Birthday


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あわれみと平安と愛とが、あなたがたに豊かに加わるように。

                     新約聖書《ユダの手紙》より

  新世界にはよく"地球"それも"日本"からの来訪者が度々現れる。
彼らは皆、口をそろえて新世界の広さが信じられないと言う。
その広い新世界。
聖都や水の国のように栄えて明るいイメージの場所があれば
ゴミ溜め、そう形容するのが最も適した町もある。
灰色に澱んだ空、道ばたに転がる骸、聞こえる銃声。
忘れられた町ジュノー、通称"ゴミ溜め"
血で血を洗い、親は子を、子は親を喰らう。力なき者は死に強き者だけが君臨する力こそが全ての社会。
そこの住人の目に光はなかった。……たった一人を除いて。

  「くそー!また負けた!」
暗い雰囲気の町に似合わない明るい大きな声で少年が叫ぶ、七、八歳だろうか、ぶかぶかのセーターから見えるやせ細った腕がこの少年の生活を物語っていた。
「こんなものかい、まだまだだねぇ」
そう言ってクスクスと笑う同い年ぐらいの少女、あちこちに切れ目が入った黒いボロボロの着物に茶色い長髪を後ろで纏めている。
「やっぱ強いな、ま、俺の刀のおかげだろうけどな!」
自慢げに少女の手の刀を指さす、屑鉄を組み合わせただけのその刀は一見するとガラクタにしか見えない。
「あんたの刀のおかげ?バカ言うんじゃないよ……こんなのない方がマシさぁ」
そう言って刀を一閃、ポトリと衝撃に耐えきれず刀身がおれる。
少年はハァ……とため息をつくが、すぐさま元の元気な顔に戻り
「虎徹スペシャル23号は失敗に終わった!次回作にご期待ください!」
一人でワーワーキャーキャー言ってる、その姿を横目に見ながら少女は笑いながら言う
「無駄に身体動かすんじゃないよ、あと三日は食事がないんだからさぁ……」
その言葉がきっかけとばかりに少年のお腹がかわいらしい鳴き声をあげる
「忘れてたんだぜ……思い出させるなよ……」
そう言いながらも笑う、つられて少女も笑う。至福の一時。
「んじゃ帰るよぉ……何か残ってるかもしれないしねぇ……」
少女が歩き出す、少年もついて行く。
しばらくしてとある小屋の前にたどり着く、少年と少女の家だろうか。
家にしてはかなり粗末な作りで今にも倒れそうだ。
「お、ネズミがいたよぉ……今日の食事はこれで決まりだねぇ」
やせ細ったネズミを鷲掴みし少女が笑う、、食べる所などほんの少ししか無いというのにまるで宝物を見つけたかのような顔だ。
「だな!」
一片の濁りもない笑顔を浮かべながら少年が叫ぶ、彼らにとってはこれがごちそうなのだ。

そして、彼らは平和の道を知らない。

      新約聖書"ローマ人への手紙"より

  夜、少年が寝静まったのを見て少女は家を出る。
向かう先に在るのは巨大な遊廓だった。
少し治安の良い町であればこんなこと許されるはずもない。しかし、ここは"ゴミ溜め"世間一般の常識は通用しない。
学の無い少女達は低賃金でキツい労働をさせられる、避妊などの道具も支給されない。
地獄、しかしその地獄以外で働く場所など少女達には無かった。

  少年もまた知っていた。少女が自分を食べさせるため夜な夜な身体を売っている事を。
そして少年の為に苦しい生活を切り詰め金をためていることを。
何か自分にできないか、少年はそればかり考えていた。
一週間後の今日は少女の誕生日なのだ。いつも迷惑をかけてる自分が少女の為にできること。

朝、少年が目を覚ました時、少女はまだ帰っていなかった。悪質な客にお持ち帰りされているのだろう。
少年は悔しげにうつむき外へ向かう。偶然にも帰宅途中の少女と出会った。
「おお!心配したんだぜ!どこいってたんだ?」
少女の前では無邪気な道化を演じる、それが少年にできる最大限の思いやりだ。
「朝ご飯を探してたのさぁ、大漁だったよぉ」
そう言って少女は笑いながら手に持っていた袋を見せる、自分を注文した男に貰った僅かな食料だ。
「やっぱりスゴいなぁ!待ってろよ!俺も今度うまいもん拾ってくるからな!」
へへんと笑い鼻を掻く少年、少し笑い二人で家に帰る。
少年がこのとき何かを決心したのを少女はまだ知らない。
何でもない日常が終わりあっと言う間に少女の誕生日になった。
少女は大きく欠伸をしながら部屋を見渡す、少年がいない。
「何か探しにでも言ったのかねぇ」
呟き少女は足下にある細長い布包みを見つける、見覚えの無い物だ。
包みを解こうとしたが少年の事が気になったので布包みは後回しにした。
よっ、と布包みを抱え家を出る、少年を捜すためだ。

何時間程度歩いただろうか、ふと目の前に人だかりができていた。
血の生臭い匂いが少女の鼻を刺激する、処刑場だ。他に娯楽と言った娯楽がないこの町の住人はよく処刑を見に行く。
人混みをかき分け誰が縛られているのか見に行く、単なる好奇心からだ。
悪いねぇと言って最前列を陣取る、まだ処刑は始まっておらず裁判官が罪を読み上げていた。
「……金品の強奪、以上四つの罪状により被告人、柊 虎徹を死刑に課す」
憔悴しきった縛られた男が引き出されてくる、それは少女もよく見知った顔だった。

処刑場は一瞬で廃墟とかした。

少年を抱いて少女は処刑場から離れた小高い丘へ向かう。
少年は処刑される前に酷い暴行を受けていたようで誰が見てももう助からないと分かった。
「虎徹!大丈夫かい!」
少女は少年を寝かせ身体をゆする、少年は少し、ほんの少しだけ目を開けた。
「なんだ……みっちゃん……来たのか……ざまあねぇだろ……笑ってれよ……」
そう言いながら虎徹が笑う、ミズキは必死に叫ぶ
「何言ってんのさぁ!どうして盗みなんか……!」
「だってさ……今日、みっちゃんの誕生日だろ……いっつも世話になったからさ……」
ミズキは涙をこらえながら布包みを解く、白木の鞘の真一文字、美しい太刀が包まれていた。
「んなもん……良いよ……私になんかにさぁ……もったいないよ……」
ぐずり出す、拭っても拭っても涙が止まらない
「そんなことないよ……みっちゃんカッコいいんだからさ……良い刀使わないと……
品質は保証済みだぜ……世界最高の刀匠、柊 虎徹様の一大傑作だからな……」
ミズキは涙を拭うので手一杯で返事すらできない、虎徹はフッと落ち着いたように笑う。
「みっちゃん、誕生日、おめでとう」
ゆっくりと目を瞑る、ミズキが慌てて身体を揺する。
冷たくなった身体はもう、何も言わなかった。
暗い町に響いていた笑い声も、もう、消え去った。