5スレ>>315


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 ○月 12日  天気:くもり


今日は何だか嫌な天気だった。
どんよりとした、見るだけで憂鬱になりそうな灰色の雲が空を独占していた。

そんな天気でも探検隊に休みはない。
助けを求める声が、俺たちを呼んでいるからだ。

今日行ったのは、雪まみれのクソ寒いダンジョンだった。
自慢の毛皮がなかったら凍死していたところだった。

そんなダンジョンで、新しい仲間が出来た。


最悪だった。






『 リオルの探検隊日記

        =最悪には最悪なりの理由= 』







○月 15日  天気:はれ

―――  探検隊の集合場所にて。



「よーっし、みんな準備は整っているね?」


探検隊のリーダーであるポッチャマの、女の子らしい甲高い声が出発のための確認を取っている。

今日は、新しい仲間ができて三日目だった。
日の光が気持ちよかった。やっぱり雨や曇りより、晴れの日が一番だと痛感した。

…でも、俺の気分は最悪だった。


「あ、わりーポッチャマ。家にパワーバンダナ忘れてきちまった…」

「ありゃりゃ。どうするリオル、取ってくる?」

「あー、うん。急いで取ってくるわ。ちょっと待っててくれな」


準リーダー格のピカチュウに問われて、俺は自宅まで愛用のバンダナを取りに行くことに決めた。
あのバンダナは、つけていると何だか力が沸いてくるし、気持ちもピシッと引き締まる気がするから
好きだ。探検のときにはなるべく欠かしたくない。

「なるべく早くねー」と、少し呆れたような笑みでポッチャマが俺に告げる。
呆れてはいるものの、怒りとは無縁の和やかなオーラが彼女の言葉から感じられた。
出鼻を挫かれたというのに、ポッチャマはさほど怒っていないようだった。

俺は、そんなポッチャマが好きだ。小さなことでカリカリしない懐のでかい彼女だからこそ
リーダーと認めているし、指示に従う気にもなる。

ピカチュウも、ポッチャマと同じで小さなことでキイキイと怒るタイプではない。

まあ、降って湧いた困難に対してはちょっと弱いが、そんなときはポッチャマが
しっかりと支えて鼓舞してくれるし、ピカチュウもそんな風に支えてくれるヤツがいると
持っている以上の力を発揮できるタイプのようだった。

俺は、そんな二人が仕切るこの探検隊が好きだ。
いや、好きだった。

…過去形になっている原因は、ポッチャマにもピカチュウにもない。


原因は、三日前から探検隊に入った、新入り。



「あらぁ、また忘れ物ですかー? しっかりしないと、リオルさん。
 パワーしか能の無い殿方って、皆さんどこかしら抜けているみたいですねー」


くすくす、くすくす…

現実味の無い、薄い薄い影みたいな声が、明らかに俺を馬鹿にした言葉を紡いで笑う。
自分でも信じられないくらい、脳みそが不快信号を出しているのがわかった。

ひくつくこめかみを無理矢理押さえて少しだけ振り返ると、待ってましたといわんばかりに
口の端を吊り上げる、血色のない唇。氷のように冷たい水色の目まで、俺を馬鹿にしたような
笑いで歪んでいるように見える。
(まあ、頭に血が上っているから、余計にそう見えるのかもしれないけどな)

クソ寒かった雪のような白色の髪の毛が、さらさらと風に流れる。
黙っていれば相当な美人(しかも俺の好みだったかもしれない)のユキメノコは
仲間入りした頃と変わらぬ薄笑いを浮かべて立っていた。

すぐにポッチャマやピカチュウから非難めいた注意の言葉が飛んできたが、とうの雪女は
我関せずとでも言いたげな、正に雪のように涼しげな顔だった。

ダメだ、全然反省してねえコイツ…!


こいつの言葉はいちいち腹が立つから、いっそ耳をつぶしてしまおうかと悩んだこともあった。
でもそんなことをしたら、ポッチャマやピカチュウの声も聴こえなくなってしまうので却下。

どうしたら腹を立てずに済むかと、この三日間真剣に悩んで考えた。
で。結論から言うと、良いアイデアは何ひとつ浮かんでこなかった。

物知りのププリンのババアに相談できれば、何か妙案をもらえたんだろうけれど
肝心のババアはというと、ちょうどユキメノコが仲間になった日から行方不明になっていた。
何とリーダーのポッチャマにさえ「ちょっと出かけてくる」としか告げていなかったらしい。
正真正銘の行方不明だった。


…全く、いったいどこ行きやがったあのババア!
俺がめずらしく悩みに悩みまくっているっていうのに…!


