5スレ>>404


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早朝。
俺は眠気覚ましにと外へ出た。

日が昇りきって間もなく、外はまだ薄暗い。
時折吹く風は、微かに潮の香りがした。
「やっぱ……宿をここにして正解だったな」
波の音に耳を澄まし、大きく伸びをする。
重かった眼が、気分が、自然と軽やかになっていった。
(ちょっと早い気がするけど、ジュペッタを起こしに――)
そう思い踵を返したその瞬間、汽笛が町中に響き渡った。
突然のことに肩をビクッと震わせ、音がした方向を見ると、遠くから船がこっちにやってくるのが見えた。


けたたましい汽笛は目覚まし時計。
港町・クチバシティの朝が始まる。


- episode 6-b  second day ~魂の行末~ -


俺が部屋に戻ったときには、既にジュペッタは起きていた。
どうやらさっきの汽笛の音で目を覚ましたらしく、驚きで眠気を吹っ飛ばしたせいか、眠そうには見えなかった。
俺はところどころ跳ね上がったジュペッタの寝癖を櫛で丁寧に解かし、自分の身支度も整える。
最後に昨日タマムシデパートで買った、真珠のペンダントを付けて。

真珠のペンダント。
俺はてっきりジュペッタが買って貰いたい、身に付けたいのかと思っていたのだが、何やら違うらしく、
ジュペッタは俺に付けてもらいたい……何というか、プレゼントしたいという考えで、俺にこのペンダントを差し出したという。
もっとも、買ったのは俺なので、プレゼントという言い方は間違っている気がするのだが。

俺がペンダントを身に着けているのを見たジュペッタは、嬉しげであった。
よほど嬉しいのか、ニコニコして俺の方を見てくる。
「当たり前だろ、お前から貰った物だし、というかお前が付けろ付けろせがむから……」
『貰った』という言い方に違和感を覚えながらも、ジュペッタの視線に耐え切れなくなり、視線を逸らしながら言う。
「ほ、ほら、もう支度は済んだことだし、行かないか?」
そうすぐに話を変えて、宿を出る。
ジュペッタも俺の隣を、やはり嬉しそうに付いて行った。


クチバシティから東へ向かい、辿りついたのは12番道路。
釣りの名所として有名らしく、朝にも関わらず多くの釣り人が糸を垂らして獲物を待ち構えていた。
そんな中を、俺とジュペッタは周りの風景を眺めながらゆっくりと歩く。
風景を眺めつつも、二人の時間を大切にするかのように、歩調は今にも止まってしまいそうな速度であった。

――突如、ジュペッタが立ち止まった。
「……? どうかしたか、ジュペッタ」
前方を見据えるジュペッタの視線を目で追う。

その先には、巨大な塔があった。
ヤマブキシティで見た、シルフカンパニーのビルのその上をいくような高さの塔が。

「……」
その塔を見て俺が最初に感じたのは、言い様のない不安だった。
灰色の塔は、どこか悲しげで、不安げで――
一体誰が、何のために作ったのかと不思議に思わせる。
「……反対側行かないか? なんだかあっち……嫌な予感するし」
『怖い』という率直な理由を適当な言い分で隠し、塔の方向へ背を向けようとした、そのときだった。


――――――グイッ。


「うわっ……と!」
ジュペッタが俺の手を引いた。
超能力がかかってるせいか……振りほどく事が出来ない。
彼女が向かう先は――――――あの、塔。
「いきなりなんだよ、あの塔に何かあるのか!?」
引きずられまいと必死に足を回転させながら、ジュペッタに問う。
しかし、その返事は返ってこなかった。

