5スレ>>304


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~家族~

洞窟を抜けてから、カイオーガには一旦ボールに入ってもらった。
流石に噂になっている島で、堂々と歩けるはずがないからだ。
「ごめんな、家に着いたら出してやるから。」
「うん・・・でも意外と広いよ?ここ。」
微妙に嬉しそうな口調が、ボールの中から聞こえてくる。
何となく安心し、口元が緩んでしまう。
「そっか、ならよかった。」
軽い会話を交わしながら森を抜け、人里へ行き、港を目指した。
・・・
・・

船で島を抜け、自宅のあるマサラタウンへ向かう為に、バスへ乗り込む。
座席でボールの中を覗いてみると、カイオーガは寝ているようだった。
色々と安心したのかな・・・それともただ疲れているだけなのか。
兎に角安心しているようで何よりだった。
俺までウトウトとしていると、バスはいつの間にかマサラタウンへたどりついていた。
バスを降り、自宅の玄関をノックしたあと、ゆっくりと開ける。
「ただいまー・・・っと。」
音もなく空く扉の先には、待ちくたびれたとでも言わんとばかりに、呆れた顔をしたギャロップが立っていた。
「おかえり、マスター・・・私達を置いて何処かへ出ていったけど、危ないわよ?」
そういえば、無意識に走り出し、で家を後にしたのだった。
今考えれば、野生のモンスター達に食われてもおかしくない。
我ながら無謀なことをしたものだ。
取り合えず玄関で、ギャロップを納得させる為に答えた。
「んーっと、自分を求めて大疾走してたから大丈夫?」
「何よそれ・・・まぁ何してきたのか知らないけど、心配したわよ。」
俺の言葉を聞いて、一瞬呆れ顔をしたが、胸を撫で下ろし、安心したように微笑んだ。
「悪いな、実はちょっと散歩して、こいつを拾ってきたんだ。」
そう言いながら俺は、腰につけていた一つのボールを手にした。
カイオーガは・・・会話が気になったのか、既に起き上がっている。
不思議そうに、こちらに向かって首を傾げてくる。
「カイオーガ、出てきてもらえるか?もう家着いたから。」
「あ・・・うん。」
カイオーガが返事をしたところで、ボールから出してあげた。
見慣れない風景が気になるのか、キョロキョロと当りを見回す。
「これが、マスターの家?」
一周見回した後、俺の服の裾を摘みながらこっちを向いてきた。
「汚い家だけど、そだよ。」
俺が答えると、更に強く裾を掴んできた。
そんなカイオーガを不思議がったギャロップは、カイオーガを覗き込みながら聞く。
「で、マスターは私達を置いてきぼりにして、この子を拉致って来たと?」
「拉致って・・・物騒な言い方するなよ、ただ連れてきただけじゃん。」
俺の言葉に被せるように、口を挟むギャロップ。
「で、貴女カイオーガ・・・だっけ?私はギャロップ。よろしくね。」
既に俺のことは目に入っていないようだ。
そんなギャロップに、俺の服の裾を離しながらカイオーガは答えた。
「あ・・・うん、よろしく、ギャロップ。」
「えっとね、カイオーガ。危ない男について行っちゃだめよ?」
ギャロップがカイオーガに怪しげなことを吹き込んでいると、奥にある階段から足音と共に声が聞こえてきた。
「ああ、マスターは変態だからな。何されるか分からんぞ。」
ノソノソと降りてきたのは、ピジョンだ。
寝ていたのか、微妙に目が赤い。
「おいこら、そこのピジョンさん。俺がなんだって?」
「ただの変態。」
「な・・・」
ワナワナと震え始めた俺を無視して、ピジョンは続けた。
こいつもまた、俺のことは目に入っていないらしい。
「で、何よ。マスターは私達を置いてきぼりにして、この子をさらって来たのか?」
ギャロップと同じ事を言うピジョン。
飼い主に似るとよく言われるが・・・俺はそんな性格をしていないはずだ。
たぶん。
俺は呆れきって、呆然と立っていると、ギャロップが変わりに返事をした。
「そうよ。変態さんは私達以外の、次の少女を連れてきたのよ。」
「あ、あのー・・・」
流れについていけないカイオーガは、ギャロップとピジョンに交互に視線を送りながら、何かを言おうとしていた。
「カイオーガだっけ?立ち話もなんだし、2階へ来ない?」
「んっと、そうするけど、一つ聞いてもいい・・・えっと、ピジョン?」
カイオーガに、首を傾げたピジョン。
ピジョンは妹のような奴だと思っていたが・・・身長的にカイオーガの姉のようだ。
そんな事を考えていると、カイオーガはピジョンに問いかけた。
「マスターって変態さんなの?」
「ちょ・・・おま・・・いいか、変態ってのはな、服を着ないんだぞ。」
よく見ると、カイオーガはいつの間にか俺との距離を一歩取っていた。
二人の言葉を信じたのか、怯えてしまったようだ。
「服着てる・・・それじゃ、マスターは変態さんじゃないの?」
「そうだ。俺は服を着ている。脱ぐ予定もない。」
そういって胸を張った俺に、ギャロップは思い出したように突っ込んだ。
「でも、踏まれて喜ぶ人が変態以外なんて言うのかしら?」
「え・・・やっぱり変態さん?」
更に一歩遠のくカイオーガ。
「たまにマスターの部屋から、変な声が聞こえるよな。」
「やっぱり・・・」
いい加減に変な事を吹き込むのはやめていただきたい。
たとえ事実であろうとも。
「あーもう。俺は変態じゃないから!ギャロップ。ピジョン。いい加減にしてくれよ・・・」
「あら、私は本当のことを言っただけよ?」
そういうと、ギャロップは笑い始めた。
だめだこいつは・・・
完全に俺をからかう事しか考えていないのかもしれない。
「私だって、見た物をそのまま言っているだけだぞ。」
こっちは既に物扱いだ。
「あーもう・・・どーにでもなれ!」
力が抜け、体が重力に取られそうになる。
しかし、楽しそうにしているこいつ等を見ていると、不思議と笑いがこぼれだす。
そんな俺達を、カイオーガは少し不思議そうに見ながら、再び俺の服の裾を摘み、小さく呟いた。
