Panther:マリア・ブラッドレイ

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*人間の形をした皮袋に才能だけを詰め込んで *あの人は一体、何をつくるつもりでいたのだろう &bold(){◆前述} 便宜上「Panther」は異能として扱われるが、厳密には超能力といった類のものではなく、 むしろ、「マリア・ブラッドレイと呼ばれる個体」そのものを指した呼称と表現する方が正しい。 これはマリアが、CSチルドレン及び“塔”の目的を反映した個体として造られた事に所以する。 ここでは「Panther」という“能力”を別の視点から捉え、その裏にある背景について記述していく。 &bold(){◆“塔”} “塔”とはマリアが造られた研究所であり、元々は「深層地熱発電」の研究施設だった場所である。 “塔”の建築された場所は活動を停止した火山で、マグマ溜まりが地表近くに安定した状態で残っていた。 大量の火山ガスが吹き出た跡の縦状洞穴に、底にまで届くほど長いシャフトを通して水を流し込む事で、 水はマグマ溜まりで水蒸気になって地表近くまで上昇し、そこで冷えて水になり再び地の底へと戻っていく。 その上昇・下降のエネルギーでタービンを回す事で、ランニングコストほぼゼロの“永久機関”を実現する。 以上が「深層地熱発電」の概略であり、この“塔”が建築される事となった、そもそもの理由であったとされる。 シャフトの最深部は実に20000m、モホロビチッチ不連続面の少し上にまで届くほどの凄まじい深さであり、 もしこれが“上”に向かってのびていたとしたら、上成層圏(オーバー・ストラトスフィア)にまで到達している。 言うなれば、途轍もなく高い「下へとのびる塔」であり、この研究施設が“塔”と呼称されている所以である。 そして「ある研究者」、後にマリアの母親となる人物がそこに目をつけ、研究所を建築する事を決意する。 “塔”がただの発電用シャフトでなく、彼女の夢を叶える聖地となったのは、まさにその日である。 &bold(){◆研究スタッフ} 1970年代、世界でも最初にヒトゲノム研究を進めていたのは、日本という小さな島国だった。 しかし、日本の学界はそれを受け入れないあまりか、彼らを異端として追放してしまう事となる。 “塔”は彼ら日本のゲノムエリート達に、高額の契約金と当時最先端の研究設備及び環境を提示、 その結果、“塔”の研究スタッフの多くは、ヒトゲノム研究を目的とした日本の研究者達であった。 研究にアメリカ合衆国が関わっている事は言うまでもなく、何らかの裏取引があったと予想される。 現在、アメリカがゲノム技術で莫大な特許益を生んでいるのは、こうした背景によるものである。 &bold(){◆CSチルドレン} “塔”に対する資金援助は、科学技術の発展とヒトゲノム解析という名目で行われた。 しかし、その真の目的は「完全なる生命体の創造」であり、その一点のみに向けて収束されていた。 CSチルドレンの「CS」とは「Chirist Second」の略であり、「第二のキリストとなる子供達」の意である。 彼らは「超人」を造るための実験動物であり、その扱いはモルモットに対するそれと何ら変わりなかった。 「ヒトゲノム計画に於ける遺伝子検証」という名目で、実に13体ものCSチルドレンが生み出される事となる。 マリアは「CS-13」として造られた13体目であり、前述の「ある科学者」が代理母となって生み落とされた。 彼らの殆どは何らかの先天的欠陥を持ち、或いは実験に耐え切れず、或いは能力不足の烙印を押され、 最終的にCS-13、即ちマリアを除く12体は“処分”され、その短く不幸な一生を終えていく事となる。 &bold(){◆人体実験} 戦争でも実証されている通り、人道や倫理を無視すれば、科学技術は爆発的に発展する。 “塔”での研究もそれに倣い、「理論よりも実践が優先される」というコンセプトの上で行われた。 マリアに施された人体実験は凄惨を極めるものであり、薬物の過剰投与や外科手術は勿論の事、 癌腫瘍から摘出された細胞株の移植、遺伝子の組み換えによる品種改良など、枚挙に暇が無い。 その中で、能力の劣った者は「超人」の候補枠から外されていき、次々と“処分”されていった。 マリアはそうした競争を勝ち残った成功例だが、それすら成果としては不十分だったという。 &bold(){◆障害と欠陥} マリアはその出生事情から超人的な能力を持つ一方で、様々な欠陥や障害を抱えている。 最も分かりやすく顕著な例として、色素の抜け落ちた毛髪と肌、血の色が透けた瞳が挙げられる。 色素欠乏の原因が具体的に何なのかは不明だが、マリアはこれが原因で紫外線に弱く、視力が低い。 特に視力の低さは極端なもので、太陽が出ている間は殆ど物体の輪郭程度しか視認する事が出来ない。 また、その他の鋭敏過ぎる感覚機能から、騒音・異臭・味覚・皮膚感覚などに関して極端なまでに神経質。 他にも極めて高燃費なエネルギー効率や、性徴・発育に関する発達障害とそれによる生殖能力の欠如、 染色体異常、ホルモン異常、脳障害などあらゆるものが挙げられ、サヴァン症候群の傾向も見られる。 或いは、凄惨な出生と境遇の中で育まれ、形成された精神疾患と言い換える事も出来る人格こそが、 彼女の抱える最大の障害・欠陥であり、彼女の後の人生を決定付けたものだったのかもしれない。 &bold(){◆過重力エレベーター} CSチルドレンの能力開発を目的として、“塔”の頂上から最下層にかけて増築された、特殊なエレベーター。 重力加速度は1G=9.8m/s2、つまりエレベーターをそれと同じ速度で上昇させれば、通常の二倍の重力がかかる。 また、気圧は“下”に行くほど高くなるため、エレベーター内の気密を解除すれば高気圧空間を作り出す事も出来る。 “塔”の最下層である深度20000m、そこでの気圧は実に地上の約4倍、つまり4気圧の超高気圧状態という事になる。 人体の外殻構造そのものには大した圧力でないものの、その実、体内にはとんでもない影響を及ぼす気圧数である。 1気圧下でのみ働くよう設計されている人間の肺にとって、それだけ濃い空気は液体と殆ど変わらない扱いを受ける。 その結果、肺は正常に機能する事が出来ず、信じ難い事に「空気中で溺れる」という異常事態が起きてしまうのである。 マリアは一日の大半、人体実験を受ける以外の殆どの時間を、過重力エレベーター内で過ごすよう強要されていた。 彼女の驚異的な筋力と心肺機能、異様に引き締まった体躯と軽量さ、極端に広い関節可動域といった身体的特徴は、 過重力エレベーター開発の目論見通り、過重力・高気圧下という生活環境が多大な影響を及ぼしていると言えるだろう。 しかしその後遺症として、彼女は水中で「身体を締め付ける水圧と、満足に呼吸が出来ない息苦しさ」を過剰に捉え、 過重力エレベーター内及び、“塔”での凄惨な生活を思い出してしまうために、未だに泳ぐ事が出来ずにいる。 &bold(){◆立体把握幹と生態羅針盤} 前述の過重力エレベーターでは、その機構を応用する事で作り出した、人工無重力下での実験も行われていた。 (過重力エレベーターを重力加速度=9.8m/s2で下降させる事で、エレベーター内部を疑似的な無重力状態にする) その影響によって発生したのが、「立体把握幹(Solid sensitive)」と「生態羅針盤(Biomass gyroscope)」である。 「立体把握幹」とは空間内に存在する物体を三次元的に捉え、その物体の次の動作を高精度で予測出来るというもの。 「生態羅針盤」はより鋭敏な平衡感覚とも言える能力で、重力に対する自身の角度・方位を正確に計測する事が可能。 マリアはこれらを併用した高い空間把握能力を持ち、それによって並外れた認識力・直感力・洞察力などを発揮する。 &bold(){◆研究の挫折} マリアが13歳の誕生日を迎えた日、彼女はいつものように人体実験を受けていた。 今となっては、その実験がどんなものだったのかは不明だが、それによってマリアは暴走。 変性意識状態、所謂「トランス状態」へと陥り、研究スタッフ全員の殺害という事件を起こす。 幸いにして、計画が極秘のものであった事と、そのものが見限られる寸前であった事から、 情報の不足でマリアの存在は発覚せず、脱走した後は孤児として保護される事となった。 “塔”のデータや未公開技術は、その後のマリアによって特許として売り捌かれたものの、 「ある科学者」が夢見た超人、「Chirist Second」は、とうとう生まれる事は無かった。 &bold(){◆「ある研究者」} “塔”を発電用シャフトから狂気の実験所へと作り変え、そこでの研究指揮を執った人物。 前述した記録では生命を弄ぶ魔女のように記されているが、その人柄はむしろ聖人的でさえあった。 ユダヤ系イタリア人である彼女は、元々、将来を有望視された、若く優秀な医学者として知られていた。 二十代でアメリカ人男性と結婚、娘を一人儲けるものの、その多忙さから結婚生活は上手くいかずに離婚。 女手一つで娘を育てる事となったものの、彼女は良き母親として娘に接したし、娘の事を心から愛していた。 しかしその娘は、当時の医学では治療する事の出来ない重病を患い、幼くしてこの世を去る事になってしまう。 医者でありながら娘を救う事の出来なかった彼女は、次第に「完全なる生命体」の研究へと没頭していった。 いかなる不条理にも屈する事の無い生命の創造、それに伴う科学技術の発展が世界を救うと考えたのだ。 結果的に研究は挫折、彼女自身も命を落とす事となるが、彼女が“塔”で生み出した科学技術の数々は、 医療技術を爆発的に向上させたし、現代社会の豊かさを支える礎となって、確実に人類へと貢献した。 その過程で生まれた犠牲を、小さいと取るか大きいと取るかは、筆者の想像が及ぶところではない。 余談ではあるが、死んでしまった彼女の娘は「マリア」という名前だったという。 *純粋さは、やがて狂気へと変わる

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