山田唯直VS平野士道


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山田 

【雷の国 三道館 武信道場】

……
【道場の中心で道着を着た身長160cm少々の中年男が閉眼し、正座している】
【板張りの床の上で、ただ静かに、だが笑みを浮かべたまま瞑想していた】

士道

【その門の前で、学ラン姿の右目を瞑った少年が佇んでいる】

・・・・・・・すぅぅぅぅぅぅぅ。
【少年は深く息を吸うと】

頼もぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉっっっ!!!!!!
【怒号とも取れる叫び声を、張り上げた】

山田

ふむ?
【中年男は膝に手を当て、よいしょといったおっさんくさい仕草で立ち上がると】
【入り口の方へと視線を向かわせる】

ははは!元気な子がきたようだな!
さてさて、早速出迎えてあげようか!
【どこか聞き覚えのあるその大声を笑顔で受け止めながら、声のした方へと岩のような身体を動かしていった】

士道

応、おっさん!!
いつかの言葉通り、来たぜよ!
【扉を開けたならば、ニカリと笑った右目を瞑った士道が見れるだろう】

山田

おお!覚えていてくれたかね!
歓迎するよ、士道君!
【ニコニコと人のいい爽やかな笑顔で士道を出迎える】

まあ、こんなところで立ち話もなんだな!
入ってくれたまえ
【士道に向けそう言うと、背を向け道場の中心へと歩いていく】
【中心には赤色の短いテープのようなものが2つ貼り付けてある】

士道

そりゃ覚えちょるよ!!
わしら一緒に飯食った仲じゃろうが!
【ケケケと笑い、靴を脱いで裸足になり、道場へと入る】

ん・・・アレは・・・。
【赤いテープを見て、目を細める】

組み手け?
おっしゃ、やっちゃるか!
【元気良く声を出し、肩と首を回して軽く柔軟】

山田

ははは!君もわざわざ私と語らうためにきたわけではあるまい!
そういう理由でも歓迎するがね!
【士道の言葉を聞き、口元を少しだけ吊り上げて顔だけそちらの方へと向ける】

君の空手には興味がある
ぜひとも手合わせしたいと思っていたのだよ!
【中年男――武信道場師範 山田唯直(やまだ ただなお)は】
【赤いテープの一つを跨ぎ、もう一つ向こうのテープを乗り越えたところで振り返り】
【爪先を乗り越えた赤のテープにあわせる】

【二つのテープの距離は遠くない】
【一歩の踏み込みで相手と組み合えるであろう間隔である】

士道

カカカ!!
わしも最初からそのつもりじゃけぇのぉ!
【カカカと笑いながら、ノリノリで山田と向かい合う形で足の親指の先をテープにあわせる】

(あ・・・・・・)
【テープに指先を合わせ、向かい合った山田の目を見た瞬間】
(そういやぁ・・・・・・こうやって組み手するんは・・・)
(親父ぶり・・・かのぉ・・・カカ・・・)
【少しの間、感傷に浸り、目を戻す】

・・・・・・。
【眼前の山田を、ジィと見据える】

山田

……ふむ
(良い目を、しているな)
(正人も今頃は元気にしているのだろうか)
【山田は士道の姿を、目を見、異世界で元気に暮らしているであろう我が子のことを思い出す】
【自分と違い、才に恵まれた子であった】

【一瞬だけ、山田の目が子を見る父の目となる】

――では、始めようか!
まずは礼からだな!私に合わせてくれたまえ!
【山田は姿勢を正し、左足を軸に身体を道場の奥、「信ずる」と達筆で書かれた掛け軸のある方向へと向けた】

正面に――礼ッッ!!
【地が割れんばかりの轟音と共に、山田は深々と礼をする】

互いに――礼ッッ!!
【そして、右足を軸とし無駄の無い動きで士道の正面へと向き直り】
【勢いよく頭を下げた】

士道

・・・ほうじゃのぉ。
【ニィと笑って】
【山田と同じように】

・・・・・・ッッ!!
【正面の際は無言で深々と腰を曲げ、頭を下げる】

――よろしくお願いしますッッ!!!
【そして、山田へと向き直り、山田の轟音を聞いた後、そう叫び、深々と腰を曲げて、頭を下げる】

・・・・・・。
【そして、数秒、そのままの体勢で、静止する】

山田

よろしくお願いしますッッ!!
【礼を済ませると静かに、頭を上げる】
【姿勢を僅かに崩し、両肩の位置まで足を広げた】

――三道館武信道場師範 山田唯直、お相手させていただきます
【士道を正面に、名乗り】
【これは必要な礼儀ではないが、士道に対して改めて名乗りを上げたくなったのだ】

用意――
【山田は腰を落とす】
【足の位置も組み替え、左足を前足とし左拳は人中直線上、右足を後ろ足とし左拳は下丹田上に被せるように添える】
【山田から途端に濃厚な闘気が膨れ上がり、眼に凶暴な気配が宿る】
【その威圧感は常人が見れば――巨石を前にしているように錯覚してしまうだろう】