「何か・・・暖かいね。」
俺は服の違和感を感じ、カイオーガの方を向くと、少し嬉しそうな顔をしながら、裾を掴んでいた。
服を摘む仕草が可愛く、頭を撫でてやると、驚いた表情をこちらに向けた後、恥ずかしそうに下を向いてしまった。
「クス・・・それにしても面白い子だな。まぁ立ち話もアレだし上がりなよ。」
「うん!」
軽く笑ったままのピジョンに誘われると、カイオーガは軽く返事をして、階段に向かうピジョンの後ろについていった。
そのまま、2階で俺の武勇伝でも話してくれるのだろう。
きっとそうに違いない。
そう信じて、再び正面を向くと、ギャロップが残っていた。
俺は靴を脱ぎながら、聞いてみた。
「あれ?お前は一緒に行かないのか?」
「お昼もあるし、それに・・・ちょっとマスター。お話があるわ。」
「ん、わかった。」
靴を脱ぎ終えた俺は、2階へ行ったピジョン達を追わずに、1階の食堂へ向かった。
食堂に入ると、ギャロップは俺の方へ振り返ってきた。
「マスターは座ってていいわよ。私が作るから。」
「じゃあ、お願いするよ。」
俺は答えながら、四つの椅子に囲まれている食卓へと、着いた。
ホッと息を吐いた後、背伸びをしていると、俺の前にお茶の入ったコップが置かれた。
そしてコップにかかる手の主の方をむいて見ると、少し真面目な顔をしたギャロップが居た。
「で、あの子って確か、神話に出てくるカイオーガよね?」
「ああ・・・そうらしいな。」
「どうするつもりなの?もしも・・・」
俺はギャロップが言い終わる前に、答えた。
「・・・助けるさ、カイオーガはもちろん、お前達の場合でも。例えどんな状況でも。
 まぁ、出かけるときは、あいつの姿は有名じゃないし、名前だけ気をつければいいしね。」
そういうと、ギャロップは安心したように微笑みながら答えた。
「何となく放って置けない子だし、マスターの気持ちもわかるわ。」
「ま、仲良くしてやってくれ。ちょこっと可哀そうだったから連れてきたんだし。」
俺の言葉に、少し驚いたような表情をした後、直ぐに呆れ交じりの声で答えた。
「・・・相変わらずね。」
「まぁな。」
俺が答えると、ギャロップは鼻歌を歌いながら冷蔵庫を漁り始めた。
中身を一通り見てから、手を止めて俺に離しかけてきた。
「マスター。お昼は何がいい?」
「ギャロップ様の・・・」
ギャロップは再び手を動かし始め、何かを取り出し、調理台の方へ向かった。
「はいはい、炒飯作るわよ。」
「ぶー・・・」
最後まで言わせてくれてもいいのに。
そんな事を思っていると、再び睡魔がやってきた。
早朝から走り、船に乗り、離れ小島へ渡ったおかげで、それなりに疲れがたまっているようだった。
俺は椅子を二つ繋げ、横になった。
すると、重たい瞼が更に重たくなり、耐えられなくなりそうになる。
「マスター・・・あー、寝ちゃったかな?」
炒飯を炒めながら、ギャロップは何かを言おうとしたらしいが、俺には返事をする気力がなかった。
重たい瞼に対抗する力を抜き、目を瞑ろうとしたとき、階段から二人が降りてくる音が聞こえてきた。
階段を降り、廊下まで来た足音は止まらず、俺達がいる食堂の方へ向かってきた。
俺は振り向き、多分ピジョン達の物であろう足音に、何かを言おうとしたが・・・睡魔に負けてしまった。


「えー、ホントに?」
「そうだよ。面白いだろ?家のマスター。」
「うん!・・・ちょっと信じられないけど。」
私とピジョンは、2階で色々と話をしてから、マスターが居る1階へと降りていった。
話しの内容は、主にはマスターの話とかだが・・・
内容から取れる事は、変わった人だということくらいだ。
私達は階段を抜け、食堂の扉を開けて入ると、美味しそうな匂が漂ってきた。
ギャロップが中華鍋を振り回しながら、視線をこちらに向け、私達を確認したところで視線を鍋に戻した。
「もう直ぐ出来上がるから、座って待っててー。」
「あいよ。」
「あ、そうだ。マスターが椅子の上で倒れているから気をつけてね。」
倒れている・・・?
私は食卓を囲む四つの椅子の手前の二つに視線を落とした。
静かに寝ているマスター。
軽く寝返りを打ち、こちらを向いてきたが、目は開いていないようだ。
「なるほど、お休みね。」
「みたいだな。」
ピジョンは私の言葉を返すと、マスターとは反対側の椅子へ座った。
私もそれに続き、ピジョンの横へ座る。
食卓を囲む椅子は、二つ多めに置いてあった。
一息つき、当りを見回していると、戸棚の上に乗っている写真が目に入った。
少し幼く見えるギャロップとマスターの写真の横に、ピジョンとギャロップとマスターの集合写真が立てかけてある。
戸棚の後ろのコルクボードには、キュウコンやサンドパンの写真も見当たった。
私は違和感を感じ、ピジョンに聞いてみた。
「ねぇ、あの写真って張り替えたりしてるの?」
「いや、私が知る限りは、増え続けている。」
「・・・なんでマスターの両親の写真がないの?」
私が聞くと、ピジョンは少し下を向き、何かを考える仕草をした後、私に振り向いてきた。
「まぁ良いか、実は私もあんまり詳しく聞いてないのだが、物心つく前に、どこかに預けられたらしいんだ。」
「・・・」
「預けられた先でも煙たがられて、ある程度育った所で田舎の、しかも町外れに位置するこの家・・・
 当時は空き家だったようだが、一人で住むことになったらしい。」
なんとも言えなかった。
自分も気づいたら、あの洞窟へ逃げ込み、一人で涙も流せずに泣いていたからだ。
下を向く私を気にせず、ピジョンは続けた。
「多分、そーゆー人を見ると、救いたくなっちゃうんじゃない?自分達もそうだし。」
ピジョンは、調理台の方に居るギャロップへ悪戯っぽい笑いを振りながら、付け加えた。
「ねぇギャロップ。」
「え?あ・・・まぁね。」
考えごとをしていたのか、少し返事に遅れたギャロップ。
鍋片手に、空いた手で頬っぺたを掻きながら微妙な顔をしている。
「ということだ。変な奴だが・・・」
ピジョンは、ギャロップからマスターへ視線を移しながら、一瞬間を置いた。
「いい奴だ。」
そういうと、ピジョンはマスターの方を向いたまま、軽く目を細めながら微笑んだ。
「ふうん・・・みんな一緒なんだね。」
「ま、そーゆーことだな。」
・・・少し意外だった。
ここに居る人が・・・
ピジョンの微笑みを見ながら、考え事をしていると、調理を終えた、ギャロップの声が聞こえてきた。
「みなさーん、出来たわよー」
同時に、片手に二皿ずつ持ってくるギャロップの足音が聞こえる。
そして、私達の手前に立ち、スープと炒飯の皿を手前に置いた。
ピジョンは、既に箸を持ち、食べる準備を完了させているようだ。
「少し待ちなさいね、マスター起こしてからみんなで食べるわよ?」
ギャロップは今にも食いつきそうなピジョンにウィンクをかましながら言った。
「・・・うん。」
ピジョンの返事を受けると、ギャロップは調理台へ行き、残りの皿を手にし、マスターが横たわっている席へ向かう。
私と反対側の椅子の前に、持ってきた皿を置くと、ギャロップはマスターをゆすり始めた。
「ほら、マスター・・・」


ゆさゆさ・・・
「・・・早く起きないと、大変な事になるわよ?」
体が揺すられると同時に、ギャロップの声が聞こえ、俺は目を覚ました。
時間的にはあまり寝ていないだろうが、気分的にかなり楽になれた。
薄目を開けて、正面に居るギャロップを確認した後、体を起こそうとした。
「あ、やっと起きた。」
俺が少し体を上げると、ピジョンは待ちくたびれたと言わんばかりに声を出してきた。
背伸びをしてから、お約束のボケをピジョンに返してあげた。
「ん・・・ふぁぁぁ・・・朝?」
「ああ、多分マスターの体内時計では朝だな。」
「んー・・・体内時計だと昼だよ?」
正直に答えてあげると、ピジョンは呆れ顔で返してきた。
横に居るカイオーガは、やり取りが面白いのか、クスクスと笑っている。
「なら中途半端にボケるな。」
「お約束じゃん。」
「はいはい、早く私の席を空けなさい。」
俺の微妙なやり取りに、もう一人呆れている人物、ギャロップが急かす。
二つ使って寝ていたのを、片方の椅子に寄り、軽く離した。
ギャロップは、開いた方の椅子へ座った。
全員が座ったところで、ピジョンは持っていた箸を箸置きへ戻した。
俺はそれを確認すると、手を合わせて目を瞑り軽く下を向く。
カイオーガは、他のみんなの見よう見まねで続いた。
「いただきます。」
「「「いただきます。」」」
俺が首を上げ、箸を手に取ろうとすると、既にピジョンは食べ始めていた。
俊敏性が高いというか食い意地が強いというか・・・
何にせよ食欲旺盛な奴である。
しっかりと飯を食べておきながら、少したつとメロンパンを強請るに違いない。
そんな事を考えていると、ギャロップが箸を休めて話し始めた。
「そういえば、カイオーガってどうやって拾われたのかしら?」
パラパラと落ちる炒飯に箸で必死に掴もうとしているカイオーガは、少し間を空けて答えた。
・・・レンゲ買ってやらないとな。
「あ・・・えっと、どこから話せばいいのかな?」
カイオーガは少し考えた後、首を傾げながら問いかけた。
「んー、何となく思いつく部分からでいいわよ。」
「うーん・・・」
口に指を当て、考える仕草をするカイオーガ。
直ぐに閃いたように、指を立て、続きを話し始めた。
「暗い洞窟の中でね、閉じ篭っていた私に『一緒に来ないか』って呼びかけてくれたの。」
カイオーガの話が気になるのか、ピジョンまで箸を止めてカイオーガへ視線を移している。
ピジョンの炒飯は人一倍減っていた。
「ひたすら駄々を捏ねて、否定し続ける私を、頑張って納得させようとしてくれて。」
そこまで言うと、カイオーガは少し照れくさく笑った。
何か聞いている俺まで恥ずかしくなってきた。
「それでも否定し続ける私に、いい加減痺れを切らしたマスターは、私のことを始めて叱ってくれたの。
 『閉じ篭っていると、いつまでも自分を傷つける』ってね。
 私、他人に考えてもらうことも、怒鳴られる事も初めてで、驚いてちゃって、何も感えられなくなったけど、」
そういうと、カイオーガは少し止めて下を向き始めた。
少し見える横顔は真っ赤だ。
「その時初めて、私『好き』って言われて・・・
 何故か、忘れていた涙まで出てきちゃって・・・
 私、手を差し伸べてくれたマスターに・・・」
段々といわなくてもいい所まで言い始めたカイオーガに、俺は釘を指そうとした。
「あのー、カイオーガさん。」
「はへ!?」
カイオーガは驚いて、真っ赤な顔をさらに赤く染めながらこちらを向こうとした。
しかし、何かを言おうとカイオーガが口を開いた瞬間、ジト目でこちらを振り向いてきたギャロップと、
これまたジト目のピジョンの二人によって、遮られてしまった。
「へぇー、マスターよかったわねぇ・・・好きな人に、答えてもらえて。」
「流石モテ男だな。これで私等は用なしのペッペケペーってか?」
俺をからかい始めた二人を見て、カイオーガはようやく自分が言いすぎたことに気づいたのか、あたふたとしている
それにしても、ピジョンの言った『ペッペケペー』とは何だろうか。
わかることは、ネタにされていることくらいだ。
「私、もしかして何か言い過ぎちゃった?」
「ああ、思いっき・・・」
呆れ声で俺は返そうとしたが、ギャロップに被せられてしまう。
「いいえ、良く吐いてくれたわ。辛かったでしょ?」
「もう安心していいんだぞ。」
「あ・・・え!?あ・・・うん??」
何だかよく理解してなさそうなカイオーガは、取り合えず返事をしてしまった。
もう誰も、この二人を止める事はできない。
さらば、自分。
生きていたらまた逢おう。
・・・
・・

何とか俺は生きのび、食事を終えた。
ギャロップとピジョンは俺を弄り尽くした後、男お断りとか言って、俺を隅に追いやって会話をしていたり。
仲良くやっているようだ。
・・・というか俺の立場は?
