5スレ>>447


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 日本晴れである。
 それ以外の言葉では言い表せないぐらいの日本晴れである。
 絵の具を溶かした真水のように澄んだ青色が空を彩り、天上の球体を一層映えさせている。
 詩人がいれば歌を詠み、画家がいれば絵を描き、ほのお萌えもんがいればえんほうしゃをぶっ放す。
 そんな平和をイメージさせる、そんな天気。まさしく日本晴れである。
 ある公園ではこの天気に便乗して、マダツボミとナッシーが日光浴と洒落込んでいた。
 ナッシーは大木に寄りかかり、マダツボミがそのお腹に添え物のように乗っている。
「はふぅ」
「いやー、久しぶりだねぇこんな天気は」
 誰かカメラを持って来い。このワンシーンは晴れの幸せを象徴する一枚となるだろう。
「ナッちゃーん。こんな日和がずっと続くといいのにね」
「そうだねマダっち。今のうちにお願いしておこうよ」
「うん。神さま神さま。どうかこの素晴らしい天気がいつまでも続きますように」
 柏手を打つマダツボミ。おまけにナッシーがお辞儀で追い討ちをかける。
 その純真な姿勢に、たまらず盗撮をやっちまう不届き者がいるのも平和である証に他ならない。
 こんな平和をいつまでもとお願いする者達の祈りをどこの神さまが否定するだろうか。
 彼女らは欲も見栄もなく、ただこの日本晴れがずっと続けばいいなと、それだけを祈っているのだ。
 ありえない。そんな非道はあってはならない。
「あンの平和ボケがーーーーーーーーーーーーーー!!! 誰に断ってこんな晴れ晴れとしてくれてんのよ!」
 あった。
 平和の象徴コンビの遥か上空を、綺麗だがしかしドスの効いた叫びが通過した。
 叫びはどうやら実体を持っており、高速でのそらをとぶですら発散出来ぬストレスを虚空にぶちまけていた。
 少女達が祈った対象ではない方の神さま、海の神ルギアだった。
「上等じゃない、今日こそ白黒つけてやろうじゃないあのいい子ちゃんぶりっこめぇ!」
 それは、白銀の髪と翼が上手い具合に太陽光に反射して、地上には一切その存在を知られなかった。
 そうだ。この話は残念ながら、晴れの平和にのんびりする民の話ではない。
 言うなら逆だ。この話はそうやって楽しんだ民にこそ知られてはいけない。
 だって神さま達の現実なんて、興ざめもいいところではないか。



「ホウオウ! いるんでしょホウオウ!」
 和の匂い漂う木造の塔にルギアは飛来した。
 速攻殴り込みの勢いだったが、神さまは上空で旋回しつつもう一人の神さまの名前を呼ぶに留めた。
 呼ぶなんて生易しい音程ではなかったが、それはそれで置いておきたい。隅に。
 平和には到底似合わない舌打ち。
「吾に畏れをなして逃げたか。ならいいわ、吾の好き勝手にさせてもらうわよ」
 神さまは翼をはためかせ、ゆっくりと塔の頂点に降りたとうとする。
 やはりその姿は威厳たっぷりで、口の悪さを知っていても崇めなくてはならないと思わせる。
「あら?」
 ふと着地点を確認して、神さまは何かいると知った。
 それから思い返してみる。自分が今どんなことをしているのか。
 空が文句のつけどころしかない日本晴れで、威厳たっぷりの萌えもんがその何かに向かって降り立っている。
 考えながら近づいてみると、その何かは、腰にボールを連ねて片手にもボールを掴んで、自分を今かと待っている。
 あかん。これホウオウの二番煎じやないか。
 威厳に殺意が込められる。
「おっしビンゴ! これで伝説の萌えもんが今こそ俺の手に」
「ならんわタコ人間」
 どうせ自分と釣り合わないだろう萌えもんを出させる前に手を下してやる。
 不意打ちのエアロブラストは見事その何かを切り刻んだ、だと残酷なので塔から落ちたぐらいにしておいたようだ。
 まったくお優しいことである。
 気を取り直してエアロブラストの影響で変化した空気の流れを調整しつつ、なんとか塔に着地する。
 息を吸うと陽光をたっぷりに浴びた、生きている森の匂いが胸に広がった。これが何百年も前に造られた塔の匂いだろうか。
 歩く度に鳴る床の軋みにも風格すら感じる。自分の住処に比べるとなんと綺麗でなんと神々しい建造物ではないか。
