5スレ>>337


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――窓越しに見える風景は、残像を残して、俺の目の前を一瞬にして過ぎ去って行く。
五月となり、青々と葉が茂る山々、木々も、
高く立ち並んだビル郡も、何もかも。
これが技術の発展の代償かと思うと、未だ発展を続ける現代社会を呪いたくなってきた。
(ったく……電車に乗り、風景を眺めることもまた旅の一興であるというのに……)
などと俺が声には出さず、心の内で叫んでいるときに、音楽と共にアナウンスが入った。
「間もなくヤマブキシティ、ヤマブキシティに到着します。降りる際にはお忘れ物の無いように……」
俺はそのアナウンスを聞き届けると、隣で俺の体を借りて眠っているジュペッタを揺り起こした。
「ジュペッタ、もう少しで着くぞ」
目を擦って、さも眠たげな表情をしていたジュペッタであったが、窓越しに見える風景を見た途端に表情を輝かせた。
俺も彼女につられて窓を見る。
目の前には、巨大なビルが鎮座していた。
外装全てがガラス張りで、日差しに反射して輝いている。
それを見た俺は、その巨大なビルの存在感に圧倒されるよりも、
こんなに日差しが反射して、その光が地上へと降り注いで、住民たちは暑くないのだろうか、と呑気なことを考えていた。
やがて電車――リニアモーターカー――はゆっくりと減速、そして駅に入ると停車した。
停車したと同時に、俺の背中を押すジュペッタ。
早く降りたくて、自分のまだ知らぬ土地を見たくて仕方ないのだろう。
「お、おい、そんなに急かさなくても……」
リニアモーターカーから降り、駅を出るまで終始俺は、ジュペッタから背中を押されながら早足になっていた。
ジュペッタに背中を押されていたのも影響していたが、
俺もジュペッタ同様、未だ足を踏み入れたことの無い世界に胸を躍らせていたことも、早足になった原因の一つであった。

五月上旬、ジュペッタと初めて迎える大型連休。
俺達はカントー地方へ二泊三日の旅行に訪れていた。


- episode 6-a 前編  first day ~未踏の地へ~ -


俺はデジャヴを感じていた。
見渡す限りの人、人、人。
周りには住宅、ビルなどの建造物が窮屈そうに立ち並んでいる。
車こそは通っていないものの、人の話し声、足音が織り成す不協和音は、まさしく市街地のそれだった。
駅を出た俺は、地図を片手にヤマブキシティの街中を歩き始めた。
ジュペッタははぐれないように、ピッタリと俺の隣にくっつきながら移動している。

どこに行っても、ジュペッタに対する世間の目が同じなことは承知している。
承知した上で、俺は今日の旅行を行うことを決めたのだ。
――滅多に与えられない連休、どうせだったら思いっきり楽しみたい。
今まで怠惰に連休を過ごしてきた俺がそう思えるようになったのは、恐らくジュペッタのお陰なのだと思う。

……道行く人を一瞥する。
人々は俺たちには興味を示さず、前、ただ一点を見て歩いている。
俺の視線に気付いて目を向ける人もいたが、すぐに前へ視線を移して通り過ぎていった。
それが当たり前なことなのだが、俺はその人々の動作に違和感を覚えた。
(いつも外を出歩くときに浴びる……あの視線が……無い)
差別、憎悪、そんな感情の篭った視線。それが全く、ジュペッタの方へ向けられていないのだ。
現にその視線を浴びたときに感じる胸の痛みが全く無い。

それと、もう一つ……違和感を覚えたことがある。
萌えもんが堂々と、街中を歩いているということだ。
俺の住む地域では、大半の人は萌えもんを連れて外に出る際、ボールに入れて移動することが多い。
ペット……悪く言えば下僕、奴隷――萌えもんは人々からそう思われているからだ。
しかし、ヤマブキシティの人々は対照的に、大半の人が萌えもんをボールの外から出し、共に並んで歩いている。

(……何故だ?)
歩きながら、この二つの事柄に俺は疑問を抱いた。
俺が住んでいる地域と、ヤマブキシティ……もとい、カントー地方。
この二つの世界にある決定的な違いって――――?
この地方に対する知識が全く無い俺が推測したところで、出口の無い迷宮に迷い込むことは明白であった。
(とにかく――今は旅行を目一杯楽しむことが最重要事項だよな)
考えるのを止めて、俺は隣にいるジュペッタに話しかけた。
「なあジュペッタ、どこに行こうか――――」
話すと同時進行して視線を向けた瞬間、俺はとんでもない現状に立たされていることを知り、不安と心配に胸を高鳴らせた。


ジュペッタが、いない。


「……参ったな」
来た道を戻る。
すれ違いという事態を起こさないためにも、周囲に最大限の注意を払いながら。
まだ駅に降りて十分……はぐれたとしたらまだそんなに遠くには行っていないはず。

その考えが浅はかだったのを知ったのに、さほど時間はかからなかった。

駅前まで引き返すも、ジュペッタの姿はどこにも見当たらなかった。
いくら人が大勢いるとはいえ、周囲をよく捜しながら歩いた。だからすれ違いは起きていないと思うのだが――――
こんな大都市で、こんな無数の人がいる中で、しかも土地勘ゼロの見知らぬ地方で……人捜しは容易ではない。
(あいつ……興味があるものを見つけるとそれしか見えなくなっちゃうからな……)
十時半を指している駅前の時計台……まだ十分に時間はある。
さすがに街からは出ていないだろう、そう踏んだ俺は街をしらみつぶしに散策することにした。

