ファーストコンタクト(3-3)


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「ファーストコンタクト」

第七章 狂気の終焉



数分後、倉庫の中は再び暗くなっていた。
電気系統を全て破壊され、そこにはもう何もなかった。

そう、私と「彼」を除いて。

嘲笑はいつの間にか止んでいた。
彼が虐殺を終えると同時に、笑い声も止まった。
その場にいた大人の連中は全て原形をとどめぬほどに切り裂かれ、地面には血だまりが山のようにできていた。
ブラッド・バス・・・まさにその通りだった。

暗闇の中で、私が覚えていることは少ない。
ただ・・・その時、私は確かに思った。
「終わった」のだと。すべてが、終焉を迎えた事を、察した。

コト・・・コト・・・コト・・・・
暗闇の中で、誰かが歩く音が近づいてくる。
それは漆黒の中で確かに鳴り響き、体の奥底にまで聞こえてくる。
コト・・・・コト・・・・コト・・・・・

やがて、暗闇にも目が慣れ――「彼」が視界に現れた。

「よう。元気かァ?んふふふー。ああ俺?さいっこうの気分だぜ。」
「なんたってよォ、おもしれーぐらいズバズバ斬れるんだもんよォ?ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

――鳥肌が立った。先ほどの嘲笑の正体はやはりこの男だったのだ。

この男が、あの笑い声を上げ・・・皆殺しにした。
普通なら戦慄するだろう。目の前に狂気の殺戮者がいるのだから。
だが、しかし。
私はその時、恐怖など微塵も感じていなかった。

先程までの怒りを忘れ
度重なる暴力で傷んだ体のあちこちの痛みすら忘れ

ただ、その光景に見入っていたのだ。
この男がだれかはわからない。でも・・・私を救ってくれた。
地獄のような連中から・・・私を助けてくれた。
私の王子。私だけの王子様。

私の眼には、彼がヒーローに映った。


私は人を殺した。自分がいたぶられるのを避けるために。
逆らえば後でどんな仕打ちを受けるかわからないから、目の前にいる縛られた二人をバッドで殴り殺した。
冷静に考えれば、「彼」のやったことも、私と一緒で最低の事だ。
他人の命を奪う、この世で最もいけない行為。

しかしそんな事はどうでもよかった。ただその時の私は・・・・

「・・・・たす、け、て・・・たすけ、て、くだ・・さい・・・・。」

・・・・血まみれの銀色のコートに、すがりついたのだった。



それが私が「彼」と出会った最初の時の事。

地獄の日々の、終りを告げたのは

狂気の嘲笑と、大虐殺だった。

「ファーストコンタクト」

終章 罪


それから私は、彼と一緒に過ごした。

あの晩、私を奴隷としていた連中が全員殺され、行き場もなくなった。
そんな私を、彼はなぜか、傍に置いてくれたのだ。
名前も貰った。リリではない、新しい名前。

そして、鬼の面。顔の上半分だけを隠せる、特殊な鬼の面を、私は与えられた。
名前を変え、傷を隠し
奴隷であった時の私を捨て、私は新しい私となった。


私も、何故だかはわからないが、彼のもとにいたいと、強く願った。
あの圧倒的な力 私を地獄から救ってくれた雄姿 そして 嘲笑

魅せられていた。深く深く、傷ついた私の心に、一筋の光がさしたようだった。

枯死したと思っていた、もう何もないのだと諦めていた

そんな私に彼は見せてくれた――絶望を打ち破る、最強の力を。



彼は、名を「シン」と名乗った。 

「ファーストコンタクト」

終章 エピローグ


「ごっちそうさん!!」

大きな声でレイブンがそう言うのを聞いて、はっと我に帰る。
また思い出していた。あの時の事を。
もう忘れてしまいたいのに・・・やはり、それは出来ないのだ。
なにより、シン様との初めての出会いはあそこだったのだから、前後の記憶ぐらいきちんと保存しておきたい。
だが、今思い出しても・・・辛くなる。本当に、地獄のような日々だった。

あそこから救ってくれたシン様には、いくら感謝をしてもし切れないだろう。
本人曰く、あの時は私の絶叫を聞いて、面白そうだから倉庫に侵入したらしい。
結果的に、それが私を救うことになったのだが。
誰が何と言うと構うまい。あの方は私のスーパーマンだ。

生涯、命をかけてあの方に尽くそう。
どんな些細なことでも、あの方が命じる事は確実に成し遂げて見せよう。

「全部食べてくださってんですか?ふふ。残してもよかったんですよ?」
「馬鹿!ぐろりんの飯は最高なんだぜ?残すわけねえじゃねえか!」
「ふふ。ありがたいお言葉です、レイブン。でもレイブンが残した食事なら、私がきちんと食べてあげますからね?」
「う・・・な、何言ってんだ!馬鹿!」
「ふふふ。今日のレイブンは、なんだかとても可愛らしいですよ。」
「おい、そりゃどういうこった?いつものアタシは可愛くねえってか!」
「いえいえ、そう言う事ではないですよ。今日は特別、可愛らしいという事です。」
「・・・フン、アタシは部屋に戻るぜ、じゃーな!」
顔を赤くして食堂を出ていくレイブンを見送る。

今は、愛しい人が出来た。
シン様とはまた、別に。心から愛情を捧げたいと思える人が、出来た。


誰もいなくなった食堂で、面を外す。
指で触れると、そこにはあの時の傷がある。
消して消えはしない、両目の間に深く刻まれた、切り傷。

まるで私に、過去を忘れさせないかのように、深く、深く刻まれている。

だが今は、これが誇りでもある。
私はあそこから生き残り、生還したのだ。
レイブンはこの傷を受け止めてくれて、きれいだと言ってくれた。
シン様は・・・・きっと、初めて見た時の思い出として覚えておいてくれているだろう。


――私は生まれ変わったのだ。

弱く、一人ぼっちの奴隷だった「リリ」ではない

シン様からもらった、新しい名前。

私の名前は、グロリア。



―――そっと、鬼の面をつけた。

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