キルベルク・シルバーソード

―― “神”は死んだ――
ほかでもない……われわれが神を殺したのだ……。
それは大地から太陽から切り離すような行為……光は絶え死ぬ……――
われわれは何処へと動いていくのか?道は暗闇に塗りつぶされ、方角という概念は潰える……。
われわれは無限の虚無を彷徨うのか?果ては愚か、始まりすら見えない混沌の世界だ……。
寒さを未だにきみたちは感じないか?絶対零度……すべてが凍りつく……それが『夜』……
絶えず夜が――ますます暗い『夜』がやってくるのではないか?降りる……『夜』が降りてくる――


だが……今この時より『夜』は終わりを告げる……
昇る――『夜明け』が昇る……。


≪ Son Giunta  Grazie o Dio ≫



――キルベルク・シルバーソード






キルベルク・シルバーソード


白いスーツに紫のネクタイをしめた、銀色の瞳の眼光鋭い男。
黒と金の入り混じった、特徴的な色の髪を持つ。ちなみに、地毛である。
キルベルク・スロウエッジの真の姿であり、なんと彼が追っていた銀色の剣士の正体。
凶悪なまでの歪んだ本性を持つ、≪ネル・ナハト≫たちのボスである。
独特な、詩人めいたような、「運命」や「神の啓示」「試練」といった言い回しを好む。
そして『“理解”するんだ』が口癖。

聖都襲撃の際、アーチャーの「白夜の徒士」によってピンチに陥り、
所持していた『黎明の宝玉』と融合する。
容姿が変化し、黒と金の混じりあうその髪の前部が、白銀に変色する。
服も逆さ十字架を模したデザインをあしらった白いスーツと黒いシャツになり、
先端に銀色の剣のシンボルが刺繍されている紫色のネクタイを締め、
鋭く輝く鋼の刃のような、まさしく彼を象徴する≪銀色の瞳≫と
“黎明の空”をトレースしたかのような漆黒と灼熱の混在する≪夜明け色の瞳≫の眼となる。
夜明け色の右の瞳の周囲には、眼の部分を斬裂き貫く『剣』型の痣が浮かび上がっている。
そして、瑠雪 晃との戦闘で、その痣を更に抉る傷が出来た。
更にエリーズとの命を掛けた決闘の果て、『左腕』を失った。
よって部下であるシルヴェストルに、『義手』を作らせる。
曰く「これはわたしの誇りとなる傷である」で、その義手は一目見て義手であると解るよう設計されている。
また、余分なサブウエポンは一切無く、フィーリングに特化したものを使用しており、これもまた彼らしい。

……エリーズとの決戦以後、『導く者』としての『圧倒的な姿(=プロパガンダが生み出した虚像)』だけでなく、
自らの、いや、人間の本質である『人間として苦しむ姿』を、少ないながらも見せるようになった。
特に副官である吟雪には、言葉をも添えて吐露する程である。
――以前、元副官であり10年来の付き合いであるベリルは、彼のことを「寂しい人」と評した。
……ひょっとするとそれは、最も彼の、深層に隠された本質を見抜いた言葉なのかもしれない。


――略歴


長年正体不明の犯罪者であったが、その能力と全貌をマック=ザ・スプラッターに知られてしまう。
唯一自らの正体を知るマックを始末するため、正体を隠してノビタ真織たちに接近。
彼らを騙し、その力を利用してマックの所在を突き止め、第74留置施設エリアを襲撃し、これを始末する。
その後も、彼らの『裏切られた絶望のエネルギー』を、
≪黎明の宝玉≫のパワーとするためにキルベルク・スロウエッジとして彼らと共に行動。
金の国の拠点、ニューエネルギー研究所跡に彼らを狂言によっておびき寄せ、遂に正体を表す。

その後、聖都スラウロットを多数の能力者を率いて大規模に襲撃。
街中を戦渦に巻き込みながら、≪ネル・ナハト≫として宣戦布告を成した。
今までは水面下で進行していた彼の野望が、いよいよ牙を剥くこととなる。

