METALLIC COLOR PURITY


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 彼は幼少期から一風変わった個性を有していた。

 そう、『優れた』と表現することは出来ない。『変わった』と表すのが適当だろう。
 ───彼のその特性が、観点に依れば、或いは“欠落”に起因するもので有り得たからだ。
 勿論、如何なる事物であれ長短の両方を呈するのは自明の理であるし、我々は明らかに過度な卓越と劣悪を凡庸の中に見出すことさえ頻繁に行うだろう。だが、この場合の指標はそのような誇張と比較すると一般の認識に近いと言えるはずだ。
 兎に角……論より証拠、という言葉がある。

 ここでは、少し、過去の事象から“それ”を類推してみよう。


 彼の少年時代の話である。

 生来手先が器用だった彼は、一人工作をして遊んでいることが多かった。
 年頃の少年らしい、青空の下を走り回って遊ぶような行動も稀に見られたが、それが彼に与えた感覚は非常に淡泊だった。それよりも、屋内で唯一人与えられたマテリアルと向き合うことで経過する時間の方が、彼にとっては遙かに刺激的な楽しみであるらしかった。不健全とまでは言えないにせよ、その〈空間的な閉鎖〉は彼の以後に少なからぬ影響を与えている。
 しかし、───それは“本質”ではない。
 確かに、彼が置かれていた環境が『実に豊かな自然に恵まれ開放的と呼ぶに相応しい平凡な田舎町』であるという事実にも関わらず、そのような指向が現れたことは、『異常』であるようにも思えるだろう。
 けれども、それは単なる結果に過ぎない。“核心”が表層に及ぼした影響の末端であるし、そもそも全くの無関係でも有り得る。
 そう、反証として一つの事実を挙げるならば、彼はただ広大無辺の青空に視線を泳がせることも好んでいたのだ。


 つまり、少年は考えることが好きだった。

 有らゆる事象を思考の海へ投げ入れるために、少年は本を読んだ。
 少年はパズルを解き、得た物を分解する感覚を知った。
 未知を定義することを求めて、少年は空の先に臨んだ。
 少年はブロックによって、新たに創造することの──────

 そう、──────────────────────“ブロック”。

 『小型の接続可能な部品を組み合わせ、いろいろな造形をする遊び、もしくはそのために使用する玩具』。
 凹凸の付いた、様々な形のプラスティック片。中空だが、内部が格子状になっている為に強度は低くない(少年自身が分解して調べたことだ)。色は5色で、三原色と白と黒。否……後に、大量に追加された物は、灰色であったから、6色になる。
 上部の突起を下部の窪みに嵌め込むことで固定され、少し力を加えて引っ張らないと外れない結合状態となる。

 与えられているのは、その程度の『法則』に依る限定された材料と、『組み合わせ』という大きな発散の可能性。
 極めて単純で無慈悲な迄に放任的で、先の見えない有限の順列から恣意的な選択を迫る角柱。詰まる所が、〈自由〉である。

 少年はそれに没頭したのだ。
 性に合っていた、とでも言うべきだろうか。何度でも、何度でも、飽きること無くブロックを組み上げ、崩し、また組み上げる。
 単純な作業を反復しているかと思えば、ブロックを持ったまま数時間も手を止めて、突如奇妙な構造の立体を創造し始める。
 唯の巨大な立方体から、建物、自動車、飛行機。ただ少年の思うが侭、ブロックは“世界を躍る粒子”のように変容を繰り返していた。
 朝でも、昼でも、夜でも……時間など関係無いと言わんばかりに。いや、実際関係が無かったのかもしれない。


 しかし、“本質”は───この〈創造物群〉にも、無い。
 或る意味では彼の過去として紹介するに最も適当であるようにも思われるこれらの結果も、結局は表層である。
 その上を幾らなぞっても───期待する物は得られない。
 いや、実際には、その全体像を俯瞰した上にこそ、彼の根元を表す重要な要素の一つを観測し得るという事もまた一つの事実なのだが……それを現段階で言及するには、些かの飛躍が必要となる。すなわち、未だ、機が満ちてない。

 ただ今語るべき“彼”の、最も象徴的であろう出来事は、それらのほんの一部、ちっぽけなの情景の中に在る。



 或る日の朝。少年は不可思議な現象に遭遇する。

 昨夜、彼がいつものように眠気に襲われるまで弄っていたブロックが、朝目覚めてから確認してみると、箱の中へと綺麗に納められているのだ。
 「───可怪しい」、少年は考える。少年は、ブロックが通常独りでには動かないことを知っていた。
 それは、彼の手に従って並べられ、接続され、形を得て、そして再び素な部品へと分解される物だ。だからこそ彼は〈僅かな感傷〉を、〈初めて作ったモデルを崩した時〉に置き去りにして、創造を繰り返すことが出来た。今更それに主体を認められるはずもない。
 ところが、「ならば何故?」……と。幾ら考えたとしても少年の思考は解答へと到達しない。

 何らかの特異な現象が発生した可能性を考察しなければならないだろうか………。
 それならば、何か周囲に痕跡が残っているかもしれない………、と。

 ふと目をブロックから離した所で、少年は、自身へと向けられた誰かの視線に気が付く。

 「ああ、そうか」

 〈───斯くして、“増野透冶”は“他者の存在を認識”した〉。



 「世界というものはですね、様々な要素が複合的に複雑的に絡み合って形成されている物です。ですから、それらの構造を解析して、解明して……極端な話が、意のままにしてしまうというのが、我々研究者の目的や役割なのです。そして、それは案外不可能な話ではないように思える……正確な初期条件と誤りの無い式さえ与えられれば、そう、後はブロックを組み立てるような物ですからね。ですが───勿論、『別の誰か』がそこに、つまりブロックを組み立てている途中で介入して来る可能性というものも、在りますけれども。今の世界、本当の意味で、たった一人で何かを成すことは極めて困難です。外部の介入はまず免れ得ない。それが一番厄介なことで、また面白いことだとも言える。それがこの世界なのですから。主体である『自己』と、目的である『対象』と、“よく解らない”『他者』、この三つが存在して初めて世界は動く。ええ、非常に厄介極まりない話です。」


 一つの、詭弁である。





男の子はブロックで遊ぶのが大好きでした。
あんまり楽しいので、その男の子は、ついついブロックを散らかしたまま眠ってしまいます。

でも、男の子が次の日起きると、ブロックはすっかり片付けられていました。
「おかしいな」、男の子は、アゴに手を当てたりしながら、ブロックの箱の前に座って、たくさん考えます。
そうやって見つめていても、ブロックは話してくれません。
「おかしい、おかしい」

ふと、男の子は、少し離れていた所に誰かが立っていることに気が付きます。
その人は、男の子が考えている様子を、微笑みながら、ずっと眺めていたのでした。

男の子は、朝ご飯を食べることにしました。





+補足<蛇足
増野 透冶青年の過去、少年時代のストーリィ。
題はそのまま、“メタリックカラーの純粋さ”の意。


銀色とは何だろう。
金属の───鏡の色は、何色だろう。

それは、不定。
周囲の環境に応じて表情を変える[反射]というファクタが強く影響するためだ。
だが、それは決してそれ自身の性質が変容を続けている訳ではない。
ただ、そう見えるだけ。

だからこそ“純粋”で、それ故に、欠いている。


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