5スレ>>390


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    【6月の気だるい雨(前編)】

…また鬱になりそうな季節がやってきた、
ほぼ一日おきか、数日間降り続くぬるくて蒸し暑い雨…。
傘を差しても肌に張り付くような感触を拭えず苛立ちが募る上に
視界に入るものに更に激しい怒りがこみ上げてくる。

「公園を汚すんじゃねぇよ…」

買い物から帰る途中、公園を一直線に突っ切ればすぐに家に着くのだが、
この気だるい雨に歓喜を感じているのか、池から出てきたニョロモやニョロゾが忙しなく跳ねている、
お陰でぬかるんでいた土が水しぶきと共に泥へとなり変わり、汚らしく空と地面を交差する。

敢えて言おう、世間ではこの人間の少女と見紛う生き物達『萌えもん』に理解を示そうとしている研究者、
またはそれらと共に旅をし、鍛え上げて『萌えもんマスター』を目指す老若男女がいるらしいが俺は違う。

現実に振り返ればそんなものを目指す前に目先の問題に取り組むべきだ。
人間に捕獲された、または人の手で育てられた萌えもんは人間で言う常識の範疇に沿う行動をとるが、
野生のこいつらにはほぼ気分次第での行為しか見られないからタチが悪い。

文句の一つでもふっかけようものなら集団で襲い掛かってくる、奴等は少女という容姿にかこつけて
異を唱える者に容赦なく集団で排除しようとする非道な存在だ。
つまりだ、俺はこの萌えもんという存在が疎ましくて仕方がない、
人と似た姿をしているというだけで、その性質は狼少女そのものだ。
そんな奴等に理解を示そうとも思わないし、再教育をしてやろうとも思わない。

ザワザワ…! キャァキャア…!!

「……何だありゃ…?」

斜め先の並木の茂み辺りから騒がしい声が聞こえてくる、先程のニョロモ達とは違う集団が
騒いでいるのかとも思ったが様子がおかしい。

「……な…せ…! さ……るな……!!」

雨の音が邪魔をして良く聞き取れない、しかし危機的な叫びを発しているような声に聞こえ、
気になって足取りは正面でなく声の発生源へと進んでいた。

「さっさと出て行きなさいよ! アンタみたいな暗いのがいられると折角の雨が台無しじゃない!」
「う…るさい!! あたしはただ、ここに座っているだけだ! アンタ達に咎められる筋合いなんてない!!」

少し遠くから見てみる、どうやら集団のニョロモ達が茂みにいた一人の少女を見つけて、
気に入らないので追い出そうとしているようだ。

「殆んどガキのやる集団弱いものいじめだな…、みっともねぇ」

半ば呆れながら双方のやり取りを見る、丁度一人を囲んでいたニョロモ達の陣形に隙間が出来たので、
凝視するように抵抗する声の主に視線を向ける。
それはニョロモ達よりも少し背丈は高いが、幼さが顔に残る黒髪に赤紫の猫帽子をかぶった
黒いワンピースの少女だった、今も尚抗うようにニョロモ達を泥だらけの顔で睨みつける。

「あれは…確かニューラっていう…」

以前、TVで萌えもんトレーナージム戦を観戦したことがあり、挑戦者がこの萌えもんで大活躍していたから
記憶に残っていた。
しかし疑問が残る、なぜこの萌えもんはこんな所にずぶ濡れになって、ニョロモ達に罵声を投げかけられているのか?
野生であるなら仲間が近くにいるはずだが気配すらない、トレーナーらしき人物も見かけなかった、
こいつは一体何処から来て、なぜこうまでしてこの場所に留まろうとするのか…?

「あぁもうムカつく…!! いいから力づくで追い出すわよ!!」
「…う……! くぅ…!!」

リーダー格らしきニョロモが取り巻きに投げつける言葉、取り巻きのニョロモ達も同意見なのか
あっさりと頷き、ニューラの身体を掴み上げようと彼女へとじりじり寄ってくる。
一方のニューラは体勢が整っておらず、よろめきながら身じろぎして後退する。

「……ちっ」

舌打ちをしながら買い物袋を投げ、傘を閉じ駆け出す、その音に彼女達は視線を向け、
疾走してくる俺を警戒して身構えだす。

「うおおぉぉぉぉ!!」
「っ?!」

ばさぁっ!!

閉じていた傘をリーダー格のニョロモ目掛けて開きながら投げる、
予想していなかった出来事にニョロモ達は動揺するが、
リーダー格のニョロモは姿の見えなくなった俺を敵と判断して傘ごしから水鉄砲を放ってきた。

びしゅっびしゅぅっ!!

目くらましに傘を使った俺は傘の斜め横に移動していて、紙一重で貫通してくる水鉄砲を避けていた、
狙いはたった一つだったからだ。

がしぃっ! ばしゃっばしゃっ!!

「ちょ、ちょっと?! 何するのよ?!」
「いいから黙ってろ!!」

俺は傘を境に完全に孤立していたニューラを抱え上げるとそのまま公園の出口へ駆けて行った。
咄嗟のことで困惑していたニューラだったが、すぐに正気に戻り、逃げ出そうと暴れだす。
……言ってみれば完全な人攫いだ、人目があのニョロモ達だけで本当に助かった…。

「放せ!! 放して…! あたしはあそこにいなきゃ…うっ!? ぐぅ…!」
「?!」

暴れていたニューラが急に顔を顰めて呻き声を上げる、瞳に雫を溜めながら…。

「ま、待ちなさい!! アンタ関係ないでしょ?! そいつを置いてきなさいよ!!」
「うるせぇ!! こいつを公園の外に連れ出すんだからもう構うな!!」

俺は罵声を投げてくるニョロモ達に走り去りながら悪態をつく、
奴等からしてみれば自分達で追い出さないと気が済まないのだろう、
必死になって追い駆けてくるが先程の目くらましで随分距離を稼げたから逃げ切れるだろう……。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

