5スレ>>419

    『シオンタウン大規模夢喰い事件(後編)』


 萌えもんタワー。
 それは命を散らした萌えもんたちの眠る塔。
 内部は普段人影も無く、あったとしても墓参りに訪れたトレーナーがぽつぽつと居るのみ。
 稀に、肝試しを行う者やゴースト萌えもんを求める者も居るが。
 そんな寂れた静かな場所であるが、この日は大分様子が違っていた。
 数歩先が見えないほど濃い瘴気が、フロアに充満している。
 そんな中を、二つの人影がゆっくりと現れる。
 その人影…アキラとユキメは、周囲を警戒しながら結界の基点の一つである最上階を目指していた。

「しっかし、前来た時よりもかなり不気味になってやがる…」
「ええ…ゴースト萌えもんである私でも、何だか寒気がしそうですわ」

 電気ランタンを掲げながら、アキラは周囲を見渡す。
 隙間風でも吹いているのか、寂しげで怪しい音がそこかしこからする。
 全方位から見られているような感覚から逃れるためか、アキラはユキメに話を振った。

「それにしても…ユキメさんも結界修復をできるなんて意外ですね」
「私は、純粋なゴースト萌えもんではありませんから…結界の影響は受けないんですわ」
「へぇ…そういえば、ユキメさんってこの辺じゃ見ない萌えもんですね」
「ええ、私の出身はシンオウですの」
「結構遠いじゃないですか。どういう経緯でシオンに?」

 そうアキラが聞くと、彼女は少し表情を歪ませて答えた。

「ロケット団…ですわ。私は、彼らの売り物として…ユキワラシの頃に、生まれ故郷から攫われて来たんですの」
「そうでしたか…すみません」
「いいえ、お気になさらないでくださいな。続きですけど…輸送されている最中に何とか逃げ出したのは良かったのですが」
「何か、問題でも?」
「ええ、お恥ずかしい話なのですが…環境の違いに耐え切れずに、行き倒れてしまったのです」

 ユキメは恥ずかしそうに頬を染めて笑う。

「その時にフジのお爺様に助けていただいて…ただ居候しているというのもいけないと思い、こうして働いている次第ですわ」
「そうだったんですか…あ、最上階への階段ですよ」

 アキラがランタンを翳すと、そこには古びた階段が見えた。
 今までにも何回か階段を上ってきたが、この階段はそれらよりも一層ボロボロに見える。

「では、私について上がってきてください。所々崩れているので、気をつけてくださいね」

 そういって先行するユキメ。
 その時だった。

―――――タチサレ―!

「っ!? 危ない、ユキメさん!」
「えっ…きゃあっ」

 とっさにユキメを押し倒すアキラ。
 その上を、横から黒い塊が通過して墓石に直撃した。

 ボゴッ!

 鈍い音を立てて砕ける墓石。
 アキラが塊の飛んできた方を睨み付けると、「ソレ」は現れた。

―――――タ―チ―サ―レ――!

 ギンッ!

「くぅっ!?」

 「ソレ」と目が合うと、アキラは足が竦み身動きが取れなくなる。

(コイツは…黒い眼差しか!)
「アキラ様!? ご無事ですか?」
「ええ、大丈夫です…でも、逃げられなくなりました」

 舌打ちしつつ「ソレ」を観察するアキラ。
 瘴気を纏い、正体はわからない。
 そして「ソレ」は、再び口を開いた。

―――――タチサレ――タ―チ―サ―レ――!

 その気迫に冷や汗を流しつつ、アキラは「ソレ」に話しかけた。

「なぁ…ぶっちゃけ『黒い眼差し』なんかされると立ち去ろうにも立ち去れないんだが」

――――――――――――――

 数瞬、場を沈黙が支配する。
 そして。

―――ヤッベ、ソレモソウダ―

「「………」」

 沈黙、再び。
 アキラは呆れたようにモンスターボールを手に取ると「ソレ」の前に投げつけた。
 現れたのは、デル。

「…デル、悪の波動!」
「はい!……はぁああああ!」

――――!!!

 デルの体から黒い光が溢れ出し、津波の如く「ソレ」に襲い掛かる。
 「ソレ」は回避することもままならずに、具現化した悪意の光を浴びることとなった。

―――アガガガガガガガッ!?――――ガ!!

 「ソレ」は悪の波動の衝撃で、壁面に叩きつけられる。
 纏っていた瘴気は吹き飛ばされ、そこにはうつ伏せに倒れて痙攣するゲンガーの姿があった。
 アキラはそれを見て、鞄からボールを取り出す。

「大人しく…お縄を頂戴しろっ!」

 ゲンガーに投げつけられたボールはさして揺れもせずに、捕獲完了のサインが出た。

「ふぅ…なんつーオチだよ、まったく。デル、お疲れ」
「ご主人様こそ。それよりも、ユキメさんを…」
「ああ、それもそうだな。ユキメさん、大丈夫ですか?」
「え…あ…あの…」
「…ユキメさん?」

 押し倒された時の格好のまま呆然としているユキメ。
 アキラが声をかけると、顔を赤くして俯いてしまった。
 
「どうしたんですか? さっきので、どこか怪我でも?」
「いいいいいえ! なな、なんでもございませんわ! はは早く結界を修復して戻りましょう!?」
「え、ええ…わかりました」
「………(ご主人様…また?)」

 真っ赤になってわたわたとあわてるユキメ。
 それを見て不思議そうにするアキラと、ジト目のデル。
 なお、この後の結界修復は無事に終わり、ゲンガーの尋問はマスターとなったアキラが担当することとなった。





 アキラたちが萌えもんセンターに戻ると、ホウはテレビを見ながらお茶を飲んでいた。

「ただいまー…ホウ、ようやく起きたか」
「ん…何処行ってた?」
「萌えもんタワー。ちっと事件があってな」
「そ」

 興味を失ったのか、視線をテレビに戻すホウ。
 アキラは、その場でゲンガーを呼び出した。

「………何か用かよ?」
「いや、夕べの事件について聞きたいことがあってな…っと、その前に名前決めるか。そうだな…お前雄だし、ゲンでいいか」
「…別に、何て呼ぼうがかまわねぇぜ」
「んじゃゲン、夕べこの町の人々全ての夢を食い荒らしてったのはお前か?」

 アキラがそう言うと、ゲンは驚いたように目を見開いた。

「ハァ!? ちょっと待てよ! 確かにオレは夕べ町に出て夢を喰った。だがそんなに喰ってねぇ!」
「それは本当か? んじゃ、仲間とかが?」
「ちげーよ! あの塔の結界抜けられる奴がそうそう居てたまるか!」
「じゃあどういうことだ? 塔から出て来れて夢を喰うことができるのはお前だけなんだろ?」
「オレはそんなに喰えねぇよ!…だが、夕べ出歩いてるときに飛び回ってたヤツのことは見てるぜ」
「何だって! そいつは、どんな?」

 アキラは身を乗り出して聞く。
 ゲンは視線を合わせ、自分の後ろを指差した。

「…そこのヨルノズクの女」
「……(ビクッ)」
「……おい…お前」

 ホウを見ると、冷や汗をかきながら視線を逸らしている。
 アキラはため息をつくと、ボールからメリィを呼び出した。

「いけない…逃げ…」
「ゲン、黒い眼差し」
「おうよ」

 ギン!

「…えと…アキラ君…?」
「メリィ」
「何かな、マスター?」
「町の人と俺とお前の夢喰ったの、ホウらしいぞ」
「…あぁー、だからホウちゃん今朝『もうお腹いっぱい』とか言ってたんだぁ」

 笑顔でホウを見るメリィ。
 …だが、明らかに目が笑ってない。

「…見逃し…ては」
「あ、それ無理」
「メリィ、好きなだけやっちゃってくれ」
「おっけー♪」
「ひ…」

「あばばばばばばばばばばばばばばばばば!?!?!?!?!?」

 この日は日中から、ホウの悲鳴が町に響いたのだった。



 真犯人も判明したところで、アキラ達はシオンタウンを発つことにした。
 ユキメには身内が迷惑をかけた、と謝罪の連絡を入れ、今彼らは町の南側の出入り口に居た。

「やれやれ…」

 アキラはホウの部屋で見つけた雑誌を見た。
 開きっぱなしになっていたページには『ミス・スリーパーのドリームグルメ!』との見出し。
 恐らくホウはこの記事に触発されて事件を起こしたのだろう、とアキラ達は想像した。

「それにしても…町の人全員の夢を食べるなんて、お行儀が悪いですよね」
「デルちゃん、そういう問題でも無いと思うよ…」
「ははは…まぁホウも、これに懲りてくれればいいんだけど」

 ちなみにホウはボールの中である。
 煙が出るほど電撃を食らった彼女は、間接を極めるように縄で縛られてボールの中に収められた。
 …ぶっちゃけ、ここまでくると虐待に見えなくも無い。

「それでは、そろそろ行きましょうか」
「ま、待ってください!」
「え、あれは…」

 かけられた声に振り返る一行。
 そこには、駆け足で向かってくるユキメの姿。
 彼女はアキラたちに追いつくと、息を整えて言った。

「あの、その…私を、連れて行ってください!」
「「……え」」
「ちょ、ちょっとユキメさん、いきなりどうしたんですか」
「今回、私の不注意でアキラ様にはご迷惑をおかけいたしましたので…その、お礼、と言えばよろしいのでしょうか」

 赤面しつつ言うユキメに、顔を見合わせるデルとメリィ。

「もしかしてマスター、また…?」
「そのようですね。アサギのアカリさんの時と同じみたいです…」

 少し二人から距離を離し、聞こえないように話すデルとメリィ。
 一方でアキラは、ユキメを説得しようとしていた。

「いえ、お礼で同行だなんて…あれはそんなに気にするようなことでもないですよ」
「そんなことはありませんわ。私にとっては…」
「それにユキメさんは、あの町に必要とされているでしょう?」
「そ、それは…」
「危険な最上階の基点の補修に行けるような人、他に居ないんですよね?」
「……ええ」
「だったら、俺たちについていっちゃったらまずいですって」
「…そう、ですわね」

 気を落としたように引き下がるユキメ。
 それを見て、デルとメリィは少しほっとしていた。

「いつかまた、この町にいらして下さいね」
「ええ、その時には連絡しますよ」
「では、代わりにと言っては何ですが…どうぞ」

 ユキメは懐から、拳大の大きさの氷を取り出してアキラに渡す。

「これは?」
「私の力の一部を結晶化した『溶けない氷』ですわ。私からの親愛の証として、受け取ってくださいまし」
「…ありがとうございます、大事にしますね」
「いえ…それと、私の助力が必要になりましたら、いつでもご連絡くださいな」
「はい、それじゃ…行くぞ、デル、メリィ」
「あ、はい」
「さよなら、ユキメさん」

 アキラ達とユキメは、お互いに背を向けて歩き出す。
 ユキメは帰るべき町…シオンタウンへ。
 そしてアキラ達は、次なる町…セキチクシティへと向かうのであった。


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・後書き
 どうもこんばんわ、曹長です。
 今回は後編と言うことで、塔での戦闘と事件の真相を書きました。
 いやー、戦闘って難しい(笑
 さて、今回は仲間が二人増えました…といっても、片方は控えですがw
 一応紹介文つけときます。

・ユキメ(ユキメノコ♀)
 萌えもん警察シオンタウン支部所属。
 元々はフジ老人の元で生活していたが、恩返しの意味も兼ねて萌えもん警察に就職した。
 広域夢喰い事件の際にアキラと出会い、不意を突かれたところを助けられて惚れてしまう。
 旅立とうとするアキラの元に押しかけるも、アキラの説得によりシオンに残る。(控え萌えもん扱い)

・ゲン(ゲンガー♂)
 萌えもんタワーに住み着いていたゴースト萌えもん。
 結界の弱いところを通って夜中に外を出歩いては、細々と住人の夢を食べることを日課にしていた。
 結界を直しに来たユキメに襲い掛かるがデルに撃退され、そのまま捕獲される。
 いいかげんでものぐさ、面倒くさがりだがやることはきっちりこなす。
 本人曰く「やらない方が後でめんどくせぇ」


 そういえば、SSで雄の萌えもん出してる人って少ないですね(出してから思った事

 それでは、また次の作品で会いましょう。

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最終更新:2008年05月24日 21:41
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