――…目が覚める。
寝ぼけた目をこすりながら、俺は自分の部屋から出た。
「おはよう、母さん」
「おはよう。朝ごはん、もうちょっと待っててね」
母さんがキッチンで朝飯の用意をしている間に、トイレや洗面を済ましに行った。
「全く、何なのだろう」
洗い終えた顔を拭きながら、呟いてみる。
俺はマサラタウンに住んでいるが、近くには大きな研究所が存在する。
昨晩、その研究所の所長であり、博士であるオーキドさんから電話があったのだ。
なんでも用事がある為、研究所まで来て欲しいとの事。
その用事の内容こそ知らされては居ないのだが、兎に角行かねばなるまい。
「まだちょっと時間あるかなぁ」
リビングに戻ると、朝飯の良い香りがした。
「何言ってるの。時間にルーズなんだから、少し早めに行動した方が良いわよ」
母親がサラダを盛り付けたボールを運び、テーブルに置きながら注意する。
「まぁ、そうだね。…ふぁぁ…」
まだ余韻の残る眠気を、あくびに込める。
ふぅ…そろそろ頭の方も起きてきたかな。
第00話
「それじゃ、行って来る」
靴のヒモを結び直して、立ち上がる。
研究所までは距離は無い。
俺はとりあえず、の服装で家を出た。
「行ってらっしゃい」
程なくして研究所へと辿り着く。
入ってみると、助手がせわしく働いているようだ。
朝早いのに、お疲れ様です。
「お邪魔しまーす」
本棚の前で作業をしていた助手が、俺の姿に気付いて声を掛けてきた。
「お。来たね。博士なら奥に居るよ」
「おはよう御座います。有難う御座います」
挨拶と礼を述べて、早速研究所の奥へと向かった。
「来たな。ういっす」
聞き覚えのある声だ。
「…あれ?」
隣の家に住み、幼馴染でもあるコイツが笑みを浮かべて近寄ってくる。
「お前もか」
「え、どういう事…?」
俺はよく分からない表情を浮かべる。
昨日の電話での『用事』とは、こいつも含めた上での召集だったのだろうか。
「よし、二人とも来たな」
オーキドさん。いや、此処では博士か。…オーキド博士が現れ、事の説明を始めたのだった。
「二人を呼んだのは、極めて重要な頼み事があってのことじゃ」
「重要な頼み事…?」
俺はその言葉を反芻し、次の言葉を待つ。
「ワシの研究とは、何の研究をしとるのかは知っていると思う」
知らない筈が無い。PocketMonster、略語としてポケモンと称される生物の研究をしている。
そしてポケモンと人間との関係を飛躍的に向上させ、共存を可能とさせた第一人者とも言われる偉大な人物。それこそがオーキド博士なのだ。
「実は二人に、この研究を手伝って貰いたくてな」
「ええ!?」
「おい、じーさん!」
コイツも驚いているようだ。
「近年、可愛らしく人間に極めて近い形態を持つポケモンが発見されたのは知っとるか」
「じーさん、そりゃ有名な話だ。ニュースでかなりの話題だろ」
そう、ポケモンは今まで名前の通り『モンスター(怪物)』の様な姿形をしていたのが主だった。中には小動物的な可愛さを持つポケモンも存在したが。
しかし最近になって、異常増殖するポケモンが居た。
「萌え、もんですよね?」
俺はそんなポケモン達に付けられた別称を口にする。
萌え、とは俺が生まれるよりももっと前に流行した言葉らしく、「プリティー」やら「キュート」といった意味合いを持つ言葉らしい。
イカす、といった言葉が採択される可能性もあったが、ポケモン学会において「ナンセンス。萌え、の方が響きも良い」という意見が圧倒的多数を占め、
萌えもんという名称に決定付けられた。
テレビのインタビューに老人が出てきて、「まさか萌え、が此処で汎用する事になろうとは。ワシは嬉しい」といったコメントを残したのは、また別の話。
「萌えもんは、ほぼ未知に近い。同種であると思われるポケモンと、特徴こそ類似する点が見受けられるが、その行動などは全くもって不明」
「確か人語も喋るんだっけか?」
「その通りじゃ。ワシはポケモンの研究をしとったが、人語を話せる声帯は持っておらんかった。全てが謎だ」
ポケモンは、おおよそが鳴き声で意思伝達するらしい、という事が分かっている。
しかし萌えもんは、その鳴き声にプラスして人語をも話すことが出来るらしい。
多くの者が疑問を持ち、そして捕獲をしていった。
人権が萌えもんにも適用されるかどうかなども、問題となっている。
「ゴホン。そこで、あえてお前達二人にこの研究を手伝って貰いたいのだ」
「じーさん、話がみえねぇ。まず、俺らはガキだ。難しい言葉はチンプンカンプンだぜ?」
「分かっておる。だが、子供だからこそ手伝える事もあるのじゃよ。
コミュニケーションによって、萌えもんの生態を解き明かすアプローチをかけていこうと思うのじゃ。
子供の純粋な心によって、萌えもんの神秘に迫る事が出来たなら。そういった事なのじゃよ」
「言い方が悪いが、それは利用する、ってことなのかよ?」
おい、そこまで言う事は無いだろう。…と制止しようとしても無駄か。
昔から血の気は多い奴だ。ましてや祖父に対して遠慮なんかする筈も無い。
「まぁ、そうなるやもしれん。
だが、これは双方にメリットがあると思うのじゃ」
「どういう事だよ…?」
「これを見なさい」
博士は一つ咳払いをし、
「ここに、三匹の萌えもんが居る。一匹を選び、旅に出る。それだけなのじゃ」
唖然とする俺達に、博士はこう言った。
「自立する年齢になった事を、忘れていたのかね」
ああ…そうか。もう俺達、そんな年じゃないか。
博士は研究なんて言ってるけど、俺達が自立する為の手助けもしてくれているんだ。
好都合解釈だとは思わない。いつだって、オーキド博士はそういう人だったのだから。
「…具体的に、どうすれば良いのかを教えて下さい。博士」
俺は決意を固めた。
――第00話 終わり
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【ヒトリゴト】
萌えもん、という存在定義やら、世界観を詰め込みすぎたものとなりました。
原作(初代)に忠実な話にしたいと思ったので、
設定説明オンリーな話にしてしまった…
まぁ、その為の第00話といいますか…えっとぉ…
第01話からが本編、第00話はただの説明、といった感じで読み進めていただければと思います。
ちなみにオイラはフシギダネ~バナが大好きですので、次回からそんな感じです。
物語の整合性が甘かったりもしますが、大目に見て下さいorz
一応イメージは、なんだろ。ラノベ感覚で萌えもんを読む、といった感じなのかな…。
いやはや、初っ端から長くてごめんなさいorz
次回も宜しければ、読んで頂けたら幸いです。
作者:てんくるり
最終更新:2008年03月08日 21:08