた。
茶色のワンピースに、田舎を感じさせる靴も履いていない足。
すらりと真っ直ぐ伸びた、地面に届きそうなほどに長い茶髪。
その澄んだ目は、わき目も振らず夕焼けに染まる空をじっと見つめている。
普通の人のようで、何か違うような雰囲気の、不思議な子だった。

僕が彼女をはじめてみたとき、その存在感に、つい目を奪われてしまった。
彼女が強い存在感を放っていたのは、彼女以外に人が見当たらないからだろうか。
目を逸らそうとしても、つい目が行ってしまう―それを繰り返しているうちに、彼女と目が合ってしまった。
「あっ。」
「?」
一瞬の静寂。
「い、いや…こ、こんにちは。」
「?…こんにちは。」
気まずい気がした。いや、むしろあの澄んだ目で見られて恥ずかしかったのかもしれない。
僕は捨て台詞のように挨拶をし、そそくさと通り過ぎてしまった。
彼女は不思議そうな顔をしてこちらを見ていたが、しばらくしたらまた空を見上げ始めた。
僕は彼女のことを気にかけつつ、彼女の元を去った。

翌日、泊まったその村の旅館のおかみさんに、彼女のことを尋ねてみた。
「あぁ、あの子?この近所に住んでいる野生の萌えもんらしいんだけどね。
 毎年この季節になると、村の近くにやってきては一日中あんなふうに空を見上げてるのよ。
 名前は…たしか、マッスグマ、とかいったかしら?」
「萌えもん、ですか。」
あの子が今流行の萌えっ娘もんすたぁなのか。
僕はトレーナーじゃない単なる一般人なので、萌えもんをこの目で見るのは、実は初めてだった。
さすが「萌え」の名を冠するだけあって、傍目から見れば可愛い子だった気がする。
「あらあら、もしかして一目惚れでもしちゃったのかしら?」
「い、いや、そんなことないですよ。」
「ふふ、赤くなっちゃって…。今日もまたあの大木の下にいるでしょうから、会いたければ行ってみなさい。」

僕は必死に否定したのだが、おかみさんは聞く耳持たず。おかみさんに連れられ、僕はまた大木の近くまで来てしまった。
今考えてみると、あのとき僕はおかみさんの言うとおり、彼女に一目惚れをしていたんだろうな。
「ほら、あそこ。告白、がんばって!」
「え?ちょっ、お、おかみさん!」
おかみさんは僕を置いて帰っていってしまった。
振り返ると、例の彼女―マッスグマが、じっとこちらを見つめている。
「あ、いや、その…い、いい天気ですね。」
「あら…誰かと思ったら、昨日の人?」
「え?あぁ…はい。」
僕のこと、ちゃっかりと覚えてくれていた。

これがきっかけで、僕は彼女と色々な話をすることができた。
まずは互いの自己紹介から、終わりは身の上話まで、本当にたくさんのことを話すことができた。
たぶん、このことをあのおかみさんに打ち明けなければ、こんなに楽しい会話なんてできなかっただろう。
そのことを考えると、僕はおかみさんに感謝しないといけない気がする。
「…で、君はここで待っているのかい。その萌えもんさんを。」
「はい。毎年必ず、この季節には帰ってきてくれるんです。」
彼女はマッスグマ。近くの山の草原を棲家に、のびのびと暮らしている野生の萌えもんで、普段は野山で狩りをして生きているらしい。
そんな彼女は、毎年秋にここで彼女の友達…オオスバメとかいう渡り鳥萌えもんをお見送りするという。
オオスバメは寒さに弱く、冬の間は南のほうへ移住し、そこで冬をしのぐそうで、秋には大移動をしないといけない。
彼女は秋になるたび、悲しい別れをしないといけないのだが、その割には悲しそうではない。
なぜなら彼女は信じているから。あの人は春になるとまた戻ってくる、と。

僕は、萌えもん=野生的で粗暴な生き物、というイメージを抱いていた。
トレーナーは、鷹匠とか闘牛士とかのように、萌えもんを調教し戦わせる、そんなイメージも持っていた。
そんな僕から彼女は、その間違ったイメージを消し去った。彼女からは粗暴さはおろか、野生も感じることはできなかった。
それどころか、友達との約束を信じてここで待ち続ける一途な気持ち…彼女はまるで「普通の女の子」のようだった。

「…お、あれかな?」
「あ、きっとあれです!やっぱりいつもどおりだ!わぁ!」
夕焼け空、大きな太陽の中に、小さな黒い点を見つけた彼女は感嘆の声を上げた。
いつもの僕なら、1夜泊まればすぐにでも村を出ていっただろう。だけど僕はあの後、1週間もの間ここに滞在していた。
なぜなら、彼女が待っている友達をお出迎えしたくなってしまったからである。彼女と話しているのがとても楽しかったのもあるけど。
そして、今日やっとその友達が到着したのだ。
「すまないね、ちょっと天気が悪かったせいで遅れたよ。」
「ううん、ちっとも遅れてないよ。いつもどおりの時間だよ。」
その友達―オオスバメは、藍色の羽とノンスリーブな軽装が目立つ、さばさばした快活な子だった。
長い距離を飛べるとは思えないくらい、とてもすらっとした印象をただよわせる。
そんなオオスバメと楽しそうに話をしているマッスグマが、とても幸せそうで、輝いて見えた。

「…じゃ、俺は行くよ。」
二人の楽しい時間に水を差さないように、僕はここを立ち去ることにした。
そのセリフに反応して、マッスグマが服の裾をつかんできた。
「せっかく待っていてくださったのに…もう行っちゃうんですか?」
「いや、せっかくの感動の再会に邪魔はできないからね。」
「そんな、邪魔だなんて…。」
「マッス、旅人を止めてはいけないよ。旅人は私みたいに旅をするのが掟だからね。」
不意にオオスバメが前に歩み寄り、彼女を止める。
そしてそのまま僕に向き直り、唐突に握手をしてきた。
「話を聞く限り、マッスグマが世話になったみたいだね。
 私を待っていてくれてありがとう。また会う機会があれば、そのときはよろしく頼むよ。」
彼女は最後まで姉御肌だった。

オオスバメに後押しされ、僕は次の場所へと旅立っていく。
「君の旅の道中に、幸があらんことを!」
「またきてくださいね!待ってますから!」
彼女達はいつまでも僕を見送ってくれていた。
歩けば歩くほど、彼女達の姿は小さくなっていく。それがさびしい気がして、何度も立ち止まって振り返る。
でも、引き返そうとは思わなかった。なぜなら僕は、もう決心していたのだ。

また春にこようと。
また彼女は待っているだろう。毎年のように。

僕は旅人だ。そして、旅を続ける理由がある。

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※端書
即席ノーマル祭り作品。マッスグマとオオスバメのお話です。
私の中のノーマルタイプと言えばマッスグマ。一途な女の子って大好きです。オオスバメは図鑑説明文が好きなもので入れました。
主人公がキザな気がしますが、きっと私の性格のせいです(ぇ
駄文ながら最後までお付き合いくださってありがとうございます。

書いた人:蛾
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