―噛み合わせる記憶―

「―噛み合わせる記憶―」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

―噛み合わせる記憶―」(2009/11/21 (土) 13:02:04) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

#region #contents() #endregion ---- ***1/15 Side:R 「ゴホッ、ゴホッ……」 自分の咳を聞きつけたのか、近くで遊んでいた少年が寄ってくる 『大丈夫か?……ってあれ?見ない顔だね』 「空気にむせただけだ。今日ここへ来た」 『ああ、なるほど。よろしく、俺はジール』 そういう彼は、緑の服を着て、俺よりも3,4歳若い風貌をしている 「よろしく。…レンドだ」 『なんか、今日来たにしちゃ落ち着いてるなぁ』 「変わってるか?」 『いや、ここに来るってことは、親とか保護者が…いなくなって来るわけだろ。初めて来たときは泣いてたり、暗い表情してることが多いからさ』 「…お前もそうだったのか?」 『いや、俺は物ごころついたときからここにいたんだ』 「そうか。」 両親など関係なかった。自分を放っておいて、仕事と遊びに出ていた2人が急に死んだと伝えられても、 育ててくれた恩こそあれ、悲しみの感情は起こらなかった そのことを伝えると、彼は多少不機嫌な顔を見せたが、責め立てられはしなかった ただ『育ててもらった恩はお前にとってどの程度のものなんだろうな』とだけ、彼は口にした 面倒くさかったので、そろそろ昼飯の時間かなと立ち上がり、その質問には無視をすることにした ---- ***2/15 Side:R そんな出会いがあったが、俺と彼は時々話す程度の仲になった 彼は活発な奴で、暇な時間はたいてい他の奴と球遊びをしたり、走り回ったりしていて、せわしなく動いている 一方で俺は、本を読み、花壇の花の手入れをしていて、ゆったりと時を過ごす ジールがスポーツに誘ってくれることもあったが、俺は常に断った そんな日が続いたある時、花壇の手入れをしていた俺に、彼が近づいてきた 『レンドって、花の世話してるのよく見るよな、代親たちも褒めてるぜ』 ここは、保護者がいなくなった子供たちの住み家だ 名前は特になく、<施設>としか呼ばれていない <代親(だいしん)>というのはこの施設で俺達を育ててくれる人たちをまとめて呼ぶ時に使う言葉である 「別に、褒められるためにやったつもりはない。花が好きだからやっているだけだ」 『そっか、でも花が好きって、なんか女の子みたいだよな』 「馬鹿にしているのか?」 …苛立ちを覚えた 『あ、ごめん。そんな気はないよ。ただ、花とばっかりいても、つまんなくないか?って思って』 「それが…馬鹿にしていると言っているんだ!」 怒りの言葉を吐き、俺は彼に飛びかかった ――思えば、彼は俺を遊びに誘うつもりだったのだろう。流石に気が短すぎた…… 花に対して俺は、依存と言ってもいいほどの愛情を持っている 考えると、俺は、花に愛を持って育て、それに応えるように俺に見せてくれる美しい姿をを花からの愛情表現と受け取ることで、 親からの愛の不足を補っているのではないかと思う この考えに対して、俺は何も違和感を感じない つまり俺にとって、花を馬鹿にされるのは、愛する子供をけなされるのと同義だったのだろう ---- ***3/15 Side:R 俺からしかけた喧嘩が始まる 俺の方が年上で体も少し大きかったが、普段スポーツで体を鍛えているあいつに、俺は苦戦した 決着のつかないうちに代親が来て、喧嘩は中止。俺達は叱られ、3日間おやつ抜きの罰。 どうでもよかったが、ジールは残念そうな表情を浮かべた その後、彼が馬鹿にしてしまったことを謝り、俺もむきになったことを謝った その後、ジールとはそれ以上に話すようになった あんな喧嘩のあとでなぜ気まずくならなかったのだろう。考えても不思議に思う 主にあいつはスポーツや最近身近であったことの話を、俺は花や読んだ本と詩(うた)の話をした 勉強が好きでなかったジールだが、俺の話は楽しそうに聞いていた。しかし、実際はどうだったのだろう… 俺は、あいつのスポーツの話を半分流して聞いていた あいつは誰に対しても積極的だ。そんなあいつの周りには面白い事がよく起こって、その話は素直に楽しめる 施設の奴らとはたまに話すが、俺は内向的で、はっきり仲が良いといえるのはジールくらいだった いつのまにか花だけでなく、あいつも自分にとって特別な存在になってきていた ---- ***4/15 Side:Z 俺の名前はジール みなしごを育てる施設で育ったんだ 物ごころつく前に母さんは既にいなかった 生まれてくる前に父さんも既に既にいなかった 施設の人…これからは<代親>って呼ぶことにするけど、とにかくその人たちの話によると 俺は父さんの忘れ形見だったけど、母さんが俺を生むのに体が耐えられなかったらしい そこで、俺は施設に預けられたんだって 施設の生活は楽しかったよ。みんなほとんど同じ境遇で、基本いい子ばっか 俺は体を動かすのが好きで、仲間とスポーツをよくやった いろんな奴がここに来て、俺らの輪に入って仲良くするんだ そのうちの一人がレンドっていう奴だった 俺より、4歳年上のお兄さんだけど、普通に兄弟みたいな感じで話してた 施設では俺は誰に対しても敬語をつかっていない、というより敬語そのものをよく知らなかったんだ 初めて話したときに印象的だったのは、ここに来たばっかなのに、全然辛そうな顔をしてないことだった 保護者を失ったここの子は、最初ほとんどが泣いてたり、ふさぎこんでたりする ……たまに親から見捨てられた子もいたけど、その子も来たときは暗い顔をしていた でも、レンドはそんな顔全然してなかった。