零の照準


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プロローグ-Lasst lustig die Horner erschallen!

(角笛よ 高々と鳴れ!)  歌劇《魔弾の射手》第一幕第二場より

  これは今より少し前の物語。
今は無きとある国とこちらも今はない国が戦争を始めました。
戦争は泥沼化し何故戦っているのかも分からないまま戦い続けました。
これでは埒があかないと少し不利になった国はとある手段を使いました。
……弱い能力を持つ能力者の大量生産、そして大量の能力者を戦線へ向かわせました。
いくら弱いとは言え能力者、あっと言う間に戦争は虐殺に変わりました。


第一章-Darf Flucht im Herz des Weidmanns hausen?

(猟人たる人なにを恐れる事がある?) 歌劇《魔弾の射手》第二幕第三場より

 パン、パンと軽く引き金を引き銃弾を放つ、人を殺すのは慣れてしまえば何のことはない
そう、それは書類に判子を押していく事務仕事と大差はない、むしろ得る物はこちらの方が遙かに多い。
「隊長!六階制圧完了!残りは七階だけです!」
端末から歓喜に満ちた男の声が聞こえる
「ご苦労、七階も直に終わる」
そう言い放ち目の前の男を見据える、先ほどの銃弾で側近は骸と化している。
「こ、この悪魔め!!」
悪魔王ゾヌ、かつてはそう呼ばれた名指揮官も死ぬ間際となれば単なる一人の男だ。
このような状況に置かれた人の行動はだいたい予測できる。
まず最初に思いつくだけの罵詈雑言をまくし立てる、それが効かないと分かると
「涙を流しながら命乞いを始める」
私は銃口を突きつける、ベレッタ90-Twoの鮮やかな黒が光る。
……やれやれ、コイツも同じか。
私は若干気を落としながら引き金を引いた。

第二章-So ist das Jagerleben! Nie Ruh' bei Tag und Nacht!

(狩人の生き様はこんなもの! 昼も夜も休みなし!) 歌劇《魔弾の射手》第二幕第三場より

 「傭兵部隊パヨネット、隊長と副隊長が一人ずつ、それに二十四人の兵士
そして一人の荷物持ちからなる傭兵部隊。
作戦成功率99.6%、七つの戦争と二十三の内乱を終結させた火消し屋……それほどの部隊の長なのだからどれほどの大男が来るかと思ったら……」
そう言って男は私を見上げる、派手な軍服を着込んだ恰幅の良い男、今回の依頼者だ。
「期待外れだったようだね」
少し笑いながら私は言う、少し焦ったように男は返す
「いやいや!まあ少しは驚いたが……」
「ほう、私では役不足と」
男は慌てだす、無理もない、噂が噂だからな
「……いや、性別など関係ない、我々に必要なのは確実にこの戦を終わらせる事ができる兵隊だ。
君たちに賭けることにしよう」
ほう、と私は少し感心する。やはり上に立つ者は違うな
「必ず終演に導きますよ、この茶番をね」
茶番と言われて少し顔をしかめたようだがすぐに表情を戻し手を差し出す。
私はその手を握り部屋を後にした。

「たいちょ~おかえり~」
貸し切っている宿屋に帰ると酒臭い息を吹きかけながらマックがからみつく。
軽く裏拳を放ち奥に行く荒っぽい男共の雰囲気に押されながらも一人の白髪の少女がせっせと皿洗いをしている。
手際はいいのだがなにぶん量が多い、見るからに作業が追いついていない。
「おーい!新入り!早く酒持ってこい!」
「あ、はい!ただいま!」
皿洗いの手を取めキンキンに冷えた酒瓶を冷蔵庫から取り出す、あまりの冷たさに手を離し落としかけるがすぐさまもう一方の手でカバーする。
冷たさに耐えながら両手で酒瓶を持ち少女が駆け出す、手早く注文した男のテーブルに酒瓶を置くが機嫌が悪いのか男は少女をビンタしようとする、少女は咄嗟に縮こまる。
「止めておけバッツ、ツルは仲間だ」
私は軽く男の手を止め少女を庇う、少女は慌てて私の背後に隠れる。
「チッ……」
男は忌々しそうに呟き乱暴に酒を飲み出す。相変わらず血気盛んな奴らだ。
「Eine Versammlung、これから作戦の説明をする」


第三章-Mich ruft von hinnen Wort und Pflicht!

