ファーストコンタクト(3-3)

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「ファーストコンタクト」 ***第七章 狂気の終焉 数分後、倉庫の中は再び暗くなっていた。 電気系統を全て破壊され、そこにはもう何もなかった。 そう、私と「彼」を除いて。 嘲笑はいつの間にか止んでいた。 彼が虐殺を終えると同時に、笑い声も止まった。 その場にいた大人の連中は全て原形をとどめぬほどに切り裂かれ、地面には血だまりが山のようにできていた。 ブラッド・バス・・・まさにその通りだった。 暗闇の中で、私が覚えていることは少ない。 ただ・・・その時、私は確かに思った。 「終わった」のだと。すべてが、終焉を迎えた事を、察した。 コト・・・コト・・・コト・・・・ 暗闇の中で、誰かが歩く音が近づいてくる。 それは漆黒の中で確かに鳴り響き、体の奥底にまで聞こえてくる。 コト・・・・コト・・・・コト・・・・・ やがて、暗闇にも目が慣れ――「彼」が視界に現れた。 「よう。元気かァ?んふふふー。ああ俺?さいっこうの気分だぜ。」 「なんたってよォ、おもしれーぐらいズバズバ斬れるんだもんよォ?ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」 ――鳥肌が立った。先ほどの嘲笑の正体はやはりこの男だったのだ。 この男が、あの笑い声を上げ・・・皆殺しにした。 普通なら戦慄するだろう。目の前に狂気の殺戮者がいるのだから。 だが、しかし。 私はその時、恐怖など微塵も感じていなかった。 先程までの怒りを忘れ 度重なる暴力で傷んだ体のあちこちの痛みすら忘れ ただ、その光景に見入っていたのだ。 この男がだれかはわからない。でも・・・私を救ってくれた。 地獄のような連中から・・・私を助けてくれた。 私の王子。私だけの王子様。 私の眼には、彼がヒーローに映った。 私は人を殺した。自分がいたぶられるのを避けるために。 逆らえば後でどんな仕打ちを受けるかわからないから、目の前にいる縛られた二人をバッドで殴り殺した。 冷静に考えれば、「彼」のやったことも、私と一緒で最低の事だ。 他人の命を奪う、この世で最もいけない行為。 しかしそんな事はどうでもよかった。ただその時の私は・・・・ 「・・・・たす、け、て・・・たすけ、て、くだ・・さい・・・・。」 ・・・・血まみれの銀色のコートに、すがりついたのだった。 それが私が「彼」と出会った最初の時の事。 地獄の日々の、終りを告げたのは 狂気の嘲笑と、大虐殺だった。 ---- 「ファーストコンタクト」 ***終章 罪 それから私は、彼と一緒に過ごした。 あの晩、私を奴隷としていた連中が全員殺され、行き場もなくなった。 そんな私を、彼はなぜか、傍に置いてくれたのだ。 名前も貰った。リリではない、新しい名前。 そして、鬼の面。顔の上半分だけを隠せる、特殊な鬼の面を、私は与えられた。 名前を変え、傷を隠し 奴隷であった時の私を捨て、私は新しい私となった。 私も、何故だかはわからないが、彼のもとにいたいと、強く願った。 あの圧倒的な力 私を地獄から救ってくれた雄姿 そして 嘲笑 魅せられていた。深く深く、傷ついた私の心に、一筋の光がさしたようだった。 枯死したと思っていた、もう何もないのだと諦めていた そんな私に彼は見せてくれた――絶望を打ち破る、最強の力を。 彼は、名を「シン」と名乗った。  ---- 「ファーストコンタクト」 ***終章 エピローグ 「ごっちそうさん!!」 大きな声でレイブンがそう言うのを聞いて、はっと我に帰る。 また思い出していた。あの時の事を。 もう忘れてしまいたいのに・・・やはり、それは出来ないのだ。 なにより、シン様との初めての出会いはあそこだったのだから、前後の記憶ぐらいきちんと保存しておきたい。 だが、今思い出しても・・・辛くなる。本当に、地獄のような日々だった。 