5スレ>>478


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―――ねぇ? たなばたってなんのひー?―――

お隣さんから声が聞こえてくる。

―――七夕はね、天に住んでる織姫さんと、彦星さんが会える日なのよ。―――

教える言葉を耳にしながら、俺は軽く身支度を整えて家を出た。

―――ほら、みてごらん? 綺麗でしょ?―――
―――わぁ~! すごくきれい~!―――

そう、今日は七夕。
彼女に会える唯一の日。



――――――――
――――――
――――
――

近くの山の頂へ向かうのに小一時間はかかる。
上り坂のオンパレード。夜も深まりつつある中、俺はバイクで山道を登る。

(去年までは、自転車で登ってたな…あの時は3時間もかかったっけ…)

何故3時間もかけて山を登っていたのか。 そこには、理由が存在していた。
全ては、彼女に会うために……

山頂の展望台に着く。所要時間は1時間弱。
やっぱりバイクは早いなと思いつつヘルメットを脱ぎ、さらに歩いて天辺まで登った。



彼女は既にいた。展望台の手摺に座り、夜空を見上げていた。
俺の気配に気付くと、彼女は振り向いて驚いた表情を見せた。

「あれ、今年はすごく早いね?」
「うん、今年バイク買ってね。おかげで早くこれたんだ。」

俺は彼女の座る手摺まで歩みを進めた。
彼女は手摺からふわりと浮き、一回転して俺の横に立った。

「1年ぶりだね♪」
「うん、1年ぶり…、ジラーチ…」

俺を見つめてニッコリと笑う彼女――ジラーチ。
そんな彼女の笑みに俺の顔も緩くなる。

「あなたに会うのも、これが3回目?」
「…そうだね。」

俺は既に2回、ジラーチと会っていた。


   最初が2年前のこの日、この場所で。
   あの頃は、1日前に交通事故で両親が死んで、ショックが激しかった頃だったな…
   やることすることが何も手につかずずっと上の空。
   気づいた時にはジラーチに呼び止められていた。 そう、ちょうどこんな夜空の日に…

   俺は、手摺を飛び越えようとしていたらしい。
   それを引き止めてくれたのが、ジラーチだ。

   ―――何があったのか知らないけど、私に話してみて? よかったら協力してあげるから―――

   あの言葉がなかったら、今頃……

   ―――死んでしまったら何もできない、あなたには、まだやることが多いはずじゃない?―――
   ―――生きてれば、何でも出来るの。 両親の分までも、ちゃんと生きなきゃ―――

   夜も明け始めた頃、ジラーチは空へ消えていった。
   ―――もしよかったら、1年後のこの日にここで、また会いましょう―――
   ウインクをして、この言葉を残して……



   2回目はその翌年だった。
   ようやく普通の生活に戻れた俺は不自由ない生活を送っていた。
   だけど、何かが足りない。それが何なのかもわからない。
   悩んでも何も解決しない。そんな中で思い起こされたのが1年前のあの言葉だった。

   1年前、同じ時間、同じ場所
   1年ぶりに会ったジラーチは何も変わってなかった。
   ―――変わったね、よかった―――
   ニッコリを微笑みをくれるジラーチ。
   俺は、疑問を投げかけてみることにした。

   ―――心を許す人がいないからじゃない?―――
   足りないものはこれだった。自分の胸の内を素直に吐き出せれる人がいない。

   ―――私? でも、1年に1度しかあなたに会えないから… そうだ、トレーナーになってみれば?―――


   そして今。悩んだ挙句、俺はもえもんトレーナーになった。
   手持ちにはミズゴロウが1人。まだバッヂを1つも持ってないヒヨっ子なわけなのだが。
   それでも、ミズゴロウと触れ合うことで、ジラーチの言った意味がわかったような、そんな気がしたのだ。