(あそこから声がする、 義務がこのわたしを呼ぶ!) 歌劇《魔弾の射手》第二幕第三場より

  「以上だ、作戦日程は明日の午後八時、遅れたものは問答無用で銃殺だ」
いつもの決まり文句で締め私は席に着く。その瞬間先ほどの喧騒が吹き返す。
少し微笑みながら見回す私の前に酒瓶が置かれる、少女、否、ツルが置いてくれたのだ。
「すまんな」
表情を和らげ微笑む、ポゥっとツルの顔が赤くなる。
「あ、あ、あの……隊長さん」
透き通るような声で少女が話しかける、不意に視線を感じ振り向く、バッツがジッと睨んでいる。
まったく面倒な奴らだ。
「ここでは何だし少し外に行こうか」
「え、え……で、でも……あっ!」
半ば強引に私は手を引き外に出る、夜風が心地よい。
「で、私に何と言おうとしたのだ?」
尋ねる、返事は無い。フッと笑い肩に手を置く
「ツル、貴様は強い、私は分かっているぞ、銃の腕前も咄嗟の判断も全てバッツに勝っている、後込みする必要は無いぞ?」
少し嬉しそうな顔をするがすぐに顔を曇らせる。
「でも……私は新入りですし」
「関係ない、貴様は役に立つ、だからこの部隊に入れたのだ。
皆は貴様の力を見てないから下に見ている、たまにはガツンと言ってやれ」
しばしの沈黙。帰ろうかなと宿屋へ振り向く寸前にやっと口を開いた。
「あ、ありがとうございます……あの……コレ……」
十字架を手渡してくる、中々センスが良いな、
弾避けのおまじないというのは性に合わないが持ってて悪いことはないだろう。
私は微笑み首にかける。
「似合ってるか?」
「え、ええ……とても……
あの、隊長……私……」
「たいちょー俺たちもう我慢できませんよー」
下半身丸出しでバカ共が叫ぶ、デリカシーの無い奴らだ
「すまんなツル、しばらくここで暇をつぶして置いてくれ、見て気持ちの良いものではないだろうしな」
笑いかけ宿屋に戻る、鼻血を噴き出すような音が聞こえた。

時計を見る、もう五時間もたったのか、そろそろツルを起こしに行くか
「こんな程度か、私はまだまだ遊び足りないぞ?」
真っ裸の男の尻を蹴ってやった。

第四章-Bald wird der Mond erblassen,Mein Schicksal reist mich fort!

(やがて日の光も失うだろう、運命は私を駆り立てた!) 歌劇《魔弾の射手》第二幕第三場よりー


  時計を見る午後八時だ。ツルを除いて誰も来ていない
さらに十分立ってようやく全員そろった。
「諸君、遅れたら問答無用で射殺と言ったが」
若干怒っているように尋ねる。
「ええ、遅れましたよ、俺たちみーんなを射殺してください!」
勝ち誇ったかのようにバッツが叫ぶ、あちこちから笑い声が起きる。
子供のような奴らだな、ため息が自然と出る。
「今回だけだ、次から遅れたら本当に撃つぞ」
大方次も同じ手段ではぐらかされるんだろうな困った連中だ。
「さてと、遊んでいる時間はない突入準備だ」
一瞬にして先ほどのおちゃらけたムードは消え去り、凛とした緊張感があたりを覆う。
「……リロード、作戦の概要を」
「ほい、まずはチームを二つに分担させAチームは先に最上階を目指しBチームは一階から攻めていく。
段階としてはBが攻めて相手の注意が一階に向けられた時にAチームがサクッと
んまぁ要するにいつも通りってことで、よろしいですか?」
チラリとこちらを見る、相変わらず軽い口調だ
「作戦開始は午後九時ジャスト、皆健闘を祈る」

第五章-Noch trubt sich nicht die Mondenscheibe,Noch strahlt ihr Schimmer klar und hell, Doch bald wird sie den Schein verlieren.