あそこから救ってくれたシン様には、いくら感謝をしてもし切れないだろう。 本人曰く、あの時は私の絶叫を聞いて、面白そうだから倉庫に侵入したらしい。 結果的に、それが私を救うことになったのだが。 誰が何と言うと構うまい。あの方は私のスーパーマンだ。 生涯、命をかけてあの方に尽くそう。 どんな些細なことでも、あの方が命じる事は確実に成し遂げて見せよう。 「全部食べてくださってんですか?ふふ。残してもよかったんですよ?」 「馬鹿!ぐろりんの飯は最高なんだぜ?残すわけねえじゃねえか!」 「ふふ。ありがたいお言葉です、レイブン。でもレイブンが残した食事なら、私がきちんと食べてあげますからね?」 「う・・・な、何言ってんだ!馬鹿!」 「ふふふ。今日のレイブンは、なんだかとても可愛らしいですよ。」 「おい、そりゃどういうこった?いつものアタシは可愛くねえってか!」 「いえいえ、そう言う事ではないですよ。今日は特別、可愛らしいという事です。」 「・・・フン、アタシは部屋に戻るぜ、じゃーな!」 顔を赤くして食堂を出ていくレイブンを見送る。 今は、愛しい人が出来た。 シン様とはまた、別に。心から愛情を捧げたいと思える人が、出来た。 誰もいなくなった食堂で、面を外す。 指で触れると、そこにはあの時の傷がある。 消して消えはしない、両目の間に深く刻まれた、切り傷。 まるで私に、過去を忘れさせないかのように、深く、深く刻まれている。 だが今は、これが誇りでもある。 私はあそこから生き残り、生還したのだ。 レイブンはこの傷を受け止めてくれて、きれいだと言ってくれた。 シン様は・・・・きっと、初めて見た時の思い出として覚えておいてくれているだろう。 ――私は生まれ変わったのだ。 弱く、一人ぼっちの奴隷だった「リリ」ではない シン様からもらった、新しい名前。 私の名前は、グロリア。 ―――そっと、鬼の面をつけた。 ---- [[1>ファーストコンタクト(1-3)]] [[2>ファーストコンタクト(2-3)]] 3 ---- #comment
「ファーストコンタクト」 ***第七章 狂気の終焉 数分後、倉庫の中は再び暗くなっていた。 電気系統を全て破壊され、そこにはもう何もなかった。 そう、私と「彼」を除いて。 嘲笑はいつの間にか止んでいた。 彼が虐殺を終えると同時に、笑い声も止まった。 その場にいた大人の連中は全て原形をとどめぬほどに切り裂かれ、地面には血だまりが山のようにできていた。 ブラッド・バス・・・まさにその通りだった。 暗闇の中で、私が覚えていることは少ない。 ただ・・・その時、私は確かに思った。 「終わった」のだと。すべてが、終焉を迎えた事を、察した。 コト・・・コト・・・コト・・・・ 暗闇の中で、誰かが歩く音が近づいてくる。 それは漆黒の中で確かに鳴り響き、体の奥底にまで聞こえてくる。 コト・・・・コト・・・・コト・・・・・ やがて、暗闇にも目が慣れ――「彼」が視界に現れた。 「よう。元気かァ?んふふふー。ああ俺?さいっこうの気分だぜ。」 「なんたってよォ、おもしれーぐらいズバズバ斬れるんだもんよォ?ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」 ――鳥肌が立った。先ほどの嘲笑の正体はやはりこの男だったのだ。 この男が、あの笑い声を上げ・・・皆殺しにした。 普通なら戦慄するだろう。目の前に狂気の殺戮者がいるのだから。 だが、しかし。 私はその時、恐怖など微塵も感じていなかった。 先程までの怒りを忘れ 度重なる暴力で傷んだ体のあちこちの痛みすら忘れ ただ、その光景に見入っていたのだ。 この男がだれかはわからない。でも・・・私を救ってくれた。 地獄のような連中から・・・私を助けてくれた。 私の王子。私だけの王子様。 私の眼には、彼がヒーローに映った。 私は人を殺した。自分がいたぶられるのを避けるために。 逆らえば後でどんな仕打ちを受けるかわからないから、目の前にいる縛られた二人をバッドで殴り殺した。 