エルの絵本【灰かぶり】


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 むかしむかし、奥さんを亡くした貴族がいて、綺麗だけどとても意地悪な女と再婚しました。
 この女には二人の連れ子がいて、母親とよく似た性格の持ち主でした。
 夫の方にも娘がいましたが、こちらはとても心の美しい娘でした。
 継母は婚礼が済むとたちまち悪い本性をあらわして、この優しい娘に冷たくあたり、家中の仕事を押し付けるのでした。

アビス「ふふ……本当に貴方は可愛らしい──。」

 彼女が継母の、アビスです。彼女はとても悪い女で、裏の世界では鬼蜘蛛などと呼ばれていた事もありました。
 更に、アビスは優しい娘に家中の仕事を押し付けるばかりではなく、どういうわけだか娘に生き物を殺させようとする癖があったのです。
 妖艶な笑みを浮かべるアビス。その傍らには怯えたように震える優しい娘・エルと、エルの手の中で小さく息をするネズミの姿がありました。

エル「お、お義母様……お許しくださいませ。」

 エルはふるふると震えながら涙を浮かべて赦しを請うのですが、そのことが一層アビスの嗜虐心を刺激する事になるとは全く知りません。
 アビスはこつこつと優雅な靴音をたてて更にエルへと近寄り。彼女の手の中で縮こまるネズミを殺めるよう促します。
 ですがその時。アビスの後ろでがしゃりと大きな音がしたのです。

利織「んふー、今日こそはエルちゃんの謎を超解きあかしたいですね。というわけで超実験体になってください」

 アビスがふと音がした方を見れば、利織という根暗なチビ助が小さなテーブルに腰掛けてにまりと笑っていました。
 テーブルの下には立派な花が飾られていた花瓶が粉々に砕けて落ちています。きっと利織がわざと落としたのでしょう。
 エルはこの隙に手に匿っていたネズミを逃がし、自分も急いでその場から離れました。
 そんなエルの姿を見て、アビスも利織も残念そうな表情をしましたが、時間はまだまだたっぷりあると考えたのでしょう。
 2人ともゆっくりとその場を離れ、2人共に次はどのようにしてエルをからかうかということに思いを馳せるのでした。



 それとはまた違う、別の日のこと。
 エルはアビスの言いつけのままに、長い長い廊下を一人で掃除していました。
 そこへやってきたのが妹のハニーです。
 蜂蜜色のポニーテールが可愛らしい彼女は甘いものがたいそう好きで、しばしば家を生クリームやチョコレートまみれにして皆を困らせるのでありました。

ハニー「ふふふっ、大変そうですねエルおねーさん。私も手伝うです!」

 そう言うや否や、ハニーは手から大量の蜂蜜を出して廊下をべとべとにしてしまいました。
 これでは折角掃除した場所も最初からやり直しです。
 しかしそんなことなど知らず、ハニーは嬉しそうに笑顔を浮かべてこう言いました。

ハニー「蜂蜜の廊下、素敵です! よかったですねエルおねーさん、こんな甘い場所でお仕事できるだなんて幸せです!」

 きっとハニーは、よい事をしたと思っているのでしょう。
 悲しそうな表情を浮かべるエルを置いて、ハニーは楽しそうにおやつのホットケーキを食べに台所へ向かうのでした。



 ある日の事。お城の零王子様がお嫁さん選びの舞踏会を開く事になり、エルの姉妹たちにも招待状が届きました。

利織「舞踏会って超楽しいのですか?」

ハニー「きっと楽しいです! 甘いものだってたくさんあるはずです!」

 2人の姉妹とお母さんは大はしゃぎです。
 そんな彼女たちの仕度を手伝ったエルは、お母さんたちをニッコリ笑って送り出しました。
 それからエルは悲しくなって、しくしくと泣き出してしまいました。

エル「私も舞踏会に行きたいですわ……。王子様にお会いしたいです」

 ですが、エルのボロボロの服では舞踏会どころかお城に入る事も許されません。
 その時のことでした。突然、どこからか声がしたのです。

???「泣くんならもうちょっと静かに泣くことだな」

エル「……? どちら様、でしょうか……?」

 するとエルの目の前に、お世辞にもかたぎとは言えない黒服の男が現れました。

ジョン「とある奴からの依頼でな。お前を舞踏会へ行かせてやる」

エル「……ひょっとして、魔法使いさん、ですか?」

ジョン「魔法使い? 何を非科学的なことを言っているんだ」

 エルの言う事を無情にもばさりと切り捨てると、ジョンは持っていた純白のドレスとガラスの靴をエルへと差し出しました。着替えろということでしょう。
 その後ドレスに着替えてきたエルを、ジョンは外へ出るよう促します。
 家の外にあったのは、なんとも現代的な黒塗りの車でした。これでは御伽噺の雰囲気ぶちこわし。魔法もなにもあったものではありません。
 しかしなんということでしょう。エルは、今までの自分の常識を壊してくれるジョンに心を奪われてしまったのです。

ジョン「門限は12時だ。それを過ぎるとお前の姉妹たちが……おい聞いているのか?」

 車内でのジョンの説明も上の空。エルはずっとずっと、目の前にいる黒衣の男の事ばかりを考えていました。
 お城についても、ちっとも舞踏会の様子なんて目にうつりません。
 結局エルは零王子と会うことなくお城をそっと抜け出して一人で家へと戻り、一通の手紙を書いたのでした。


 『しばらく旅に出ます。探さないでください。  エル』


 旅の目的はもちろん、ジョンを探すことです。
 あの時あった彼について、彼女は何も知りません。
 名前も、年も、住んでいるところも、何も。
 それでもエルは、ジョンを探す旅に出たのです。
 彼女にとっては、彼こそが王子様だったのですから。



 その後、この物語の王子様である零王子が隣国の珠音姫と婚約したのはまた別のお話。

 めでたし、めでたし。




   †── CAST ──†



   †── SPECIAL THANX ──†

 アビスの中の人
 ハニーの中の人
 ジョンの中の人
 シズクの中の人
 珠音の中の人
   AND
 このSSを読んでくださった方々


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