(月影はまだ確かなもので、月光はまだ薄明かりの様、やがてその光も消える。)
           歌劇《魔弾の射手》第二幕第三場より

  勝ちが決まってる仕事ほどつまらないものはない。
勝負は勝ち負けが分からないのが楽しいのにそこを決められるのは納得がいかない。
以前似たような事を同僚に言ったが負けたことがないからさと一蹴された、不親切な奴だ。
ん、誰だ?こんな時間に?
え?
銃声?
血?
誰の?
俺の?
……ああ、やっと分かったよ、負けるのはもっとつまらない

 「まずは一人と、緊急のベルがなるまであと数分程度は余裕がありそうだな。
打ち合わせ通りAチームは最上階、Bチームはまっすぐ、私は大将を叩く、良いな?」
まばらな返事、やる気があるのかないのかよく分からないな
まあいい、幸い仕事だけはしっかりやってくれるからな、その返事を信じるとしよう。

 うざったい、最上階までの階段を上りながら俺はそんな事を考えていた。
気に入らない、何もかもだ、なんで俺が姑息なAチームなんだ?どうしてこのガキが俺のチームなんだ?
今日はついてねぇな、こういうときは早く帰って寝るに限る
「バッツも準備は良いか?」
不意に声をかけられ少し驚いたがまあ大したことではあるまい。どうでもいい話のはずだ。
「ああ、楽勝だ」
その声が合図となり扉が蹴破られた。下に注意がいっていた兵士は突然の物音に驚きあたりをキョロキョロと見渡す。
……絶好のカモだぜ。軽い銃声が響き兵士の頭を吹き飛ばす。
「っし、行くぜ」
駆け出す、慣れた様子で他の奴らもついてくる、最後尾はツルか……精々足を引っ張らないでくれよ
「て、敵襲!」
声が響く、咄嗟に声の主を見つける。まだ新品の軍服を着た青年はどうしたら良いか分からずオロオロしている。
「叫ぶ暇があったら引き金を引くんだな」
銃声。男の倒れた音。なんだ前線基地というのにこの程度か。
背後から何発も銃声が聞こえる……ツルだろうか、また無駄玉を使って、イライラする!
「バッツ!危ない!」
仲間の声で我に返り危険の主を探す、次は幾分か手慣れた様子だ。俺は銃口を向ける。
二発の銃声が響き男が倒れる、その目は何故当たらない?と言いたげに虚空を見つめている。
「銃弾ぐらい撃ち落とせるようになってから来るんだな、じゃなきゃ力不足だ」
快調。快調。開始十分もたってないのにもう二人だ。
「このフロアには兵が少なそうだな」
誰かが呟く。おれはああ、と相づちを打つ。兵力はほとんど下に割かれてるんだろうがそれにしても数が少なすぎる。……罠か
「罠だろうな、待ち伏せが一番可能性が高い」
上から来るであろう敵の部隊に最も適した待ち伏せる場所ときたら
「階段しかねぇだろ」
俺はそう言うと同時に駆け出す、俺の中の獣が殺戮を欲していた
「見ーつけた!!」
階段の前に飛び出すと同時に銃弾を乱射する、断末魔が一斉に響き……ださなかった
目の前にいるのはかなりの重装備をした兵士の大群、予想通り階段で構えていたようだ。
俺は慌てて横に飛び退く、銃弾はほとんど効かなさそうだが何分あれだけの重装備だ、動きなどとれないに等しいだろう、俺はそう思った。
しかし、その考えはすぐに打ち砕かれた。
あっと言う間に兵士たちは俺の背後に現れた、チッと舌打ちし俺は振り向きながら銃弾を乱射する、銃弾は軽い音を立て鋼鉄の楯に弾かれる。
俺は慌てて走り出し仲間の元へ戻ろうとする、しかし重装備の兵士は走っている俺と同じ程度の速さで追ってくる。
何故重装備なのにこれほど移動が早いのか理由は明確だ、浮いているのだ数センチ程度だが確実に身体が浮いている。
「反則だろ……!んなもん!」
銃で応戦しながらじりじりと下がる、壁にぶつかる、行き止まりか!
向き直す、兵士達はゆっくりこちらに向かってくる。
銃口が向けられる、嫌だ、死にたくない。
足がガクガク震える、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!
「うわぁぁぁあぁああ!!!!」
銃弾を滅茶苦茶に乱射する、少しすると情けない音だけが響く、弾切れだ
向けられた銃の引き金が引かれた。

