文明の向こう側


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昼の国、リゾート地とは山脈を隔てた反対側に位置する未開のジャングル。
その奥地に存在するとされているのが機関の昼の国支部だ。
支部長は『“金獅子”シェン・ロンド』―――もっとも、今は居ない。
スラウロット博物館の襲撃に向かってから消息不明だからだ。
代理のナンバーズ等も居ないため仮代表はこの私、『“リジード”』としてはいるが・・・。


「―――――しかし、今日も暑いな・・・・。」


そう、世間では早初冬の冷え込み等と言ってはいるが此処ではそういったことが無い。
高温多湿なジャングルは日々不快指数が80を容易く超える場所なのである。
同国内のリゾート地からすれば本格的な冬以外は常時掻き入れ時、というわけだ。


ここで「どうして支部内で涼まないのか」、そう思った読者方の為に二つの理由をお教えしよう。

先ず一つ、私は現在世界各国の機関員から送られる“鉱物”を搬入中だからだ。
『鎧』――“リジード”である時の私はまさしく百人力の膂力を使う事ができる。
この支部には多少の兵器が有っても重機は無いし、人手も両の手で数えられる程度だ。
私、防衛の二人、後は水の国支部から引っ張った下っ端が数人。
稀にクレイという少年技師も来はするが機関員でもなく、なる気も無さそうなので省いている。
話が逸れたが、ともかく私以外に仕事をこなせる者が居ないのである。


さて、何故涼まないのかという理由の二つ目を話すとしよう。

このジャングルには緑豊かな自然に紛れていくつもの洞窟が在る事をご存知だろうか?
それらは通称“ガマ”と呼ばれ、天然の倉庫や壕として現地の者に使用されている。
かくいう私も所謂原住民という奴で、“金獅子”が来るまでは外の世界を知らなかったものだ。
奴の齎す技術等と引き換えに私は今の立場でこうして動いている。

ガマは物によって深さや広さが異なり、実を言うと支部の本拠もその一つに置かれている。
広い洞窟内に簡素な野営テントを張り広げ、機材を置き、寝泊りする。
『世界一の組織力』を機関の売りとしたあの男は恐らく世界で最も粗末な施設に居を構えているのだ。
もっとも私からすれば十分すぎるほどだし、あれはあれで割りと楽しんでいる様でもあった。
人や他所の目が無いのを良いことに下っ端も集めてよくバーベキュー等をしたものである。

なんだかんだと言いつつ、洞窟内/野外に設置された支部は運悪く現在日の当たる時間であって。
結局何処に行こうが暑さと湿気と小虫からは逃れられないのだった。



――――搬入作業の開始から三時間後。

何十トンという鉱物をガマに叩き込む作業を終えて息を吐く。
大して疲れた訳でもないがやはりこの環境だ、体力の消耗も並ではない。
兜を外して小脇に抱え、清らな水の溢れ出る井戸へと向かう。
毒やその類の金属混入も無く、古来より使われてきた場所である。

銀のコップを手にとって、水を汲み、その水面を眺めてから口に運ぶ。

兜を外した私はハッキリ言ってかなり気色が悪いのはないかと思う。
肌はいやに白く、対して瞳は真っ赤で目の縁は隈の黒に覆われていて。
もっとも造形をぶち壊しているのは左目を潰し唇の形までもを変えている傷跡だろう。
自分の顔ではあるが出来る事なら自慢の力で潰してしまいたいものである。
先日もこの顔立ちからかは知らないが“ババァ”扱いを受けたのだ。
仮にも十八の女である、諦めは付いているが心は無傷で済んだとは言い難かった。


気を持ち直して兜を被る。仕事が終わった途端に暇である。
以前ならば狩りをして食料を蓄えるなり、する事などいくらでもあった。
しかし流石に機関の支部、備蓄食料は私達だけなら5年分はある。
何か仕事は無いものだろうか―――そう考え始めて3分、あの二人を思い出す。


「・・・・ご苦労だな。防衛網の方に何か変化はあったか?」
「―――――――――――――、・・・無い。」
「・・・無い、―――――――――――――。」


この支部は様々な特徴上、防衛という点が非常に重要である。
勿論野営テントの近くには緑で偽装した地対空砲台などが幾つか有りはする。
だが広大なジャングル全てに即座の無人機器設置を考える馬鹿は居る筈もない。
だからこそここで役に立つのが能力者―――“防衛の二人組み”というわけだ。