微妙な立ち位置に不安を覚えた俺だが、三人の笑顔を見ていると、そんな曇りも吹き飛ぶような気がした。
「そういえば、マスター。」
エプロンを着け、食器を洗いながら、ギャロップは思い出したように言い出した。
「ん?」
「疲れてなければでいいんだけど、みんなで何処か行かない?折角カイオーガが来たんだし。」
「うーん・・・そだな。」
俺は少し考えながら、横目でピジョン達を見た。
楽しそうにカイオーガと話をしている。
「そうだ。先ずはタマムシデパート行かない?あいつの服とかも必要だし。」
ギャロップは洗い物が終わったのか、エプロンで手を拭きながらこちらに歩きながら答えた。
「そうね。その後は屋上で見回しながら考えれば、何か思いつくわよね。」
言い終えたギャロップは、エプロンを脱ぎ、綺麗に畳んで棚にしまった。
俺は楽しそうに話しているピジョン達の方を向き、呼びかけた。
「ピジョン、カイオーガ。タマムシデパート行くから準備しろー。」
俺の言葉を聞き、ピジョンは会話を止めてこちらに振り向く。
「おー?丁度メロンパンのストック切らしたところだったぞ。」
「そのつもりはない。しかも先週大量に買ってきたじゃないか。」
「ぶー。」
不貞腐れたように、頬っぺたを膨らませるピジョンを無視して、俺は出かけの支度を進めた。
支度といっても、カイオーガとギャロップをボールに入れてやるだけだが・・・。
「さて、ギャロップ、カイオーガ。一旦ボールに入ってくれ。」
「はいさー。」
自分からボールへ入っていくギャロップ。
始めは、狭いとか何とか言ってたのに、素直になったものだ。
そんな事を考えていると、一つ思い出したことがあった。
「あ、そうだ。カイオーガ。」
「ん?何?」
「家の外でお前を呼ぶときは、略して「カイ」って呼んでもいいか?」
俺の言葉に、少し首を傾げ、頬っぺたに指を当てるカイオーガ。
何で名前を変えられたのかわからないようだ。
しかし、少し間を置いたあと、指を立てながら答えた。
「うん、いいよ。なんなら家でもその名前で呼んでね。」
気に入ったのか知らないが、何故か笑顔で言うと、ボールの中へ入って行った。
取り合えず、ギャロップとカイオーガのボールを、腰のベルトに付けると、玄関の方へ向かっていたピジョンの呆れ声が聞こえてきた。
「マスター、センスないな。」
俺は、ピジョンに返事を返しつつ、玄関へと向かった。
「なら、ピジョンならどう名づける?」
そのまま返すと、ピジョンはピクリと動いた後、少し間を置いた。
「・・・カーちゃん。」
「・・・センスねぇな。」
「うるさい、うるさいうるさい!」
「はいはい、小鳥のピーちゃん。」
赤面しながら騒ぐピーちゃんを軽く流して、靴を履いていると、誰も触っていない玄関が開いた。
同時に、聞きなれた声と、チリンと小さくなる鈴の音が耳に入ってきた。
「あら、ごきげんよう。変態さん、ピーちゃん。」
丁寧なのか、茶化しているのかわからない挨拶を決めてくれたのは、キュウコンだ。
ギャロップの親友で、ひょんな事から家に来て遊んだり、一緒に戦ったりするようになったが、基本的に普段は一人で何処か行っている。
位置的にはピジョンの姉御のようなものだ。
「ピーちゃん言うな!」
「変態って言うな!」
殆ど同時に言った俺等を見て、キュウコンはニヤニヤと笑い始める。
相変わらず人を茶化すのが好きな奴だ。
「・・・」
今考えると、カイオーガを除き、全員がからかうのが好きだ。
常人が居なかったがために、気づく事すらできなかった。
少し真面目な顔をし始めた俺に、カイオーガがボールの中から不思議がって声をだした。
「どうしたの?」
「いや・・・自分が置かれた立場の素晴らしさに感動していた。」
「へ・・・?」
いまいち理解できていないようだ。
力が抜けて、頭をがっくりと下げた俺に、キュウコンは追い討ちをかけた。
「クスクス・・・今頃気づいたのですか?」
キュウコンの言葉に、ため息をついてから返した。
「まぁいいや・・・。今からタマムシデパート行こうとしていたが、キュウコンも来るか?」
キュウコンの顔のニヤつきが止まる。
そして、少し首を傾げながら答えた。
「うーん、荷物運び役じゃなければ、行きますわよ。」
「よし、じゃ一緒に行こうか。どうせそれは俺の仕事だしな。」
「おーい、行くなら早く行こうよー。」
いつの間にか、外に出ていたピジョンは、待ちくたびれたといわんばかりの顔をしていた。
「じゃ、悪いがボールに入ってくれ。」
俺は、急いでキュウコンをボールの中に入れると、玄関先へ駆けた。
「お待たせ。」
「ん、飛ぶからしっかり捕まっていてくれよな。」
ピジョンは言いながら、俺を担ごうとしていたが、少し待ったと、背中を弾いた。
「ちょっち目的地変更。シオンから歩いてタマムシに。集まったから寄り道して行こうぜ。」
「了解。」
行き先を把握したピジョンは、俺を背中に乗せ、余裕の表情で上空へと舞い上がった。
小さい形をしていながら、しっかりしている奴だ。
・・・
・・

「はい、着いたぞー。」
シオンタウンの上空でピジョンは俺に伝えながら、ゆっくりと降下していった。
地面に着く寸前で、俺はピジョンの背中から飛び降りた。
「ありがとな。」
「ん、気にするな。メロンパンさえ買ってくれればいい。」
こいつの頭の中はメロンパン以外ないのだろうか。
笑顔で言うピジョンに疑いをかけつつも、突っ込みは入れないことにした。
「はいはい・・・後で買ってやるよ。」
「流石マスターだ。物分りがいいな。」
「・・・まぁいいや。ギャロップ、カイ、キュウコン。出て来いー。」
諦めた俺は腰につけていた、三つのボールを同時に投げた。
キュウコンとギャロップは、構えていたのか、スカートの端を摘みながら華麗に着地したが・・・
カイオーガは、尻餅を付きながら落下した。
「おーい、尻餅付いてると、バトルのとき笑われるぞー。」
呼びかけながら、手を差し伸べると、カイオーガはキョトンとしていた。
しかし、直ぐに我を取り戻したのか、俺の手を取って立ち上がった。
「あ、うん。気をつけるよ。」
尻についてしまった土を払っているカイオーガを、何か引っかかる気分で見ていると、横からの声に呼ばれる。
「ねぇマスター。」
ギャロップだ。
振り向くと、少し納得行かない顔をしている。
「何でシオン?タマムシ直行でいいじゃない。」
「折角だから、あの場所で休みながら歩こうかなって。」
俺の言葉で納得したギャロップは、少し笑いながら答えた。
「なるほどね。」
俺が指した場所がわからない、他の二人は、少し首を傾げていた。
キュウコンは・・・まったく気にしていないようだ。
相変わらず自由な奴だ。


ちょこっと登場が失敗してしまったが、無事に移動できた私達。
私と同じか、少し大きいくらいの背なのに、よくマスターを載せて飛べるものだ。
それにしても、マスターはデパートへ行くと言っていた。
なのに、降り立った町を見回してみても、それらしい建物は見当たらない。
・・・どことなく陰気くさい。
そんな事を考えていると、キュウコンが隅にあるタワーを眺めながら言った。
「ねぇ、ちょっと個人行動してもいいかしら?」
キュウコンの言葉に、マスターは振り向き、思い出したように答えた。
「あ、うん。別にいいよ。行っておいで。」
マスターの返事を聞くと、キュウコンはわき目も振らずにタワーへ駆けていった。
マスターは、キュウコンがタワーへ入っていくまで見届けた後、苦笑い交じりで頭を掻いた後に口を開いた。
「それじゃ、行こうか。」
「待たなくていいの?」
「うん、あいつはよく何処かへ行って、いつの間にか戻ってくるから心配いらないよ。」
心配というか、何となく引っかかるものがある。
不思議な人だが・・・私と何かが同じように感じられるのは何故だろう。
私は考えながらも、歩き始めたマスターの後ろについていく。
町を抜けると、草と木を刈っただけの、簡単な道が続いていた。
更に歩くと、道の端の柵に腰掛けている暇そうなトレーナーに、私達は声を掛けられた。
「よう。折角だからいっちょやっていかない?」