――始めィッッッ!
【山を動かさんばかりの轟声と共に開始の合図をする】

【山田は構えたまま動かない】
【岩のように佇み、士道の動きを窺い始める】

士道

・・・・・・。
【しばしの間静止した後、頭を上げ】

・・・二代目 平野流・・・平野士道。
お相手、受け持たせていただきます。
【こちらも名乗る】
【山田に精一杯、応えたくなったのだ。武人として】

・・・。
「平野流空手術 壱の型 抜塞大」

【右目を瞑ったまま、左目だけで山田を視界に捉える】
【右足を下げ、左足に体重を乗せるようにし、右拳を右腰に、左拳をその上に添える】
【居合いのような構えだ】

・・・・・・。
【こちらも構えたまま、動かず、ただ山田を見据える】
【――目の前の岩石を】

山田

――

(攻撃的な構えだな)
(中段の守りは硬かろうが、上段ががら空きだ)
(しかし上段の守りを全く無視しているわけではあるまい)
(両手を重ねていることから上段の打撃を真っ直ぐに挟み込むように受けることを考えているのか)
(それとも打たれる前に斬って捨てる受け度外視の攻撃特化か)
(……つついてみればわかることだなッッ!)


はぁッッ!!

【気合と共に、巨石動く】

【山田の右後ろ足親指が板を蹴り、前方に対する爆発的な推進力を発生させる】
【距離は2mも離れていない。一歩の踏み込みで容易に拳を届けさせることが可能だ】
【投石器の如く射出された山田の体は高速で士道へと向かう】
【打ち出すは顔の中心を狙った左上段順突き。右拳は僅かに引き、軽く握りこむ】

【山田はこの世界において破壊力を持つ部類の人間ではない】
【恵まれぬ身体を技術と努力により補い、それを基とし戦う格闘家である】
【その拳の威力は単純な外的破壊力で見れば致命的なものでは無いだろうが――その分内に「残る」打撃である】

士道

・・・・・・。
【無言のまま、山田を待ち構え】
【山田が、突きを放つ動作をした瞬間に】

・・・・・・ッ!!
【両の目を見開き、脚部に力を入れ】
【両手とも拳を開き、手刀をつくり、それを自身の腰から上へと腕をクロスさせて上げ】
【山田の左腕の手首目掛けて上に弾くように受け止めようとする】

【これに成功した場合、その瞬間両手で腕を絡め取り、右腕を引いて自身の方へ腕を引っ張ろうとする】

山田

――
【その動きは先ほどの思考の中にあった動きである】
【両手を使い挟み込むようにして受けるというのは想定の範囲内だ】
【左順突きは絡め取られる……が】

――ふんッッ!
【絡めとられた瞬間、山田の右後ろ足親指が地面を擦りながら動き】
【それに連動するように膝・腰・手首と力に回転を加え最効率で伝導させる】
【僅かに引くのみで留めていた右拳が腰の捻りが加わった時点でその勢いを乗せ真っ直ぐ放とうとする】

【手首の回転、打撃の瞬間まで脱力し接触と同時に握りこむ動作により、その速度、威力は跳ね上げられる】
【下手に引っ張ろうとしたならばその勢いをも力の伝導の一部にしようとしてしまうであろう】

【狙いは両腕を上段に上げたことによりがら空きになった士道の中段鳩尾】
【急所狙いで尚且つ内部に浸透し残留する「技」の拳である】

士道

・・・・・・ッ!!
(こう来るか・・・!)
(じゃけんども・・・!!)
【しかし、右腕の引っ張る力は緩まない】
【それどころか、もっと近くに来いとでも言うように、力強く引っ張ってくる】
【――山田の正面に、左腕の肘を添えて】

【山田が自身を捻ったことにより、肘はこのままだと右胸~胸の中心までのどこかに当たるだろう】
【更に、山田が自身で用意した勢いに乗っているのならば、カウンターの要領で、その威力もプラスされる】
【左肘が当たる当たらないにしろ、山田の打を避ける術は士道には無い】
【もろに当たるだろう】

山田

(なるほど、そういう手か)
(これは避ける術はあるまいな――だが)
【拳を打ち出した体はもう止まらない】
【肘は山田の胸の中心を突く】

(私は今踏み込みを行っていない)
(今の右中段逆突きは踏み込んだ後の捻りにより打ち出した技)

(そしてあの肘には士道君「自身」の打撃翌力が薄いと見える)
(引きの勢いと私の捻りのみを利用しただけでそうそう威力が出るものかッッ!)

