The Unknown Fragment


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 誰にも知られない、ある古ぼけた手記の記述。


 私は数年前のある日、名も知れぬ魔導書の断片を手に入れた。
ある一枚は海辺で拾い、またある一枚は通りがかりの骨董品店で見つけた。
そしてまた別の一枚を山の中で見つけ、また一枚を遺跡で見つけた。
その他にも、知り合いの蔵の中や、また墓地、或いは本の間に挟まっていたこともあった。

 それらはどうやらこの世界とは異なる世界の言葉で書かれているようで、
そもそも魔導書であると分かったのも、つい最近のことだった。

 解読は困難を極めた。何しろ、全く見たことの無い言語だったのだから。
しかし、かえってそれが私の興味と好奇心をそそり、研究者としての情熱に火を付けることになった。

 解読を進めるにつれ、分かってきたことと言えば、このようなものだ。
まず、この魔導書は少なくとも、二つ以上の章に分かれているということ。
他にページを得られれば、また別の章の存在が明らかになるかもしれないが、現在、二つの章の存在を確認している。

 一つは、遥か過去に生きた、ある偉大な喚術士についての記述。
その者がどのような者であり、どのような生を歩んだのか、というのが克明に記録されている。
ただ、過去の様々な文献を漁ってみても、そこに該当する人物を見つけることは出来なかった。
尤も、この魔導書断片が異界の言葉で書かれていることを考えると、それも異界の人物だと考えるのが妥当だろう。

 そしてもう一つは、“贋造悪魔”と定義されている不思議な存在たちについての記述。
これが一体何者であるのかは、未だ判明にまでは至っていないが、
分かったことと言えば、その“贋造悪魔”たちは全部で七十二、存在するらしい、ということだ。

 この、七十二という数は、魔術に携わる私としてもそれなりに馴染みのある数だ。
私の知るそれを模しているのか、或いは偶然そうなっているだけなのか、それは未だ私の窺い知るところではない。

 一つめの、喚術士に関する記述については、得ている限りの解読は大方済んでいる。
私が最近熱心しているのは、二つ目の“贋造悪魔”たちの記述についてだ。
七十二あるそのどれもが異なった性質のものであるとされ、新たな発見が後を絶たない。

 [次のページには、数枚のメモが挟んであった]

・The Page of Sewok 〝セヲクに関する記述〟

 その者は、武に長けた侯爵の位を持つ者である
 彼は贋造七十二柱のどの者よりも悪しき心を持たないが、
 汝が対価を払わぬとき、侯爵は汝を八本の剣によって引き裂くだろう

 対価とは、闘争である。この侯爵は気高き剣の抱擁を何よりも重んじる。
 汝が和平を望むならば無言の死を齎し、戦火を望むならば海よりも深い忠誠を誓うだろう。

 (以下、損傷が激しく解読不能)


・The Page of Neekerulf 〝ニーケルルフに関する記述〟

 あらゆる事象に対する逆理が等しく存する概念界域。そこに彼の者は座する。
 その者は贋造七十二柱において王の位を持つ。畏怖と敬意を欠いてはならない。

 (途中、損傷が激しく解読不能)

 汝が有について思うとき、同時に無について思うことを強いられるだろう。
 永劫交わらぬ理の狭間にて業苦を背負う、狂った真理への探求者である。


・The Page of Whira Zu 〝ウィラ・ズーに関する記述〟

 その総統は、汝に狂った万物の幻影を授くだろう。
 その声に耳を貸してはならない。汝はただ鎖で心臓を縛りつけ続けなければならない。
 何故ならば、存在しなかった万物の記憶は、正しく個たる汝を、狂った全へと導くからである。

 (途中、損傷が激しく解読不能)

 那由他を超えし過去の一点にて、彼の者はその者となった。
 彼の全能は、神という現象によって去勢され、醜悪な受肉の跡のみを残した。
 この総統は、虚なる過去を信仰し、絶対者への妄執に憑かれた精神病者である。


・The Page of Wayim 〝ワィムに関する記述〟

 公子であり、また高僧の位を持つ者である。
 この公子は、汝を導かないが、汝が導くときに力を授くだろう。

 (途中、損傷が激しく解読不能)

 忌むべき輪廻の顕現たる、異より受肉せし者。
 輝ける円輪は紅き怨嗟となりて汝に罪を刻まん。

 親が仔を忌む時、仔はまた親を知る。
 罪を罪と知らぬまま永劫を生ける者は、自らの生を罪と成さん。


 今週のところで解読が成功したのは、それだけだ。
還化魔術を用いた修復作業との兼ね合いもあり、そう一挙にとは行かない。

 これは一体、何を齎す魔導書なのであろうか。
これらを全て解き明かすためならば、私は人生を捧げても構わないと思い始めている。
今度、友人のニックにも協力を仰ごうと思う。とてもではないが、私一人で扱いきれるものではない。



 手記はここで途絶えている。
著者と見られるウーゼル・ディーン・スミス氏は、既にこの世を去っている。
それに伴い、魔導書断片の原本の行方も途絶え、研究記録も抹消されている。

[了]