5スレ>>381・下


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ぱーーーんっ!

と、甲高い破裂音が深緑の林に響き渡る。


それに気を取られたのか、ベトベトンのヘドロの呪縛が少しだけ緩んだ。


「…このっ、クソヘドロがああああああああああ!!」


気合の入った怒号と共に、私と一緒に捕らえられていたオニスズメが上に向かって飛び上がる。
その勢いに負けたのか、ベトベトンは後ろに倒れ、私たちを捕まえていたヘドロが音を立てて剥がれた。


「だ、大丈夫かマスター!?」

「…あ、うん、だいじょうぶ…」

「いたたたた…もう、何なのよ急に!」


オニスズメに素早く抱き起こされ、ベトベトンから少し離れたところに運んでもらった。
さっきの破裂音がどこから聞こえてきたのか確かめたくて、ふらふらする首を無理矢理動かしてみる。

探していた人物は、私がその姿を捉える前に颯爽と躍り出た。


「や、やいベトベトン! またここで悪さを、す、するんなら…
 ぼ、僕が成敗してやるぞ!」


黒いシルクハットを右手に掴み、自宅のクローゼットにでも隠してあったのか
裏地が紅い漆黒のマントを羽織って登場したのは

バリヤードさんのマスターくんだった。

私と同じでやっぱり怖いのか、膝がどことなく震えている。
けど、恐怖に負けまいと頑張っているのか、その目はしっかりとベトベトンを見ていた。


「何よアンタ…って、ああ。あの時のガキんちょじゃない。
 …ふふん、またみっともなく泣き喚きにきたの?」

「うるさい! 僕は、僕はもう、お前になんか負けないんだ…
 …おねえちゃんたちを、守るんだ…!
 
 絶対、負けられないんだああああああああああ!!」


うっすらと涙が滲んでいたけれど、目に宿る光はとても強い。

きっと、すごく怖かったんだと思う。
私だって、泣かなかったのが不思議なくらいだったんだもの。

またあの恐怖に直面しなければいけないなんて、まっぴらゴメンだったろう。


…でも、彼はここに来てくれた。

その小さな胸に、ありったけの勇気と度胸を振り絞って。



「ワン、ツー、スリーーっ!」


口早にマスターくんが数字を数え、シルクハットをくるりと回転させると中から定番のハト
…ではなくて、たくさんのトランプが出てきた。

しかもただ出るだけではなく、フシギソウの葉っぱカッターのように鋭く空を切りながら
勢いよく射出されたのだ。

ベトベトンの体に突き刺さるトランプ。
流石にダメージは与えることは出来なかったようだけれど、彼の狙いはそれでダメージを
与えることではなかった。


「さらにワン・ツー・スリーーっ!!」


黒いマントをはためかせ、再びシルクハットを回転させると、赤い光を纏った球体が
ベトベトンめがけて飛んでいった。

トランプのほうに気を取られていたベトベトンの体に、いくつもの赤い球体…火の玉がぶち当たる!


「ひっ!? 火、火が、っきゃああああああああああ!!」


余裕の表情が、小さな火の玉を認識した途端にひきつる。
ベトベトンは火が苦手なのか、悲鳴を上げてジタバタともがき始めた。

希望が見えてきたことによる笑みが、私を含めたみんなの顔に浮かぶ。
けれど、紫色の少女はそれが気に喰わなかったらしい。

激しい怒りをその顔に滲ませ、凄みのある表情でマスターくんを睨み付けた。


「…ぜえ、はあ……っ!
 調子に乗るんじゃないわよ! このクソガキぃいいいいいいいいいい!!」


ベトベトンの蓬髪がぶわっと広がり、紫色のヘドロが宙に飛ぶ。

髪から分裂したヘドロは、弧を描いてマスターくんの頭上に降り注ぐ!

慌てて駆け出したものの、ヘドロに捕まっていた体は思っていた以上にダメージを受けていたらしい。
全然スピードが出てこなかった。


( ――― 間に合わない!)


これから起こるであろう惨劇が脳裏に浮かび、心が竦む。

そうしたってどうにもならないのに、私はとっさに両目をつぶってしまっていた。




「ボーイ、下がって!」


真っ暗になった世界に、女の子の声が響いた。

それは、私が暗闇に閉じ込められた時に、救いの手を差し伸べてくれた声。


声に導かれるように、閉じていた瞼を開ける。

空から降ってきた紫色のヘドロは、まるで見えない壁にぶち当たったように
マスターくんの半歩手前で次々と行く手を阻まれた。

白い手袋に包まれた小さな手のひらが、すうっと壁をなぞるように宙を撫でると
パリン…と音と共に、ヘドロが地面に落ちていった。
どうやら、見えない壁を自ら壊したようだった。