そういいながら、脱いだ帽子に小銭を入れたトレーナー。
マスターも、その帽子に小銭を投げ込み、答えた。
「OK、ルールはダブルでいいか?」
「いいぜ。」
トレーナーは、にやりと笑いながら答えると、腰につけていたボールを二つ投げた。
勢い良くボールから躍り出たのは、ラッタとユンゲラーだ。
こちらは、と気になり、マスターの裾を摘みながら聞いてみた。
「あのー、私は?」
マスターは腰を屈めて、私に耳打ちしてきた。
「カイオーガは、まずは見学してて。」
「そう、先ずは私達に任せなさい~♪」
微妙に声が弾んでいるギャロップに、頭をポンと叩かれた。
同時にピジョンが、ギャロップに声を掛けながら、私の前へ出る。
「そういうことだ。空回りしてその辺を焼くなよ。」
「あんたこそ、電線に引っかかってもしらないわよ?」
相手の正面へ向かうピジョンを、ギャロップは追う。
二人が相手に面を向けると、マスターは二人に言いつけた。
「ギャロップは、足を生かして先手を。ピジョンは上から。いつも通りやろう。」
二人は、マスターの言葉にコクリと頷くと、行動を開始した。
ピジョンは、地面を蹴り上げ、上空へ。
それを見ていると、いつの間にかギャロップは、相手のユンゲラーの後ろに回っていた。
背後の気配に気づくのが遅れたユンゲラーは、ギャロップの攻撃をもろに喰らった。
ユンゲラーはダメージを受けつつも、反撃を決めようと振り向いたと同時に、ラッタがギャロップに体当たりをしようとしたが、
バックステップで攻撃を避けられ、空振りをしたラッタは怯んだ。
そして、ラッタを横目に、ユンゲラーが念じていると、ピジョンが急降下し、羽を掠めた。
スピードが乗り、凶器となった羽を更に喰らい、ユンゲラーは気絶した。
マスターは、ユンゲラーが倒れたのを確認すると、すかさず次の指示をした。
「ピジョン、風起こしだ。ギャロップはそれに炎を乗せてくれ。」
二人は、マスターの指示を行動で答えた。
ピジョンが力強く羽ばたき、突風を起こす。
それに、ギャロップが出した炎が合わさる。
怯んでいたラッタは、こちらの攻撃に気づくも、時既に遅し。
目の前まで来た攻撃を避けられるはずもなく、直撃。
二人の攻撃をもろに喰らったラッタは、起きられるはずもなく、呆気なく試合は終了してしまった。
「マスター、終わったぞ。」
「二人ともお疲れさん。」
マスターは、ピジョンの声に答えながら、相手のトレーナーの方へ向かった。
帽子の中に入れた小銭を拾い、何か話しているようだ。
私は、マスターを眺めていると、いつの間にか横に来ていた二人に声を掛けられた。
「初めてだったか?バトル見るの。」
リュックを漁っているギャロップを横目に、私は答えた。
「うん。二人とも強いんだね。」
「まぁ今日は上手く行ったしな。」
そこまで言うと、ピジョンは少し苦笑いを含んだ顔になりながら、話を続けた。
「基本的に家のマスターは、細かく指示しないから、ダブルバトルで息が外れると大変なことになるがな。」
「へぇ・・・」
私は少し不安になった。
戦況どころか、空気すら読めないときがあるのに・・・
そんな事を考えていると、リュックを漁り終え、ジュースを手にしたギャロップに突っ込まれた。
「心配しなくてもいいわよ。適当にやっても意外と合うものだし。」
「そ、そなの?」
ギャロップの言葉に、余計に不安になる私。
実際に、私が戦闘へ出たらどうなるのだろうか。
まったく予想がつかない。
それに・・・何故か怖い気がする。
「おーい、お待たせー。」
考え事をしていると、マスターが帰ってきた。
マスターは、ギャロップとピジョンの頭に、ポンと手を乗せながら話した。
「どうだったか、カイ。大体あんな感じだから、次はお願いしたいんだが・・・」
正直不安だが、やれそうな事はやっておこう。
勇気をくれたお返しもしたいし。
「うん。がんばってみる。」
私の言葉に、笑顔でマスターは返してきた。
「そうか、ならお願いしちゃおうかな。」
がんばろう。
できる限りのことくらいは。
・・・
・・

あれから私達は他愛のない話をしながら、進んでいった。
そして少し道を外れ、木を掻き分けながら進むと、自然に出来た花畑に出た。
「わぁ・・・綺麗。」
気づかず口にでてしまうほど、私は見入っていた。
「でしょ。何度来ても、この景色は見惚れるわ。」
「あれ?ギャロップは前にも来た事があるの?」
私が問いかけると、鼻の下を伸ばしたピジョンが割って入った。
「あー、またマスターとのシークレット行動だな。」
「変な風に言わないでよ・・・昔駆け出しの頃に来ただけよ。」
「よく見つけられたね、普通奥にあるこんな所、見つけられないよ。」
「それがね・・・マスターったら、『ここに何かある気がする!』とか言って、林の中に突っ込んでいったのよ。」
ギャロップは、呆れたように言うと、ため息をついた。
「でも別にいいだろ?ここを見つけられたんだし。」
マスターの声に、更に呆れたギャロップは、力なく答えた。
「・・・カンが外れたらどうするつもりだったのよ。」
「へ?そのときはその時・・・もし出られなくなったら焼いてもらうとか?」
更にため息をつくギャロップの代わりに、ピジョンが突っ込んだ。
「いや、林焼いたら誰が片付けるんだ。」
「あー・・・良心的な原住民の皆様が消してくれるさ。」
「マスターのおかげで、良心的な原住民さんが働かされるとは・・・可哀そうだな。」
「ま、そんな冗談はいいとして。折角来たんだし少しお邪魔しないか?」
ギャロップは、いつの間にかリュックからシートを取り出して答えた。
「そうね、そんな事もあろうかと、シート持ってきたわよ。」
マスターは、ギャロップに撫でて答え、シートを受け取った。
「失礼するよ。」
誰に聞かせるわけでもなく、マスターは呟くと、花を踏まないように気をつけながら中に踏み入れた。
私達は、花の間を縫うように入っていくマスターを追った。
少し当りを見回してみると、一面の花畑の中に、サンドの家族が見当たった。
不思議そうにこちらを見ているが、好戦的ではなさそうなので、一応安心だ。
「よし、ここら辺でいいか。」
丁度シート一枚分くらい、花が咲いていないスペースをマスターが見つけると、手際よくシートを敷き始めた。
「いっちばんのりだー♪」
空からピジョンが、シートの上に降りてきた。
いつの間に上へあがったのか・・・
寝っころがるピジョンを横目に、マスターと私とギャロップは端っこに腰を下ろした。
一面の花に囲まれた開放感を掴み取るように、私は背伸びをした。
花の甘く良い香りが、私の嗅覚をくすぐる。
「花って・・・良い香りがするね。」
「ああ。香りに釣られて蜂まで飛んできちゃうくらいだからな。」
隣に座っているマスターが答えた後、直ぐに声が聞こえてきた。
「花に釣られて美女まで来ましたわよ?」
「・・・肝心の美女はどこにいるのですか?」
マスターが呆れ声を投げた先には、キュウコンが居た。
一体あのタワーのなかで、何をしてきたのだろうか。
「あら、美女が目に入らないなんて、可哀そうな人ですわ。」
キュウコンの言葉に、マスターは笑い始めた。
「ホントな。それでこの有様よ。」
マスターの言葉の意味が理解できなかった。
「隣、失礼してもいいかしら。」
「あ、うん。」
首を傾げている私を横目に、私の横へ座ったキュウコン。
キュウコンは、背伸びをしながら息をついていると、いつの間にか立ち上がっていた、マスターの声が聞こえてきた。
「なぁギャロップ。久々に兎と亀やろうぜ。」
「いいわよ。もちろん私が兎でね。」
「了解。みんなも参加するか?」
マスターがこちらへ向いて問いかけてきたが・・・
私には、『亀と兎』とか言うもののルールを知らない。
そう考えていると、キュウコンが耳打ちしてくれた。
「先に走り始める亀を、後から追いかける兎が捕まえればいいのよ。鬼ごっこみたいなものね。
 あ、亀の人は、曲がるときに『カメ』って叫ばなきゃいけないわよ。」
なるほど。
それにしても、足自慢と言われるギャロップに挑むとは。
マスターって・・・結構バカ?
