Dog Rose

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(テストにつき途中投稿) 愛する者を当たり前に愛する事の出来ない人間が、世の中には存在する。 愛する者に愛していると言う事が出来ず、愛する者に真っ当な愛をぶつけられない人間が居る。 愛するという行為を両親から与えられなかった子供は、他者を真っ当に愛する事が出来ない。 完全に沸騰した頭の中の片隅の冷静な一部分で、そんな事をぼんやりとしかし素早く思い浮かべた。 俺は花を手折る事も出来ない臆病者で、それこそが幸せだったのかもしれない。 Dog Rose――喜びと悲しみ フランスの片田舎、それなりの土地持ちの領主の長男として僕はこの世に生を受けた。 父譲りか母譲りかその両方か、僕は類稀なる美しい容姿と恵まれた四肢を産まれつき備えていた。 若いながらも有能な父親、麗しく優しい母親。 世辞すら追いつかぬほどに煌びやかな豪邸の中、芽吹いた草木が花を咲かすように僕は成長した。 それは恐らく、誰もが羨むような幻想的な情景であったのだろう。 社交界でも顔の利く父と母の間に生まれた僕は、五歳の時に出向いたパーティでも話の的になっていた。 貴族ではなく商家の者だとは云え、はきはきと玲瓏な声で話す子供はよく可愛がられた。 それが最初で最後の顔見せになったとあれば、のちのち後を引くのも無理は無いだろう。 僕が六歳になるかならないかの内に、父は新大陸での成功を夢見て僕達家族を連れて海を渡った。 まだ見ぬ新天地は僕にも父にも母にも刺激となり、 矮小ながらもその土地に名を広めていった。 程なくして母は第二子を産み、僕はソレーヌと名付けられたその小さな椿を誰よりも愛し大切にした。 彼女もまた花のように美しく、その存在そのものが僕にとっての喜びだった。 しかし一年と経たない内に新大陸の情勢はひずみを抑えられなくなり、 順調に思えた父の商業は徐々に下り坂になり、そして転落していった。 そしてまた、 我が家庭に美しく塗り固められた漆喰も、ぼろぼろとその身を朽ち果てさせていった。 大きな失敗を味わい打ちのめされた父はその快活さを失っていき、 優しかった母はその内の不満を爆発させたようにヒステリックになり、 弱気になった父を負け犬と罵り、また自ら産み落としたはずの僕を役立たずの愚図と蔑んだ。 精々自分の意思を言葉で具体的に表わせるようになったか否か程の少年が、 突如最愛の母から芥のように扱われる。 それがどんな衝撃であるかは、想像するに難くない。 僕は生来の機敏さを失い、次第に無口で愚鈍な、母の言う通りの役立たずの愚図に成り下がっていった。 母の言いつけを守る事すら出来ず、目の前に無造作に捨て置かれた状況への判断すらままならない。 殆ど学習も追いつかなくなった僕の頭は友人を作る事すらままならなくなり、家に引きこもる事が多くなった。 丁度我が邸宅のあるハーレムは、治安の悪化が進み貴族街としての価値を著しく下げていたところだった。 周囲からの賛美を受け続けていた母がこの状況に耐えられなくなるのも、時間の問題だった。 僕の年がようやく十を超す頃、母の僕への接し方は再び違ったものとなる。 いつものように僕が粗相をして母からのお叱りを受けていた時、はずみで母の手が僕の体を弾き飛ばしたのだ。 最初は曲がりなりにも自分の血を引く息子に手を上げた事に驚いていた母だったが、 熱のこもった箇所を押さえ、困惑、怯え、驚愕の入り混じった目で自分を見つめる息子を目の前に、父の中で何かが弾けたのだろう。 その日を境とするように、母は肉体的虐待を繰り返すようになっていった。 殴られ、蹴られ、柱に縛り付けられる。 最初は行きすぎた躾のようだった仕打ちは、次第に枝を何本も重ねたしもとで打たれる、針で刺されるといった、まるで奴隷に対するようなものへとエスカレートした。 半年としないうちに僕の体は常に縄の痕と皮膚の裂けた傷に覆い尽くされ、膨れ上がった指は簡単な作業すら出来ないほどになっていた。 そんな僕の唯一の救いは、妹の存在だった。 年の離れた幼い妹は、一切の事を理解する事無く、僕を責め立てる事も無かった。 僕の身に起きている異常な事にすら、彼女は全く気付く事が無かった。 なぜなら、妹の目は殆ど見えていなかったのだから。 最初に妹の不遇に気づいたのは僕で、それにもっとも悲しんだのは母だった。 兎角、彼女が僕の痣だらけの姿を知ることが無いというのは、僕にとって救いだった。 それがどれほど最低な事であるかなど、すがるような思いで安らぎを求める僕の心には関わりの無い事だった。 母は、僕よりもめくらの妹の方を慈しみよく可愛がった。 それは、妹の目と髪の色が、僕には何一つ受け継がれなかった、母と同じ金髪碧眼だった事と無関係ではないだろう。
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