毒々しい紫色が落ちたあと、パステルピンクの髪の毛が現れた。
微風になでられて、紺色の角と戯れるように髪の毛が舞う。


「…ば、バリヤードさんっ!」

「ごめんね、遅くなって…
 さあボーイ、バトルスタートだよしゃきっとして!」

「あ…お、おうっ!」


バリヤードさんの凛とした声に応えるように、マスターくんがぴょこんと跳びあがる。
どうやら『ボーイ』というのは、会話から察するにマスターくんの愛称のようだった。

マスターくんの表情はまだ固かったけれど、バリヤードさんが来てくれて気力が沸いたのだろう。
その表情には元気そうな笑みが復活していた。


「…よし、行くぞバリヤード!」

「オッケーリトル・ボーイ!」

「ワン!」

「ツー!」

「「スリーッッ!」」


横並びになり、掛け声とともにマスターくんは右手を、バリヤードさんは左手を突き出す。
シルクハットからは再び火の玉があらわれ、バリヤードさんの手からは波動でも出ているのか
空気がすこし歪んで見えた。

火の玉がかすかに見える波動と重なると、その炎の勢いと大きさをを更に増した。
さっきよりも威力の高いであろう火の玉が、ベトベトンの体に直撃した。

ベトベトンのヘドロには何か発火性の物質でも含まれているのか、火の玉がぶつかると
体中のあちこちに燃え広がっていく。


「ひいっ! ひいいいやああああああああああ!
 いや、いやあ熱い熱い熱い! いやああああああああ!!」

「バリヤード!」

「わかってる!」


猛毒の少女が炎にすっかり怯えきっている隙に、バリヤードさんはすかさず距離を詰める。
その手のひらを、紫色の体にむけて突き出し…


「「 サイコキネシス!! 」」


再び見えない波動を、白い手袋に包まれた手のひらから放ったのだった。


…毒タイプに、エスパータイプの技は良く効く。

その情報に嘘偽りはなく、ベトベトンはその場に崩れ落ちた。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



さっきまでの騒がしさはすっかり消えうせた林の中。

私たちはモモンの実をリュック一杯に詰め込み、向かい合って座っているバリヤードさんと
ベトベトンの会話を見守っていた。


「……」

「ふむ。行き場がなくて困っていたのは分かるけど…
 だからって、これはちょっとやり過ぎだよ。もうちょっと節度ってものを考えないと」

「…フン」


怒りにまかせて再び暴れるかもしれない、と予想していたのだけれど、ベトベトンはすっかり大人しく
なってしまっていた。バリヤードさんから注意を受けても、もう何も言い返そうとしない。

その様子に、バリヤードさんは悲しげに目を伏せる。
やっぱり同じ萌えもん同士、共感するところもあるんだろう。
ベトベトンの行き過ぎた暴走に対しても、それ以上咎める気にはならないようだった。


「なーバリヤード、やっぱりここはもう一度ガツンとかましてやったほうが」

「止めなさいボーイ! だから君はまだまだ半人前なんだよ。
 マジシャンは、人を楽しませてこそのマジシャンじゃないか…!」


その言葉にマスターくんはハッとしたような表情を見せて、しばらくしてしょんぼりと
うな垂れてしまった。

バリヤードさんの言葉を心の中で反芻しているのか。
しばらくマスターくんはうな垂れたままだったけれど、その表情はしょんぼり顔から真剣なものに変わり
そして何も言わずに立ち上がった。