 やはり向けられる信仰心では自分を含めた同類の群を抜いている。
「さてと。これだけ騒いで出てこないとなると、本当に出かけてるのかもね」
 ちくりと感じた悔しさを胸に閉じ込め、ルギアは近くの壁によりかかった。
 あいつの出かけそうな所は全く予測がつかないが、これからどうなるかの予想は立つ。
 対決の前にストレス発散させといても罰は当たらないだろう。当てる権利は自分にあるのだが。
 額に流れる汗を懸命に拭っていたら、突然床が真下から叩かれているように響いた。
「お、来た来た」
 この頂点まで登る資格を持っているのは何もさっきのような人間だけではない。
 もちろん凡百では駄目だが、そうでなければ萌えもんでも登って来る事がある。ルギアがいい例だ。
 この場合の凡百とは、人々に畏れられるような伝承がない事である。
 上がってきたのは赤色と黄色の二人。記憶では三人だったのだが。
「我が名はエンテイ! 曲者め、姫様の留守を狙って何を企むっ」
「同じくライコウ! ホウオウ様には指一本触れさせぬぞ下郎め」
 意気揚揚と名乗りをあげると同時に威嚇を行う。
 うーむ、しかし相手が悪いぞお二人さん。
「なんだあんた達だけか。スイクンは? ねえスイクン」
 急転直下天地逆転。
 永遠に訪れないでほしかったと、まるでテストの答案を見られた小学生みたいになってしまった。
「な、ル、ルギア……様」
「何故、ここに?」
「あんた達護衛怠けてるんじゃない? さっき人間がここまで来てたわよ。落としたけど」
「さ、さっきの人間は構わないのです。きんいろのはねを持っておりましたから」
「にしては吾に歯も立たなかったけどね。あれ持ってればいいやとか、やっぱり怠けてるじゃない」
 これが怒り顔での説教ならまだ良かった。
 悪意と侮蔑たっぷりのしたり顔で仕草も大きいのだから、言われる方はたまったものではないだろう。
 もちろん本人がそれを狙っているのは言うまでもない。
「お言葉ですがルギア様。そもそもホウオウ様への挑戦者を何故ルギア様がお相手なさりますか」
 エンテイ。
 帝王の名を象徴する熱を携え、火山が生まれる度に誕生すると伝えられる炎の長。
 伝承にあえて口を挟むなら、火山が生まれる度に誕生するのではなく、彼女が火山を生む張本人なのだ。
「その通りです。その人間をホウオウ様が万が一認められたらどうするおつもりでしたか」
 ライコウ。
 皇帝の称号を名実共に事実とし、雷光の名に相応しい白と黄の体躯で大地を駆ける。
 落ちる雷のような雄叫びは、無謀にも挑んでしまった敵を絶望と尊敬に叩き落す。
「うっさいわね、じしんするわよじしん。得意じゃないけどこんな古ぼけた塔と三下ぐらいなら余裕で潰せるんだからね」
「ご乱心なさらないでくださいっ」
「我々の口が過ぎましたっ」
 以上、彼女達の神と同格であるルギアには無意味なプロフィールである。
 ああ哀しきかな縦社会。神さまにも上下関係はあるのでした。
「それでスイクンはどうしたの? あの娘はあんた達と違ってちょっとは話が分かるんだけど」
「スイクンはただいま放浪中でございます。人間に追われておりまして、戯れついでにと」
「確かクリなんとかと申す者だったかと」
「あっそ。まあ生きてればどこかで会うでしょう。
 そ、れ、で」
「は?」
「それで?」
 二人が疑問符を浮かべて数秒、今度は切り刻む気満々のエアロブラストが吹き荒れた。
 何らかの祈願を込めて打ち付けられたであろう床やら壁やらが一瞬でただの木材に還っていく。
 瞬時の判断と長年の経験で飛び跳ねていなければ、エンテイとライコウの顔が青ざめる。
「あー! ホウオウ様が愛でてらしたお供え物のピッピ人形がぁ!」
「何をなさるのですか!」
 当然の反応と質問。
「麦茶に決まってるでしょ! こんなクソ暑い中飛んできた吾に何のもてなしもなくて筋が通るか!」
 滅茶苦茶な答えだった。
「どうせお供え物にあるんでしょ、ああそれと氷菓子も欲しいかしらね、扇風機はないだろうから団扇で許す」
 そんなに暑いならさっさと下の階に降りて室内で休めばいいだろうに。
 極々常識的な感想はしかし、暴君の前には意味どころか露出させてもならない。
「はっ。ただいま」
