『7月31日』


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日が西に傾いていた。今日と言う日が去っていくのを、友人達と見送った。
家に帰り両親と夕食を取り、その後暫く読書をした。学校から借りた、珍しい動物について書かれた本だ。
やがて眠気が忍び寄ってくる。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
ベッドに潜り込み、明日する事を考えながら眠りにつく。
学校に行ったら何をしよう?家の遠い友人達ともまた会える。
二学期の授業は楽しいのだろうか?転校生も来るかもしれない。
ああ、明日が待ち遠しい。



『8月1日』

午前7時。母親の声で目が覚める。カーテンを開け放ち、日の光を部屋に取り込む。
パジャマを脱いで、枕元に置いた着替えに袖を通す。
ベッドの横のカバンを背負い、リビングに向かう。

「あら、一日気が早いわよ?学校が楽しみなのは分かるけど、そんなに焦らないで」

―――――――――?

「え?そうよ?今日は8月1日だけど」

――――――

「…?まだ眠いのかしら…」

終わらない≪今日≫が始まった。


午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
この二時間の間に私は何かを理解していた。
今日はまだ夏休み、学校は始まっていない。
私達は、親に許された範囲でなら何をしていても良い。
肩すかしを喰らった気分では有った。だが、どうせなら遊ぶ事にしよう。


午前12時。昼食を取るために家に戻る。
暑いから、ということで冷やし中華が用意されていた。
この夏に何度食べたかは数えていないけど、何時食べてもそれなりに美味しい。


午後6時。少々長く遊びすぎた。日が西に傾いていた。
夕陽を見ていると、今日が終わるという事を改めて感じさせられる。
その頃の私は、明確にそういう意識は持っていなかった。だけど、おそらくはそう思っていたのだろう。
今日と言う日が去っていくのを、友人達と見送った。
家まで数分、遅かったわねと、母親に軽く叱られた。


午後7時。本を読んでいるとリビングから声がする。夕食が出来たらしい。
雑談をしつつ、両親と夕食を取る。


「明日から学校だな、通学路では気をつけろよ」


父親が、テレビに気を取られながらもそう言い、母親に窘められる。
食後は暫く読書をした。学校から借りた、珍しい動物について書かれた本だ。


午後9時。眠気が忍び寄ってくる。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
ベッドに潜り込み、明日する事を考えながら眠りにつく。
学校に行ったら何をしよう?家の遠い友人達ともまた会える。
二学期の授業は楽しいのだろうか?転校生も来るかもしれない。
ああ、明日が待ち遠しい。



『8月2日』

午前7時。母親の声で目が覚める。カーテンを開け放ち、日の光を部屋に取り込む。
パジャマを脱いで、枕元に置いた着替えに袖を通す。
ベッドの横のカバンを背負い、リビングに向かう。

「あら、一日気が早いわよ?学校が楽しみなのは分かるけど、そんなに焦らないで」

―――――――――!?

「え?そうよ?今日は8月2日だけど」

――――――

「…?まだ眠いのかしら…」

私は部屋に駆け戻った。


午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
二時間の間に心を落ち着けた私は、それに参加する事にした。
何が起こっているか全く分からない。だが、どうせなら遊ぶ事にしよう。
…それが、7歳の子供の選択だった。


午前12時。昼食を取るために家に戻る。
暑いから、ということで冷やし中華が用意されていた。
昨日は気が付かなかったが、何時もは有る胡瓜が入っていなかった。
それを見つけた事が、なんとなく嬉しかった。


午後6時。少々長く遊びすぎた。日が西に傾いていた。
今日が終わるんだ、そう思いながら、友人たちと並んで座っていた。
今日と言う日が去っていくのを、友人達と見送った。
家まで数分、遅かったわねと、母親に軽く叱られた。


午後7時。本を読んでいるとリビングから声がする。夕食が出来たらしい。
雑談をしつつ、両親と夕食を取る。

「明日から学校だな、通学路では気をつけろよ」

喉にパンを詰まらせそうになった。シチューの味も感じられない。
あまり食べずに部屋に戻り、暫く読書をした。学校から借りた、珍しい動物について書かれた本だ。


午後9時。眠気が忍び寄ってくる。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
ベッドに潜り込む。学校に行ったら何をしよう?学校に行ったら…
ああ、明日が待ち遠しい。



