風は2度吹く

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【病院の前】 「…思ってたより時間がかかったな…。というか、大分痩せただろう」 「なぁロウ殿」 【と、今はもう名のすっかり聞かなくなった「青義同盟」のリーダーの名を呼ぶのは】 【大きな刀を腰に差した藍色の着物の侍】 「…まぁな」 「リハビリがキツイんだなぁ、これがよぉ。そのせいでかかっちまった。タツミちゃん、メンゴ。」 【そう苦笑いする彼の顔は色白。長い間入院していたのだろう】 【右膝から下の部分にはまだサポーターがしてあった】 「…とりあえずちょっくら行きたいとこあるんだが、いいか?」 【ロウが一言。そのセリフを吐く前に一瞬緊迫した顔を浮かべたのはタツミの気のせいだったのだろうか】 「…いきなり酒はよせよ?」 「バァカ。違ぇよロリコン侍。」 「…今日は許してやるが、今度言ったら右足蹴るぞ?」 「マジ勘弁…とりあえずついて来な。」 【ロウは「ふぅ…」と息を吐くと東の方向に向かって歩く】 【カーネルやジャッキーニに傷つけられた右足をかばう様子はない】 【ほぼ完治はしているのであろう】 (…?) 【タツミは「何かがおかしい」と思った】 【いつもの彼なら、「よし飲むぞゴルァ!!」とでも言うとでも思っていたのに】 (やはり酒場ではない…どこに行くつもりだ) 【ロウの後ろを歩くタツミ】 【いつも2人で歩くときはロウが下らない話の1つでもするものなのだが】 【ひたすら、ロウは無言で脚を前に出す。2人に聞こえるのは、街の人々の話す声などのありふれた音だけ】 「…よしっ!!着いたぜ?…んじゃ、ちょっと待ってな。」 【ロウが立ち止まり沈黙を破る。】 【その場所は、賞金稼ぎのライセンスを発行したりなどをする場所】 【新人の賞金稼ぎになるにはここで行われる試験を突破しなければならない】 「…ロウ殿?ちょっと待て。ここに用なんてあるのか?仮にも賞金稼ぎトップの「もうそれは忘れろ」 「…忘れろ?…!!おい…まさか…!!」 「ロウ殿っ!!馬鹿なことはするなっ…!!せっかくのS級ライセンスを…ドブに捨てる気か!?」 【ロウの行動を「馬鹿なこと」と言い、制止するタツミ。】 【彼の前に両手を広げ立ちふさがる】 【其のタツミに対しロウは茶色のテンガロンハットをクイッと上げて、諭すように】 「…せっかく?…俺ぁ気付いたんだ…いや、気付かされたか?」 「こんなものにこだわって、そして過去の栄光にしがみついてちゃぁ…終わりだってな」 「心のどこかで、相手を見下してた。その結果が…この右足よ。」 「カーネルにも…もう死んだらしいがな。言われたんだ。そんなもので満足しているなら、それまでだ的なことをなぁ」 「ずっと入院中其のことについて考えてた。「俺は過信していたのか?」って。」 「で、やっぱり過信してたんだよお前は。って結論に至って、そいで、…こういうこと。」 【ロウは、途中途中で言葉に詰まりながらも、入院中考えてきたことを音にして彼に伝える】 「でも…!! でもっ…!!」 「今度からは、「梅酒のロウ」とも言わねぇよ…「賞金稼ぎ見習い、マーシャル・T・ロウ」でいいだろ?」 「格好も変える。みんなが知ってる「ロウ」を…消すっ!!」 「…!!そこまでしなくても…良いじゃないか!!」 【タツミが、叫ぶ。】 「あ…いや…スマンロウ殿。…だが!!」 「タツミ…甘ったれた環境を、変えなきゃいけないんだよ…!!」 「…このことを知っているのは、俺たちが世話になった教官と、マスター、そしてひなたと…今言った、お前だ。」 「みんな…納得してくれた。後は…お前だけだ…!!タツミ…!!」 【ロウが彼に向かい深く頭を下げる】 「…くそっ!!」 【納得のいかないリアクションを取りながらも、1歩、横に大きくずれて、扉への階段の道を開ける】 「…ホント、わがままで…悪ぃ…。」 「わがままを聞いてやるのは…ロウ殿、今日だけだぞ」 【ロウが階段を「カッカッカッ」と駆け上って、扉を勢い良く開き、入って行った】 【ギイィィ】 【中には、一人、ポツンと初老のごついおっさんがこっちを向いて立っていた】 「…教官…!!久しぶりです…!!」 【ロウがそう力のこもった声で言うと】 「…ロウ。 お前みたいなガキの考えることなど俺には分からんが…」 「電話で言った…新人ライセンス発行。」 「…ホントに、いいのか?」 【初老の老人がどすの入った低い声で彼に語りかける】 「…このロウ。決めた限りは退きません。お願いします。」 【ロウはそう決心を彼に伝えると、鋭く光った金色のカード、S級ライセンスを渡す】 「かっかっか。じゃ、新人ライセンス試験だ。」 【そう言って彼は其のライセンスを空中に放り投げる――!!】 「そりゃ、撃たんかっ!!」 【投げた瞬間、そのような言葉を添えて――】 「えっ!?ハイっ!!」 ――ドンッ!!! 【ロウの右の赤い銃、レッドファルコンが見事に彼のこれまでの実績――S級ライセンスを打ち抜いた】 「…相変わらず凄いな。よし、新人ライセンスじゃ、もってけい!!」 【もとから名前入りを作ってあったみたいで、教官は彼に向かってそれを投げる】 パシッ 【彼の左手に若葉の色をしたライセンスカードが握られる】 「…へへっ。懐かしいな。コレ…」 【其のカードを見て軽く思い出に浸る】 「あ、そうだ、更衣室貸してもらっていいですか教官?」 「ん?ああ、良いが…」 【ギイィィィ】 【出てきたのは青のスーツに赤のネクタイ、そして黒のソフト帽を深くかぶった男】 「ロウの奴、遅いな…」 【タツミはそう言いながら両手をさすり、外で待っていた。いくら5月でも夜は寒い。】 「よっ」 【ふと、後ろから声がした。「ロウの声だ」】 「やっと終わったか…って誰!?」 【後ろを振り返ると、先ほど出てきた派手なスーツに黒いソフト帽の男】 「今度からコレで行くから。よろしくな。ハハハ」 【帽子を軽く上げたときに彼の眼が見えたためにやっと彼がロウであることが分かったタツミである】 「…また、変わった服装を…」 「お前も十分変わってるって、あ、今度から梅酒じゃなくてカシスオレンジ頼むわ」 「…フッ。また「カシオレのロウ」とかつくんじゃないか?」 「…マジ勘弁」 【一通り会話し終えると、2人は歩きだす】 「なぁタツミ…RIPも無くなった今、当分はカノッサを相手にって感じだな。」 「あいつらが正義を語りだしたが、所詮脅しで手に入れた名ばかりのものだろうな…ロウ殿、忙しくなるぞ」 「…正義の風は、2度吹くさ――」 【夜空の星を見上げて、ロウはすっきりとした表情で言う】 【青義同盟、活動――再開?】

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