鈍色の雲

「鈍色の雲」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

鈍色の雲」(2009/11/21 (土) 13:02:38) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

#region #contents() #endregion ---- ***1/5 とある年の、冬も近付き始めたある朝。 一人の少女が、小さな町の教会を抜け出した。 ぐぅぅ、と、少女の腹が鳴る。 エメリオの町を出てから一ヶ月と二週間。 もう、十日も、食べ物らしい食べ物を口にしていなかった。 食べ物を買おうにも、エメリオを出る時に持っていったお金は、もう底をついていた。 おやつ代として貰っていた銅貨を一年分貯めていても、小さな女の子が一人で旅を続けていくには少なすぎたのだ。 (…お腹、空いたな……) 先程から、くうくうとうるさい音をたてている腹を押さえ、アイリスは、道行く人々を恨めしそうに見ていた。 ---- ***2/5 道行く人々は、暖かそうなコートに身を包んで、色とりどりの箱を抱え、楽しそうに歩いていく。 もうすぐ、クリスマスだ。 アイリスは、壁に背を預けて冷たい地べたに座り込んだまま、顔を伏せた。 何故、町はこんなに幸せそうなのだろう……? あまりのひもじさに、涙が浮かぶ。 (でも、仕方ないんだよね。) アイリスは、浮かんでいた涙をぐしぐしと拭った。 記憶を失った自分を守ってくれた、カクタス義兄さんの死んだ本当の理由を知りたくて、自分は帰る場所も捨てて、旅立ったのだから。 「こんな所で泣いてられない!!」 アイリスは、自分に言い聞かせるように呟いた。 ---- ***3/5 そうとなったら、何とかしてお金を得なければいけない。 かといって、スリをする度胸は、この十三歳の少女にはなかった。 (どうすればいいんだろう……?) アイリスは、考えながら町を歩いていた。 あまりにも真剣に考えていた為、幼い少女は何も見えていなかった。 気付くと、アイリスは、薄汚れた裏通りを歩いていた。 ふと、顔を見上げれば、目の前には、倒れて死んでいる男の上に屈んで、何かをしている、いかにもゴロツキといった様子の男。 「……おじさん、なにしてるの?」 何気なく、声をかけた。 「うるせえなぁ、仕事だよ、仕事。」 忙しいのか、ゴロツキらしき男は、無愛想に答えた。 アイリスは、ふーん、と言ったきり、じっとそのゴロツキらしき男の手つきを見ていた。 その目に、チラリと、大金が入っていそうな財布が見えた。 ---- ***4/5 (あ、お財布だ。) (そっか、あの人は盗賊なんだ。) (ああ、あの中にはお金がいっぱい入っているんだろうなあ。) (いいなあ。欲しいなあ。) (あ、そっか。) そう思った次の瞬間、アイリスは無意識に、ゴロツキの腕を掴んでいた。 ゴロツキが、突然の事に財布をとり落とす。 「何だ!!邪魔すんのかガキ!!」 「……おじさん、盗賊なんでしょう?」 「お……おう。」 ゴロツキは、少女の言葉に戸惑いながら返事をする。 「じゃあ……奪ってもいいよね…?」 そう呟いて、顔をあげたアイリスは、切羽詰まった表情で、ゴロツキの腕を強く握り締めた。 それと同時に、ゴロツキの体に、致死量の高圧電流が流れた。 「ヒッ……!!」 絞まった様な叫び声をあげ、ゴロツキの体が痙攣する。 何かの焦げる、嫌な臭いが鼻についた。 ---- ***5/5 「……ごめんなさい。」 眼球が飛び出そうなくらいに目を見開いたまま、動かなくなったゴロツキを見て、アイリスは呟いた。 けれども、それは生きる為、自分の目的を果たす為には仕方のない事。 アイリスは、自分にそう言い聞かせながら、ゴロツキと、男、二つの死体をあさり、物を奪った。 空一面を、暗く厚い鈍色の雲が覆っていた……。 ---- #comment
#region #contents() #endregion ---- ***1/5 とある年の、冬も近付き始めたある朝。 一人の少女が、小さな町の教会を抜け出した。 ぐぅぅ、と、少女の腹が鳴る。 エメリオの町を出てから一ヶ月と二週間。 もう、十日も、食べ物らしい食べ物を口にしていなかった。 食べ物を買おうにも、エメリオを出る時に持っていったお金は、もう底をついていた。 おやつ代として貰っていた銅貨を一年分貯めていても、小さな女の子が一人で旅を続けていくには少なすぎたのだ。 (…お腹、空いたな……) 先程から、くうくうとうるさい音をたてている腹を押さえ、アイリスは、道行く人々を恨めしそうに見ていた。 ---- ***2/5 道行く人々は、暖かそうなコートに身を包んで、色とりどりの箱を抱え、楽しそうに歩いていく。 もうすぐ、クリスマスだ。 アイリスは、壁に背を預けて冷たい地べたに座り込んだまま、顔を伏せた。 何故、町はこんなに幸せそうなのだろう……? あまりのひもじさに、涙が浮かぶ。 (でも、仕方ないんだよね。) アイリスは、浮かんでいた涙をぐしぐしと拭った。 記憶を失った自分を守ってくれた、カクタス義兄さんの死んだ本当の理由を知りたくて、自分は帰る場所も捨てて、旅立ったのだから。 「こんな所で泣いてられない!!」 アイリスは、自分に言い聞かせるように呟いた。 ---- ***3/5 そうとなったら、何とかしてお金を得なければいけない。 かといって、スリをする度胸は、この十三歳の少女にはなかった。 (どうすればいいんだろう……?) アイリスは、考えながら町を歩いていた。 あまりにも真剣に考えていた為、幼い少女は何も見えていなかった。 気付くと、アイリスは、薄汚れた裏通りを歩いていた。 ふと、顔を見上げれば、目の前には、倒れて死んでいる男の上に屈んで、何かをしている、いかにもゴロツキといった様子の男。 「……おじさん、なにしてるの?」 何気なく、声をかけた。 「うるせえなぁ、仕事だよ、仕事。」 忙しいのか、ゴロツキらしき男は、無愛想に答えた。 アイリスは、ふーん、と言ったきり、じっとそのゴロツキらしき男の手つきを見ていた。 その目に、チラリと、大金が入っていそうな財布が見えた。 ---- ***4/5 (あ、お財布だ。) (そっか、あの人は盗賊なんだ。) (ああ、あの中にはお金がいっぱい入っているんだろうなあ。) (いいなあ。欲しいなあ。) (あ、そっか。) そう思った次の瞬間、アイリスは無意識に、ゴロツキの腕を掴んでいた。 ゴロツキが、突然の事に財布をとり落とす。 「何だ!!邪魔すんのかガキ!!」 「……おじさん、盗賊なんでしょう?」 「お……おう。」 ゴロツキは、少女の言葉に戸惑いながら返事をする。 「じゃあ……奪ってもいいよね…?」 そう呟いて、顔をあげたアイリスは、切羽詰まった表情で、ゴロツキの腕を強く握り締めた。 それと同時に、ゴロツキの体に、致死量の高圧電流が流れた。 「ヒッ……!!」 絞まった様な叫び声をあげ、ゴロツキの体が痙攣する。 何かの焦げる、嫌な臭いが鼻についた。 ---- ***5/5 「……ごめんなさい。」 眼球が飛び出そうなくらいに目を見開いたまま、動かなくなったゴロツキを見て、アイリスは呟いた。 けれども、それは生きる為、自分の目的を果たす為には仕方のない事。 アイリスは、自分にそう言い聞かせながら、ゴロツキと、男、二つの死体をあさり、物を奪った。 空一面を、暗く厚い鈍色の雲が覆っていた……。 ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: