1スレ>>675


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「いいですか、マスター」
膝の上から俺を見上げ、つぴし、と俺の顔を指差し、ぬいぐるみのような彼女は口を開く。
「これは忠告です、今のうちに手を引いてください。 あなたごときに萌えもん図鑑の完成などできるはずがない」
その口から発せられた言葉の意味を理解するのに、一瞬の間が必要だった。
「……いきなり酷いなお前は。 やってみないとわからないだろ?」
思わずため息を漏らしつつ、そう抗弁する。
が、しかし。
「わかります。 なぜなら――」
腰に手を当て、さも誇るかのように堂々と。

「――私は、面倒が嫌いだからです」

まるで恥じる様子も、反省する様子もなく、当時はまだポッポだった相棒は、むふん、と満足げに鼻を鳴らした。



『あぁまぁどぴじょっと ~らすと萌えもん~』



「……疲れた」
セキチクシティにある萌えもんセンターの宿泊施設、そのとある一室。
そこにあつらえられたソファにダイビングした俺の口から漏れたのは、その一言だけだった。
何せ一日中サファリパークに入り浸って萌えもんをゲットしまくってたのだから、そりゃあ体にたまる疲労は莫大なものにもなる。
足は筋肉痛でパンパンだわ、ボールの投げすぎで肩は凝るわ、おまけに服は泥だらけ。
このまま寝てしまいたい欲求に駆られるが、さすがにまずいと思いとどまる。
「風呂にでも入るか……」
肩と首の間をぐりぐりと揉み解しつつ、ゆっくりとソファから立ち上がる。
上着を脱ぎ、ベルトに装着していた萌えもんボールを外し、部屋に備え付けの寝巻きをひったくる。
ありがたいもので、着替えの手持ちの少ない萌えもん萌えらーのため、最近の萌えもんセンターには高速全自動洗濯機&乾燥機が備え付けられている。
そこに汚れた衣服をぶち込み、一晩放置すればあら不思議。
翌朝にはピカピカ――とまではいかないものの、旅の汚れの落ちた服が出来上がっているというわけだ。
土ぼこりと泥にまみれた服を適当にたたんで小脇に抱え、逆の腕で寝巻きを持ち、さぁレッツバスタイムと俺が意気込んだ、その瞬間。
「マスター」
背後から聞き慣れた音がし、これまた聞き慣れた声が俺を呼んだ。
はぁ、と軽くため息をつき、声の主のほうへ首だけで振り返る。
「勝手にボールから出てきちゃ駄目だ、っていつも言ってるだろ? ピジョット」
叱るというよりはたしなめる、と言った方が近い口調で俺は言う。
が、この相棒が俺の言うことを聞くのはせいぜいがバトルのときのみという法則がある。
そしてその法則は、もちろんこの場合にも当てはまる。
「騙して悪いが暇なんでな、遊んでもらおう」
「いや、騙してないだろ。 ていうかお前、俺がサファリに行ってる間思いっきり遊んでたんじゃないのか?」
「そんなことはどうでもいいのですよマスター。 とりあえず構ってください」
どうでもいいと来ましたか、やはり貴方は唯我独尊ですね。
が、今日はそのわがままに付き合うつもりはない、というか付き合う余裕がない。
「悪いけど今日は勘弁……マジで疲れた……」
そう言ってピジョットから視線を外し、首を回す。
パキポキ、というか、ぐりごり、というか、とにかくかなり肩が凝っていることを感じさせる音がした。
「若いのに情けない……ちょっと無理をしてでもかわいい萌えもんとコミュニケーションをとろうとは思わないのですか」
不満を隠そうともせず、不機嫌そうにピジョットが言う。
そうは言われても疲れたものは疲れてるんですよピジョットさん。
「わかったわかった、また明日遊んでやるから。 今日はもうお休み」
おそらくはふてくされているであろうピジョットにそう告げ、俺は風呂場に行こうとし――誰かに服を引っ張られた。
まぁ、この状況でそんなことをするのは一人しかいないわけだが。
俺がやおら振り向くと、そこにはやはり、下を向いて俺の服を掴むピジョットの姿があった。
「……ピジョット」
「なんですか」
なんですかじゃあないでしょう。
「あのな、俺は風呂に入りたいんだ」
「入ればいいのでは?」
無茶をおっしゃる。
「お前が服を引っ張ってたら風呂に行けないじゃないか」
「ご心配なく。 私はマスターが向かうところならたとえ火の中水の中草の中森の中に土の中雲の中あの子のスカートの中です」
なんだか痴漢に仕立て上げられそうな言い方だなオイ。
そうでなくて。
「さすがに風呂に一緒に入るわけにはいかんだろ? 聞き分けてくれ」
「だが安心しな、お風呂でご奉仕してやるよ」
「駄目に決まってるだろ!」
疲れも忘れて全力で突っ込む。
いきなり何を言い出しよるですか貴方は。
「つまり、私をひとりぼっちにするなということ。 ピジョットです」
独特な無表情を作り、服をつかんでいないほうの手を振るピジョット。
それが何を意味するのかは知らんが、大体言わんとすることはわかった。
「……さびしかったのか?」
「正確には、現在進行形で『さびしい』です」
さよですか。
「サファリの待合所でも、みんなと一緒にいただろ?」
「確かにいました。 ですが、やっぱりマスターがいないとさびしいものはさびしいのです」
かわいいことを言ってくれるじゃないか。
……やれやれ、しょうがない。
「――先に布団に入ってろ」
「え?」
唐突な俺の命令に、ピジョットが顔を上げる。
ようやく合った視線を外さず、なるべく穏やかに告げる。
「さすがに風呂には連れてってやれないけど、一緒に寝てやるくらいはできるからな――内緒だぞ?」
俺がそう言うと、まずピジョットは目を丸くし、そしてジト目で訝しげに俺を見つめ、やがて――にっこりと、うれしそうに笑った。
「何も知らずにのこのこと……ハメられたのはお前のほうだ!」
「ごめんやっぱさっきの発言撤回」
「じょ、冗談じゃ……!?」
いちいちショックを受けるならその照れ隠しをやめればいいのに。
まぁ、今日は暖かくぐっすり眠れそうだ。