「気を回せず失礼を致しました」
「膝着いて忠誠誓ってるヒマあったら走りなさい。あんた達それだけは得意なんだから」
 御意に、と二人は走るよりは消えたと言った方がいい速度でその場を離れた。
 何故あの人があたし達を使いっぱにするんだ、自分では我々のような眷属を従えられないくせに、とか聞こえたので、
戻ってきたらじしんをぶっ放そうと固く決意する海の神さまであった。



 先ほどまでの悪ふざけとは一転、ルギアはその神経を尖らせていた。
 瞑想と自己暗示を繰り返し、ひたすら自分を自然と溶け合わせる作業に没頭する。
 何も無い状態でそんな事をすれば、天気は大荒れに荒れ、豪雨と強風が街を襲うだろう。
 それが起きず、まだルギアの神経を逆撫でするような日本晴れなのは、やはりそういう事だ。
「あいつ、やっぱりこの天気は意図的にしてやがるのね」
 しかし状況には明らかな変化が見えてきた。
 それは雲が出てきたとか天気雨が降ってきたとかではなく、むしろ逆だ。
 紫外線がはっきり見えるぐらい強くなってきていた。
 つまりはこの近くでにほんばれを行う萌えもんがいるという事であり。
 日差しが強くればなる程、近づいているという事だ。
 ふと上空を見やった。
 虹が出ている。
「来たわね、待ちくたびれたわ」
 ルギアの頬に笑みが浮かぶ。ゆっくりと立ち上がる。
 虹は次第にカタチを帯び、気づけば七色の光を纏った萌えもんとしての体裁を見せている。
 それはルギアがこの塔に降りた時と同じ光景だ。
 しかもこれはパクリでも二番煎じでもない、紛れも無い本物。
 純白の着物で赤色の翼を飾った、もう一人の神さま。
 ホウオウは笑顔でルギアを認識した。
「あら? ルギアさんじゃない。どうしたの、遊びに来るなら来るって」
「相変わらずいい娘ちゃんぶってんじゃないわよこのエセ巫女がぁ!」
 三回目のエアロブラストは切り刻むどころかカタチも残さぬ気合と共に繰り出された。
 空気を根こそぎ刻み込み、元よりない形を崩し、消滅させる。
 そのまともではない殺気に、ホウオウも反応した。
 ホウオウといえども受けきれぬと、虹の光を火炎に変えて前面に展開する。
 真空状態ですら発動する猛火が、必殺の一撃を悉く受け止める。
 炎は、刃が通過する度に形を変えながら、しかし消えずに灯り続ける。
 しかしやはり受けきれない。全弾を打ち尽くした後、ホウオウは体中に刀傷を刻んでいた。
 追撃はなかった。ホウオウは何事もなかったように塔に降り立つ。
 ルギアが苦々しい思い出を語るように呟く。
「やっぱりせいなるほのおか。キライなのよねそれ」
「そう言われても、これが妾の十八番だもの。ルギアさんだってエアロブラストがあるじゃない」
 じこさいせいで戦闘の傷を癒しながらも、しかしホウオウは笑顔だった。
 ルギアが毒気を抜くように肩を竦めた。
「はいはい。でも今の一撃止められたらガチンコは無理ね。吾は後二発、あんたはまだ一発使っただけだもん」
「そうね。また縁があったらにしましょう」
 乗り込んだ勢いはどこへやら。
 結局一回、内容こそ濃かったが、ただの一回の交錯で最強の矛は収まった。
 もしかしたら誇張も何もなく、この二人はいつもこんな付き合い方なのかもしれない。
「ちょっと待っててね。エンテイにお茶でも持ってこさせるから」
「お茶はもう貰ってるわ。それよりホウオウ、あんたどういうつもり?」
 和解ムードが一転、ルギアはじとりとした目でホウオウを睨む。
 ホウオウは虚をつかれたように首をかしげた。すかさず突っ込む。
「ぶりっ子すんな。まったくこの前吾が同じ事したら三下連れてうずまきしまに乗り込んだくせに。
 『この不良娘が何やってくれてるの』ってだいもんじぶちかましてくれたじゃない」
「はあ。確かにあの時はついはしゃぎすぎちゃったわね。でも今みたいにルギアさんがハイドロポンプで消したでしょう」
「だから、今回みたいに乗り込んだ吾の心境もよーく分かるわね」
「? 言ってる意味がよく?」
「だからね、吾の許可なしにこんな日本晴れにしていいと思ってるのかって事よ。
 うずまきしまの連中が暑い溶けるなんとかして神さまって騒いでロクに眠れもしない」
「あー、はいはいなるほど。このお天気の話なのね」