『11月17日』

午前7時。母親の声で目が覚める。カーテンを開け放ち、日の光を部屋に取り込む。
パジャマを脱いで、枕元に置いた着替えに袖を通す。
少々肌寒くなってきた。だが、それがどうしたというのだろう?
ベッドの横に置かれた鞄には、もはや視線を向ける事は無い。


午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
とても楽しそうな、心の底から幸せそうな、そんな表情をしている。
公園に向かう途中、一つだけ異変が有った。普段すれ違う老人が居なかったのだ。
私は彼が死んだ事を悟り、悲しむと同時に僅かな羨望を覚えた。


午前12時。昼食を取るために家に戻る。
この季節に冷やし中華は嬉しくもなんともない。
胡瓜が入る様子は、ここ三月では見られない。


午後6時。もう空は暗い。だが、私達はこの時間まで遊んでいた。
日が傾いていく様、今日が去っていく様を、私はこの目に納めていた。
この時間は好きだ。季節が過ぎるにつれ、それが早い時間になるのが悲しい。
家まで数分、遅かったわねと、母親に軽く叱られた。


午後7時。本を眺めているとリビングから声がする。夕食が出来たらしい。
雑談をしつつ、両親と夕食を取る。
父親の言葉は耳に入らないが、答えを合わせる事は出来る。
食後は部屋に戻り、本のページに視線を迷わせた。


午後9時。眠気が忍び寄ってくる。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
明日が待ち遠しい。明日が待ち遠しい。明日が待ち遠しい。



『12月24日』

午前7時。母親の声で目が覚める。

午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。

午前12時。昼食を取るために家に戻る。

午後6時。帰宅。

午後7時。夕食。その後読書。

午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。



『2月8日』

午前7時。母親の声で目が覚める。

午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。

午前12時。昼食を取るために家に戻る。

午後6時。帰宅。

午後7時。夕食。その後読書。

午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。



『5月19日』
午前7時。母親の声で目が覚める。
午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
午前12時。昼食を取るために家に戻る。
午後6時。帰宅。
午後7時。夕食。その後読書。
午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
『10月3日』
午前7時。母親の声で目が覚める。
午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
午前12時。昼食を取るために家に戻る。
午後6時。帰宅。
午後7時。夕食。その後読書。
午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
『2月5日』
午前7時。母親の声で目が覚める。
午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
午前12時。昼食を取るために家に戻る。
午後6時。帰宅。
午後7時。夕食。その後読書。
午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
『7月26日』
午前7時。母親の声で目が覚める。
午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
午前12時。昼食を取るために家に戻る。
午後6時。帰宅。
午後7時。夕食。その後読書。
午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
『12月10日』
午前7時。母親の声で目が覚める。
午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
午前12時。昼食を取るために家に戻る。
午後6時。帰宅。
午後7時。夕食。その後読書。
午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。
『4月27日』
午前7時。母親の声で目が覚める。
午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
午前12時。昼食を取るために家に戻る。
午後6時。帰宅。
午後7時。夕食。その後読書。
午後9時。明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。



『5月13日』

午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
何時ものように道行く人に目を向けながら歩く。
背後から聞こえる悲鳴、巨大な摩擦音。
横を歩いていた友人が吹き飛んだ。

私の隣に居たのは、友人では無く大型トラック。運転手が青い顔で飛び出してくる。
私は、友人の残骸に近づいた。
誰だったのかはまだ判別出来た。人だった事ははっきり分かる。
だが、それだけだった。


午前10時。母親に連れられて家に戻る。
母親との会話の大半は覚えていないが、これだけは忘れないだろう。

――――――?

「お昼…?…もう何でもいいわよ、何が食べたい?」

あの運転手に感謝した。



『9月1日』

午前9時。友人の一人が訪ねて来る。公園で集まって遊ぼうとの事だ。
あの事故の次の日、友人は何事も無かったかのように訪ねてきた。
私はその予想が出来ていたし、私の母親がその異常に気が付かない事も知っていた。
勿論、他の友人たちも気がつく事は無い。
あれは偶発的な事故、この世界では≪カウント≫されないのだろう。


午前12時。家には戻らず、集合住宅の階段を上っていく。
屋上の手すりは少々高いが、越えられないほどでもない。
人形よりも小さく見える眼下の人間、玩具のような車。
躊躇う事なく、跳んだ。