そんな事を考えていると、キュウコンが口を開いた。
「私は参加しませんわよ。」
その言葉に、ギャロップがニヤけ顔で答える。
「あら、自信ないの?」
「ええ、私は負け戦はしないようにしてましてね。」
「そっか。カイはどうする?ピジョンは寝ているから無視するとして。」
マスターに言われて、初めて後ろに居るピジョンが寝ていることに気づいた。
ピジョンは良いとして、私が鬼ごっこに参加しても、勝つどころか相手になるかもわからない。
「私もやめとこうかな。」
「じゃ、俺はすごい速さで逃げるっ!!」
私が答えると同時に、マスターは叫びながら逃げ出した。
ギャロップは、クスリと笑うと、同じように叫び、思いっきり土を蹴り上げた
「私に勝てると思わないでよ!」
ギャロップの声に、後ろを振り向いたマスターは、驚きの声を上げながら、必死に逃げていた。
「うをおぉ、はええぇええええぇええぇぇぇ・・・ぁぁぁ・・・」
ギャロップと対等に逃げ回るマスター。
マスターは本当に人間なのだろうか。
10万ボルトの電気を直撃しても、死なない人と同じくらいの体力があるのだろうか・・・
微妙に不安になりながら、ギャロップ達を眺めていると、隣に居るキュウコンに話しかけられた。
「貴女、しばらく一人で居たみたいね。」
唐突に、図星を付かれ、私は驚いてキュウコンの方を向いた。
静かな微笑みを交わす顔はとても整っていた。
私は、何故かその微笑を見て察することが出来た。
・・・そうだ。この人は私と一緒だ。
この人はきっと、もう逢えないんだ・・・
私が悟っていると、キュウコンは静かに続けた。
「折角ね、愛せる者が出来たのなら、必死で掴んでみるのもいいものですわよ?」
「え・・・あ・・・うん?」
正直、何に対してか理解できなかった。
キュウコンは首を傾げている私を見て、クスッと笑いながら空を見上げ、続きを話した。
「まぁ、その内分かりますわよ・・・もしもその時が来たのなら、絶対に自分を捨てないでね。」
「・・・うん。」
よく意味は分からないが、覚えておこう。
何となく私は、その言葉が忘れなさそうな気がしていた。
私は感慨にふけっていると、マスターが草臥れた表情で帰ってきた。
「あ゙ぁ゙・・・喧嘩売る相手間違えた・・・」
アレだけ走って後悔しない人が居たら見てみたいものだ。
マスターに続いて、ギャロップも戻ってきた。
こちらは、余裕の表情をしている。
さすが足自慢といった所か。
「私と対等にヤるなら、後5年ほど走りこんだほうが良いわよ。なんなら特訓に付き合ってあげようか?」
「・・・やめとくよ。」
「あらそう。」
そういって笑い出すギャロップに、マスターは釣られて笑っていた。
そんな二人に、キュウコンが突っ込みを入れた。
「相変わらず、元気な人ですわね。」
私も思わず口に出してしまう。
自然と笑い声になっていた。
「ホントだね。普通あれだけ走ったら喋る事すら辛いよ。」
私たちの声に、マスターは親指を立て、歯をキラっと見せ付けながら答えた。
必死に気取っても、何故か決まらない人だ。
「どうだ?流石だろ!?」
気取るマスターに、突っ込みを入れたのは私でもなく、キュウコンでもなく・・・
寝ているはずのピジョンだった。
「ああ、流石変態だな。生命力と気合だけは並みの人間よりある。」
私達の声で、起きてしまったのだろうか。
後ろを振り向いてみると、背伸びをしながら、マスターに微笑みかけていた。
寝起きは悪くないようだ。
そう思っていると、後ろから急に、少し老いた男の声が聞こえてきた。
「失礼。声が聞こえたもので来たのですが、少しお手合わせお願いできませんか?」
偉く丁寧に頼み込んできたのは、老紳士だった。
帽子を手に取り、丁寧にお辞儀をしてきている。
私達一同は、不思議そうに老紳士を見た。
この人を見ていると、何となく嫌な予感がする。
不安になり、隣に居るキュウコンのほうを見てみると・・・険しい顔をしていた。
しかし、マスターは私達とは正反対に、自信に満ちた声で答えた。
「いいですよ。バトルはシングルにします?」
「ええ、それでお願いしますよ。」
マスターは、老紳士の了解を取ると、私の方へ囁いてきた。
「カイ、お願いできるか?」
不安だが・・・マスターが行けると確信したんだ。
私は、自分のカンよりマスターを信じる事にした。
「うん。やってみる。」
「危なかったら直ぐに引かせるからな。安心しろ。」
そういうと、マスターは私に微笑みかけてきた。
私は、その笑みで少し不安が薄れた。
これなら、がんばれる気がする。
私は、シートから腰を上げてマスターの横に立った。
老紳士を再び見てみると、先ほどの不安はもうなくなっていた。
私には、マスターが居る。
そう考えていると、キュウコンが私の頭に手を乗せてきた。
「まぁ、がんばって頂戴ね。」
先ほどまでとは違い、余裕が感じられない気がしたが・・・細かく考えないようにした。
私は、キュウコンにコクリとうなずき、マスターの前へ進む。
老紳士は・・・まだ相棒を出していない。
一体相手は誰を出すのだろうか。
私と同じ水系や、苦手な電気系が来たら・・・
できる限りの事はして行こう。
私は決心し、誰が出てきても良いように構えていると、老紳士はカバンの中のボールを・・・
こちらへ投げてきた。
同時に、後ろに居たはずのマスターが、いつの間にか私の前へ来て、ボールを弾き飛ばした。
「おい、爺さん。ボケて空のボールを投げるとは。いい病院紹介するかい?」
私は、何が起きているのか全然理解できなかった。
何も出来ず、立ち竦んでいると、老紳士の声が聞こえてくる。
「病院より・・・そこの『カイオーガ』を紹介してくださらないか?」
マスターは、老紳士の言葉を舌打ちで返した後、急いでボールを出し、私を仕舞った。
ギャロップとピジョンが前衛に着き、その後ろにはキュウコンが着いたと同時に、老紳士は5つのボールを同時に投げた。
今度は空ではなく、中からイワーク、ゴローン、ハガネール、ダイノーズ、ジバコイルが出てきた。
相手の5人は、わき目を振らずにこちらへ向かってくる。
同時にマスターが叫んだ。
「足止めしながら、全力で叩け!