「そっか、幸せそうに暮らせてて何よりだね。」

まるでこちらが丸見えかのような発言だった。

「うん…」

ここで、俺はふと疑問に思ったことがあった。
―――何故、2年前、ジラーチはこんな場所にいたのだろうか…?―――


答えは俺の口から質問が出される前に出された。

「…私ね、ここの夜景が好きなの。」
「…?」
「あなた、過去2回とも気にしてなかったでしょ…? ほら。」


 遠くに見える街のイルミネーション
 暗い山に映えわたる一面の星
 そして、際立つ天の川

今までに見たことのないような光景に俺はただ唖然とするしかなかった。
どうして、こんな光景を知らなかったのだろうか。過去に2回も、ここに来てるというのに…

「年に一度、この天の川が見れる日にだけ、私はここに来て、疲れを癒してるの。」
「疲れ…?」

彼女から出た意外な言葉。 疲れ…? 一体何の……

「私ね、みんなの願い事を叶えてあげてるの。」
「…!」
「流石に、全ての願いを叶えるのは難しいのだけどね。」

彼女はちょびっと舌を出して苦笑いした。

「こうやって、星の降る夜に飛び回って、みんなの願いを掻き集めてるの。 …最近は、変な願い事も多くて困ってるんだけどね…」

彼女は再びふわりと手摺に腰掛けると、空を見上げた。
俺も黙って空を見上げる。
天の川に挟まれた二つの輝く星に、心が吸い込まれそうになった。

「ねぇ、織姫と彦星の話、知ってるよね?」
「うん……それが…?」

顔を俺に向けるジラーチ。

「私達って、似てると思わない?」
「…え?」

織姫と彦星…夫婦(めおと)だけど天の川に隔てられて1年に1度しか会えない2人…

「確かに…、1年に1度しか会えないのは似てるよね。」
「違うのは、1本の繋がり方。」
「……?」

何を言ってるのか俺には理解できなかった。それを尻目に、ジラーチは空中に2本の紐を描いた。

「織姫と彦星って、こんな感じ。」

ジラーチが手でチョンと触ると、紐は互いに結び合う形になった。

「で、私とあなたはこんな感じ。」

再びジラーチが空中に紐を描く。 その形はランベルト環に似たような形であった。

「繋がってるけど、繋がってない。」
「…どういう意味…?」
「私とあなたの心は、繋がってるの。そう思わない? 2年前から……」
「……」

思わないわけがない。

「でも、繋がるわけにはいかないの。それはトレーナーのあなたでもわかるよね?」
「……うん。」
「…私ね、あなたのことが大好き。」
「!? え、ちょ…!?」

突然の言葉に心が揺れ動いた。

「だって、3回も話したのはあなたが初めてだし… それに、あなたといると心が安らぐの。」
「……」
「でも、私にはやらなくちゃいけないことが沢山あるの。」
「…皆の願いを…叶えることだよね?」
「うん。だから、一緒になることはできない、そう言いたかったの♪」

一言も一緒になりたいとは言ってないような……?
と、思った矢先にズシリと重く感じる俺の右ポケット。
中には………そうか、ジラーチはこれを見越して……

「ね、あなたともっと、この夜空を見てたい……」

ジラーチの声に甘えが含まれていたような気がしながらも、俺とジラーチは夜空を見上げ続けた。


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――

夜も明け始め、星が霞み始めたころ…

「今年もこれで、見納めね。」

手摺から飛び降り、ふわりと俺の前に現れたジラーチ。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「それじゃ、また来年会おうね♪」
「う、うn…!?」

返事をしようとした矢先、口が何かによって塞がれた。
俺は、ただ目を点にするしかできなかった。 ジラーチの顔が、目の前にあるのだから。
衝撃の刹那の後、ジラーチは照れ臭そうに舌を出した。

「それじゃぁ、ね♪」
「うん、また……」

手を振りながら、彼女は空高く飛んでいった。
キラキラと、後に星を残しながら。

俺は、大きくて長い『流れ星』を消えるまで見送った。

ジラーチを捕まえたいという願いを心の奥にしまい、彼女の永遠の幸せを願いながら……
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