地面が近づいて来る。右手を伸ばしてそれに触れようとする。
右手が砕け、裂け、肉が骨が血が飛び散る。
痛いとは思わなかった。思う前に、視界を地面が覆う。

暗転、完全な静寂。



『7月30日』

午前9時。公園への道で、何かを踏みつける。
拳銃だ。誰が置いた物かは分からない。
友人がその銃口を覗き込む。
引き金を、引いた。


午後6時。その日の鬼ごっこは楽しかった。4年ぶりに、心の底から楽しめた気がした。
ただ、途中で誰も走れなくなってしまったのが問題だろうか。
家まで数分、玄関に出てきた母親の頭部へ、銃弾を撃ち込んだ。


午後9時。血の臭いが少々キツイが、それ以外は快適だ。
家の外の騒音は警察だろうか?出前の配達人を射殺したのがもう知られたらしい。
何も問題ない、どうせ明日には元通りなのだから。
明日に備えて鞄に必要な物を詰め、カレンダーに向かう。
ペンを手に持ち、今日の日付に大きくバツを付けた。



『7月31日』

午前9時。昨日と同じ場所で拳銃を拾う。
早速隣を歩いていた友人に発砲、市街地へと向かう。
私は時計を持ち歩いていなかった。これ以降は時間は分からない。


近づいて引き金を引く、それだけで、人が倒れていく。
一発撃つ度に反動で腕が痺れる。正しい保持の仕方を知らなかったのだから、当然の事だ。
だが、精神的な高揚がそれを忘れさせる。
どうせ明日になれば、全てが戻ると知ってはいても。これが、この瞬間だけの事だとしても。
同じ一日を繰り返し続けるより、よほど良い。
最初の友人と合わせて二十人、私を止めに来た警官を射殺して、二十一人。
気が付けば、周りには死体しか無い。生きている人間は何処かへ逃げてしまった。

まどろみの中で、車のエンジン音を聞く。会話が聞こえる。
二人、近づいて来る。それがはっきりと聞こえる。
顔を上げずに引き金を引く、銃弾は発射されない。弾丸は撃ち尽くしたようだ。
撃鉄を起こす音と、二人の叫び声。私に銃口が向けられる。
銃声が二発。


その弾丸は、私に届く事は無かった。
私の前に立つ青年が、その腕で銃弾を受け止めていた。
立ち尽くす二人にその拳を振るい沈黙させた青年は、しゃがんで私に視線を合わせる。

「いやー、何とか間に合ったようでえ…大丈夫でした?」

―――大丈夫、生きてる。問題無い

「そりゃあ良かった良かった。泡食って飛んできた甲斐が有ったってものです」

―――貴方は?何者?何故私を…?

「ま、その説明は後にしてえ…ちょいと質問させてもらいますねえ
どうしてこんな事を?貴女、おいくつです?」

―――何か、変わると思った。十一歳…の筈

「ほうほう…いや、結構な答えです。大満足ですよ」

青年は人の良さそうな笑みを浮かべる。ボサボサの頭を、左手で掻きまわしながら。
私が拾った物と全く同じ拳銃を懐から取り出し、グリップを私に差し出す。

「退屈、お嫌いでしょう?どうです、アタシ達と一緒に来ませんか?」

無言で私は頷き、その銃を受け取った。



―――達?

「ええ、他にも何人か、貴女と同じ考えの人がいましてねえ。うちの主がそう言う人を集めてるんですよ。
ま、簡単に言っちゃえば、どうせなら面白おかしく楽しもうじゃないか!ってことですねえ」

―――成程…

「こんな止まった世界、貴女にはもう要らないでしょう?貴女や、アタシ達の居場所はここじゃない。
次の世界へ…そこも飽きたらまた次の世界へ。歩きまわりましょうよ」

青年の隣を歩く。向かった先は街郊外の小高い丘。
そこに、大きな門のようなものが有る。

「さて、アタシはこれを潜ります。そうすればこの世界とはサヨウナラ。
アタシのお仲間さんも、もう向こうに行っちゃいました。
これを潜ればもう戻れない、引き返すなら今のうちですよ?」

―――貴方の名前は?

「ん?名乗ってませんでしたねえ。アタシはティグリヌス、しがない武器商人ですよお」

―――分かった、ティグリヌス。

門へ向かって一歩踏み出す。拾った物と渡された物、二丁のベレッタM93Rを手に持つ。

「…こちらも聞いておきましょうか。貴女のお名前は?」

―――ヴェルチェリ。



『8月1日』

目覚めた場所は、私の部屋では無かった。