俺が最初に向かったのは、電車に乗った際に見えた巨大なビルだった。
真下から仰ぎ見ると、あまりの高さに足がすくむ。
入り口の看板には、「シルフカンパニー」と書かれている。
どうやら会社のようだが、これほどの大企業、今まで見たことが無い。
生憎にもドア越しからは中を見ることができなかったが、さぞかし中は広いのだろう。
(……呆けてる場合じゃないよな)
意識をジュペッタを捜すことに戻した俺は、シルフカンパニーをあとにする。
今度は是非内部に入ってみたい、そう簡単に叶わぬような願いを胸の片隅に抱きながら。

次に向かったのは、「GYM」と大きく書かれた建造物。
初めて見る施設に、好奇心が湧いてくる。
看板を見てみると「ヤマブキジムリーダー ナツメ  エスパー少女」……このジムのリーダーが少女であるということに俺は驚いた。
しかし、これは一体何のジムなんだろうか。
ドアを開けて中を見てみたい衝動に駆られるが、なんだか厄介事に巻き込まれそうな気がしたので開けるのは止める事にした。
(……それよりも、今はジュペッタを捜すことを優先しないと)
俺はジムをあとにして、ジュペッタの捜索を再開する。
あとにした後も、まだジムとは一体何なのか、という疑問が、俺の胸中をもやのように渦巻いていた。

ジムからしばらく歩くと、やけに看板が汚い建物の前に来た。
「萌えもんトレーナーファンクラブ」……看板にはそう書かれていて、人の名前らしきものがその周りにこれでもかと書かれている。
これもジム同様、初めて見る施設。鎮まりかけていた好奇心がまた湧き出てきた。
萌えもんのトレーナーなんてものがいるのか……ますます興味が湧く。
ついに己の好奇心を抑えることが出来なくなった俺は、ちょっとだけなら、と自分に言い聞かせて、そっとドアを開いた。
「やっぱマチスがいいと思うんだ、あの独特の喋り方とかさ」
「何をいってるの? キョウのあの渋みのある声!
毒をつかった攻撃も、じわじわと相手にダメージを与えるいやらしさがまた……」
「いや、何と言ってもカントー四天王の頂点に立つワタルだろ。
あそこまでドラゴン萌えもんを使いこなせるトレーナーはどこを探しても絶対見つからないって」
……俺はそっと、ドアを閉じた。
もう少し中の人の会話を聞き続けていたら、本当に厄介事に巻き込まれていたかもしれない。
(……だから、寄り道している場合じゃないんだって)
そう己に言い聞かせて、再びジュペッタを捜す。
とりあえず四天王なるものがあるあたり、萌えもんトレーナーというものはポピュラーなものであるということが判明した。


ジュペッタを発見した頃には日が南中していた。
人込みの中、ようやく見覚えのある黒フードの少女を発見した俺の歩調は自然と速くなっていく。
「ジュペッタ!」
俺は大声で彼女の名を呼んだ。
俺の呼びかけに気付いたジュペッタは、俺の方を振り向くと突っ込んできて――――

俺の胸へとダイブした。

「……ったく、どこ行ってたんだ、心配しただろ?」
不安が安堵へと変わり、俺はジュペッタの頭を撫でる。
ジュペッタは幸せそうにするも、すぐに何かを思い出したかのように後方……俺の前方を指差した。
彼女の指先には……紫の衣を纏い、紫色の髪をした少女――ゴーストが、俺たちの方を見て微笑んでいた。
「話でもしてたのか?」
こくん、とジュペッタは頷く。
「そっか……って、アイツと知り合いなのか?」
ふるふる、とジュペッタは首を振る。
「じゃあ、なんで……あ! もしかして……仲間、だからか?
お前はゴーストタイプ、ゴーストもゴーストタイプ。
初めて同じ仲間を見かけて……つい嬉しくなって……追っかけていった、そういうことか?」
唐突に浮かんだ考えだったのだがそれが正解だったらしく、ジュペッタは頷いた。
つくづく勘が冴える自分に恐ろしさを覚える。
とにかく、短い時間であったがジュペッタの世話をしてくれたゴーストに礼を言おうと顔を上げたのだが、
既に俺の視界からゴーストは消えてしまっていた。
「また会えるさ、……俺の勘は良く当たるんだぜ?」
ゴーストが行ってしまったことを知り、寂しげな表情をしたジュペッタを見て、俺は無意識の内にそんなことを口走った。
慰めの気持ちもあったが、また会える、微かにそう考えていた。
ただなんとなく……あのゴーストとはまた会いそうな、そんな気がしたから。
――会ったらお礼をしよう、それと話をしてみたい……ジュペッタ以外の萌えもんと話したことなんてないからな。
「……何考えてんだか、自分は」
いきなりこんなことを考え出す自分を否定し、苦笑する。
いくら最近勘が冴え渡ってるとはいえ、何度も勘が当たるなんてことはないだろう。
「さて、そろそろ行くか。……まずはここを出よう、息苦しい」
ジュペッタに離れるよう催促して、歩き出す。


このとき。
まさか自分の勘が見事に当たってしまうなどと、俺は予想もしていなかった。





――――――――――
第六話、旅行話。前四回の予定です。長い。
一日目が二回、二日目・三日目が一回、な感じで。
そして後半ハイs(ry、執筆ペースダウン。

都合のいいように主人公の勘を冴え渡させる。
リニアモーターカーってこのぐらいの速さで……いいのかな?

まだまだ作者の妄想垂れ流すSSジュペッタシリーズ。
拙著ですがこれからもお付き合いしていただけると幸いです。
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