 こくこく頷いて、いかにも納得したとアピールしているみたいだ。
 大げさにも見えるぐらいなるほどなるほどと自分に言い聞かせるようにも言ってみせて。
「これ、妾のせいじゃないわよ。ルギアさんに殴りこまれるの分かりきってるもの」
 あ、ヤバイ。
「は? じゃあ誰が出来るってのよこんなの。
 並みの萌えもんがジョウト全体を日本晴れに出来るわけないでしょ」
 至極当然の疑問に、しかしホウオウは被りを振る。
「でも妾じゃないの。するとしても、うずまきしまは晴れにはしないわ」
「じゃあ誰が? 自然現象? ここにきてそんなオチ?」
「それも違うわ。妾もこの天気が不思議で不思議で、でも気持ちはいいからちょっと出かけてたの」
「よね。自然現象にしては作為的なモノを感じたから。
 え、でもあんた以外でこんな大それたバカの出来る奴?」
 アテが外れ、ルギアは顎に手を当てて思考を始めた。
 しかし流石は神さま、答えなんてそうやって考えるまでもない、とすぐに思い至る。
 ホウオウ以外でジョウト全体を包む日本晴れを行える存在なんて一人しかいない。
「動くな!」
 ルギアがこちらに向けて濁流を放ってきた。
 これがいま話に出たハイドロポンプか!
 なんとかソーラービームで相殺したものの、その反動で姿を晒してしまう。
 これでも何年もマグマの下に隠れていたんだけど、やっぱり性に合わないな。
「グラードン! アンタが犯人か!」
 大正解だよ、ルギア。
「ちぇ、バレちまったか。やっぱり凄いなぁルギア」
 心から拍手を送る。祈る為ではなく、本当に賞賛したくなった。
 しかし判断が恐ろしい。エアロブラストならともかく、弱点のハイドロポンプは洒落にならない。
 ホウオウは途中から、というかルギアに言われてすぐ察していたらしく、驚いてもいない。
「いらっしゃいグラードンさん。遠路遥遥こんな田舎まで」
「いや、田舎なのはこっちだよホウオウ。ごめんな、あんたの縄張りで勝手に晴れにしちまって」
「それは妾にも言う台詞よグラードン。アンタの場合、勝手にしちゃうんだから仕方ないけど」
 カンカンだと思っていたが、意外と理解してくれている。
 そう。今回の日本晴れ騒ぎの犯人は我、ホウエンで大陸の神さまと持て囃されているグラードンだ。
 我は歩くどころか立っているだけで辺り一帯を晴天にしてしまう、ちょっとばかし厄介な体質を持っている。
 いつもならある奴の協力で抑えているのだが、今回ちょっとした事情でホウエンからジョウトまで訪れた。
 そしたらそいつの力が流石にジョウトまでは通じないらしく、我はひたすら雲をどかし太陽に出番を与えた。
 どうにかしないとまずいよなー、とぶらぶらしてたら、ルギアが怒り狂って飛んでいたのだ。
 ルギアは海の神さまだ。我は一縷の希望を抱いて後をつけたが、様子が意外に面白くて観察してたら、今に到った訳だ。
「いやホントにごめんなルギア。まさかあんたの縄張りまで晴れにしてるとは思わなかった」
「本当よ。この後ウチまで来なさい。みんなにも謝ってもらわないと示しつかないわ」
「へへー」
 上半身だけ土下座する。ホウエンの神さまである我のちょっとした意地であった。
「そういえば、なんでわざわざジョウトまで? 用があるなら翼のある妾の方から行くのに」
「ああ、カイオーガと喧嘩した」
「アンタ達また喧嘩したの? 最初の大喧嘩でもう懲りたって言ってたじゃない」
「だってあいつ滅茶苦茶なんだぜ?
 我が御神酒の後は蕎麦がいいって言ってるのに『朕はお茶漬け以外認めませんわ』って聞かないんだ」
「喧嘩ばかりだとまたレックウザが止めにくるわよ」
「今度告げ口しておこうかしらね」
「あいつはキライだ!」
 心から言うと、何故だか二人は大笑いした。
 それが可笑しくて、我も笑った。空には太陽が当たり前のようにいて、何の遠慮もなくみんなを照らしている。
 ルギアには悪いけど、やっぱり天気は日本晴れがいい。神さまも民も楽しく過ごせて最高だ。
 カイオーガも来れば良かったのにな、と思いながら、エンテイが持ってきてくれた麦茶を手にとった。





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