まるで、植物が親の事を気にしないみたいに 親がいない寂しさを少しだけわかっているつもりの俺は、レンドが言った 『親に育てられた恩こそあれ、悲しむ程のものはない』 という言葉に少しムッときて、一言言ったが、それは綺麗にスルーされた そんな出会いだったけど俺はレンドともたまに話した ここにいる奴はみんな仲間、が俺のモットーだったし、レンドも別に悪いやつじゃない 話しているときも冷静に鋭いことを言ったりして、面白いやつだった ある日、レンドと喧嘩したんだけど、原因は俺が悪かったんだ 書くと、恥をさらすからここには書かない けど、それが俺とレンドの距離が縮まるきっかけになった それまであいつは、何か感情を表すってことがほとんどなくて、無感動というか 人間らしさがあんま見えなくて、怖いと思ってる部分があった でも、それからのあいつは、俺が身近な話をしてる時に口元が少し広がったりして感情を表すようになったんだ。 感情の表現は少しずつはっきりしてきて、おかげで、話すのが一層楽しくなった 花や詩についても話してくれたけど、残念ながら全部は覚えてないや あいつの話は、良く分からないことが多かったけど、普段表情がほとんど変わらないレンドが、 話している時に表情が変わるのを見るだけで、こっちも楽しい ---- ***5/15 Side:Z 施設での生活を送っていたある日、俺の人生に転機が訪れた 代親達が部屋の中で話し合ってるのを見た俺は、その顔の険しさに興味を持って、扉の隙間から話を聞いた …話の内容は、この施設の運営状況についてだった 施設は寄付金と、子供と代親による内職なんかでやりくりしていたんだけど、 最近の治安の悪さからか受け入れる子供の数は、限界を超えようとしていたらしい それを聞いた俺は、どうにかできないかかなり悩んだ だけど、俺みたいな子供が一人考えたところで、大きすぎる問題を解決する方法はわからなかった 結局思いついたのは、俺自身が出て行って少しでも施設を楽にしてあげることくらいだった 外に出てみたい気持ちもあった。でも、危険だということもわかっていた 施設は俺にとって生まれ育った家だし、そこを離れることにも抵抗がある 相談も…集まっても、いい案が出るとは思えなかったし、あまりに危険な事に、仲間を巻き込みたくない 悩みながらもそのことを隠してしばらく過ごした。 でも、ある時レンドには気づかれてしまった 『お前、最近何かあったのか?』 ――いつもの様に話していたつもりだったのに なおも俺がごまかそうとすると、黙ってそれ以上の追及はしなかった ほっとした時、『そんな風に何かをずっと悩んでるのはお前に合わない。こいつでもやるから、迷いをスパッと断ち切って早く元に戻れ』 と言われ、無骨な木彫りの剣を渡された 小さかったけど、不思議にあったかさを感じさせた それを見つめてると、確かに俺が悩むなんて、馬鹿らしいやって思えてきて、俺の意思は固まった 後で思えば、この剣が俺の能力が発現させたのかもしれない それから3日程たった日、俺は準備を終え、その日の夜中に出発することにした その夜、俺は世界を見たくて旅に出ると仲間だけに伝えた。 みんな驚いていたけど、俺の意思が固いのを見て最後は納得してくれた 代親達に言ったら、絶対に止められていたと思う レンドのところへも別れの挨拶に行くと、まとめられた荷物が置かれてる。驚いてレンドを見ると、 『こんな気がしていた』 『俺も行く。12の子供だけで旅なんてできるか』と荷物を背負い俺にはっきり言った 初めは止めようとしたけど、あいつの強い態度に押し切られてしまった 「全く…」と言いながら内心、やっぱり嬉しかった。なんだかんだいって、一人で旅するのにも怖さがあったと思う レンドが付いてきてくれるなら…なおさら心強かった ---- ***6/15 Side:R ある日を境に、ジールの様子が少し変わった 話をしていても、聞いて相槌を打ちながら、別の何かを考えているのが読み取れた 違和感を払拭するため、俺はあいつへプレゼントを渡した 活発なあいつに、剣は似合うだろうと思い、誕生日プレゼントに作っていたのだが、 凝っているうちにその日は過ぎ、完成する頃にはそれから1か月がたっていた ―――ちなみに、誕生日の日は言葉だけで祝うことにした 今さらそんなことを言うわけにもいかず、ただの贈り物として渡した あいつは礼を言いながら、じっとその木彫りの剣を見つめていた… その翌日から、あいつはいつもの調子に戻り、遊ぶ時間が少なくなった 嫌な予感がした俺は、何かあってもいいよう荷物をまとめ始めた 予感は当たり、あいつは旅に出る事を告げにやってきた ジールがいなくなったら、俺はこれから誰と話せばいいのだ 施設にあいつほど心を許せるやつはいない 俺は付いていくと譲らなかった その晩に俺達は施設を出た 2人とも置手紙を残しておいた 俺は施設に対して特別な思いはなかったが、残した花は気がかりでもある なので手紙に一言、花の世話をしっかりしてくれと太い字で付け足した 旅は順調な道のりだ あまり一日に多くの距離を歩くことはせず、ゆっくりとした旅をした 道に咲く花を眺めながら歩くのは楽しく、数多の種類が、いろんな姿を見せてくれた 一つの街には1か月ほど滞在し、資金は2人で内職、バイトを転々とするのが常だ 旅の途中、うるさい奴等にも出会った 初めて絡まれた時、相手は大人の5人組 子供2人が勝てるはずもなく、俺達は逃げ惑った そのうちに俺が捕まってしまい、ジールも俺を餌に捕まった そんなときだった、あいつの能力が発現したのは ---- ***7/15 Side:R 捕まっていたジールが、いつの間にか拘束から逃れ剣を持っている いったいどこにそんなものを…と思ったが、その刃を見て、あいつが能力者なのだと悟った その刃は明らかに普通の刃ではなく、赤く輝いてまるで気か何かを固めたような刃だったからだ あいつはその剣をむちゃくちゃに振るい、いきなりの出来事に戸惑っていた大人2人を剣で殴って昏倒させると、俺を捕まえていた奴目がけ剣を投げた 捕まえていた奴がそれに驚き俺を放した。