全世界を≪戦争≫によって絶望の恐怖のどん底に叩き込み、
更に今ある土台、概念、秩序などもスベテ一度ぶち壊して、
能力者・非能力者・富裕層・貧困層問わず『力と飢えが支配する世界』を築き上げることが目的。
それは、彼の言葉を借りれば、「全てのものに平等にチャンスが訪れる世界」である。
手を伸ばさぬものしか生き残れない世界を築くことで現在平和に胡座をかいているものを振るいおとし、
「恐怖」によって、それまで無自覚であった『不可視の幸福』『平生の安心』を自覚させる。
それにより、「戦争を乗り越えたものたち」が、その経験を生かして築き上げる『絶対幸福』の世界を信じている。
……だがしかし、彼の厄介なところは、これを自己満足であると理解しているところである。
そのうえで、「開き直った野望は如何なる理論をもってしても止められない」ということも理解している。
生粋の狂人といえるだろう。

カノッサ機関最高議会議員のグレアム・スレードと交戦し引き分け彼に初の『敗北』を味あわせ、
水の国で開催された第五回大会において2位の実力を誇ると戦闘し、
自身も大きなダメージを受けるものの晃を戦闘不能においやる。
更にはエリーズとの決闘の末、彼を死においやるなど、戦闘力は高いと言えるだろう。
また、上記エリーズとの決闘は、彼の心境に何か大きな“もの”を遺したようだ。

そしてエルポタの森で李・龍との『一撃勝負』にて、初めて『敗北』を味わう。
……――だが……?




能力


――アートマン≪D・エクソダス(D Exodus)≫


珍しい纏衣装着型アートマン。自身が身に纏うようにして発現する。ヴィダーハルのアートマンと同タイプ。
銀色単色の全身鎧のようなアートマン。つまり、「銀色の剣士」そのもののフォルムである。
この能力を用いて、銀色の剣士として行動していたようだ。
ある程度フォルムの変化が可能らしく、正体を表してからは形状が禍々しく変化した。
鎧の硬質と魔力の波動防御を兼ね備えており、弱い攻撃は弾き飛ばしてしまう。
更に能力『ネル・ナハト・トラオム』を所有する。


――アートマン能力 『ネル・ナハト・トラオム』(終わりの夜の夢)


長らく能力詳細不明であったが、カノッサ機関最高議会議員、グレアムとの戦いで遂に判明した。
その本質は『空間/世界』を歪める『ゲート』を操る能力。
両手から生成する漆黒の渦――空間が捻じ切られ“開いた”穴――を操ることができる。
おおまかに『空間ゲート』としての使い方と『封印・解放ゲート』としての使い方がある。

  • 空間ゲート
主にシルバーソードが移動に使う能力。
漆黒の渦、空間と空間を歪めて繋ぐ『ゲート』を生成し、そこを通ることで自在に移動できる。
距離はほぼ無制限であり、この能力を用いて世界中を移動している。
また、一度訪れた場所、或いは彼が部下たちに所持させている『黎明の宝玉の力を浸透させた宝石』
がある位置にしか、ゲートを開くことは出来ない。
発動にタイムラグがあるため、戦闘での使用には向いていない。

  • 封印ゲート&解放ゲート
長らく謎に包まれていた、シルバーソードの能力の本質。
事象を「封印」するゲート、その本質は空間を歪めて生み出した『檻』――を操り、
そこに取り込んだ事象を「保存」して任意に「解放」する。
簡単に言えば、相手の斬撃を「封印」→「解放」すると同じ質の斬撃が放てる。
火炎放射を「封印」すれば火炎放射が、時限爆弾を「封印」すれば時限爆弾が「解放」できる。
「保存」しておけるストックは2つまで。以降「封印」すると自動的に上書きされる。
「保存」してあるストックは「解放」しても消滅せず、3回の「解放」もしくは「封印」の上書きでのみ消える。
また、「封印ゲート」は単純な「防御手段」としても用いることができる。
だがその防御能力は万能ではなく、ダメージが通ったり、ゲートが破壊される場合もある。
自分の掌の先にのみ出現する(遠隔出現は不可能)。

一見すると非常に強力な能力だが、当然制約も多い。まず第一に、「封印」「解放」が行える「手」は決まっている。
「封印ゲート」が出せるのは左掌からのみで、「解放ゲート」は右掌からのみである。
どちらか一方でも潰せば戦力は著しく低下する。ただし、「空間ゲート」はその限りではない。

ゲート出現にはタイムラグがあり、1レスの準備期間が必要。
よって「右左どちらの手がどちらのゲートか」さえ把握すれば、準備中の手を見て対応ができる。
例:左手(封印)が準備を開始したら攻撃しない、右手(解放)が準備を開始したら警戒する。

緊急回避用の例外として、戦闘中一度だけ『ゲート』の『速攻発動』が可能。
条件として、シルバーが既に手負いである必要がある。生命の危機を回避するための、底力ということだろう。

第一次金の国決戦時に刹那の≪Insight≫によって能力の本質を見極められ、
『ゲートの大きさ以上の攻撃は封印できない』という弱点を突かれる。
しかしその際は、シルバーソードが駆っていたレプリエルで防がれた。
結果としてこの一撃がレプリエルにとって「致命傷」となったが。

――D・エクソダスで封印解放したことがある技
コルネッツォ:キメラの牙撃』
アリー・スフィア:天魔サバト人形の衝撃波』
グレアム・スレード:魔力の2連弾丸』
グレアム・スレード:狂槍牙刃』
アーチャー:白夜の徒士内部の剣群(練光模倣?)』
瑠雪 晃:水闇の槍』
エリーズ:斬空波』
刹那:魔銃撃』
貴宝院 織守:“降り神”で具現した龍の硬質体液弾』
吟雪:水弾・重瀑布』
吟雪:炎弾・轟瀑布』
ダルク:乱れ鎖斬華』
ベリルハーツ:生命の幻影』


――≪エヒト・ナハト・ヒュムネ≫


シルバーソードが≪黎明の宝玉≫と融合したことで得た、D・エクソダスの新たなる能力。
発動中、『D・エクソダス』及び『ネル・ナハト・トラオム』は使えない。
背中から、白と黒が歪に入り混じった、酷く歪な形の、3本指の『手』のような『翼』が具現。
手の甲にはぎょろりと開く血走った瞳があり、発動中は彼の背後の空間からも『眼』が開く。
その様は、極めて異質である。

左の翼から『黒い杭』を、右の翼から『白い杭』を放つことができる。
それぞれ『闇』と『光』の属性を備えているが、軌道は直線ゆえ回避は容易。
ただし、突き刺さった箇所に杭は残る。
そして、『光』とは一方で『闇』を生み、『闇』の存在は『光』の存在を証明する。
絶えず廻り続ける、太陽と月の輪廻のように、互いが互いを生み出す。
……突き刺さった箇所から、それぞれ違う属性の杭を再び生成することができる。
いずれも杭の生成に1レスを要するため対処は可能だが、脅威に代わりは無い。

エヒト・ナハト・ヒュムネとは、『真夜の賛歌』の意、らしい。




秘技


――『斬』の秘技≪断頭台の記憶≫


キルベルク・シルバーソードという人間の全てを集束した振り下ろしの斬撃。
彼が積み重ねてきた≪生命を断つ一太刀≫であり、その太刀筋は極限以上に研ぎ澄まされている。
後述する彼の過去がある故にこの技があり、
それは才能や能力の類ではなく、紛うと無き彼の技術と努力の結晶である。
ゆえに彼はこの一太刀を、自らの能力を超えて最も信頼している。

究極とも呼べる集中の果てに繰り出す振り下ろしの斬撃は脅威的な速度と威力を誇るものの、
その大きなモーションと『隙』ゆえ、対処されることは少なくない。
然しエリーズの生命を最終的に奪ったのはこの一撃であり、
矢張り脅威と呼ぶには変わりないだろう。


