ファーストコンタクト(2-3)


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「ファーストコンタクト」

第四章 歪んだ世界


「おい、リリ!早く持ってこい!!」
「零したらブッ飛ばすからな!はははは!」
私は彼等のアジトで、奴隷として働かされていた。
とはいえ、三歳の少女である私にできる事など限られていた。
料理を運んだり、洗濯物を運ばされたり。
首輪をつけられ、気に入らない事があれば年中暴力を振るわれ、鎖で首を絞められる。

「は・・・はい・・・・。」
慣れない敬語で喋らされ、朝食のスープを運ぶ。
五人分のスープが乗った盆を、非力な幼女が運べるはずもないというのに。
それでも私は、溢さないように一生懸命運んだ。
だが、その努力はかならず苦労に終わるのだ。なぜなら――

「おーっと!足が滑ったなぁ!!」
「きゃっ・・・!」
一人が私の足をひっかけて転ばせたのだ。当然、スープは零れ罵声が飛び交う。
「なにやってんだよ!!」「へたくそ!!役立たず!!」
「お仕置きが必要か?ハハハ!」
朝は決まって暴力を振るわれた。
テーブルの上に押さえつけられ、熱いスープをかけられたり
剥き出しになった腹部や胸部をボコボコに殴られたり
とにかくひどい目にあわされる。これは私がどう頑張ろうとも抗えないのだ。
なぜなら、必ず邪魔が入るからだ。
つまるところ、彼等は私に暴力をふるいたいだけだった。
朝食用のスープはきちんと、私が運ぶのとは別に用意されているのだから。
わざと失敗させ、貶めるのを楽しんでいたのだ。

昼になると、洗濯物と掃除をさせられた。
これもたいてい、足をかけられたり、突き飛ばされたりで邪魔が入る。
当然、その後にお仕置きが待っている。
仕事がない日の昼間は酷かった。
全員でよってたかって私を殴り、蹴る。髪の毛を掴み床にたたきつける。
鎖で首を絞められ、そのまま死なない程度に吊るされたりした。
暴虐の限りを尽くされたが、なによりもひどかったのは夜だった。

夜になると、私は仕事が終わった後に地下に連れて行かれる。
そこで待っているのは、言葉では表せないような拷問だった。
正確にいえば、私には吐く物などないので、ただの折檻だが。

「ははははは!どうした?もう気絶したのか。おら、起きろ!!」
鎖で両手を繋がれ、天井からぶら下げられた私に、容赦なく鞭が振るわれる。
今でも思い出すことがある、あの音。
パシン、パシン、と体中に激痛が走る。
それに飽きると、針やピンで体を貫かれ、バーナーや煙草で皮膚を焼かれたりもした。

玩具(おもちゃ)とでも言おうか。
私は彼等の好きなよう虐げられ、飽きるまで毎晩拷問を受け続けた。

そんなある日。
私は風呂場を掃除していた。
毎晩のように体を痛めつけられ、食事もろくにとらせて貰えず、身体はかなり衰弱していたが、それでもなんとか意識を保った。
気絶すれば、また好き放題痛めつけられるからだ。
なんとか暴力を避けるために、私は失敗しないですむ方法を考えていた。
この風呂掃除なら、なんとか失敗の手は入らなかった。
ちょうど時刻が夕方で、彼等も仕事やらなにやらで構っている暇がなかったからだろう。
この時間と、拷問まがいの暴力が終わった夜のひと時だけ、私は心を許せた。

広い風呂場を一人で掃除するのは骨が折れたが、それでも暴力を振るわれるよりマシだった。
しばらくして、一人の男が風呂場に入ってきた。
なんだろう、と思い振り返ると、いきなり体を押し倒された。
意味も分からず悲鳴すら上げられずにいると、男はズボンを脱ぎ始めた。

――凌辱、まさにその二文字があらわす通りの事をされた。
暴力ではない、しかし・・・それ以上に私は精神から来る酷いダメージを受け
もはや心が枯死してしまうのではないかと思われた。

流れる血、激痛が走る。
男は息を荒くし、腰を振っていた。
私にはわからなかった。ただ怖かった。

はじめての痛み、そして言い知れぬ不安・・・度重なるどんな暴力よりも、たった一度、その風呂場で起きたことが、当時の私を恐怖で支配した。
しかし何より・・・私が絶望したのは、その男が手に持っていたものを見てからだった。
「これ、なんだかわかるか?はは、そうだよ。お前の持ってた――」
「・・え・・いや・・かえしてぇ・・・かえしてぇ!!」
人形だった。私が大事にしていた、親からもらった唯一の物。
二歳の誕生日に貰った、掛け替えのない友達。