 さっきから上が騒がしい、バッツがいるからな、うるさくなるのは当たり前か。
俺はため息をつく、隊長はもうボスのところへ向かったかな。
「副隊長、終わりました」
リロードの声で我に帰る
「ああ、ごくろうさん」
俺はそう言って重装備の兵士達に近づく、一階の守備をしていた兵士達だ。
兵士達はある一角に集まったまま動かない、否、動けないのだ。
細い、鋭利なワイヤーが張り巡らされているのだ一歩でも動けばいくら重装備でもバラバラになるだろう。
「能力者兵士諸君、お勤めご苦労さん!ほら、褒美の酒だ!」
俺は少しおどけながらワイヤーに酒をドボドボ注いでいく、最後の酒だろうしなケチケチしてたら相手に失礼だ。
「なんだ?そんな顔して?タバコでも吸うか?」
俺は無理矢理兵士の一人にタバコを加えさせライターで火をつける、今から何をされるのか予想できるのか、細かく震えている。
「そんなに震えて、寒いんなら寒いって言えよな」
苦笑しながらライターの火を酒にまみれたワイヤーに近づける、即座に引火し灼熱がワイヤーに沿って兵士達を覆う。
「装備に頼るだけじゃ戦いには勝てない、戦いに必要なのは咄嗟の判断力と応用力だ。
次に生まれ変わって兵士をやるならそこんところを頭に入れておけよ」

第六章-Es sei! bei den Pforten der Holle!

(よかろう!地獄の門にかけて!) 歌劇《魔弾の射手》第二幕第四場より

  ふふ、やっているようだな。上と下から戦いの音が聞こえ少し頬が緩む。
情報によれば司令官とやらの部屋はこの奥らしい、完全に信用するというのもあれだが行ってみて損は無いだろう。
情報通り部屋はあった、律儀にノックし扉を開ける。
中には軍服を着こなした若い男が立っていた、月明かりに照らされ顔が映る、雑誌のモデルのような美形だ。
「正面から攻めてくる荒くれ者達の長だからどんな大男が来るかと思っていたらいやはや……度肝を抜かれましたね」
男は微笑みイスにゆっくりと腰掛ける、……能力者だろうな一応は警戒しておこう。
「遺言はそれだけか?あと一分程度なら話をしても良いぞ?」
ベレッタ90-Twoの銃口を向ける、男は肩をすくめる。
私は躊躇うことなく引き金を引いた。

俺は死んだのか?……いや死んだにしてはやけに意識がはっきりしている。
痛む頭を押さえながら少しずつ意識が覚醒していく。
俺はバッツ、突入して、銃を突きつけられて……
そこでようやく気づいた、ここが戦場で俺は何とかツルに助けて貰ったのだ。
随分長い間気絶していた気がするが実際は一分もたっていないようだ、ツルの決死の飛び込みにより何とか銃弾は外れたが気にすることなくこちらに銃を向ける。
ツルはあちこち撃たれており荒く息をしている、万事休す……だな
はいはい、分かってます地獄への生き方ぐらいはね
拳銃を取り出しこめかみに照準を合わせる。
ハハ、真っ白なきれいな鳥の羽が舞ってるな、俺の醜い死体を覆い隠してくれたら良いのにな
……鳥の羽?
「ぎゃぁぁぁぁっぁぁああああ!!!!!!」
「うわぁぁぁぁああああ!!!」
羽に触れた兵士達は声をあげ一人、また一人と倒れていく、なんだ、この羽は!俺は慌ててツルの方向を向く、羽はツルから出ていた。
「ツル……お前」
俺は思わず声を出してしまう、美しい白の羽を背中にはやしたツルは天使のようだった。
「これが私の能力……今まで隠しててすいません……」
申し訳なさそうに言葉を紡ぐ、傷口はかなり酷い
「バカ……何で今まで使わなかったんだ!」
俺は叫んでしまう、勿論俺たちの為もあるがそれよりツルが傷つくのが嫌だったのだ。
「だって……バッツさん達の邪魔に……」
違う、邪魔をしてたのは
「俺だ、俺が邪魔をしてたんだ……」
ちっぽけなプライドのせいでコイツの実力を見てやれなくて、いっつもこき使っていた。
さっきだって無駄うちなんてしていない、後ろから迫り来る敵を的確に止めていたんだ。
「ごめん、ごめんな……ツル……!!」
俺は強くツルを抱きしめた。