「…えー、ベトベトンも大人しくなったことですし
 もうひとつだけ、手品を披露させていただきたいと思います」


手品というキーワードに、ベトベトンの肩が震え上がる。
またあの火の玉をあびせられるのかと思ったんだろう。顔が真っ青になっていた。


「ちょ、ちょっと待ってよ…!」

「ワン、ツー」


炎の襲来を予感したベトベトンは小さく悲鳴を上げて、頭を抱えて体を縮こませた。



「…スリーーっ!!」



マスターくんの声の後に響いたのは

「ぽん」という、コルク栓を抜いた時に聞こえるような軽い音。


雲の白色と空の青色がマーブル模様を描いている空から、ひらひらと何かが落ちてくる。

それは、出会い頭に降り注いできた紙吹雪ではなく、真っ白な花びらだった。

他にもピンクや黄色、薄いパープルのやわらかな花びらが宙に舞い踊っている。
いつまで経ってもやってこない熱さに違和感を感じたのか、ベトベトンがやっと両目を開けた。


「……あ……」


舞い落ちてくる花びらが見せる光景に、猛毒の少女は見とれたように溜め息を吐く。
その顔は驚きを隠せていないものの、今まで見せてきたどの表情よりも安らかに見えた。


「へへっ…
 お客さんに喜んでもらう手品をするのが、手品師の本当の役目…だもんな」

「…ボーイ…」


照れたように微笑むマスターくんの言葉に、バリヤードさんは静かに
…でも、心の底から嬉しそうな笑みを見せた。

きっとこれが、バリヤードさんが導きたかった「答え」なんだろう。



皮肉にしか歪まなかったベトベトンの口から、「キレイ…」という言葉がちいさく紡がれた。

今まで堪えていたものが、どっと溢れ出してきたのか。

ベトベトンは花びらの舞う空を見上げたまま、静かに泣きはじめた。



白い頬を伝うしずくが、朝露のようにキレイだった。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



結局その後、ベトベトンは「もう人や萌えもんに危害を加えないようにする」という条件付きで
あの林の中で暮らすことになった。

バリヤードさんが言うには、時々マスターくんの手品を評価してもらうお客さん役に
なってもらうのだそうだ。

林を荒らす不届き者が現れても、ベトベトンさんがいればきっと追い払ってくれることだろう。


というわけでベトベトンさんとのぶつかりあいも無事解決し、毒にうなされていたディグダの子も
モモンの実のエキスのおかげですっかり具合が良くなった。

バリヤードさんたちは一晩泊まっていくことを勧めてくれたけれど、ディグダの子が
「ママはどこ?」と寂しげな声で聞いてきたので、ディグダのママ探しに出発することになった。

でもそれには大して時間は掛からなかった。
何せ、バリヤードさんたちのお家の近くまでディグダのお母さんが探しにきていたのだから。



「でぃ、ディグダーーっ!」

「ママ、ママぁーーー!」

「…もう、どこに行ってたの? お母さん凄く心配してたのよ…
 でも、良かった…ほんっとうに、無事で良かった…!」

「ごめんなさい、ママ…!」


親子の再会に水を注さないようにと、私たちはその場から静かに退散することにした。
そーっと忍び足で離れていこうとしたら、ディグダのお母さん…ダグトリオさんに
慌てて引き止められてしまった。


「ああ、お待ちになって!
 …貴女方が、ディグダを助けて下さったんですよね?」

「ええと…そういうことになるのかな?」

「何言ってるのよ」

「あれだけ必死になってたくせに!」

「ダンナ、今回は頑張ったもんねー♪」


主に頑張ってくれたのは、みんなのほうだと思うんだけど…

まあ、そんなわけで私たちはダグトリオさんに、今回のいきさつを話すことになった。


「…そうだったんですか。
 ありがとうございます! ディグダの命を救っていただいて…!
 もう、もう何てお礼を言えばいいのか…」

「ええええいやいやいや、そんなお礼を言われるようなことは何も」

「いいえ、貴女方はディグダの命の恩人です!
 何か私に出来ることがあれば良いのですが…」


そんな、お礼なんていいのに、ダグトリオさんは必死に恩返しの方法を考えているようだった。

参ったなあ…と思った刹那、ダグトリオさんは何かを見つけたのか、おずおずと話しかけてきた。


「あのう…貴女は、ジムリーダー戦に挑んでいるのですか?」


どうやら私の服に付けてあったジムバッジが見えたらしい。
ダグトリオさんの質問に、素直にYESと答える。


「ならば、私を連れて行ってください!
 クチバシティのジムリーダーは電気萌えもん使い。きっと私の技が役立ちますわ!」

「えええええええ!?
 いやでも、ダグトリオさんには家庭があるだろうし…確かに地面萌えもんがいれば嬉しいけど、
 家族を引き裂くことなんて出来ないよ!」

「…で、でも…」

「だったら、こういうのはどう?
 ダグトリオさんについてきてもらうのはクチバ戦だけ。
 クチバ戦で無事勝利することが出来たら、ダグトリオさんは晴れてお役御免。
 ディグダの穴に帰ってもらう、ってのはどうかしら?」

「あ…」


さすがスピアー姐さん。
それだったら確かに家庭崩壊もまぬがれるし、私たちのバトルも助かる。


「…そう、だね」

「はい。それでご恩が少しでも返せるのでしたら」


おずおずと視線を向けると、ダグトリオさんは快くその案を承認してくれた。

さっそくリュックの中から萌えもんボールを取り出す。
ダグトリオさんの小さなおでこに、ちょん とボールをぶつける。

ダグトリオさんは全く抵抗せず、地面に転がった萌えもんボールはしばらくすると
萌えもん捕獲終了を示す「カチリ」という音を鳴らした。


本人に承諾の上でのことだったから、捕まって当たり前だったんだけれど…

久々の萌えもんゲットに、胸が否応無しに躍った。



「…やったー! ダグトリオ、ゲットだぜ!」

「……」

「ほらピカチュウ、そこは“ピッピカチュウ”って言わないと…」

「誰がそんなこっ恥ずかしいセリフ言うもんですか!」

「はあー、わかってないわねピカチュウ。こういうのはノリとか雰囲気の問題でね?」

「なっかっまの数はそーりゃやっぱりきっかりはっきり
 おおいほうがいい♪ ぐったっいてっきには」

「ちょっと待て待てプリン、エンディングはまだ早いっての!」



「…じ、じかいもお楽しみに?」

「やっぱり今回もgdgd か…」





…そんなこんなで、ダグトリオが(一時的に)仲間になってくれました。

次回、めざせクチバジム打開。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。