ただ一つ、言えることは。
ジュペッタの表情が輝いていた、それだけであった。


その塔がある町――シオンタウン――はその塔があるせいか、その塔に感化されてしまったのか、
塔同様、重苦しく、不安にさせる雰囲気を漂わせていた。
ジュペッタに引っ張られるがままに塔の前辿り着いた俺は、塔を仰ぎ見、その高さを改めて実感した。
「……一体なんだっていうんだよ、アイツは」
既にジュペッタは内部へ入っていった。俺の制止も聞かずに。
その俺は今こうして、塔に入るのを躊躇っている。
(だから、なんか嫌な感じがするんだって)
入りたくない、だがジュペッタを探すには入らなければいけない。
ジュペッタの帰りを待つというのも一つの手だが。俺だって一応男だし、成人だし。それはプライドが許さない。
「どうか……したのかい?」
塔の前を右往左往した俺に、一人の老人が話しかけてきた。
「え? あっ、と……この塔は一体なんなのかなーって思って」
『塔のかもしだす雰囲気が怖くて、入るのを躊躇っている』など恥かしくて言えるわけがなく、その老人の問いに答えた。
「ここを知らないなんて……観光客かい?」
「ええ、まあ……」
老人の喋り方は優しげで、人を包み込むような温かさがあった。
不安に駆られていた俺の気持ちが和らいでいく。
「ここは萌えもんタワー、って言ってね。死んだ萌えもんを供養するために建てられた塔なんだ」
「死んだ萌えもんを供養するために建てられた……塔?」
老人から発せられた返答に、俺は言葉を見失い、代わりに老人の言葉を反復した。
そうだとすると、何故ジュペッタが表情を輝かせてこの塔……萌えもんタワーに向かったのか合点がいく。
(幽霊……ジュペッタと同じゴーストタイプの匂いのようなものを感じ取ったからか。死んだ萌えもんに惹かれて、ゴースやゴーストが……)
「私は今から用でタワー内に入るのだけど……君も来ないかい?」
老人の誘いに、思索に耽っていた俺は慌てて二つ返事をした。
先程まで抱いていた不安は、老人の話を聞いているうちにすっかり消え去ってしまっていた。


塔の中に入るや否や、再び不安が全身を襲う。
四方八方、どこを見ても墓、墓、墓。
刻まれた名は違えども、整然と墓石が並べられているこの風景はあまりにも不気味だった。
「……これ皆、萌えもんのお墓なんですか」
俺の第一声はか細く、震えていた。
「そう。ここだけでも数百の萌えもんが眠っている。
……この塔は私が生まれるよりもっと前に存在していてね。ほら、この階段なんか、何度も補修をしているんだ」
老人の言うとおり、階段だけでなく、ところどころに何度も修理をした跡がある。
しかし、この老人が生まれるよりもっと前――恐らく百年近く前に、これほどの塔を建てるということは、
よほどの人材、よほどの時間を要したのだろう。機械化が進んでいないのなら尚更だ。

そして。
一体この塔は、何人の涙を、何人の悲しみに満ちた叫びを聞いたのだろうか。
それは――この無数に立ち並ぶ墓が物語っているだろう。
この墓の数だけ……いや、それ以上の人間が、あるいは萌えもんが。
愛人が、相棒が、友達が、永久に眠り続ける墓石の前で涙を流したのだろう。

「……君は、優しいんだね」
突然老人からそう言われ、考え込んでいた俺ははっと我に帰り、自分が涙を流しているということに気づいた。
「え……あの、これはっ」
驚き、急いで頬を伝う涙を拭おうとした俺を、老人はゆっくりとなだめた。
「恥かしいことじゃないよ。そうやって赤の他人の萌えもんだというのに涙を流すことができる……それは忌むことじゃない」
「……いや、そんな、別に忌むとか、そう思ったわけじゃなくて。ただ、泣いていた自分にびっくりしただけですよ。
それに、人にしろ萌えもんにしろ……誰かが死ぬのは……悲しいことですよ」
俺がそう告げると、老人は目を閉じて、何か考え込むような素振りを見せた後、
「……うん、そうだね、そうだ」
目を見開き、まるでなにか忘れていたものを思い出したような、晴れやかな表情をして頷いた。
一体何がそうなのか、俺は老人に聞こうとしたが、この重い雰囲気のせいか、なかなか疑問を口に出すことが出来なかった。


「ここが最上階だ」
何度階段を上ったことか。
萌えもんタワーの最上階は、紫色の靄が辺りを覆いつくし、ところどころ壊れた墓石が散乱している、荒廃しきった場所であった。
奥へ歩きながら、老人は俺に数年前にここで起きた出来事を話してくれた。

悪の組織がここを襲撃し、人質として老人が捕らえられたこと。
その組織の人間が、ここにある墓石を傍若無人に破壊していったこと。
そこへ十三、四ぐらいの少年が現れ、老人を助けてくれたこと。