軽い音がして銃弾は弾かれた、男の手にあるのはビリヤードのキューだ、おそらくキューで弾いたのだろうが……
「……速いな」
思わずそう言ってしまうほどの速さだ、かなりの力量が伺える。
「賞賛ありがとう、美しき殺し屋さん」
微笑みを崩さずキューを動かして遊んでいる、油断大敵だな
「Knien Sie」
キューに2tの重力をかける、咄嗟の出来事に男の顔から笑みが消える。
……来るか
「何してくれてんだよ……あーもうキレた、ぶち殺す」
デザートイーグルの銃口を向け躊躇うことなく銃弾を放ってくる。身を翻し回避しながら男の背中を強く押す、前のめりになり倒れかかるが、咄嗟に男は両手で地面を弾き、両足で蹴りを放ちながら、姿勢を元に戻す。
蹴りを軽く後ろに下がり回避し銃弾を顔面と腹部に向け一発ずつ放つ、男は軽く撃ち落としこちらに向け銃弾を放ってくる。
顔を逸らし避けようとするが
「当たりぃ!」
銃弾が近くで爆発、爆風により若干の疲労を感じる、これがあいつの能力だろうか
「ハァ……ハァ……爆破系能力者か……」
狂ったように男は笑い声をあげる
「違うよ?万能能力者だよ!」
銃弾を二発放ってくる、一発は撃ち落とすが一発は避けきれずに膝に直撃する、電撃が体中を責める
「ぐっ……あぐっ……電気か!」
男を見据える、男はイスから立ち上がろうともせずニヤニヤと笑っている。
……良かろう、私を本気にさせたことを
「地獄で後悔するんだな」

第七章-Hier bin ich!

(我ここにあり!) 歌劇《魔弾の射手》第二幕第六場より

  すぐ終わるとたかを括っていたのが間違いだった、この男中々の手練れだ。銃弾もこの銃に入ってる分しか残ってない。四発使って残り三発、三発であの男を倒すか……
面白い、難しければ難しいほど心は躍り集中力は増す。
敵から一時も目を離さず相手の考えを読みとりより速く攻撃をしかける。難しいがするだけの価値がある。
銃弾が足下めがけて放たれる、咄嗟に右に飛び避ける、先ほどまでいた足場がドロドロに溶けている。
本当に色々な種類があるのだな、そんな事を考える暇すら与えられないように次の銃弾が放たれる。
避けることは容易い、しかし部屋の広さには限りがある、避け続けることは不可能だろう。
「何とかして接近しないとな……」
相手のリロード中の隙をねらう……否、リロードは本当に一瞬だ、下手に飛び出すとやられる。
銃弾を全て放ち強引に勝負を決める……否、相手の能力の全容が分からない内はその手段は危険すぎる。
だとしたら……あれしかないな。
作戦が決定して浮かれていたのか男の銃弾が精確に膝を貫く
「くっ……うあっ!!」
座り込んで倒れていた膝を思い切り踏まれる、痛みで思考が停止しそうになる。
「もっと良い声を聞かせてくれよ!なぁ!!」
ぐりぐりとさらに強く踏みにじってくる、相手の望む通りの声をあげてしまう。
「くっ……誰が貴様などに!」
睨みつける、不意に左腕の感覚がなくなった、後から響く痛み骨折でもしたか?
「あっそ、ならもう良いわ」
右腕を捕まれ胸と胸の間に銃口を乱暴に押しつけられ
「バイバーイ♪」
銃声が響く。


 状況はかなり優勢だ、ツルの能力により重装備など紙切れ同然、俺は少し能力者ってやつをうらやましく感じた。
「中々やるな、ツル」
俺は頭を撫でてやる、自分の傷ついた分相手を傷つけることができるので必然的に傷の治療はできない。
俺にできることは精神面での痛みの緩和だけだ、時折辛そうな声をだされるのが俺のわずかに残った良心をきりきり痛めつける。
「ハァ……ハァ……バッツさん……あと、どれくらい?」
荒く息をしながらツルが尋ねる、もう五人も残っていないだろう。俺は優しく背中をさすりながらそう言った。
「そう……なら、がんばる」
羽の数が増える一人、そしてまた一人、殲滅完了だ。
「うっし、終わった!さてとあとは隊長の帰りを待つだけか!」
俺は立ち上がって大きく伸びをする。