瞬間、とっさに走り、ジールの手を掴んで逃げだした 逃げ切ることに成功し、落ち着いたあとに聞いてみたがあれが初めての発動だったようだ いったい何をしたか聞いてみれば、 『レンドを放せ、と叫んで暴れて相手の持っているナイフに触れたら小さな剣になった』らしい 相手が驚き剣を放した時、それを掴んだら今度は大きな剣になり、後は俺の見たとおり、である おそらく、触れた物を媒体とし、刃を発生させる能力だろうと俺は推測する そのことを言うと、あいつは『ばいたいって何?』と聞いてきたが、そこは適当に説明した 逃げ回って疲れた体は細かく教える事を面倒くさがったのだ それからは棒を2本持ち、絡まれたらジールが剣を作り、2人で応戦して逃げた しばらくしてジールの刃が、あいつの思いとか、意思に呼応している事もわかった あいつの思いが強くなったときに、剣に輝きが増し、硬度も上がっているのだ 戦闘の基軸は、俺がジールに指示を出し、あいつはそれに従って相手を攻撃、俺はその間俺に向かって来るやつらを何とかする、というものだった あいつの方が必然的に傷を多く負った、しかし、あいつは文句ひとつ言わない… 罪悪感が心を責めたが、仕方がないと自分を納得させた ---- ***8/15 Side:Z レンドと2人で出発した旅は楽しかったよ 俺は一日になるべく進んで、新しい景色をたくさん見たかったけど あまり速く進むと、何かあったときに体力切れで一大事になるとレンドにたしなめられて、 ゆっくり歩くことにした。 旅をする上で、必要な知識はたいていあいつが知ってくれていた 俺はそれを素直に聞いていれば、ほとんどの困難は避けることができたよ 行く先では目上に敬語を使えというのも教えてもらったことだった それは今でも完璧には使えてなかったりするけど… 旅をしているとき、追剥にもあった 2人で人気のない道を歩いているとき、急に5人の大人が現れたのが最初 その時、俺の能力が初めて現れたんだ 能力に驚いた大人たちからなんとか逃げて、お金も倒した奴から奪い返しておいた 俺に能力が使えるようになってから、能力について、レンドがいろいろ俺の能力を考えて、教えてくれた それからの戦闘もレンドが言うとおりにして行動すると、ほとんど成功したよ 旅をしている中で、レンドに頼ってばっかの自分が情けないなとちょっと落ち込んだ そんな自分は好きじゃなかったから、レンドの言うことをよく聞き、覚えた 戦闘も、レンドが何を考えてこの指示をくれるのかを考えながら動くようにした 旅をした中で特に思い出に残っているのは、レンドがたまに口ずさむ詩と 立ち寄った喫茶店で出されたココアかなぁ… 詩については、その時の雰囲気しか覚えてないから、うまく話せない。ココアの話をすると、 ダンディーなマスター?がいて、軽食を頼んで俺はココア、レンドはコーヒーを注文した そのココアがあまりにも熱くて、舌をやけどしちゃった… そのせいで、よく味がわかんない。レンドも同じ目にあわせてやろうと、無理にお願いして一口交換してもらった そしたらやけどを負った舌でも十分にわかる、コーヒーのあまりの苦さにこっちが悶えることになった レンドは涼しい顔してココア飲んでるし。全く踏んだり蹴ったりだ。 けど、そんな事も後から思えば楽しいことだったんだなって思える ---- ***9/15 Side:R そういえば、立ち寄った先で飲んだココアが思い出に残っている その街を旅立つとき、最後にちょっと喫茶店にでも寄ろうと俺が言いだすと、 ジールは、『金がもったいなくない?』と言いながら、久々の外食…になるのだろうか? とりあえず店で飲食をするということに嬉しそうな顔だった。 旅先での食料はほとんど適当な自炊で済ませ、材料は買うか草原や川から調達してきたものだった 料理は交代制、味に不満はなかったが店で食べたくなる欲求もときたま起こるものだ 「たまにはいいだろう、パスタくらい」 そう言って店のドアを開け一歩踏み入れた瞬間に、今まで経験したことのない雰囲気が俺達を包んだ。ゆったりとした独特の空間に、 店の主人の渋さが深みを与え、入った瞬間に空気さえもその色に染まりそうという表現が適切だろう そこで俺はエスプレッソコーヒーを、ジールはココアを頼む カルボナーラのパスタも頼み、昼食を開始した パスタは、ベーコン、卵、チーズが程良く絡まり、さっぱりとした味わいと記憶している ところで、コーヒーの苦さが癖になってしまうのはカフェイン中毒者の証なのだろうか? エスプレッソの苦味は、飲むたびにその味から抜け出せなくなる。出来が極上のものであれば、なおさら。 そうして俺がコーヒーの味を確かめていると、ジールがココアとコーヒーを交換しようと提案してきた 甘いものも苦手ではないのだが、コーヒーの後に飲むのもどうかと思い反対した しかし、ジールは強く出て、ほぼむりやり交換されてしまった…まあ、いいか ---- ***10/15 Side:R 仕方なく口にしたものだったが、そのココアはあまりにも強い印象を俺に与えた いうなれば「悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純で、まるで恋のように甘い」とでもいうのだろうか 昔のどこかの政治家の言葉らしい、彼はカフェについてこの言葉を使っていたが、ココアにだってつかっても構わないだろう? 名前は確か、シャルル=モーリス・ド・タリーラン=ペリゴールだったはずだ。本が間違っていなければ、だが その熱さには少し驚いたが、なんとか飲めなくはない 熱さもそうだが、なによりもその味があまりにも印象深く刻み込まれている カカオと砂糖が濃過ぎず、まったりとした甘みを持ち、ココアのはずなのにまるで水と同じなめらかさが喉を滑る おそらく、一生忘れる事はないだろう、ともう一口を味わった ジールには感謝しないとな …そういえば、なんであいつは目の前でのたうちまわっていたんだ? 振り返れば、本当に幸せな旅だった 施設にいては、こんな思いは間違いなくできなかっただろう …しかし、終わりは刻々と近づいている 旅をしていく中で、自分の体が限界を感じ始めていた 最近から起こった体調の悪さを隠すことも、もう難しい… 覚悟はしていた。