 どうなってもいい。兎に角打ち勝て!」
三人は、静かにうなずいた後、戦闘隊形に入った。
ギャロップとキュウコンが急いで炎の壁を作るも・・・直ぐに突き破られてしまたった。
戦闘で突っ込んで来たイワークの鳩尾に、ギャロップは手を燃やしながら打つ。
同時に足で、転がってくるゴローンを止めた。
手と足が出なくなったギャロップに、ジバコイルが攻撃をしようとしたが、キュウコンの炎により、阻止された。
少し後ろに居た、ハガネールが地震を起こそうとしていたので、ピジョンが切り裂いて阻止しようとしたが・・・
「ピジョン!後ろに気をつけろ!」
マスターに言われ、後ろに注意を払ったピジョンだが、
ハガネールの援護についた、ダイノーズのおかげで阻止されてしまう。
ピジョンは急いでギャロップとキュウコンを救い上げ、地震を回避した。
マスターの回り一面に、炎の壁を作り、私達を守ろうとしたが、地震の中、突っ込んで来たイワークとゴローンにより、突き破られてしまう。
人数的にもタイプ的にも不利だ。
私が出られれば・・・普通のバトルだったら楽に済むはずなのに。
私はボールの中で悔やむも、無駄に終わる。
地震が弱まってきた頃に、空いた炎の壁からボールが投げ込まれた。
同時に、私の視界は奪われる。
暗いくらい闇の中で、少し遠くに聞こえるマスターの声。
「畜生!!」
私は震えが止まらなくなり、思わず不安を口に出した。
「ねぇマスター。どこに居るの?
 ・・・怖いよ。」
しかし、マスターの返事は返ってこない。
私の声は、闇に飲み込まれてしまうだけのようだ。
その場に倒れこみ、両手で目を押さえると、遠くに居たはずの老紳士の声が近くで聞こえる。
「では、お預かりいたしますね。ごきげんよう。」
漆黒の中、必死に状況を把握しようとしたが・・・
不安と恐怖の渦に飲み込まれるだけだった。


ゆさゆさ・・・
「ほら、起きなさい。ピジョンが帰ってくるわよ。」
俺を揺する声の主は、ギャロップか。
薄目を開けて確かめてみると、冴えない顔をしたギャロップ。
後ろには屋根ではなく、空が広がる。
少し暮れてきているようだ。
地面を確認してみると、ビニールシートの感触が手に伝わってくる。
そうか。
あの時、変な老人に・・・
ようやく状況を把握した俺は、勢いよく体を起こした。
ギャロップは、俺の横で静かに話し始めた。
「まったく。叫んだ後、急に倒れるんだもの。」
「・・・」
悔しかった。
折角守って、助けてやろうと思ったのに。
「今、逃げたジジイをピジョンが追ってくれているわよ。」
「・・・」
黙り込む俺の頭に、手を乗せ、続きを話し始めた。
「ほら、落ち込んでいたって何もならないわよ。」
ギャロップに慰められ、感傷的な気分になり始める。
「・・・カイオーガは許してくれるかな?」
俺の言葉に、ギャロップは不思議そうに振り向く。
「?」
「守れなかった俺を・・・こんなのなら・・・」
言い終える前に、俺は横っ腹を思いっきり蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられた。
ひんやりとした感触が広がる。
「な・・・」
俺が立ち上がろうとしたと同時に、ギャロップの足が、俺の顔の真横の地面を踏みつけた。
冷や汗が流れるのが、妙にゆっくりに感じた。
ギャロップの方へ振り向く前に、震えた声が聞こえて来た。
「あの子を大事に思うなら、まずは信じなさいよ・・・
 人に裏切られるのが嫌だからって、自分だけを守ろうなんて、最低だよ・・・
 ね・・・あの子を守ってあげようよ。」
ギャロップは涙を流しながら、必死に伝えてきた。
俺は・・・
・・・クソッ。泣きたいのはこっちもだ。
こっちだって分かっている。
分かっているが・・・怖いんだ。
信じてやらないと・・・パートナーに心配かけては・・・
トレーナーとしても失格だよな。
「ごめんな。」
いつの間にか謝っている自分がいた。
声が震え、顔には涙が伝っている。
ギャロップは涙を振り払い、無理やり作った笑顔で返事をした。
「バカね。謝るなら私じゃなくて、カイオーガにしなさいよ。」
「・・・だな。」
俺は服の袖で顔を拭き、立ち上がった。
少し安心したような表情で、ギャロップは俺を見てくる。
俺には、家族が居る。
ギャロップが居て、キュウコンが居て、ピジョンが居て・・・
そして、カイオーガが居る。
一人にも悲しい思いをさせたくない。
泣かせたくない。
誰一人、なんぴたりとも。
・・・そういえば、今更ながら一人たりない事に気づいた。
「そいや、キュウコンはどこに行ったんだ?」
「あいつは、気になることがあると言って、陸から追っかけて行ったわよ。」
相変わらず自由な奴だ。
少し呆れていると、空から風を切る音と、声が聞こえてきた。
「マスター!グレン島だ!!」
ピジョンが、行き先を見つけてくれたようだ。
俺の背より少し高いくらいの位置まで降下してきたピジョンの足に掴まった。
足が地面から離れると同時に、腰のボールを手に取る。
「ありがと!ギャロップ。入ってくれ。」
「はいよ。」
ギャロップを急いで戻して、ボールを腰に戻したのを確認した後、ピジョンは一瞬降下し、俺を背中の上へ投げた。
「急いでくれ!絶対に・・・迎えに行く。」
「・・・」
ピジョンは何も言わずに、速度を上昇させて行く。


ここはどこだろう。
確か私は、真っ暗な闇に閉じ込められ、気を失っていたはずだ。
現実から逃げたい気持ちを振り切り、ゆっくりと目を開けると、そこには見た事もない景色が広がっていた。
コンクリート作りの冷たい景色が歪んで見える。
どうやら私は、ガラス張りの小さな空間に入れられているようだ。
周りには、冷たい機械が数機と、『冷たいモノ』が数人見える。
モノは、キョロキョロと首を動かした私を、興味深く見てきた。
機械と私を、行ったり来たりさせている。
こんな所に居ても、何もならない。
寒いよ・・・。
私は、気づかず目の前のガラスを割っていた。
家の中のはずなのに・・・雨が降っている。
驚いた表情をこちらに向けるモノ達。
いつの間にか、手が赤く染まっている。
雨の滴さえも赤く染まり始めた。
ねぇマスター。
こんな私でも、許してくれるかな?
私、帰ってもいいのかな?
ごめんね、マスター。
私、帰れないかもしれない・・・
また・・・一人になっちゃいそう・・・


日が沈み、空が黄土色に染まり始めてきている。
目的地が近くなってきたのか、ピジョンが降下を始めた。
待っていろ、カイオーガ。
必ず迎えに行くからな。
「マスター。そろそろだぞ。」
目を凝らし、見辛くなってきている先を睨みつけと、島が見えてきた。
あそこに、一人で・・・
俺は、ギャロップが入っているボールを握り締めた。
ボールはいつの間にか、熱くなっていた。
目の前まで接近した島の空き地に、ピジョンは砂埃をあげながら着陸した。
止まる寸前に、飛び降り、ギャロップをボールから出した。
「マスター。こっちだ。」
ピジョンは迷わず、コンクリートの建物を目指し、走り始めた。
遅れないように走っていると、建物の入り口が見えてきた。
ドアノブを回しても、鍵が掛かっているのか、空かない。
別の入り口を探すより・・・
「ギャロップ。蹴り破れるか?」
俺の言葉に、ギャロップはにやりと笑い、余裕の声を返してきた。
「はい・・・よ!」
勢いよく回し蹴りを決め、ドアを蹴り倒した。
中に入ってみると、建物の中にも関わらず、雨が降っている。
まさか・・・あいつまた・・・
不安を振り払うように、首を振り、雨が強まる方へ、ギャロップを先頭走っていった。
電灯がついていない廊下は、夕日に染まっている。
雨は一番奥の部屋から続いているようだ。
ギャロップは一番奥の部屋の扉を蹴り破り、部屋の中を眺めながら固まってしまった。
俺は、立ち止まったギャロップを追い抜き、部屋へ飛び込んだ。
赤く染まった部屋の真ん中で、カイオーガは一人で座り込んで泣いていた。
雨はそれほど冷たくなっていなかった。
こちらを向かず、ただ泣き続けるカイオーガに、俺は呼びかけた。
「迎えに来たぞ、カイオーガ。帰ろうか。」
カイオーガに一歩近寄ると、こちらを振り向いてきた。
ずっと泣いて、目が真っ赤に充血している。
俺はそんなカイオーガに、ホッと息を吐きながら手を差し伸べた。
「一緒に帰ろう。みんなが待ってるぞ。」
「・・・私、ここに残る。」
カイオーガは座ったまま、静かに喋り始めた。
震える声を、必死に誤魔化そうとしている。
手を出したまましゃがみ込み、駄々を捏ねようとするカイオーガに話をした。
「こんな所に残りたいのか?」
「だって、そうしないと私・・・また迷惑掛けちゃうし・・・」
静かに答えたカイオーガに、呆れ顔で答えた。
「・・・まったく。また自分を傷つけようってか?」
「だって・・・マスターには皆が居るし・・・私なんて居たら・・・迷惑が・・・」
そんな事で駄々を捏ねていたのか・・・
泣き顔を向けてくるカイオーガに、微笑みを返した。
カイオーガは、恥ずかしそうに視線を外した。
「・・・ごめんな、お前に心配かけちまって。」
「・・・」
何も言わずに、再び視線を送るカイオーガ。
俺は話を続けた。
「あのな、お前が居なくなってみんな辛いんだぞ。」
「・・・?」
「こんな小さい事、迷惑の内に入らないしな。
 それに・・・お前が居なくなって俺も辛い。」
勢いで言った後に、恥ずかしくなってくる。
火照った顔を雨が・・・いつの間にか止んでいる。
正面で座っていたはずのカイオーガは、俺の手を握っていた。
「ごめんね、マスター。私、裏切っちゃったかな?」
涙を流しながら俺を引っ張るカイオーガ。
俺は手をカイオーガの背に回し、抱きしめた。
安心と同時に、涙まで流れてきた。
「ごめんな、守ってやれなくて・・・もう離さない。誰にも渡さない。」
カイオーガは、俺の胸の中でクスクスと笑い始めた。
何となく恥ずかしくなり、更に強く抱きしめると、横からギャロップの声が聞こえてくる。
安心したのか、普段通りの呆れ声をしていた。
「お取り込み中すいませんがー・・・そろそろ失礼しないと、色々とまずいわよ?」
カイオーガと俺は、顔を真っ赤にしながら離れた。
胸を撫で下ろし、落ち着かせてから当りを見回してみると・・・
荒れに荒れた研究所。
水浸しで機材は使い物にならない。
確かに、人に見られたら絶対に疑われる。
「よーし。トンズラすっぞ。」
「そうね。」
「だな。」
「うん!」
俺は三人を連れて、蹴り破った出入り口へ向かった。
夕日に染まった廊下を歩いていると、屋根の上の方でチリンと鈴の音がした。
そして直ぐ後に、トンッと軽い足音。
「・・・あいつらしいな。」
「?」
「いや、なんでもないよ。」
建物から出て、深呼吸をすると、安心感と共に空腹感が襲う。
俺は、三人の方へ振り向き、これからの予定を立てようと話しかけた。
「よーし。晩飯はどこか食いに行くか?」
カイオーガは、顎に指を当てた後、恥ずかしそうに赤面させながら答えた。
「できれば・・・家へ帰って手料理がいい。」
「へ?そんなのでいいのか?」
「いいわね。久々に一緒に作りましょ。」
「なー、マスター。食べられるもの作ってくれよなー・・・」
「安心しろ。俺の料理の腕はプロ級だぞ。」
「はいはい。それよりメロンパン買ってくれよな。」
「仕方がない。食材買うついでに買ってやるか。」
「流石マスター。物分りいいな。」
「それじゃ、行こうか。」
「うん!」
俺は二人をボールに戻し、ピジョンに飛び乗った。


「なー、マスター。」
「ん?」
「私達って家族だよな。」
「ああ。立派な家族だ。」
「今度は誰も欠けさせるなよ。」
「・・・そうするよ。」
ツールボックス

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