不意に胸に強い痛みを感じた。
何が起きたのか理解できず胸の辺りを触ってみる、手にべっとりとついた血が自分の物だと気づくのにさして時間はかからなかった。
忌々しそうに斜め上を睨む、最上階だから上にまで注意してなかった、上の足場で狙撃手がねらっていたのに気づかなかったのだ。
「くっ……」
俺は膝をつく、だが俺がここで倒れたらツルも撃ち殺されるだろう、んなことさせるもんか
「このチキンやろうが……ツルには一歩も触れさせないぜ……!!」
ふらふらと立ち上がり狙撃手を睨む、それに応じるように銃弾が俺の足を貫く。
焼けるような苦い痛み、身体から流れ出た血が辺りを真っ赤に染めている。
三発目の銃弾が心臓の近くを貫く、耐えきれず俺はその場に倒れる、ツルを……ツルを守らないと!
俺は這ってツルの前に立とうとした、しかし身体が言うことを聞かない。
力を入れれば入れるほど力が抜けていく感覚だ、もうどうしようもならない。
狙撃手が念入りにねらいを定めている
「ツル!俺は良いから逃げろ!」
叫んだつもりだった、しかし声は出なかった。
狙撃手が引き金を引くのがやけにハッキリ見えた。

銃弾は女の胸を貫いた、はずだった。
なのに女は少し笑いながらこちらを見ている。
何故だ?何故だ?何故だ?
「仕掛けはいたって簡単だ」
女は楽しげに呟く、首元に銀のペンダントが見える。
慌てて僕はペンダントを引き抜く、先には中がくぼんだ十字架がついていた、くそ、コイツに阻まれたのか!
まあ良い、頭を狙えば終了だ、銃口を頭に突きつけようとする
とたんに四肢に痛みを感じた、いったいどこから?
「これが私の能力だよ、坊や」
そう言って女が立ち上がる。

膝は痛いがきちんと機能する、それにしてもギリギリの賭だな、運が良かったとしか言いようがない。
ツルには感謝しないとな、そう思いながら目の前の男を見る。
先ほど放った四発の銃弾を浮遊させ背後から四肢を貫く、重力系能力者である私にとってこれぐらい造作も無いことだ。重力をかけられた時点で気づくべきだったな。壁にたたきつけるように重力を男にかける、男の身体は塵のように壁にたたきつけられる。
歩いて近づき銃弾を両手に向け一発ずつ撃ち込む、これで残りの銃弾は一発だ。
「さてと、ゲームセットだ」
銃口を頭にくっつける、男が叫ぶ
「魔弾が当たるのは六発までだ!七発目は絶対に外れるんだ!!」
どうだろうな、私は引き金を引いた。

ツルは大丈夫なのか?それしか頭に無かった。
不思議と自分が死ぬのは怖くなかった、むしろツルが傷つくことが怖かった。
慌ててツルを探す、無事だった、狙撃手は大量の羽に包まれている、やっぱし流石だな
泣きながらツルが俺に声をかける、うるさいなぁ、静かに寝させてくれ
「バッツさん……死なないで下さい!バッツさん!」
必死に俺に声をかけてくる、何だかおかしかった、だって今のツル、天使みたいなんだぜ?
天使が死ぬなって、俺は少し、ほんの少し微笑んだ。
俺の人生が良かったか悪かったかなんて分からない
でも、まあ多分最後に笑えたんだから
良い人生だったんじゃないのかな。

エピローグ



  随分と懐かしい物が出てきたな、手元の十字架のペンダントを見つめながらそう思った。
「何ですかそれ?」
ガトーが興味深そうに見つめている。
「十字架だ」
「いや、それは分かりますよ、それにしても随分汚いですね」
「まあな、もう色も褪せてしまった」
「窪んでもありますし、捨てちゃった方が良いんじゃないですか?」
少し悩んだがああ。と返事をした、過去なんて持ってても良いことなどない。
「では、会議の時間ですよ、No.8、レイ・ミッターマイヤー」
「ああ」
皆を見渡す、顔ぶれは変わったがこの感覚は変わらない

「Eine Versammlung、これから作戦の説明をする」


零の照準 完