何も後悔はない ただ、街中で死ぬ気はない。最期まで、俺はジールと旅を続けていたい どこかの建物の中で、ベッドの上で、無駄な延命など何の意味も感じられない 恨まれてしまうかもしれないが…ほぼ限界まで、何も言わないでおこう あいつは、俺の知識をちゃんと吸収していた もう、一人で任せても、大丈夫と信じている… ---- ***11/15 Side:Z だんだんと旅での知識も増え始め、10月も半ばに入ったころ… レンドの体調が急に悪くなった 食欲もないのか、料理もあんまり食べないで、日に歩く距離もだんだん減っていく 『気にするな』なんていわれても無理だ だけど、病院に連れて行こうとしても『そんな金はない、じきに治る』と聞かない 心配をするのと買ってきた鎮痛剤を飲ませることしかできないなんて… それに、薬草にも詳しいレンドがそれを調達しないことが、余計に俺を不安にさせた 最後の街を無理に出て、2日たったころ、レンドは俺に真実を話してくれた レンドは施設に来る前から、あまり先の長い体ではなかったらしい じゃあなんで旅を、と聞いたけど、それについてはっきりした事は喋ってくれなかった ただ、自分の寿命を縮めてまでも、この旅について来たかったみたいだった 今まで言わなかった理由を問い詰めると、 『この旅で死ぬのは自分の本望、お前にそんなことを言っても旅がつまらなくなる』と言われた そこで激しく口喧嘩になった。でも、それで現実が何か変わるわけでもないんだ 最期まで旅を続ける、というあいつの意見を、聞くしか…ない ---- ***12/15 Side:Z その翌日は、本当にゆっくりと、その旅路を進めていた 2人で歩きながら、話していると、ふとレンドが倒れた そこからは俺が背負おうとしても、抵抗すらしなかった ついに来た終わりを、淡々と受け入れているつもりらしい 冗談じゃない、一人で勝手に話を終わらせられるなんてまっぴらだ 何も知らないでのうのうと旅を続けていた自分が嫌になる 自分とレンドの両方に湧く激しい怒りを抑えきれず、背負ったままとにかく、とにかく走った …でも結局、何も間に合わなかった 転んで、レンドをかばって前に倒れたとき、あいつは… 『もう大丈夫だ、俺は楽しかった。何も怖くない。…後は任せる』 って言って、それから間もないうちに、こと切れた 俺は、レンドの体をなおも背負って、走った。夕方になり火の国の付近までたどり着いた時、 ふと、俺はあいつの体の異常な冷たさに気づいた。涙が止まらない その事実は納得できなかったけど、受け入れるしか…なかった 死んだ人の顔ってのはどうして見ただけで、思い出しただけで泣けてくるんだろう その人との思い出が一気にあふれ出てきて、たまらなくなる 亡骸は、その付近に穴を掘って埋めた。穴は刃をスコップ代りにすれば、俺でも十分な大きさが掘れた 石を埋めた場所の前に積んで、墓にした 立派な墓なんて俺には作れない、申し訳なくも精いっぱいのことをやったつもりだよ そこはただの水辺の道で、積んだ石と、草原に咲いてる紺色の花以外、何もない場所… 俺は涙を拭きながら、墓の前で今までの旅の思い出をぽつぽつと話し始めた そのときどこからか、あいつの声が聞こえてくる気がした 驚いて俺は、耳を澄ませた ---- ***13/15 Side:Z ― ― ― ― ここにあるは誰が為の墓標か 眠るものを知るは彼のみなり 彼は我が最高の友でありながら 私も彼にとっての最高の友であった 道行く人がこの石を見て、なんと思うだろうか 子供の遊びの残骸か?はたまた自然の偶然か? 墓標と気づくものはほんの一部であろう 私の死を知る者は誰か。 たった一人である 大勢の観客を見てきたはずの舞台から私は、一人にしか劇の最後を見てもらえなかった しかし、空虚な心など存在しない その一人こそ、私が待ち望んだ、ただ一人の観客だったのだ 彼が私の劇を見てくれるのなら、私は渾身の劇を見せよう 幕の淵が落ちるまで、彼と共にこの劇を楽しもう そう思わせてくれた友は、劇の終演にむせび泣いている 嬉しいことだ、悲しいことだ 舞台を降りた私は、もう観客を見ることはない しかし、心に残る彼の姿は、そんな悲しみさえかき消してくれる 許してくれ その心に私という記憶を植え付けることを 他の誰に忘れ去られても構わない、この墓が崩れ去っても構わない しかし、君が老いさらばえるまで私が君の心の一部屋に住んでいる事を覚えていてくれ 私からの一方的なわがままだ、しかし聞いてほしい 最後まで、私も君の劇を見続けていたいのだ ---- ***14/15 Side:Z 残される我が親愛なる友よ、最期の手向けにこの詩を送ろう 赤く染まる道、紅葉色 積まれた石は何想う それは残した熱い血よ 燃える日で染めた大草原で 熱い血は歌う 石と過ごした思い出を 石にぶつける悔しさを この歌を石は忘れぬであろう 血が石を忘れぬ限り ぽつりぽつりと咲くリンドウよ その蒼さにみえるは涙か慈しみか そなたのあらわす言葉を思えば 私は奇跡も信じよう 血よ想い起こせ 石にくれたその思いを 石が渡したその心を 血が幾度道を迷っても 我はここにあれり 茜色の草原よ、無機な白色の街よ 風にざわめく緑の木々よ 我らを見つめる蒼きリンドウよ どうか彼の未来に幸を与え給へ… ……なんて、な 最後は、かっこよく決めてみたかった。らしくない…か? 言いたいことは全て伝えた じゃあな、また… ― ― ― ― ---- ***15/15 Side:Z その言葉を最後に、声は消えた 俺はまた泣いた、ふざけんなよって叫んだ 「いつだって…旅を始めてから、ずっと思ってたよ…。レンド、お前…かっこいいなって…」 あいつらしいといえばらしかったけど、施設にいた時のあいつなら、ありえない別れ方だった レンドも、俺も、今までの旅で、きっといろんな所が変わったんだろう しばらくして、泣きはらした顔が見れる程まで戻った頃、 俺は「じゃあな、また…」と言い残し、その場所を後に、新しい旅を始めた だけど、この旅はもうすぐ終わらせよう、ここからあまり離れる気はないんだから その決意を胸に歩き始める 再びそこに来ることを そこにあいつがいることを 忘れないと誓いながら ---- #comment
