鈍色の雲


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とある年の、冬も近付き始めたある朝。

一人の少女が、小さな町の教会を抜け出した。






ぐぅぅ、と、少女の腹が鳴る。

エメリオの町を出てから一ヶ月と二週間。
もう、十日も、食べ物らしい食べ物を口にしていなかった。
食べ物を買おうにも、エメリオを出る時に持っていったお金は、もう底をついていた。
おやつ代として貰っていた銅貨を一年分貯めていても、小さな女の子が一人で旅を続けていくには少なすぎたのだ。

(…お腹、空いたな……)

先程から、くうくうとうるさい音をたてている腹を押さえ、アイリスは、道行く人々を恨めしそうに見ていた。

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道行く人々は、暖かそうなコートに身を包んで、色とりどりの箱を抱え、楽しそうに歩いていく。
もうすぐ、クリスマスだ。

アイリスは、壁に背を預けて冷たい地べたに座り込んだまま、顔を伏せた。

何故、町はこんなに幸せそうなのだろう……?

あまりのひもじさに、涙が浮かぶ。

(でも、仕方ないんだよね。)

アイリスは、浮かんでいた涙をぐしぐしと拭った。

記憶を失った自分を守ってくれた、カクタス義兄さんの死んだ本当の理由を知りたくて、自分は帰る場所も捨てて、旅立ったのだから。

「こんな所で泣いてられない!!」

アイリスは、自分に言い聞かせるように呟いた。

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そうとなったら、何とかしてお金を得なければいけない。
かといって、スリをする度胸は、この十三歳の少女にはなかった。

(どうすればいいんだろう……?)

アイリスは、考えながら町を歩いていた。
あまりにも真剣に考えていた為、幼い少女は何も見えていなかった。

気付くと、アイリスは、薄汚れた裏通りを歩いていた。

ふと、顔を見上げれば、目の前には、倒れて死んでいる男の上に屈んで、何かをしている、いかにもゴロツキといった様子の男。

「……おじさん、なにしてるの?」

何気なく、声をかけた。

「うるせえなぁ、仕事だよ、仕事。」

忙しいのか、ゴロツキらしき男は、無愛想に答えた。

アイリスは、ふーん、と言ったきり、じっとそのゴロツキらしき男の手つきを見ていた。

その目に、チラリと、大金が入っていそうな財布が見えた。

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(あ、お財布だ。)


(そっか、あの人は盗賊なんだ。)


(ああ、あの中にはお金がいっぱい入っているんだろうなあ。)


(いいなあ。欲しいなあ。)


(あ、そっか。)


そう思った次の瞬間、アイリスは無意識に、ゴロツキの腕を掴んでいた。
ゴロツキが、突然の事に財布をとり落とす。

「何だ!!邪魔すんのかガキ!!」

「……おじさん、盗賊なんでしょう?」

「お……おう。」

ゴロツキは、少女の言葉に戸惑いながら返事をする。

「じゃあ……奪ってもいいよね…?」

そう呟いて、顔をあげたアイリスは、切羽詰まった表情で、ゴロツキの腕を強く握り締めた。
それと同時に、ゴロツキの体に、致死量の高圧電流が流れた。

「ヒッ……!!」

絞まった様な叫び声をあげ、ゴロツキの体が痙攣する。

何かの焦げる、嫌な臭いが鼻についた。

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「……ごめんなさい。」

眼球が飛び出そうなくらいに目を見開いたまま、動かなくなったゴロツキを見て、アイリスは呟いた。

けれども、それは生きる為、自分の目的を果たす為には仕方のない事。

アイリスは、自分にそう言い聞かせながら、ゴロツキと、男、二つの死体をあさり、物を奪った。


空一面を、暗く厚い鈍色の雲が覆っていた……。