――『突』の秘技≪神穿黎牙≫


≪エヒト・ナハト・ヒュムネ≫発動時専用。
自らの剣術を集束した突きと共に、エヒト・ナハト・ヒュムネの翼より射出する『杭』を放つ。
極限領域まで研ぎ澄まされた二撃は最早『一撃』の世界にまで押し上げられ、
剣撃と杭撃による高速の『突き』を放つ秘技である。まさしく神をも穿つ牙。
その威力は、織守の秘術により具現化した龍をも貫き穿ち絶命させるほどである。
ただし此方をキルベルクが放つことは少ない。
彼の剣術の源流は『振り下ろし』にあるがゆえ、矢張り『断頭台』の方が『信頼』できるからだろう。


――≪夜明けの霧雨≫


最終決戦でキルベルクが放った正真正銘最終の奥義。
六枚の翼から放たれた、雨粒のように小さな「杭」と
幾重の薄い魔力を纏ったまま放つ『断頭台の記憶』が織り成し、反射し合い、煌く。
まさしく≪夜明けの霧雨≫の如く幻想的な、眼前全てを薙ぎ払い斬り裂く、最期の刃。




所持品・武器



――≪デンメルング≫――≪黎明の宝玉≫


アリー・スフィアとパンデルピエールの二度目の戦闘後、存在が明らかとなった。
キルベルクに≪D・エクソダス≫を覚醒させた、彼のパワーの源流であるという宝玉。
ただの人間である彼が、人外にも引けを取らぬ力を備えているのは、これに由来しているようだ。
夜の国周辺遺跡群の中にある古代都市、位置的関係で常に『夜明け』である街の『神』として奉られていたらしい。
その効力は≪夜明けを司る≫――
ベリル曰く、その『真の意味』とは『生と死を司る』とのこと。
「夜明け――太陽」とは太古より命のシンボルであり、大地に恵みなる生命の光を届かせていた。
生命の終焉を「夜」と見立てるならば、『夜明け』とはまさに『生と死』が混ざり合った境地なのである。
エヒト・ナハト・ヒュムネが属性として備える『光と闇』も、これに由来する。
ネル・ナハト・トラオムの『封印と解放』も、本質的には『全てを呑み込む闇たる封印』と、
『全てを解き放つ光たる解放』であり、矢張り『光と闇――生と死』なのである。

神として奉られていたというだけあって、他の宝玉とは一線を画している。
どうやら『人間の精神エネルギー』を餌として、強化及び力を貯えることができるようだ。
かつての副官を使って各地で混乱を撒き散らしていたのも、
その際発生する人間の『絶望の精神エネルギー』を元副官が自らの能力を使って回収し、
そしてこの「黎明の宝玉」に与えるためであったという。
貯えられたエネルギーは、最後の切り札を“生み出す”こと等に使われた。

聖都戦以降、キルベルクと『融合』し、彼に力を与えている。

ちなみに、かつて黎明の宝玉が奉られていたという街。
その街こそがヴュルヘイム古代都市と呼ばれる遺跡であり、≪ネル・ナハト≫の現本拠地である。


――歪剣『紅天蒼夜』


キルベルク・シルバーソードが、銀色の剣士として活動していた時代からの愛剣。
マック=ザ・スプラッターを殺害した際も、この剣を用いた。
歪曲した、紫色の刃を持つ、やや大振りな剣。特に能力は無いが、高い切れ味を持つ。
なお、紅天蒼夜とは、天が紅に染まり、少しずつ蒼い夜に変貌していく時――
即ち、落陽を意味する。≪夜≫の始まりであり、『黎明』への第一歩の暗示だ。


――妖刀『死別』


戦奏樂団『ナハトムジーク』のメンバー、『大乱に咲く幻匠』華秋 太白が打った“最期”の一振り。
白銀の鞘と柄を持つ、禍々しい太刀。紫色の、乱れ刃の刀身を持つ。
その様は、まるで刃が唸りを上げているような出来だ。

抜き続ける限り、所有者の精神力や魔力を喰らい続ける魔刀。
だが、その刀身はあらゆる物質や魔力を斬り裂くという。
キルベルク・シルバーソードの、切り札である。
最終決戦の際、紛失した。