#region #contents() #endregion ---- ***1/15 Side:R 「ゴホッ、ゴホッ……」 自分の咳を聞きつけたのか、近くで遊んでいた少年が寄ってくる 『大丈夫か?……ってあれ?見ない顔だね』 「空気にむせただけだ。今日ここへ来た」 『ああ、なるほど。よろしく、俺はジール』 そういう彼は、緑の服を着て、俺よりも3,4歳若い風貌をしている 「よろしく。…レンドだ」 『なんか、今日来たにしちゃ落ち着いてるなぁ』 「変わってるか?」 『いや、ここに来るってことは、親とか保護者が…いなくなって来るわけだろ。初めて来たときは泣いてたり、暗い表情してることが多いからさ』 「…お前もそうだったのか?」 『いや、俺は物ごころついたときからここにいたんだ』 「そうか。」 両親など関係なかった。自分を放っておいて、仕事と遊びに出ていた2人が急に死んだと伝えられても、 育ててくれた恩こそあれ、悲しみの感情は起こらなかった そのことを伝えると、彼は多少不機嫌な顔を見せたが、責め立てられはしなかった ただ『育ててもらった恩はお前にとってどの程度のものなんだろうな』とだけ、彼は口にした 面倒くさかったので、そろそろ昼飯の時間かなと立ち上がり、その質問には無視をすることにした ---- ***2/15 Side:R そんな出会いがあったが、俺と彼は時々話す程度の仲になった 彼は活発な奴で、暇な時間はたいてい他の奴と球遊びをしたり、走り回ったりしていて、せわしなく動いている 一方で俺は、本を読み、花壇の花の手入れをしていて、ゆったりと時を過ごす ジールがスポーツに誘ってくれることもあったが、俺は常に断った そんな日が続いたある時、花壇の手入れをしていた俺に、彼が近づいてきた 『レンドって、花の世話してるのよく見るよな、代親たちも褒めてるぜ』 ここは、保護者がいなくなった子供たちの住み家だ 名前は特になく、<施設>としか呼ばれていない <代親(だいしん)>というのはこの施設で俺達を育ててくれる人たちをまとめて呼ぶ時に使う言葉である 「別に、褒められるためにやったつもりはない。花が好きだからやっているだけだ」 『そっか、でも花が好きって、なんか女の子みたいだよな』 「馬鹿にしているのか?」 …苛立ちを覚えた 『あ、ごめん。そんな気はないよ。ただ、花とばっかりいても、つまんなくないか?って思って』 「それが…馬鹿にしていると言っているんだ!」 怒りの言葉を吐き、俺は彼に飛びかかった ――思えば、彼は俺を遊びに誘うつもりだったのだろう。流石に気が短すぎた…… 花に対して俺は、依存と言ってもいいほどの愛情を持っている 考えると、俺は、花に愛を持って育て、それに応えるように俺に見せてくれる美しい姿をを花からの愛情表現と受け取ることで、 親からの愛の不足を補っているのではないかと思う この考えに対して、俺は何も違和感を感じない つまり俺にとって、花を馬鹿にされるのは、愛する子供をけなされるのと同義だったのだろう ---- ***3/15 Side:R 俺からしかけた喧嘩が始まる 俺の方が年上で体も少し大きかったが、普段スポーツで体を鍛えているあいつに、俺は苦戦した 決着のつかないうちに代親が来て、喧嘩は中止。俺達は叱られ、3日間おやつ抜きの罰。 どうでもよかったが、ジールは残念そうな表情を浮かべた その後、彼が馬鹿にしてしまったことを謝り、俺もむきになったことを謝った その後、ジールとはそれ以上に話すようになった あんな喧嘩のあとでなぜ気まずくならなかったのだろう。考えても不思議に思う 主にあいつはスポーツや最近身近であったことの話を、俺は花や読んだ本と詩(うた)の話をした 勉強が好きでなかったジールだが、俺の話は楽しそうに聞いていた。しかし、実際はどうだったのだろう… 俺は、あいつのスポーツの話を半分流して聞いていた あいつは誰に対しても積極的だ。そんなあいつの周りには面白い事がよく起こって、その話は素直に楽しめる 施設の奴らとはたまに話すが、俺は内向的で、はっきり仲が良いといえるのはジールくらいだった いつのまにか花だけでなく、あいつも自分にとって特別な存在になってきていた ---- ***4/15 Side:Z 俺の名前はジール みなしごを育てる施設で育ったんだ 物ごころつく前に母さんは既にいなかった 生まれてくる前に父さんも既に既にいなかった 施設の人…これからは<代親>って呼ぶことにするけど、とにかくその人たちの話によると 俺は父さんの忘れ形見だったけど、母さんが俺を生むのに体が耐えられなかったらしい そこで、俺は施設に預けられたんだって 施設の生活は楽しかったよ。みんなほとんど同じ境遇で、基本いい子ばっか 俺は体を動かすのが好きで、仲間とスポーツをよくやった いろんな奴がここに来て、俺らの輪に入って仲良くするんだ そのうちの一人がレンドっていう奴だった 俺より、4歳年上のお兄さんだけど、普通に兄弟みたいな感じで話してた 施設では俺は誰に対しても敬語をつかっていない、というより敬語そのものをよく知らなかったんだ 初めて話したときに印象的だったのは、ここに来たばっかなのに、全然辛そうな顔をしてないことだった 保護者を失ったここの子は、最初ほとんどが泣いてたり、ふさぎこんでたりする ……たまに親から見捨てられた子もいたけど、その子も来たときは暗い顔をしていた でも、レンドはそんな顔全然してなかった。