「ぜはぁ…、ぜはぁ…、な、なんとか撒いたか……」
「……………」

傘を身代わりに使ったので家に着く頃にはずぶ濡れになっていた、着ている服が
張り付いて重く、気持ちが悪い。

「……悪かったよ、勝手に連れて来て、お前…あそこでやることがあったんだろう?」
「………別にどうだっていいでしょ…? アンタには関係ないんだから、
余計な詮索しないでよ……」

俯きながら、ぽつぽつと言葉を発するニューラ、辛うじて腕を掴まえているが、
離したらすぐさま公園へ戻ってしまうだろう、あんなバカ萌えもんのいるところへ
むざむざ行かせる訳にはいかなかった。

「………どうして、放っておいてくれなかったの? あたしなんかに構わないで素通りしてれば
こんなに濡れることもなかったし、怪我しそうになることもなかったのよ……?」
「………俺はバカな萌えもんが嫌いだ、集団でリンチしてくる奴もしかり、
 お前みたいに意地を張って波風を立てようとする奴……」
「くっ……だ、だったら…!!」
「俺は嫌いだろうがなんだろうが、涙を堪えて抗う奴を無視できるほど
落魄れちゃいねぇんだ、わかるだろ?」
「……っ………!」

ニューラは慌てて自分の目を手で隠す、雨と混じってかなり分かりにくくなっていたが
彼女の両の瞳からは一筋の涙が流れている跡があった。

「…オイ、いつまでも外で会話させる気か? 折角家に着いたんだから
早く入るぞ? シャワーと茶ぐらいなら出してやるから……」
「……………」

彼女は首を盾にも横にも振らず、俺が引っ張る先に俯きながらついてくる、
意思は示さないが、肯定と受け取ってもいいだろう、
俺は何処までも意地っ張りな奴だと思いながら家のドアを開けた。

「ただいま」
「お? おかえり~、なんやえらく時間かかったやんか~って、なんやその娘?!」
「……?! ぇ…? ぁ…ぅ……?」

あつかましい口調で迎えに来たのは母さんの萌えもんのゴルダックだ、
別にジョウト、コガネの方の出身ではないが、このように方言混じりの変わった萌えもんである。
俺を無視して困惑しているニューラの側まで来てジロジロと眺めだす。
ニューラが困惑するのも分かる、萌えもんが嫌いと言っていた俺の家に何故彼女がいるのか、
とりあえず話すのが面倒だったので、後で話してやることにする。

「アカン、アカンで自分、こないな可愛えぇ娘攫ってきおって…そっちの趣味あったんか?」
「違う!! あ、いや…半分は当たりか…まぁそれは兎も角としてこの娘を風呂に入れてやってくれるか?」
「ん、別にええで、それにしてもえらい濡れてるな~、せやな、こんな怪しい兄ちゃんから追いかけられれば
泥だらけになるぐらい必死に逃げるやろ」
「………おい、ゴル姉、俺のことを意地でもそっちの趣味のある奴にしたいらしいな…」
「なははは、冗談やて…」
「……………」

俺達二人のやり取りについていけなかったのか、言葉を失くしてしまうニューラ、
傍から見ればこんなやり取りは珍しい、大体はトレーナーと萌えもんの主従関係のようなスタイルが主流だが
どうも俺はこんなくだけた態度のゴルダックに姉のような意識を持ってしまう。

「あ…それとよ…この娘、身体の何処かに傷が出来てるかもしれないんだ、悪りぃんだけど
注意して洗ってくれるか…?」
「…分かったわ、もし何か打ち身でもあるんやったら後で手当てもしてやらんと…」

ニューラに聞こえないように小声でゴルダックと接し方を確認しあう、
多少ふざけてはいるが、彼女もこの娘の状態が普通ではないことを察してくれているようだ。

ぐいっぐいっ

「お? どうした?」
「……二人して、何の話をしてたの…? …あたしのこと…?」
「え?! い、いや…違うぞ?!」

しまった、気付かれていたか…、しかも変にどもってしまったために変な風に思われたかもしれない。
冷や汗交じりに、にこぉっと笑いを返すとニューラの疑いの眼差しが更に強くなる。

 (ま、まじぃ…どうすっかな…?)
「あーニューラちゃんでええんか? 実はな…こいつロリコンやからウチにこっそり
スリーサイズを調べてくるように頼んできたんや、アホやろぉ?」
「んなぁっ?! お、おい…俺はそんなこと頼んで…」
「………それ、本当ですか…?!」

きっ! と鋭い眼差しで俺のことを睨んでくる、疑いの眼差しはいつの間にか怒りの形相に変わり、
次第に彼女の指から爪が伸びだした。

「ま、待て…誤解だ…、濡れ衣だ、そんなこと言う訳…」
「なんや、さっき耐水性のデジカメあったか? って訊いてきたやんけ、まだ違う言うんか?」

ぷちっ

「…この、変態ぃぃぃぃぃ!!!」

ばりばりばりばり!

「ひぎいぃぃぃぃぃっ!!」

疑いの視線は無くなったが、俺は顔に網模様の傷が出来るほど強く引っ掻かれてしまった、
ゴルダックは笑いながらそれを見ていて、無性に腹が立った。
彼女のサポートで難を逃れたわけだが、後できっちり制裁をしてやると心に誓う。
ずぶ濡れの身体を抱えるようにタオルで拭きくしゃみをしながら部屋に向かう。

これがニューラとの初めての出会いだった…………。

                          続く














                       【作者 灰神楽】
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