《PRIDE》


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──雨が降っている。

さっきから、ずっと降っていたような気がする。

俺はその雨に打たれている。

地面には、たくさんの男が倒れている。

頭から血を流している奴、鼻血を出しただけで戦意を失い倒れた奴、脚の骨を折ってうずくまってる奴。

ざっと見て──30人以上いる男達の中心に、俺が立っている。

ここどこだっけ──。

ああ──俺ん家の前か。

何で家の前なのに、傘をさしてないんだろう。

ああ──俺、またケンカしたんだった。



Short Story


       《PRIDE》


                   by Azzure

7月が丁度半分を超えた辺り。
俺の学校では、今日1学期の終業式を行った。
クソ暑い体育館に閉じ込められた後の開放気分は、誰にも邪魔されたくないものがある。

さっさと帰ろうと、俺は学校の廊下をスタスタ歩いて下駄箱に向かい、自分の靴を取って、地面に落す。

「一郎さぁぁぁぁぁぁん」

俺の名前を大きな声で呼ぶ奴がいる。万死に値する。
俺は振り返って、嬉しそうにこっちに走ってくる智也にサマーソルトキックを浴びせた。
悲鳴を上げながら廊下を転がる智也を俺はケラケラ笑いながら見る。

今日も面白いように決まるな、智也。お前はサンドバッグという才能がある。

「何言ってるんすか!俺は関東地区最強を目指す男ですよ!!」

ああ、そうだったな。
その前にお前、タバコやめないと肺活量落ちるぞ。

「それは無理な話ですって。寧ろ先輩がおかしいんですよ。あんなに人殴ってるのにタバコも酒もシンナーもやらないじゃないですか」

バーカ、俺は鬱憤晴らしに人を殴ってんじゃねぇよ。
いい加減分かってくれ智也。お前は俺のケンカを見てなにも分からないのか?

「分かってますよ!いやっていうか先輩速すぎてよくわかんないっす!!」

ああ──そうだな。
俺は異常だ。人間じゃないのかもしれない。

いつからだろう。智也が俺についてきたのは。
いや──不良たちが俺の元へ集まってき始めたのはいつだろう。


俺は智也と一緒に自分の家に向かって学校から帰る。

智也は俺の一年後輩だが、家の方向が一緒なのでよく一緒に帰る。
空は曇天。朝見た天気予報によると、今夜は大雨らしい。


帰る時は、いつも智也が俺に喋りかけてくる。
今日の終業式はめんどくさかったとか、昨日はゲーセンに行って可愛い子みつけたとか。
正直俺が相槌を打たなくても、勝手に1人で喋り続けるだろう。


ああそうだ、思い出した。
初めて能力が覚醒した少し後だ。
不良を何人か病院送りにした後、噂が広まったんだっけ。
──あそこに最強がいるぞ、って。
あの日から不良が俺のところに集まってきたんだ。

ただいま、と呟き家に入る。
廊下を少し歩き、自分の部屋に入る前に居間をちらっとみる。
そこには親父が俺に背を向けて新聞を読んでいた。
俺はそれだけ確認して、自分の部屋に行こうと一歩踏み出した。

「またケンカしたのか?」

一歩が止まる。別に隠しているわけではないが──

「お前に空手を教えたのは、人を殴るためじゃない」

──ケンカに空手を持ち込むことは、後ろめたかった。
俺は幼少時代からずっと、親父から空手を習った。
お陰で体力もついた。根性もついた。弱音も吐かなくなった。
俺は自分を鍛えてくれた空手に誇りを持っていた。

違う、親父。俺はケンカに空手は使っていない。俺は──俺は。

「そのケンカで、何を護った?」

背中越しに、親父は俺に問う。
俺はその質問に、堂々と返事をした。

ああ、後輩がフクロにされていたから、それを助けた。

「ならいい、俺は満足だ」

そういうと、再び親父は背中越しに新聞をみる仕草を始めた。
俺はそれを見て、自分の部屋に戻った。

自分のベッドに横たわり、天井を見上げる。
近くの閉め切った窓に、大粒の雨がたたきつけられる。
ざぁーという音が、俺の部屋に響き渡る。

違う、親父。俺は空手なんか使っていない。
気付いたらな、人の2倍、いやそれ以上のスピードで動けるんだ。
まるで相手が遅くなったかのように。

決して俺は空手を汚すような事はしていない。
空手は護身術。相手を倒すのが目的でない。
親父、俺はわかっている。だから、俺はケンカで空手は使わない。

親父は理解してくれているだろうか。
背中越しで俺と喋って、本当に伝わったのだろうか。
わからない。本当に──

雨粒がコンクリートを叩く音が続くはずだった。
少しずつ、違う音が混ざる。
人の声。何か叫んでいる。俺ん家の前かもしれない。

──そうだ。この声は聞き覚えのある声だ。
智也がフクロにされている時に、俺が返り討ちにした奴等だ。

いや、もっといる。あの時は8人くらいだった。
今の俺ん家の前はもっと騒がしい。20人、いや30人くらいいる。
俺はベッドから跳ね起き、部屋を飛び出した。

廊下を走り、いそいで玄関へ向かう。

「まて」

再び、居間の入り口で足が止まる。

「また、ケンカか?」

親父が、背中越しで俺に再び問う。

ああ。

俺は素直にうなずく。

「今度は、何を護る為のケンカだ?」

自分のプライドを護る為。

何のためらいも無く、俺は思ったことを口にした。

「そうか」

親父は、ゆっくりと俺の方を向いた。
そして、少し笑った。

「好きにやって来い」

おう。
俺はそう呟き、玄関へ進んだ。



親父、背中越しでも伝わる物があるんだな。

ようやく分かった。親父は俺を信頼してくれていると。

逆に、俺が親父を信頼していなかったと。

ゴメン親父。早速だけど、派手にやってくるわ。


                                            《Fin》