まるで、植物が親の事を気にしないみたいに 親がいない寂しさを少しだけわかっているつもりの俺は、レンドが言った 『親に育てられた恩こそあれ、悲しむ程のものはない』 という言葉に少しムッときて、一言言ったが、それは綺麗にスルーされた そんな出会いだったけど俺はレンドともたまに話した ここにいる奴はみんな仲間、が俺のモットーだったし、レンドも別に悪いやつじゃない 話しているときも冷静に鋭いことを言ったりして、面白いやつだった ある日、レンドと喧嘩したんだけど、原因は俺が悪かったんだ 書くと、恥をさらすからここには書かない けど、それが俺とレンドの距離が縮まるきっかけになった それまであいつは、何か感情を表すってことがほとんどなくて、無感動というか 人間らしさがあんま見えなくて、怖いと思ってる部分があった でも、それからのあいつは、俺が身近な話をしてる時に口元が少し広がったりして感情を表すようになったんだ。 感情の表現は少しずつはっきりしてきて、おかげで、話すのが一層楽しくなった 花や詩についても話してくれたけど、残念ながら全部は覚えてないや あいつの話は、良く分からないことが多かったけど、普段表情がほとんど変わらないレンドが、 話している時に表情が変わるのを見るだけで、こっちも楽しい ---- ***5/15 Side:Z 施設での生活を送っていたある日、俺の人生に転機が訪れた 代親達が部屋の中で話し合ってるのを見た俺は、その顔の険しさに興味を持って、扉の隙間から話を聞いた …話の内容は、この施設の運営状況についてだった 施設は寄付金と、子供と代親による内職なんかでやりくりしていたんだけど、 最近の治安の悪さからか受け入れる子供の数は、限界を超えようとしていたらしい それを聞いた俺は、どうにかできないかかなり悩んだ だけど、俺みたいな子供が一人考えたところで、大きすぎる問題を解決する方法はわからなかった 結局思いついたのは、俺自身が出て行って少しでも施設を楽にしてあげることくらいだった 外に出てみたい気持ちもあった。でも、危険だということもわかっていた 施設は俺にとって生まれ育った家だし、そこを離れることにも抵抗がある 相談も…集まっても、いい案が出るとは思えなかったし、あまりに危険な事に、仲間を巻き込みたくない 悩みながらもそのことを隠してしばらく過ごした。 でも、ある時レンドには気づかれてしまった 『お前、最近何かあったのか?』 ――いつもの様に話していたつもりだったのに なおも俺がごまかそうとすると、黙ってそれ以上の追及はしなかった ほっとした時、『そんな風に何かをずっと悩んでるのはお前に合わない。こいつでもやるから、迷いをスパッと断ち切って早く元に戻れ』 と言われ、無骨な木彫りの剣を渡された 小さかったけど、不思議にあったかさを感じさせた それを見つめてると、確かに俺が悩むなんて、馬鹿らしいやって思えてきて、俺の意思は固まった 後で思えば、この剣が俺の能力が発現させたのかもしれない それから3日程たった日、俺は準備を終え、その日の夜中に出発することにした その夜、俺は世界を見たくて旅に出ると仲間だけに伝えた。 みんな驚いていたけど、俺の意思が固いのを見て最後は納得してくれた 代親達に言ったら、絶対に止められていたと思う レンドのところへも別れの挨拶に行くと、まとめられた荷物が置かれてる。驚いてレンドを見ると、 『こんな気がしていた』 『俺も行く。12の子供だけで旅なんてできるか』と荷物を背負い俺にはっきり言った 初めは止めようとしたけど、あいつの強い態度に押し切られてしまった 「全く…」と言いながら内心、やっぱり嬉しかった。なんだかんだいって、一人で旅するのにも怖さがあったと思う レンドが付いてきてくれるなら…なおさら心強かった ---- ***6/15 Side:R ある日を境に、ジールの様子が少し変わった 話をしていても、聞いて相槌を打ちながら、別の何かを考えているのが読み取れた 違和感を払拭するため、俺はあいつへプレゼントを渡した 活発なあいつに、剣は似合うだろうと思い、誕生日プレゼントに作っていたのだが、 凝っているうちにその日は過ぎ、完成する頃にはそれから1か月がたっていた ―――ちなみに、誕生日の日は言葉だけで祝うことにした 今さらそんなことを言うわけにもいかず、ただの贈り物として渡した あいつは礼を言いながら、じっとその木彫りの剣を見つめていた… その翌日から、あいつはいつもの調子に戻り、遊ぶ時間が少なくなった 嫌な予感がした俺は、何かあってもいいよう荷物をまとめ始めた 予感は当たり、あいつは旅に出る事を告げにやってきた ジールがいなくなったら、俺はこれから誰と話せばいいのだ 施設にあいつほど心を許せるやつはいない 俺は付いていくと譲らなかった その晩に俺達は施設を出た 2人とも置手紙を残しておいた 俺は施設に対して特別な思いはなかったが、残した花は気がかりでもある なので手紙に一言、花の世話をしっかりしてくれと太い字で付け足した 旅は順調な道のりだ あまり一日に多くの距離を歩くことはせず、ゆっくりとした旅をした 道に咲く花を眺めながら歩くのは楽しく、数多の種類が、いろんな姿を見せてくれた 一つの街には1か月ほど滞在し、資金は2人で内職、バイトを転々とするのが常だ 旅の途中、うるさい奴等にも出会った 初めて絡まれた時、相手は大人の5人組 子供2人が勝てるはずもなく、俺達は逃げ惑った そのうちに俺が捕まってしまい、ジールも俺を餌に捕まった そんなときだった、あいつの能力が発現したのは ---- ***7/15 Side:R 捕まっていたジールが、いつの間にか拘束から逃れ剣を持っている いったいどこにそんなものを…と思ったが、その刃を見て、あいつが能力者なのだと悟った その刃は明らかに普通の刃ではなく、赤く輝いてまるで気か何かを固めたような刃だったからだ あいつはその剣をむちゃくちゃに振るい、いきなりの出来事に戸惑っていた大人2人を剣で殴って昏倒させると、俺を捕まえていた奴目がけ剣を投げた 捕まえていた奴がそれに驚き俺を放した。瞬間、とっさに走り、ジールの手を掴んで逃げだした 逃げ切ることに成功し、落ち着いたあとに聞いてみたがあれが初めての発動だったようだ いったい何をしたか聞いてみれば、 『レンドを放せ、と叫んで暴れて相手の持っているナイフに触れたら小さな剣になった』らしい 相手が驚き剣を放した時、それを掴んだら今度は大きな剣になり、後は俺の見たとおり、である おそらく、触れた物を媒体とし、刃を発生させる能力だろうと俺は推測する そのことを言うと、あいつは『ばいたいって何?』