≪ 覚醒 ≫


――夢は、全く見ないか、面白い夢を見るか、どちらかだ。
起きている時も同じだ、全く起きていないか、面白く起きているか。


さぁ――――


――――おもしろく、目覚めようではないか


――エルポタの森で李・龍に敗北して以降、一切姿を見せなかったキルベルク。
第一次金の国決戦に於いてレプリエルと共に再登場した時――世界は、戦慄することになる。

『黎明の宝玉』との融合率が上昇したのか、その両瞳を完全に『夜明け色』に染め。
かつての彼からは想像もつかないほどの莫大な魔力を、纏っていた。
愛野 海里刹那ラギデュース織守と一挙に交戦し、
海里、ラギデュース、織守をほぼ戦闘不能においやり、
刹那をも戦闘続行困難にまで追いやって見せた。
まさしく≪ネル・ナハト≫のボスに相応しい、圧倒的なパワーを手にして帰ってきたのである。

……しかし、その『強さ』には何か『奇妙』なところがある。
曰く李・龍との決戦の結果は記憶に無いらしく……その言動にも若干「奇妙なところ」が存在した。
果たして、それは何を意味し――何を齎すのだろうか?




過去



何故、キルベルク・シルバーソードという、世界を破壊と混乱に巻き込む狂人は誕生したのか?
それは、彼が人生において味わった、みっつの大きな≪地獄≫が大きく影響している。


――ひとつめの『地獄』


彼は、捨て子であった。
物心ついた時、彼の目の前に広がっていたのは家族の愛情ではなく、路地裏の冷めた狂気である。
しかし彼は、その底なしの『生存本能』と、『幸福への渇望』だけを原動力に、
幼くして、その地獄の世界を生き延びた。
ツァーリに語った彼の過去によると、相当凄まじい生活をしていたらしい。
それこそ、打ち棄てられた人の屍肉に、戸惑い無く齧り付くような『地獄』を。
曰く、未だにこの時期の苦しみが、夢となって彼を苛むようだ。
しかし、彼はこのことを『嬉しい』といっている。
何故か――この「屈辱」を常に胸に秘めることで、大きな「渇望の瀑布」を常に心に抱き続けられるからだ。
その純粋なる狂気は、あのシルヴェストルをして、言葉を失わせた。

……そして彼は、やがて或る人に拾われることになる。
それが、運命を加速させる――。


――ふたつめの『地獄』


彼が拾われたのは、なんと金の国の或る良い家柄の貴族。
しかし――その家は、代々国王から命ぜられる、厳格な『死刑執行人』の家系であった。
このあたりのことは、未だ非常に不明瞭なのだが……同じくかつて死刑執行人であった、
ルーカス・アルディロッソと義兄弟の契りを交わした弟でもある。
彼が引き取られたのは、アルディロッソ家とは別の執行人の家系だったのだ。
そして、キルベルク・シルバーソードもまた、そのための剣の訓練を受けることになる。
すぐに天賦の剣の才能を発揮し、ルーカスに次ぐ、或いはそれ以上の剣の腕前となった。

だが、処刑人という、『自由と平穏』を閉ざされた自身の立場に疑問を抱く。
幾百、幾千もの呪詛と断末魔、血潮をその身体に浴び続け。
それを誰にもバラすことも、助けを求めることもできない……死刑執行人は秘密の職だ。
逃れることすらできない――血のにおいがこびり付いた「不可視の鎖」。
それに雁字搦めにされて生きる毎日……それは彼にとって紛れも無い『地獄』だった。
路地裏の闇は逃れ、彼をあたたかい電球が照らしてくれるようになった。
しかし、彼の心に「平穏」という光が灯ることは、無かったのである。

そして――このあたりは実に不明瞭だが――金の国においてクーデターを扇動。
この際、首謀者の替え玉を立て、死亡したと偽って『自由』を得る。
「自分の力」だけで勝ち取った『自由』。それは、彼が幼少期勝ち抜いた「生存競争」の拡大。
どこまでも強い「幸福への渇望」が彼を動かしたのだ。……こうして狂気は蓄積される。
なお、この時ルーカスを斬り谷底に転落させ、部分的な記憶喪失においやっている。