***


「遅かったじゃないか……」
「……これでも急いであがってきたんだがな」
とりあえずその無駄にエロスをかもし出すポーズをやめなさい。
あと胸を寄せない。 ただでさえ大きくて他のメンバーから羨ましがられてるのにそれ以上強調してどうする。
「このバストで、負けるはずがないんだ!」
「やかましい!」
大声でなんてことを言いやがりますかこの娘は。
少しは恥じらいってもんを覚えなさい。
「そんなもののために少ないわざカテゴリを減らすのですか?」
「誰がわざとして覚えろと言ったか」
やれやれ、とあきれつつ布団に潜り込む。
布団の上でしなを作っていたピジョットも、割とあっさり布団の中に入ってきた。
「マスター」
「ん」
促され、腕を伸ばす。
ピジョットは何の遠慮もなくそこに自分の頭を乗せる。
いわゆるひとつの『腕枕』という奴が、ここに成立した。
普通なら、こういう場合、多少いいムードとかあってもよさそうだが、少なくとも俺とピジョットの間にそんなものはない。
「懐かしいですねぇ。 ……最後にしてもらったのは、いつでしたか」
「タケシに勝った日の夜、じゃあなかったかな。 その後は仲間も増えたからなぁ」
しみじみと呟いたピジョットの言葉に、ゆっくりと記憶を手繰り寄せて答える。
とんでもないと思われるかもしれないが、実はニビジムでタケシに勝つまで俺の萌えもんはこいつ一匹だった。
原因はふたつ。
ひとつは、コイツに何かあっては大変、と少ない小遣いをすべてきずぐすりにつぎ込んだこと。
ふたつは、トキワのもりで迷いに迷ってニビシティにたどり着く頃にはこいつがピジョンに進化して久しかったこと。
その結果、ようやくニビシティにたどり着いたあと、とりあえずトキワのもりで負った傷と疲れを癒し、ものはためしと挑んだジムリーダーに運よく勝ってしまった。
そんな紆余曲折があって、ニビシティで萌えもんボールを大量購入してから仲間を増やすためにトキワのもりへ逆戻りするまで、俺とポッポおよびピジョンはずっと二人旅だったわけである。
……ありえない? あったんだから仕方ない。
まぁそういうわけで、そのときはまだポッポのレベルも低く体も小さかったため、寝るときは腕枕をしてやる習慣がいつの間にかできていて。
それでまぁ、今こうして、久しぶりに腕枕をしてやっているわけだけども。
「……なんか、恥ずかしいな」
「そうですか? 私はうれしいですよ」
いや、そういう風に言われると余計恥ずかしくなるからやめて。
あの頃と変わらないもの――こいつのほっぺのやわらかさだとか、さらさらした髪の感触だとか、きらきらした紅い瞳だとか、そういうものも確かにある。
けれどその代わり、変わったもの――伸びた背丈だとか、艶っぽくなった顔つきだとか、派手に盛り上がった胸元だとか、そういうものがあるのも確かなわけで。
「マスター?」
「――うおっ?! い、いや、なんでもない」
い、いかんいかん思わず凝視してた……どこかは言わない。
ところでピジョットさん、なんでそんなにニヤニヤしてらっしゃるのか。
「随分と鼻の下を伸ばしてたねぇ……バレバレだとも知らずに」
「……やかましい」
空いている手で顔を覆い、ごまかそうと試みる。
が、他人をからかうのが大好きなピジョットがそれを許すはずがない。
「触りたいんですか?」
「アホか……胸をよせるな谷間を強調するな流し目でこっちを見るな、バカやってないで早く寝ろ」
と、怒りつつ視線が胸に行くのは男の性ですよねー……ホント立派だなオイ。
「触っていいんですよ? この際プライドは抜きにしましょう」
「それはお前が言うべき台詞じゃないだろう……」
と、言いつつも、ピジョットの胸元から目が離せない。
無理に視線を引き剥がしても、そこにはピジョットの、妖艶ともいえる微笑があるだけ。
……メロメロを覚えさせた覚えはないぞ。
「さぁ、マスター」
誘うような、導くような。
その声に操られるようにして、俺はゆっくりと、だが確実にピジョットの胸に手を伸ばし――
「――きゃっ!?」
――きつく、ピジョットを抱きしめた。
「あぁぁぁぁぁぁもう……寝るぞ! もう寝る! 疲れすぎるとろくなことにならん!」
今までの妙な空気を全て振り払うつもりで叫び、そのまま無理やり意識を落としにかかる。
全身に沈殿した疲れが俺の意識をたやすく眠りの底に引っ張ってゆき、だんだん意識が虚ろになったころ。
「……もう」
ピジョットの、呆れたような、愛おしむような声を、聞いた気がした。


***


「ん……」
カーテンの隙間からこぼれる光の眩しさで目を覚ます。
随分と寝過ごしたようで、もうかなり日は高くなっていた。
「寝すぎた……」
大あくびをしながら頭を掻き、とりあえず顔を洗おうとベッドから降りた――そのとき。
「おはようございます、マスター」
「うおぅっ!?」
いつからいたのか、俺の手持ちの萌えもんたち――オニドリル、ゴルバット、ギャラドス、ドードリオ、カモネギがずらり勢ぞろいしていた。
が、なんか妙に様子がおかしい。
「ど、どうしたみんな? なんかおかしいぞ?」
みんなからかもし出される異様なオーラに思わず後ずさりつつ、そう尋ねてみる。
が、俺の問いに答えようとする者はなく、代わりに、先頭にいたオニドリルが一歩だけ前に進み出て、呟くように言う。
「マスター」
「は、はいっ!?」
その声の低さに冗談抜きで飛び上がる。
何、何何何この状況。 俺なんかした?! ねぇ俺なんかした!?
「……昨夜は随分、お楽しみでしたね?」
「……はっ?!」
ゆ、昨夜? 昨夜って、まさか……!
「ピジョット姉さんのおっぱい、随分堪能したみたいじゃん?」
「い、いや、その……」
待って、待ってゴルバット。
笑顔が怖い、その笑顔めっちゃ怖いから。
「俺らのことなんかちーっとも気にしてねぇみたいだったし、よっぽど気持ちよかったんだろうなぁ?」
ちょ、ギャラドスなんか出てる!
口からなんか青白い炎みたいなの出てますよ!?
もしかしなくても激怒してるんですねそうですね!?
「……ますたー、変態……!」
「うっ……」
ち、違うんだ、違うんだってドードリオ!
あれは単にちょっと昔を思い出したスキンシップの一環であって決してやましいことは何一つ!
「マスターの、バカ……! 絶対、許しません……!」
ま、待てカモネギ早まるな
とりあえずその妖刀正宗もかくやとばかりの輝きを放つネギを閉まって話し合おう!
「ふふふ……」
「――! ぴ、ピジョット!」
背後から聞こえた忍び笑い。
この声の主こそ救世主、この状況を生み出した原因たる誤解を解いてくれるに違いない。
そう信じ、俺はなぜか窓の外で羽ばたいているピジョットに向かって必死で叫んだ。
「た、頼む! お前からも説明してやってくれ! 俺は別に何もやましいことなんてしてないよな! な!?」
きっとピジョットなら、ピジョットならなんとかしてくれる……!
そう信じていた時期が、この頃でした。
が。

「助けるつもりなどもとよりない……!」

「お、お前っ……!」
「「「「「マスターの……ッ、バカァァァァァァァァァァァァァァッ!」」」」」
「ぎゃーーーーーーーーーっ!?」




――結果。
俺がセキチクの萌えもんセンターでしばらく入院生活を送ったことは言うまでもない。
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