と聞いてきたが、そこは適当に説明した 逃げ回って疲れた体は細かく教える事を面倒くさがったのだ それからは棒を2本持ち、絡まれたらジールが剣を作り、2人で応戦して逃げた しばらくしてジールの刃が、あいつの思いとか、意思に呼応している事もわかった あいつの思いが強くなったときに、剣に輝きが増し、硬度も上がっているのだ 戦闘の基軸は、俺がジールに指示を出し、あいつはそれに従って相手を攻撃、俺はその間俺に向かって来るやつらを何とかする、というものだった あいつの方が必然的に傷を多く負った、しかし、あいつは文句ひとつ言わない… 罪悪感が心を責めたが、仕方がないと自分を納得させた ---- ***8/15 Side:Z レンドと2人で出発した旅は楽しかったよ 俺は一日になるべく進んで、新しい景色をたくさん見たかったけど あまり速く進むと、何かあったときに体力切れで一大事になるとレンドにたしなめられて、 ゆっくり歩くことにした。 旅をする上で、必要な知識はたいていあいつが知ってくれていた 俺はそれを素直に聞いていれば、ほとんどの困難は避けることができたよ 行く先では目上に敬語を使えというのも教えてもらったことだった それは今でも完璧には使えてなかったりするけど… 旅をしているとき、追剥にもあった 2人で人気のない道を歩いているとき、急に5人の大人が現れたのが最初 その時、俺の能力が初めて現れたんだ 能力に驚いた大人たちからなんとか逃げて、お金も倒した奴から奪い返しておいた 俺に能力が使えるようになってから、能力について、レンドがいろいろ俺の能力を考えて、教えてくれた それからの戦闘もレンドが言うとおりにして行動すると、ほとんど成功したよ 旅をしている中で、レンドに頼ってばっかの自分が情けないなとちょっと落ち込んだ そんな自分は好きじゃなかったから、レンドの言うことをよく聞き、覚えた 戦闘も、レンドが何を考えてこの指示をくれるのかを考えながら動くようにした 旅をした中で特に思い出に残っているのは、レンドがたまに口ずさむ詩と 立ち寄った喫茶店で出されたココアかなぁ… 詩については、その時の雰囲気しか覚えてないから、うまく話せない。ココアの話をすると、 ダンディーなマスター?がいて、軽食を頼んで俺はココア、レンドはコーヒーを注文した そのココアがあまりにも熱くて、舌をやけどしちゃった… そのせいで、よく味がわかんない。レンドも同じ目にあわせてやろうと、無理にお願いして一口交換してもらった そしたらやけどを負った舌でも十分にわかる、コーヒーのあまりの苦さにこっちが悶えることになった レンドは涼しい顔してココア飲んでるし。全く踏んだり蹴ったりだ。 けど、そんな事も後から思えば楽しいことだったんだなって思える ---- ***9/15 Side:R そういえば、立ち寄った先で飲んだココアが思い出に残っている その街を旅立つとき、最後にちょっと喫茶店にでも寄ろうと俺が言いだすと、 ジールは、『金がもったいなくない?』と言いながら、久々の外食…になるのだろうか? とりあえず店で飲食をするということに嬉しそうな顔だった。 旅先での食料はほとんど適当な自炊で済ませ、材料は買うか草原や川から調達してきたものだった 料理は交代制、味に不満はなかったが店で食べたくなる欲求もときたま起こるものだ 「たまにはいいだろう、パスタくらい」 そう言って店のドアを開け一歩踏み入れた瞬間に、今まで経験したことのない雰囲気が俺達を包んだ。ゆったりとした独特の空間に、 店の主人の渋さが深みを与え、入った瞬間に空気さえもその色に染まりそうという表現が適切だろう そこで俺はエスプレッソコーヒーを、ジールはココアを頼む カルボナーラのパスタも頼み、昼食を開始した パスタは、ベーコン、卵、チーズが程良く絡まり、さっぱりとした味わいと記憶している ところで、コーヒーの苦さが癖になってしまうのはカフェイン中毒者の証なのだろうか? エスプレッソの苦味は、飲むたびにその味から抜け出せなくなる。出来が極上のものであれば、なおさら。 そうして俺がコーヒーの味を確かめていると、ジールがココアとコーヒーを交換しようと提案してきた 甘いものも苦手ではないのだが、コーヒーの後に飲むのもどうかと思い反対した しかし、ジールは強く出て、ほぼむりやり交換されてしまった…まあ、いいか ---- ***10/15 Side:R 仕方なく口にしたものだったが、そのココアはあまりにも強い印象を俺に与えた いうなれば「悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純で、まるで恋のように甘い」とでもいうのだろうか 昔のどこかの政治家の言葉らしい、彼はカフェについてこの言葉を使っていたが、ココアにだってつかっても構わないだろう? 名前は確か、シャルル=モーリス・ド・タリーラン=ペリゴールだったはずだ。本が間違っていなければ、だが その熱さには少し驚いたが、なんとか飲めなくはない 熱さもそうだが、なによりもその味があまりにも印象深く刻み込まれている カカオと砂糖が濃過ぎず、まったりとした甘みを持ち、ココアのはずなのにまるで水と同じなめらかさが喉を滑る おそらく、一生忘れる事はないだろう、ともう一口を味わった ジールには感謝しないとな …そういえば、なんであいつは目の前でのたうちまわっていたんだ? 振り返れば、本当に幸せな旅だった 施設にいては、こんな思いは間違いなくできなかっただろう …しかし、終わりは刻々と近づいている 旅をしていく中で、自分の体が限界を感じ始めていた 最近から起こった体調の悪さを隠すことも、もう難しい… 覚悟はしていた。何も後悔はない ただ、街中で死ぬ気はない。