だが、暴れる私を押さえつけて、
男はその人形を私の中に突き刺した。何度も何度も。

血と精液でぐちょぐちょになったそれを私に見せつけ、尚も。

男は笑っていた。



――男は最後、こう言い残して風呂場を出て行った。

「知ってるか、リリ。お前のママとパパはな。お前を一人残して逃げたんだよ。」
「借金が払えねえからな。お前の事は嫌いだったのさ。はははは!!」
「こんな汚ェガキ、誰も好くはずねえけどな!親もおなじさ。お前のことなんて嫌いだったから、二人で家から逃げ出したんだよ!!留守番しろって、嘘をついてなwww」




――理解できなかった。
大事な、大事な人形をこんな風にされ、自身もひどい目にあわされ。
絶えずふるわれる暴力、理不尽な命令・・・・。


すべてが限界だった。
絶望、とはまさにこのことを言うのだと。
私はその時、悟った。

「ファーストコンタクト」

第五章 破壊



半年がたった、ある日。
地獄のような日々が続き、奴隷は私以外にも四人ほど出来、彼等は益々ひどい仕打ちをしてきた。

その日もまた、朝から怒鳴り散らされ、昼まで暴力を振るわれていた。
しかしその頃になると、もはや私の心は完全に枯死し、痛みを痛みと感じられないような程に衰弱しきっていた。

私が死のうが関係がないのだ。どうせ、また新しい奴隷をつれてくればいいのだから。
後から分かったことだが、私の前にも数人、奴隷はいたらしい。
今考えれば、あの拷問部屋には白骨化した遺体があったような気がする。

夜になり、久しぶりにアジトの外に連れ出された。
どうやら今日は何かあるらしい。私は何も知らされていないが。

しばらく車で走ると、港の近くの倉庫に着いた。
辺りは暗く、人は誰もいなかったのを覚えている。
大きな倉庫で、おそらく貿易か何かに使うのだろう。かなりの人数が中にはいれるようになっていた。

中に入ったとき、私の目に飛び込んできたのは
「うわああああ!!たすけてぇぇっぇぇぇえぇぇぇえ!!!」
「いやだ・・・しにたくない・・・しにたくない・・・・!」
二人の男だった。両手を縛られ、地面に伏している。
しきりに声を上げ、助けを求めているが、彼等の背後には三人の男がいて、一人は撮影用の巨大なカメラを持っていたのを記憶している。
なんだろう。当時の私にはさっぱり理解ができなかった。
興味すら湧かなかったのが事実だ。なぜなら私は、はやくアジトに帰って寝床につきたかったから。
この時間なら、もう夜の拷問はないだろう。早くアジトに帰って眠りたい。
その一心だった。

だが、そこで告げられた言葉は想像を絶するものだった。

「おい、リリ。今からこいつらを殺せ。」
「え・・・・?」
「え、じゃねえんだよ。殺せ。これで殴り殺せ。」
手渡されたのは一本のバット。子供の私には重かったが、それ以上に彼等が何を言っているのか意味が分からなかった。
「早くしろ。とっとと殺せ!」
殺せ、殺せ。彼等はそう怒鳴っている。
カメラの人はけらけら笑いながら私を映している。
これはなんだろう・・・何をさせたいんだろう。
殺すことなんて、出来るはずない。そんなこと、絶対に出来ないに決まっている。
「い・・いやです。むり・・です。」
蹴られる。もう何度も何度も味わった痛み。
「殺せ。」「い・・・いや・・。」
頭を小突かれる。もういやだ。限界だ。
殺さなければ、もっともっと痛い目にあう。でも、殺すのは嫌だ。
倒れた二人が、私を見据える。
その瞳を、今でも私は忘れない。怯えや恐怖ではない
そこにあったのは、絶望。ちょうど、私と似ているなと思った。

――いまここで、彼等を殺してあげれば。
もう、彼等がこれ以上苦しむことはないのだ。
後ろでは、相変わらず笑い声が聞こえる。

何が面白いんだ。こんなことをして。人を貶めて。
命を奪わせようなんて。何が、この男たちを喜ばせているんだ。
怒りが、芽生えた。


私は、その時。自らが暴力を振るわれるのと引き換えに。

「・・・・・あ・・・あ・ああ・あ・あ・あ・あああああああああ!!!!」

―――彼等の命を、奪った。

何度も何度も叩いた。
殴った。潰した。ひしゃげていく。気にしないで殴る。壊す。
彼等を狂気の連中から救い、自らも生き残るために・・・・


十分もたたないうちに、私は血まみれのバットを放り、そのまま地面に伏した。

縛られた二人は死に絶え、倉庫の中には笑い声が響いていた。

もはや、私には何も残されていなかった。
血に染まった両手を見、自分が何をしたのかを理解していくうちに、再び心を絶望が支配していく。
殺した。殺したのだ。自分が、二人を、この手で、この手で、

笑い声は止まない。いつもとおなじように、私を馬鹿にしてけらけらと笑っている。
許せなかった。はじめて怒りが芽生えた。連中を殺してやりたいと、同じ目にあわせてやりたいと、そう思った。

だがそれ以上に、自分がしたことに対する罪悪感と絶望が、私をぼろぼろに蝕んでいた。



しかし、その時。
異変が起きた。

その時の事は、忘れない。そう、忘れない。


彼等とは別の、聞いたこの無い


甲高い 大きな 嘲笑が  


確かに聞こえた

「ファーストコンタクト」

第六章 ファーストコンタクト


その声はまるで――地獄の中で鳴り響く、清廉な鐘の音のように

嘲笑が聞こえる。
それは私の持ち主達の物ではない・・・聞いたこの無いような、甲高い声。

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!」

「――おい、なんだ・・・?」
「だ・・だれだよ、うっせえな!笑ってんじゃねえよ!」
「ばか、ちげえよ・・・俺らじゃねえ。」
「じゃ・・・じゃあ・・・誰だよ。」

だが確かに聞こえる。派手な声で笑う男の声が。
私はその声に・・・妙に惹かれていた。
なんだろう、聞いたことのない、姿の見えない・・・でも、確かに聞こえる。

この声は、誰のものだろう―――?


その瞬間

赤いものが、視界を覆った。

ん?なんだろう・・・・目が、赤くなっちゃったのかな・・・?

手で擦ってみると、視界は元に戻るが、かわりに腕にはべっとりと鮮血が付着していた。
あれ、おかしい。先程の二人を殺したときとは違う血・・・?

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」
「お・・おま、首・・・!!」
「え?」

ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!

盛大な音共に、私の背後にいたカメラマンが、首から上を真っ二つに切り裂かれ倒れ込んだ。
否・・・手で首を捻って確認しようとして、「首を取り落とした」。

「う・・・うわあああああ!!」
「な・・・なんだ!!なんだこのやろう!!!」
「だれかいやがる!!誰かいやがるぞ!!」

一人事態の飲み込めない私。
何が起きていおるのかわからない。血が飛んできたと思ったら、いつのまにか横にカメラを持った人が倒れている。
悲鳴すら上げらずに、私はただ戦慄した。
「え・・・なに・・・なに・・・?」

「くそ!!どっから入ってきやがった!!」
「チャカはどこだ!!チャカをだs・・・ぎゃああああああ!!!」
「うわあああ!!まただ!!ライルが切られたぞ!!」

再び、連中のうちの一人の首が真っ二つになる。
飛び散る血液、耳をつんざく悲鳴。

「どこだ!!でてきやがれ!!」
「よせ馬鹿!!早く逃げろ!!」「車に戻るぞ!!」
あわてた連中が私を置いて逃げようとする。
待って、いかないで!!だが立ち上がろうにも腰が抜けて動けない。
嘲笑は、まだ続いている。
「ぎゃああああああああああああああああああーーーー!!!」
また一人。銃を取り出した男の腕が吹き飛んだ。
「もうだめだ!!みんなやられる!!のろいだ!!」
「ひぃぃ!!逃げろ!逃げろぉぉぉ!!」

無茶苦茶に走りだす男たち。しかし―――それは急に襲ってきた。
ドン!と音を立て男たちの前に「何か」が立ちふさがった。

倉庫の暗いライトが付き、ようやく視界が開ける。どうやら誰かが電気をつけたようだ。

銀色。私の目に先ず入ってきたのは、銀色のコートだった。
そして・・・赤い血がべっとりと付着した巨大な――

「ひいいいいいいいい!!!」
「こいつだ!!撃てぇぇぇぇ!!」
「あ・・あ・ああ・・・ああああああ!!!」

刀。目で追えないスピードで振るわれるソレが

「ぎゃあああああああああああああああ!!」
「ひっ・・・うわあああああああああああああああ!!」

逃げ出そうとした男たちを切り刻む。鮮血が走り、倉庫の壁を真っ赤に染めた。

「くそ!!くそくそくそ!!なんでだよ!!なんでこんなことに!」
ビデオの撮影をしていた連中は逃げ出そうと逆方向にはしる。だが。

その銀色の男は、私の視界を素早く走り抜け、逃げる男たちの前に立ち塞がり

「ぐ・・・ぐぼぉぉぉえぇぇぇぇぇっ!!」
真紅の刀を振るい、一瞬のうちに男たちをバラバラにしてしまった。

虐殺
その言葉でしか表せない。倉庫にいる男たちを、次々と血祭りに上げていく。

悲鳴と怒声が混じり、その中でも

あの「嘲笑」は、やはり聞こえていた。



まるで、地獄に流れるラブ・ソングのように、ひどく場違いな高笑いが、暗い倉庫に響いた。

1 2 3