ようやく手にした自由の世界。
井の中の蛙が初めて知った大空と地平線は。


――みっつめの『地獄』


自身がここまでして手に入れた『自由』を平然と踏みにじっている世界――。
その「自由と平穏」を、『当たり前のように与えられるもの』と認識している「世界」!
この事実は、彼の心を叩きのめし、破壊し、再生不可まで堕とすのには十分過ぎた。

彼は世界に真の『自由と平穏』を理解させ『幸福』を導くために、≪ネル・ナハト≫を組織する。
また彼は、『無能力者・能力者・富裕層・貧困層』全てに関係無い『チャンス』を与えるとも言っている。
どうやら――『自由と平穏』を際立たせるために、そしてのし上がる「チャンス」を与えるために、
全ての秩序と概念をブチ壊すために、絶望的なほどの≪混沌の戦争≫を望むようだ。
そしてそれこそが、自らの『幸福』へと繋がると信じ切っている。
『地獄』を打開し、『天国』へと。『幸せの領域』へと至れるのだと――。




最終決戦――キルベルク・≪デンメルング≫・シルバーソード


ヴュルヘイム古代都市での決戦から二週間後。
彼は金の国王城を奇襲――能力者たちに最終決戦を仕掛ける。
ノビタエルメア貴宝院 香美那ラギデュースラベンダァイス
レオンハルト刹那、そしてベリルハーツと最後の戦いを繰り広げる。

戦いは熾烈を極め――彼は自らが“始まった”地、金の国『死刑執行場』に到達。
溢れる負のエネルギーを黎明の宝玉に吸収し、最終の進化を遂げた。

髪の総てが白銀に変色し、瞳のみならず、眼光総てが夜明けを湛え
あまりの力の波動に、上半身の衣服は漆黒のシャツの両腕部を残して灼け消え、
晒された身体に刻まれる十文字の傷痕の交叉する中央部には、脈動して妖しく輝く≪黎明の核≫。
其の背に、純白、漆黒、そして真紅の六枚の翼を広げる姿は、神々しくも――――

≪D・エクソダス≫のゲート解放を連射、≪エヒト・ナハト≫の杭を十数本単位で放つなど、
圧倒的なスケールで能力者たちを苦しめる。
しかし、戦いのうちに彼は気付く。
自らが本当に求めているもの、そして――――

――――その結末は、是非自らの目で確かめほしい。

死刑執行場の裏手にある、断罪を果たした剣を清める聖なる河で、
決意と正義の一撃に真っ向から立ち向かい、銀色の風と成って散った。




「能力!非能力!!それだけで左右される人生ッッ!!
生まれ!!富裕!!貧困!!そんなもので左右される生き様ァッッ!!!
それらを全て破壊しつくすのが「わたしがもたらす戦争」なのだ!!
生半可なものではない!!全て全て突き壊し飲み込み喰らい尽くす戦争だ!!
恐怖!!本能に叩き込まれる絶対的なもの!!
チャンス!!すべての人間に等しく与えられるべきもの!!
それらを同時に満たすもの――それが≪戦争≫だ!!
全てのものにチャンスをもたらす≪戦争≫を!!
全てのものに絶対的な恐怖を与える≪戦争≫を!!
全てのものに平等な略奪世界を与える≪戦争≫を!!
全てのものに幸福への道しるべを刻み込む≪戦争≫を!!
全てのものに乗り越えるべき試練たる絶望的な≪戦争≫を!!
全てのものに導き導かれる不変不壊の世界を与える≪戦争≫を!!

わたしが――キルベルク・シルバーソードが……
≪ネル・ナハト≫が“奏でる”ッッ!!
絶対甘美、耳を劈き何処までも響き渡る音色を――ッッ!!
≪戦奏≫をッッッ――――!!!!」




おまけ

シルバーソードがこれまで行った演説のまとめ

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最終更新:2011年12月07日 17:36