一人は女性、水に関する能力者。もう一人はチビの男で、炎に関する能力者らしい。
何でもジャングルの湿度を逆手にとってその全域に能力の網を張っているそうである。
男はそれに反応があれば能力仕掛けの地雷を発動させる、というシステムだ。
「後々は集めた鉱物で小型の無人戦車でも」、と言っていた男の言葉が思い出される。
それさえ成ってしまえばこの防御を崩せる者は存在しないはずだ。
戦車は件の少年技師に作らせているし、材料の心配など取るに足らない問題である。
たとえ私でも無傷の突破が考えに浮かばない鉄壁の防御網が出来上がることだろう。

「完璧だ」―――不気味な雰囲気を放ち続ける二人を一瞥しながら思案する。
少なくともあの男の不在くらい守れるはずだ、と。

――――――あくまでジャングルの正面側は完“壁”だ。


少年技師、クレイには戦車の製造だけでなくとある調査も依頼している。
その内容は言うまでも無く“シェン・ロンドの捜索”。
何故技師に―――こちらも言うまでも無いだろうか、彼がそういう能力持ちだからだ。
先日ある議員と共に博物館を調査し、そこのタイルを拝借してきたのである。
それにはシェン・ロンドのものであろう多量の血が付着“していた”との報告を受けたばかり。
どんな能力かは知らないが進展も無いだろうと―――考えた矢先、声。

「リ――――――ッジィードさぁーん・・・・!!!」


どうも、彼には焦ると全力疾走する癖があるらしい。
汚れたオレンジの作業着を着て、腰には重そうな作業具入れをガチャつかせて。
タイルの破片を片手に走り来る彼は道半ばで既に息が切れている様に見えた。
こちらも歩み寄って距離を詰め、少し呼吸を整えさせてから話を聞く。
どうせ日も落ちかけ、ジャングルという場所柄「ちょっとそこの喫茶店に」等という事も無い。
今夜は彼も泊まりだろうと考えながらゆっくりと話すように促した―――。


―――――――――――――――そして。


やはりというか何というか、果たしてその内容は金獅子の事である。
要約してしまえば生死は不明だが肉体の在り処がわかった、と。
更に言ってしまえば“此処”に、昼の国支部に居るというのだ。
陸上にも上空にも色鮮やかな金色など一切見当たらないというのに。

しかし、賢明な読者諸君は気付いているのでは―――そう、“地下/ガマ”だ。


走った。久方ぶりに割りと本気で私は走っていた。
目指すのはしょぼくれた支部が位置するガマの奥深く、地下1.5km地点である。
周囲一帯でも特別大きく、広く、深く、逆さの山のようなガマだ。
灯台元暗しということなのだろうか、辿りついたその場所には巨大な扉があった。
色彩は剥げ落ち、何かの金属で出来た留め金は錆付いた哀れな先人の忘れ形見。
怪しさは井戸の如く滾々と――――百人力を持って、古びた障害を取り除かんとする。


―――押して開かず、引いて開かず、上下左右どうにも開かず、終手ぶち破れもせず。

鍵穴も抜け道も見つかりそうに無いこの扉、200kg少々の重量を誇る「オルメギ」でもビクともしない。
横に穴を掘って進もうにも場所が深すぎる為に運び込む事は叶わず。
結局2時間の奮闘の末に落ちたのは手元の鉄槌と赤い夕日だけだった。
何かと不便が多い今、議員である金獅子には早急に戻ってもらう必要がある。
向こう側に迷惑の元凶がいるのかと―――いくら思案しても、扉は硬く閉じたままだった。



キャンプへと戻ってみれば、下っ端の機関員が数名焚き火を囲んでいた。
作業着の少年は姿が見えない―――おそらくは支部裏手を少し行った海から帰ったのだろう。
少し前に巨大なイカが討伐されたと聞くが、確かに夜のジャングルよりは安全だ。
防衛の二人組みはまだ人形の様に網を張り続けているのだろうか、何時も通り彼らも居ない。

鉄槌を適当に下ろし、兜を取って焚き木を囲む集団に加わる。
私の顔を見て驚く事も貶す事も機関員である彼らはしない。
慣れかどうかは知らないが、少なくとも私にはその反応が嬉しかった。
そんな淡い感情と重い身体の二つに意識を交錯させていると、瞼が静かに降りてくる。

「・・・・・まったく、何時になったら―――。」

鎧を着ていようが鉄槌を造作も無く振り回せようが、所詮はただの女なのである。
疲労は寝息を誘い込み、次に日が昇るまで彼女を解放する事は無い―――――。













「―――――あと少し、さ。」

10月4日、ジャングルにおいても少々肌寒い早朝の“事変”だった。