眉間に思いっきりシワを作って、俺は自宅へと駆け出した。
爆発しそうな怒りを鎮めるためにも、何か他のことにパワーを使ってしまいたかった。


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○月 15日  天気:はれ

―――  雪まみれのダンジョンにて。




「…ねえ、本当にこんなところに宝が眠っているの?」


黄色の短い毛並みを目一杯逆立て、ぶるりと震えながらピカチュウが聞いた。
返ってきたのは「ええ、もちろんですよ」という、不気味なほど冷たくて落ち着いたユキメノコの声。

今日の探検の舞台となったのは、「吹雪の島」だとかいうダンジョンから少し離れた場所だった。
いわゆる「通しか知らないダンジョン」に該当するらしく、そこに在住している萌えもんたち以外には
誰一人いないようだった。

今日もまた雪景色と格闘かよ…と、心底うんざりする俺。
自慢の蒼い毛が凍っちまいそうな冷たい風に、意識せずとも体が震えてしまう。


…ところで話は変わるが、ププリンのババアから聞いた話では、雪には音を吸収する性質があるらしい。
そしてこれまたババアから聞いた話なのだが、『闇』という文字は『音』が『門』に閉じ込められた
ような形になっている。

そのことから考えると、真の『闇』というものは、『音の無い世界』のことではないのだろうか
…という話だった。

普通、『闇』という単語から連想されるのは、何も見えない真っ黒の世界だ。
俺もそうとしか連想できなかったから、『音の無い世界=闇』という方程式は、その時はよく分からなかった。


でも、今なら何となくわかるような気がする。


雪まみれの、音の聴こえてこない世界は、不気味なほど静かだ。
みんなの話し声以外、ほとんど聴こえてこないのだ。

もしみんなの話し声がなかったら、死んだような気分になっていたと思う。


(これが、『真の闇』かもしれない世界、か…。)



何だか、自分の棺桶に向かって歩かされているような気分がした。



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○月 15日  天気:はれ

―――  ダンジョンの奥深くにて。



ダンジョンに在住している萌えもんたちからの手荒い歓迎も程ほどだったおかげで、
考えていたより早く目的の場所まで辿り着くことが出来た。
(目的の場所といっても、ひたすらユキメノコの後をついていっただけなんだけどな)

どうやらこのダンジョンの最深部らしく、漂う空気がピンと張り詰めていて、どことなく苦しい。

俺のの経験から憶測するに、どうやら最後の大ボスが待ち構えているようだった。
ボスの居るあたりに近づくと、大体こんな感じの空気を感じるのだ。

どうやらそれはポッチャマとピカチュウも同じだったらしい。
いつ、どこから敵に襲われても大丈夫なようにと体勢を整えはじめている。

対して、ユキメノコの奴はやけに落ち着いていた。
いつも通りの微笑みを、その顔に貼り付けているだけだ。

…嫌な考えが頭をよぎる。だが口にはしない。
もしそれが間違っていたら、ユキメノコたちとの間に修復不可能な溝を生んでしまうことになるからだ。

必要以上に疑うな。
必要以上の疑いは、必要のない争いを生むだけだ。

(ああ、そういやコレも、ババアの受け売りだったっけ)




「――― ユキメノコ、聞いてもいいかな。」


妙な緊張感に包まれた沈黙を、ポッチャマが破った。
寒さには慣れているのか、さっきから一度たりとも震えはしなかった体から、
有無を言わせない雰囲気を漂わせて問う。

俺より明らかに小さなその背中が、何だか大きく見えた。
それもこれも、人柄がなせるワザなのか。

今まで出会ったどの大ボスよりも、怖く感じる。

背筋が、ゾクゾクする。



「宝は……本当にココにあるの?」



雪女からの返答は、口の端を吊り上げた笑み。

それだけだったし、それで充分だと俺は思った。



まるでその会話が合図だったかのように、殺気が俺たちを包み込む。
1、2、3……姿が確認できるやつだけで、大体15人。

ユキメノコに負けず劣らず寒そうな白い髪の毛に、深緑色のポイントのついている手足。
酷薄そうな光を宿らせた、紫のツリ目…俺の記憶が正しければ、こいつらはユキノオー。