最期まで、俺はジールと旅を続けていたい どこかの建物の中で、ベッドの上で、無駄な延命など何の意味も感じられない 恨まれてしまうかもしれないが…ほぼ限界まで、何も言わないでおこう あいつは、俺の知識をちゃんと吸収していた もう、一人で任せても、大丈夫と信じている… ---- ***11/15 Side:Z だんだんと旅での知識も増え始め、10月も半ばに入ったころ… レンドの体調が急に悪くなった 食欲もないのか、料理もあんまり食べないで、日に歩く距離もだんだん減っていく 『気にするな』なんていわれても無理だ だけど、病院に連れて行こうとしても『そんな金はない、じきに治る』と聞かない 心配をするのと買ってきた鎮痛剤を飲ませることしかできないなんて… それに、薬草にも詳しいレンドがそれを調達しないことが、余計に俺を不安にさせた 最後の街を無理に出て、2日たったころ、レンドは俺に真実を話してくれた レンドは施設に来る前から、あまり先の長い体ではなかったらしい じゃあなんで旅を、と聞いたけど、それについてはっきりした事は喋ってくれなかった ただ、自分の寿命を縮めてまでも、この旅について来たかったみたいだった 今まで言わなかった理由を問い詰めると、 『この旅で死ぬのは自分の本望、お前にそんなことを言っても旅がつまらなくなる』と言われた そこで激しく口喧嘩になった。でも、それで現実が何か変わるわけでもないんだ 最期まで旅を続ける、というあいつの意見を、聞くしか…ない ---- ***12/15 Side:Z その翌日は、本当にゆっくりと、その旅路を進めていた 2人で歩きながら、話していると、ふとレンドが倒れた そこからは俺が背負おうとしても、抵抗すらしなかった ついに来た終わりを、淡々と受け入れているつもりらしい 冗談じゃない、一人で勝手に話を終わらせられるなんてまっぴらだ 何も知らないでのうのうと旅を続けていた自分が嫌になる 自分とレンドの両方に湧く激しい怒りを抑えきれず、背負ったままとにかく、とにかく走った …でも結局、何も間に合わなかった 転んで、レンドをかばって前に倒れたとき、あいつは… 『もう大丈夫だ、俺は楽しかった。何も怖くない。…後は任せる』 って言って、それから間もないうちに、こと切れた 俺は、レンドの体をなおも背負って、走った。夕方になり火の国の付近までたどり着いた時、 ふと、俺はあいつの体の異常な冷たさに気づいた。涙が止まらない その事実は納得できなかったけど、受け入れるしか…なかった 死んだ人の顔ってのはどうして見ただけで、思い出しただけで泣けてくるんだろう その人との思い出が一気にあふれ出てきて、たまらなくなる 亡骸は、その付近に穴を掘って埋めた。穴は刃をスコップ代りにすれば、俺でも十分な大きさが掘れた 石を埋めた場所の前に積んで、墓にした 立派な墓なんて俺には作れない、申し訳なくも精いっぱいのことをやったつもりだよ そこはただの水辺の道で、積んだ石と、草原に咲いてる紺色の花以外、何もない場所… 俺は涙を拭きながら、墓の前で今までの旅の思い出をぽつぽつと話し始めた そのときどこからか、あいつの声が聞こえてくる気がした 驚いて俺は、耳を澄ませた ---- ***13/15 Side:Z ― ― ― ― ここにあるは誰が為の墓標か 眠るものを知るは彼のみなり 彼は我が最高の友でありながら 私も彼にとっての最高の友であった 道行く人がこの石を見て、なんと思うだろうか 子供の遊びの残骸か?はたまた自然の偶然か? 墓標と気づくものはほんの一部であろう 私の死を知る者は誰か。 たった一人である 大勢の観客を見てきたはずの舞台から私は、一人にしか劇の最後を見てもらえなかった しかし、空虚な心など存在しない その一人こそ、私が待ち望んだ、ただ一人の観客だったのだ 彼が私の劇を見てくれるのなら、私は渾身の劇を見せよう 幕の淵が落ちるまで、彼と共にこの劇を楽しもう そう思わせてくれた友は、劇の終演にむせび泣いている 嬉しいことだ、悲しいことだ 舞台を降りた私は、もう観客を見ることはない しかし、心に残る彼の姿は、そんな悲しみさえかき消してくれる 許してくれ その心に私という記憶を植え付けることを 他の誰に忘れ去られても構わない、この墓が崩れ去っても構わない しかし、君が老いさらばえるまで私が君の心の一部屋に住んでいる事を覚えていてくれ 私からの一方的なわがままだ、しかし聞いてほしい 最後まで、私も君の劇を見続けていたいのだ ---- ***14/15 Side:Z 残される我が親愛なる友よ、最期の手向けにこの詩を送ろう 赤く染まる道、紅葉色 積まれた石は何想う それは残した熱い血よ 燃える日で染めた大草原で 熱い血は歌う 石と過ごした思い出を 石にぶつける悔しさを この歌を石は忘れぬであろう 血が石を忘れぬ限り ぽつりぽつりと咲くリンドウよ その蒼さにみえるは涙か慈しみか そなたのあらわす言葉を思えば 私は奇跡も信じよう 血よ想い起こせ 石にくれたその思いを 石が渡したその心を 血が幾度道を迷っても 我はここにあれり 茜色の草原よ、無機な白色の街よ 風にざわめく緑の木々よ 我らを見つめる蒼きリンドウよ どうか彼の未来に幸を与え給へ… ……なんて、な 最後は、かっこよく決めてみたかった。らしくない…か? 言いたいことは全て伝えた じゃあな、また… ― ― ― ― ---- ***15/15 Side:Z その言葉を最後に、声は消えた 俺はまた泣いた、ふざけんなよって叫んだ 「いつだって…旅を始めてから、ずっと思ってたよ…。レンド、お前…かっこいいなって…」 あいつらしいといえばらしかったけど、施設にいた時のあいつなら、ありえない別れ方だった レンドも、俺も、今までの旅で、きっといろんな所が変わったんだろう しばらくして、泣きはらした顔が見れる程まで戻った頃、 俺は「じゃあな、また…」と言い残し、その場所を後に、新しい旅を始めた だけど、この旅はもうすぐ終わらせよう、ここからあまり離れる気はないんだから その決意を胸に歩き始める 再びそこに来ることを そこにあいつがいることを 忘れないと誓いながら ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: