とある夕暮れの一場面


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其れは、所謂〝猫〟という生き物だった。
真っ黒の綺麗な毛並み、ぴこぴこした耳、すらっとした手足。
端正が取れた顔付きで、恐らく猫の間では人気がある奴だろう……何となく、そう思えてしまった。

「……――貴方、一人ですの?」

問い掛ける少女は、ウェーブの掛かった流麗な銀髪と、紅い瞳が特徴的な……お嬢様のような雰囲気の少女だった。
アポロニア=ストレイン――其れが、少女の名だ。
猫と並ぶように、街の一角にあるベンチに腰を降ろすと、彼女は一つ溜息を吐く。

「……私も、そうですわ。」
「一人……なんですの。」
「貴方は――――寂しくありませんの?」

ただ戯れに、黒猫に質問を投げかけてゆく。
下らない、と知りながらも……何故だか空虚で、其れが不思議と心地良かったから、止める事は無かった。
ふと顔を上げる。街行く人の視線は、狂人を見るような――憎々しげな其れで。
少女は逃げるように、再び黒猫に視線を落とした。

「そう――貴方は、強いんですわね。平気そうな顔をしていますもの。」
「私は――――……。」

ふ、と。息を吸って。

「……寂しいですわ。とても寂しい。」
「だって――私は誰よりも強くて、誰よりも弱いんですもの。」

……懺悔のように絞り出した言葉に、猫はただみゃあと鳴いて。
ゆるり、優雅な動きで――ベンチから降りる。
少女が見遣ると、其処には数匹の猫が、彼……或いは彼女を待つようにして座っていた。

「……ふふ。」
「私、どうかしてましたわ。――さ、行きましょう。」

小さく、微笑みを見せると……少女もまた、立ち上がり。
何をするでもなく――歩きだした。

其れは、とある夕暮れ時の一場面。