ユキノオーが15人。
大ボスの御団体だった。


「――― 騙したんだねユキメノコ!」

「あらあら、騙す、なんて人聞きの悪い。
 私はただ、此処へご案内させていただいただけですよ…」


初めて聞いたら、多少なりとも驚くであろうポッチャマの怒声に怯むこともなく、
ユキメノコはあの笑みを浮かべたまま、白い着物の裾をはためかせ、ふわりと宙を飛んだ。

大ボスに囲まれた窮地から、素早く華麗に脱出。
手品師もビックリの、手際の良い瞬間脱出ショーだった。


「それじゃあ、ごゆっくり…ああ、そいつら結構強いですからお気をつけて。
 
 ……うふふふふふふふふ!」


去り際にも冷たい笑い声を忘れないあたり、もう流石としか言いようがない。
雪の幽霊は少しも俺たちを振り返らず、ひたすら真っ直ぐに駆け抜けていった。

その後を追おうにも、自分たちが住んでいる土地を荒らされた怒りからか
ユキノオーの群れが行く手を阻む。よく見たら紫色の目が血走っていて、赤紫色に変色している。


「ちぃっ! どうするよポッチャマ、ピカチュウ!?」

「どうするもこうするも」

「話が通じる相手じゃなさそうだし」


乾いた空気に紫電が走る。しずく一滴すら落ちていない雪の地面から、水の渦が発生する。


「 ――― 倒すしかないだろ!?」

「“倒す”だけだからね!? 気をつけてよ!?」

「ははっ、無茶いうよな相変わらず!」


この状況で、どうやって“倒す”だけに留めろっていうんだ。
3対15(もしかしたらそれ以上)で、やらなきゃやられるっていう状況で。

でも、俺たちはいつもそうやってきた。
例えこちらが撤退することになっても、相手は“倒す”だけに留めてきた。

やるしかない。
リーダーの決定に従うと決めたのは、誰でもない、俺自身だ。


突進してきたユキノオーのスピードにあわせ、ゆっくり息を吐き出す。
相手の体がぶつかる数秒前に左足を一歩踏み出し、上半身を前にスライド。
その勢いに乗せて右手を突き出す。あくまで力はいれず、素早く前へ突き出すだけ。

手のひらが相手の体にぶつかる瞬間にだけ、渾身の力を込めて打ち付ける!


――― ドッ!!


よし、上手く決まった。
特に派手な音はしなかったが、これで良い。
この技…「はっけい」は別に派手さを求めた技じゃない。
あくまで相手の体に衝撃を与えて、戦闘不能にすればいいのだから。

狙いどおり、ユキノオーの体はずるりと地面に倒れてくれた。
白目を剥いたその顔に申し訳なさを感じたが、すぐさま次のユキノオーがこちらに
突っ込んでくるのが見えた。後悔している暇すら与えてくれないとはな。

次なる敵に、慌てて体勢を整えようとしたらシャボン玉が…いや、ポッチャマの「あわ」が
俺に向かって突進してきたユキノオーの横っ腹にぶち当たった。

見た目はシャボン玉のように可愛らしいのに、当たって炸裂すればかなりの破壊力を発揮する「あわ」。
以前、ポッチャマたちとは敵対していた頃に彼女の「あわ」を喰らったことのある俺は、心の中で
ユキノオーに対して合掌していた。

ポッチャマの後ろを守るように立つ、黄色の毛並みから電流が放たれる。
多分あれは「10万ボルト」だろう。
「ほうでん」だったらもっと広い範囲に電気の帯が放たれるはずだ。

これだけの大人数が相手だったら、全体に攻撃ができる「ほうでん」のほうが
「10万ボルト」より有効なはずなのに…


「おいピカチュウ! “ほうでん”打たねえのかよ!?」

「ごめん、そっちはもうPP切れ!」

「マジかよちくしょう!」


ピカチュウの放った電気のお陰で2、3人倒れてくれたが、それでもまだ残りは10人以上。
さて、どうしたものか…

いつもは肉体派のなので、あまり使っていない脳みそを回転させ、打開する方法を必死に考える。


ひゅん と、何かが俺の横を飛んでいった気がした。
それは、茶色のビンだった。

磁石のS極とN極がくっつくように、迷いなく真っ直ぐに、ビンはピカチュウの手のひらの中へと
飛んでいって収まった。


「さっさと飲んで、ブチかましてやりな!」


雪景色に響く、やけに堂々とした幼子の声。
聞き覚えのあるその声に、敵のことも忘れて思い切り振り返る。

真っ白な『闇』の世界に立つ、桃色のその姿。

間違えるもんか。

桃色の前髪は、ふんわりとした巻き髪になっていて
紅かった目は、空色になっていたけれど

俺の知っているその姿とは、少し変わっていたけれど

それでも間違えるもんか。


ちくしょう…



「…っ、おっそいんだよクソババア!!」



嬉しいタイミングで現れやがって。

ププリンのクソババア。



「ババア言うなっつってるだろうが、このクソガキ!
 ――― 全員集中しな。 一気にぶちのめすよ!」

「いわれなくっても分かってらあ!」

「ピカチュウ!」

「了解っ! いっくぞおおおおおおおお!」


茶色のビン…ピーピーマックスを一気に飲み干し、ピカチュウが勢い良く走り出す。
そのまま敵の群れに突っ込む…かのように見えたが、違う。
白い地面を素早く上へと蹴り飛ばし、空へ向かって大きく跳ぶ。

持ち前の身軽さを活かし、ピカチュウはユキノオーたちの頭上へと飛び上がる。
そのまま、くるりと宙で一回転。

丸くなった黄色の姿から、凶悪なまでに眩しい電気の帯が、何本も放たれる。

ピカチュウの十八番「ほうでん」が、大ボス軍団全員に向かってぶちまけられた。





「…はー、はー…ど、どう? 全員倒れてくれた?」

「うん、みんな気絶してくれたみたい」

「ははっ…やったな!」


「ほうでん」が綺麗に決まってくれたから何とかなったものの、さすがに3対15はしんどかった。
ポッチャマもピカチュウも俺も、みんな冷たい雪の上にへたりこんで声を掛け合っている。


「ああーーー良かったぁ、何とかなって…って、そうだ。ユキメノコは!?」

「あ、すっかり忘れてたな」

「この道をまっすぐ歩いていったみたいだけど…」

「よし、追いかけてみるか」

「そうだね」


満場一致で、あのくすくす笑いの雪女の後を追いかけることになった。
笑っている膝を無理矢理たたき起こして、再び自分の足で立つ。

雪だらけの地面はやっぱり冷たくて、足を踏み出すたびにサクサクと鳴る。
音さえも冷たいことに気がついて、何となくうんざりしたけれど


「そーいやババアよ、何でアンタそんな格好になってんだよ。
 背まで伸びちまったみたいだしよー」

「ふふん。ちょいと“ひかりのいずみ”に行ってきたのさ」

「あー?何だそりゃ」

「萌えもんが進化できるようになる場所だよ。少しは勉強しなクソガキ」

「悪かったな馬鹿でよ」

「まあまあ、二人とも落ち着いて…」

「でも本当に助かったよププリンさん。ありがとう!」

「ちっちっち。もうアタシはププリンじゃなくて、プリンだよ」

「いーじゃねえか、ババアはババアなんだし」

「だからババア言うなってのリオル! いい加減にしないとしばくよ!?」


息を切らせながら交わす、久々の会話が

ひたすら温かった。


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○月 15日  天気:はれ

―――  ダンジョンの奥の奥にて。




さくさく、さくさく。
白い白い道をひたすら進んでいくと、そこは氷の壁で包まれた部屋になっていた。

その奥のほうに、ぽつんと佇んでいる白い影。

ユキメノコだった。


ユキノオーたちを気絶させたせいか、氷の壁の一部がぼろり、と剥がれ落ちた。

その中から出てきたのは、女の子の萌えもん…いや、女の子であることに違いはないんだが、
今まで見たことのない姿をしていた。

判断に困っているとププリン、ああ違った。
プリンのババアが「人間…!?」と小さく呟いたのが聞こえた。

ポッチャマのほうを振り向くと、大きく頷き返してきた。
自称元・人間が言うなら違いない。

ユキメノコが心底愛しそうに抱きしめているそれは、人間の女の子なのだ。


「…あら、みなさん来てしまったんですか」


「よくあいつらを倒せましたね」と 血色のない唇が、笑みを作る。

今まで見てきた中で、一番嬉しそうな顔をしていた。


「ああ、紹介が遅れましたわね。この方は私のマスターですわ。
 かわいそうに…ひとりで旅に出たばっかりに、こんな寒いところに閉じ込められてしまって…」

「マスター…っていうことはユキメノコ、君は…」

「ええ。野生の萌えもんではありませんわ。
 私は、この方の忠実なる僕であり、唯一の友」


嬉しそうな笑顔は、崩れない。
腕の中の「ますたー」とやらは、ぴくりとも動かないのに。


「あんな乱暴者たちに囲まれてしまって…
 怖かったでしょう。寂しかったでしょう。マスター。

 遅くなって申し訳ありませんでした。
 あのユキノオーどもが予想外に強くて、ここまで辿り着くのに難儀してましたの…。
 まあ、探検隊の方々に片付けていただきましたけどね」


何も言葉を返してもらえなくても構わないのか、ユキメノコは淡々と語る。
「ますたー」と呼ばれている女の子は、まぶたを深く深く閉じたままだ。


「…さあ、マスター。行きましょうか」


小さな人間の女の子を姫抱きにして、ユキメノコが立ち上がる。

血の気のない真っ白な手が、愛しげに女の子の髪の毛を撫で上げて
大切に大切に、その体をやさしく抱きしめなおす。

その仕草に、俺は何も言えなかった。
みんな、何も言わなかった。

わかったのは、ユキメノコは己よりも小さな少女を、心底愛しているということだけ。


白い影が、氷の壁の向こうに消えてしまっても

俺たちは、何も言えなかった。



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「……結局、何だったんだろうね」

「…さあなー」


極寒のダンジョンからトレジャータウンに帰還して、第一声がそれだった。

今回の探検では宝も見つからず、ユキノオーの大群と戦わされて。
あの雪女にいいように利用されただけで終わったのだ。

言葉にするのなら、それだけで終わる。
でも、それでは何だか嫌だった。

あの雪女の後姿を、そんな陳腐な言葉の羅列だけで終わらせてしまうのは、忍びなかった。


「…いいんじゃないかい?

 あの雪の子は、あちら側へ行くことを選んだ。

 私たちは、こっち側に戻ることを選んだ。」


それでいいじゃないか。プリンのババアがそう締めくくった。


…ああ、うん。俺もそれでいいと思う。
やっぱりこのババアは凄いな、と思った。

何がどう凄いのか、言葉にできないのが悔しいけどな。


「にしてもプリンさん、凄い良いタイミングで来てくれたよねー」

「あー、ああ、まあねえ…」

「…ちょっと待てババア。
 アンタまさかとは思うが、後ろから俺らを尾行してたとか、そんなオチじゃねえだろうな?」

「……さてねー」

「てめ、冗談じゃねえぞクソババア! 見てたんなら早く助けに来いよ!?」

「り、リオルそんな興奮しないで!
 プリンさんにもきっと事情みたいなのがあったんだよ!」

「どんな事情だよ言ってみろよコンチクショおおおおおおおおおおおおおお!!!」



…まあ、こんな風に血圧は上がりっぱなしだし、腹も立つことが多いけれど


俺たちはこちら側を選らんで

ユキメノコたちはあちら側を選んだ。



きっと俺には、あの白い闇の世界は、似合わない。

俺には、この世界がいちばんお似合いだと思うし

それで異論はないからだ。



白い白いあの世界で、きっとユキメノコは今も「ますたー」に笑いかけているんだろう。

あの、世界中で一番しあわせそうな笑顔を、浮かべて。


それは、善でも悪でもない

彼女だけのしあわせ。
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