冷静に考えれば、「彼」のやったことも、私と一緒で最低の事だ。 他人の命を奪う、この世で最もいけない行為。 しかしそんな事はどうでもよかった。ただその時の私は・・・・ 「・・・・たす、け、て・・・たすけ、て、くだ・・さい・・・・。」 ・・・・血まみれの銀色のコートに、すがりついたのだった。 それが私が「彼」と出会った最初の時の事。 地獄の日々の、終りを告げたのは 狂気の嘲笑と、大虐殺だった。 ---- 「ファーストコンタクト」 ***終章 罪 それから私は、彼と一緒に過ごした。 あの晩、私を奴隷としていた連中が全員殺され、行き場もなくなった。 そんな私を、彼はなぜか、傍に置いてくれたのだ。 名前も貰った。リリではない、新しい名前。 そして、鬼の面。顔の上半分だけを隠せる、特殊な鬼の面を、私は与えられた。 名前を変え、傷を隠し 奴隷であった時の私を捨て、私は新しい私となった。 私も、何故だかはわからないが、彼のもとにいたいと、強く願った。 あの圧倒的な力 私を地獄から救ってくれた雄姿 そして 嘲笑 魅せられていた。深く深く、傷ついた私の心に、一筋の光がさしたようだった。 枯死したと思っていた、もう何もないのだと諦めていた そんな私に彼は見せてくれた――絶望を打ち破る、最強の力を。 彼は、名を「シン」と名乗った。  ---- 「ファーストコンタクト」 ***終章 エピローグ 「ごっちそうさん!!」 大きな声でレイブンがそう言うのを聞いて、はっと我に帰る。 また思い出していた。あの時の事を。 もう忘れてしまいたいのに・・・やはり、それは出来ないのだ。 なにより、シン様との初めての出会いはあそこだったのだから、前後の記憶ぐらいきちんと保存しておきたい。 だが、今思い出しても・・・辛くなる。本当に、地獄のような日々だった。 あそこから救ってくれたシン様には、いくら感謝をしてもし切れないだろう。 本人曰く、あの時は私の絶叫を聞いて、面白そうだから倉庫に侵入したらしい。 結果的に、それが私を救うことになったのだが。 誰が何と言うと構うまい。あの方は私のスーパーマンだ。 生涯、命をかけてあの方に尽くそう。 どんな些細なことでも、あの方が命じる事は確実に成し遂げて見せよう。 「全部食べてくださってんですか?ふふ。残してもよかったんですよ?」 「馬鹿!ぐろりんの飯は最高なんだぜ?残すわけねえじゃねえか!」 「ふふ。ありがたいお言葉です、レイブン。でもレイブンが残した食事なら、私がきちんと食べてあげますからね?」 「う・・・な、何言ってんだ!馬鹿!」 「ふふふ。今日のレイブンは、なんだかとても可愛らしいですよ。」 「おい、そりゃどういうこった?いつものアタシは可愛くねえってか!」 「いえいえ、そう言う事ではないですよ。今日は特別、可愛らしいという事です。」 「・・・フン、アタシは部屋に戻るぜ、じゃーな!」 顔を赤くして食堂を出ていくレイブンを見送る。 今は、愛しい人が出来た。 シン様とはまた、別に。心から愛情を捧げたいと思える人が、出来た。 誰もいなくなった食堂で、面を外す。 指で触れると、そこにはあの時の傷がある。 消して消えはしない、両目の間に深く刻まれた、切り傷。 まるで私に、過去を忘れさせないかのように、深く、深く刻まれている。 だが今は、これが誇りでもある。 私はあそこから生き残り、生還したのだ。 レイブンはこの傷を受け止めてくれて、きれいだと言ってくれた。 シン様は・・・・きっと、初めて見た時の思い出として覚えておいてくれているだろう。 ――私は生まれ変わったのだ。 弱く、一人ぼっちの奴隷だった「リリ」ではない シン様からもらった、新しい名前。 私の名前は、グロリア。 ―――そっと、鬼の面をつけた。 ---- [[1>ファーストコンタクト(1-3)]] [[2>ファーストコンタクト(2-3)]] 3 ---- #comment

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