「思えばあの時の少年も君と同じように……墓の前に座っては手を合わせ、涙を流していた。
さっきの君の言葉……私はふと、君の姿とあの少年の姿を重ねてしまってね」
さっき老人が発した言葉の意味をようやく理解する。
しかしまだそんな小さな少年が……俺がそのくらいの歳の頃は……
と自分の過去を思い返しても恥かしい思いでしかないので、回想をするのは止める事にした。
「……さあ、着いた。確かこの辺りで待っていると聞いたのだが……」
誰かを探しているのか、最深部に辿りつき、辺りを見渡す老人。
俺もつられて辺りを見渡す。しかし見えるのは紫色の靄のみ。人影などどこにも見当たらない。
と、そのとき、頭上から何かが降りてきた。
「ごめんなさいフジ老人。この娘と遊んでいて……あなたが来たのに気づきませんでした」
降り立った少女――ゴーストは、老人……フジに深々と頭を下げた。
彼女の隣には、黒フードをすっぽりと被った少女が、彼女の左手を握っている。
そう、
「ジュペッタ!」
突然のジュペッタ発見に、俺は驚き、声を上げた。
俺に気づいたジュペッタは嬉しそうに笑うも、ゴーストの手を握ったまま。
いつもならなりふり構わずダイブしてくるのだが……
「もしかして……ヤマブキシティでお会いになりませんでしたか?」
おずおずと尋ねてくるゴースト。
無い、と即答しそうになったが、思い当たる節があったので、あわてて言葉を言い直す。
「まさか……ジュペッタを見つけてくれた、あのゴースト……ですか?」
同じゴーストであるが、確証が無いため、俺も少し遠慮がちな声になってしまう。
しかし、俺の言葉を聞いたゴーストは、ほっと胸を撫で下ろし、
「――ああ、良かった。間違ってたらどうしようかって思って……」
にっこりと微笑んだ。
……ああ、面識があったから、ジュペッタは離れようとしなかったんだな。
もう一度、かなり会いたがってたもんな、ジュペッタ。
「二人は知り合いかい?」
「はい。ヤマブキシティで、迷子になったジュペッタを彼女が見つけてくれたんですよ」
「見つけたというか……この娘いきなり私に飛びついてきたんですけどね」
ジュペッタを見て、微笑するゴースト。
フジ老人は床に何かお札のようなものを貼り付けていた。
「ささ、この中に入りなさい。祈祷師の札によって生成された結界お陰で気分を落ち着かせることができる」
そうフジ老人に催促され、結界の中へ入る。
どこからが結界なのか……境界線は目で見えないものの、気分がどこか軽くなったような気がした。
「……で、ここで何をするんですか?」
「迷える魂を天へ導いてあげるのです」
そう言いながらゴーストは、右手をゆっくりと上げた。
「危ないから……手を離して」
小さく呟いたゴーストの言葉にジュペッタは頷き、彼女の左手を離す。

辺りが点滅し始める。
点滅が始ると同時に、周りの靄がゆっくりと、ゴーストの下へ集まってくる。
点滅の間隔が短くなると共に、靄が集まってくる速度は増してくる。
やがて点滅が終了したかと思うと――目の前には険しい表情をしながら、右手を掲げているゴーストの姿。
その手の上には、とてつもなく大きな光球。
そして……その光は――轟音と共に――天へ――放たれた。
光は徐々に細くなり、やがてゴーストの手の上に存在していた光球も消え……
何事も無かったかのように、再びこの塔に静寂が訪れた。

「……ふぅ。今まで何度もやってきたけど……やっぱり辛いですね……」
掲げた手を下げ、その場に座り込むゴースト。
倒れそうだったので、慌てて俺は両手でそっと彼女のことを支えた。
「あ……ありがとうございます」
「……立てる?」
「平気です。眩暈がする程度ですから……もう大丈夫です」
俺の手から離れ、立ち上がるゴースト。
一瞬だが、背筋に視線を感じたものの、さほど気にはならなかった。
しかし、いきなり世界が点滅したかと思うと……光の球が出てきて……
あまりに突然の出来事に俺は思考が着いて行けずじまいだ。
「えっと、一体何がどうなったんだ? 魂を天に導くって……」
「そのままの……意味ですよ」
呼吸を乱しながらゴーストが答える。
「ここにいる萌えもんが、皆が皆、天へ昇ってくれないんです。この世に強い未練を残していたり、天への道を見失ってしまったり。
そのせいで天へ昇らず、塔の中を彷徨っている萌えもんの霊が沢山いるのです。
ほら……さっきまでここ、紫色の靄に包まれていたでしょう? あれは、萌えもんの霊が辺りを徘徊している証なのです。
その彷徨える霊に、天への道を指し示し、導く……これが私が担っている役目です」
ゴーストからそう言われ、辺りを見渡すと、先程までの靄はきれいさっぱり消え去っていた。
「もちろん、萌えもんタワーに存在している霊だけではありません。
野生の萌えもん達は、ここで供養されること無く、一目のはばからない所でひっそりと自らの命を終えます。
故に街中や森、洞窟内でも霊が徘徊していることがあるのです。
そんな霊達も天へ導いてあげるのも、私の役目。ヤマブキシティへ向かったのは、そのためです」
ゴーストの説明を聞き、ようやく自らの思考がさっきの事象を理解する。
ジュペッタも、初めて耳にするゴーストの話を熱心に聞いているようだった。
「……これで一体何回目なんでしょうか。
別に同情して貰おうなどという気は無いのですが、私はゴーストとして生まれたときから、こうして迷える魂を天へ導いて来ました。
誰かから命令されたわけではありません。ただ、なんとなくこう思うんです。
――こうやって魂を導き続けることが、自らに課せられた不変の運命なのだと、自らの存在意義だと……
私は魂を導くべく生まれ、迷える魂が永久に誕生しない限り導き続けなければならない。代役は存在しない、投げ出すことなど許されない」
そこまで言うと、ゴーストは苦笑いをして、
「考えすぎなのかもしれないですけどね」
と呟いた。
「……ゴーストは、嫌だと思わないのか? そんな運命が自分に降りかかったことを、悔いたことは……」
「もちろんありますよ」
目を閉じる。
「私は……一人ぼっちでした。今はこうしてフジ老人が一緒にいますが。
知り合いは皆、天へと消え。いつしか周りは知らない人ばかり。
何故自分にだけ……そう思って寂しくなるときは、こう考えるんです。
私たちは、ここで、つながってる。頑丈でどこまでも長くて、でも見えない糸で」
ゴーストが指をさし示したのは、己の胸。
いつかどこかの誰かが言ったような台詞に、思わず微笑する。
「……あー! 笑いましたね? ちょっとはいいこと言ったかなーって思ったのに!」
俺の微笑が気に食わないのか、頬を膨らませるゴースト。
「ああ、いや、その……なあ、ジュペッタ?」
その『いつかどこかの誰かが言ったような台詞』を言った奴の方を見る。
「……」
ジュペッタは俺の視線に、そして俺がどんな返答を求めているか理解しているようだったが、
我意に介さず、とそっぽを向いている。
「ちょ、なんで!?」
「なに責任逃れしようとしてるんですか! 許しませんよ――!!」
ゴーストは前までのおとしやかな雰囲気とはうって変わって、やけに明るくなっていた。
慌てて逃げ出す俺。
俺の方を見て、やれやれと肩をすくめるジュペッタ。
そんな三人のやり取りを見て微笑するフジ老人。

その後、
俺はゴーストに言い分を聞いてもらえるまで、彼女のサイコキネシスで宙吊り状態になっていた。


「なんだか……疲れたな」
ゴーストとフジ老人に別れを告げ、再び12番道路へ舞い戻ってきた俺とジュペッタ。
フジ老人からは今度会ったら茶でも飲んでゆっくり話をしようと言われ、
一方のゴーストはジュペッタにまた遊ぼうね、と頭を撫でた。
俺に対しては変な誤解をしてしまいましたとお詫びをし、またいらしてくださいと笑顔で手を振ってくれた。

「あのさ、なんでお前、あの時スルーしたんだ? お前がスルーしてなかったら、あんな誤解招かなかったのに」
不意に疑問に思ってたことをジュペッタに話す。
「……///」
いきなり頬を赤くしてそっぽを向いてしまった。
「な、なんで顔を赤くするんだよ! 俺お前に何かしたか?」
そう言うよりも先に、ジュペッタは俺を置いて駆け出していった。
「あ、おい、待てよ、ジュペッタ!! なんで逃げるんだよ――!」
わけも分からぬまま、ジュペッタを追いかける。
雲ひとつ無い、かすかに水がぶつかり合う音が聞こえる12番道路に、俺の叫び声が響き渡った。


旅行二日目。
宿へ戻った俺の息が完全に上がっていたのは言うまでも無い。














―――――――――――――――――――――――
もの凄くお久しぶりです。
そしてもの凄く長いです。なんとここまでのシリーズ上最長の15kb。長いよ。

第6話その3。ちょっと暗めなシオンタウンでのお話。
その1でちょっと登場したゴーストが再登場。
前回同様俺設定。萌えもんタワーの辺りとか、萌えもんタワーの辺りt(ry

相変わらず語彙が足りないなあ自分。

いよいよ次回、第6話その4で第6話が終了。
今度は間隔なるべく空けないようにしたいな。


最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!


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