――かはッ!
【胸に突き刺さった肘に、山田は小さく息を吐き出す】
【が、肘をただ添え、当てるだけではそうそう山田の岩のような筋肉を突破することは難しいだろう】
【だが、その「先」を用意していれば話は別だろう】
【このまま後に続く動きを残していないならばさして勢いの衰えぬまま右逆突きは突き刺さってしまうだろう】

士道

・・・!!
(硬い・・・!!じゃが・・・ここまでは・・・)
・・・・・・ッ!!
(そう、ここまでは良い・・・!)
(ここからじゃ・・・!!)
【左肘を突き出したまま、その場で地面に向かい踏み込むように脚部に力を入れ】
(これを入れれば、「内伝」、「打突」の完成じゃ・・・!!)
【左手を固く握り、右手で掴んでいた山田の左腕をを離し、拳を解いた状態で】
だと・・・ッッ!!
【まるで、杭を打ち込むように左拳に右手のひらを当てようとするも】

かっ・・・!?
(間に合わなかったか・・・!?)
【その前に、山田の逆突きが鳩尾にめり込み】
【内臓を直接殴られたような、鈍い痛みが士道に襲い掛かり、その手から力が抜け、止まる】

山田

(今の数瞬見えた踏み込みのような動作、右腕の動作)
(どちらもこの距離、この状況で行うは無謀であろうな)
(だが、極みに達したならば今の動作も一呼吸で済ませることもできるようになるだろう、士道君ならば、な)

【山田の顔が数秒だけ出来の良い生徒を見るような優しい笑みへと変わる】

――はッッ!
【解放された左拳を左腰まで引き】
【その勢いと共に左前足を軸足とし腰を捻りこむ】
【竜巻のような捩じ込みから生み出される力は右後ろ足に伝導し、大鎌の如き右上段回し蹴りとなり打ち出されようとする】
【狙いは士道の側頭部。直撃すれば常人ならば丸ごと意識を刈り取られるであろう高威力技である】

士道

・・・っ!?
(速い・・・!!)
(尋常なまでに・・・じゃが・・・!!)
【鳩尾の鈍い痛みに耐えつつ、上半身の精一杯の力を両手に、下半身の力を全て軸足である右足に込め、両手を左側頭部の前に出し、右上段回し蹴りを受け止めようと試みる】
【山田の右足の脛に両手のひらが当たるように、自分への負担が一番小さくなるように受ける位置も調整されている】

山田

(良い反応だ!ははは!ますます士道君の将来が見てみたくなったぞ!)
【ニコリ、と野蛮な目をしたまま楽しそうに笑い心の中で賞賛する】
【右上段回し蹴りは見事に受け止められた】

【山田は右足をそのまま僅かに離そうとし、真っ直ぐに床に叩きつけようとする】
【右腕は自分の腰に回すような形となっており、拳は山田の左脇腹に当てられている】

士道

(だぁあぁ・・・!)
(なんちゅぅ蹴りじゃぁ・・・・・・!!腕にびっりびりくる・・・!!)
(丸太で殴られたん違うけぇよぉ・・・!?)
【右足が手から離れるのを確認してからこちらも手を降ろし】

・・・・・・。
(攻撃がやんだ・・・・・・?)
(なら、構えを変えるぜよ・・・)
「平野流空手術 弐の型」

  フドウ
「 不 動 」

【両足を軽く開き、内股に】
【そして両拳を握り、それぞれを左腰、右腰に逆向きに添える】

山田

(――この距離で悠長に構えを変える暇があるのかね?)
【右足はそのまま隕石のような勢いで地面に叩きつけられる】
【板が爆音と共に僅かに凹み、一瞬そこを中心に爆発的な力が生まれる】

                              < 秘 技 ・ 隠 れ 寸 鉄 >

【板を踏みしめると同時に左脇腹に添えていた右拳を自分の腹を斜め上に滑るような軌道で稼動させる】
【右腰を正面になるように捻り、足元より発した爆発力を肘の先まで全身各部の回転運動により伝導させる】
【それにより生み出されるは尖った突撃槍のような肘の一打】

【右足は回し蹴りから真っ直ぐ落とした場所に落としている。つまり、山田と士道は既に息のかかるような位置関係にあるだろう】
【つまり先ほど畳み込んていた右肘はほぼゼロ距離から放たれることになる】
【更に隠れ寸鉄は2段構えの技である】
【畳みこんだ肘を開くことにより顔面狙いの裏拳に派生するだろう】

士道

(腕は飾り・・・足だけを揃える・・・)
【距離関係ゆえ、腕を添えることは叶わなかったが、足をそろえることには成功した】
【だが、それだけで士道には、事足りた】
「外伝 体の術 息吹」

  ゴウタイ
「 剛 体 」

すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
【高速で息を吸い込み】
・・・フンッ!!!
【思い切り、吐き出し、それと同時に地面を踏んだまま、「踏みしめる」】
【メシメシメシ、と板がきしむ。今にも板をぶち破る勢いだ】

【全身の息を吐き出すことによって、一時的に得られる、限界を突破した力み】
【それを士道は行った】
【これにより、肉体は通常よりも筋肉に固められ、防御力が強化される。さらに、思い切り力み、真下に踏み込むことによって、足場がさらに頑強なものになる】
【板が、ぶち破れることがない限り、士道の身体は倒れないだろう】

【士道は、その打を真正面から、受けもせず、避けもせず、真っ向から当たりに行く】

山田

――ッ!
(硬い……ッ!気の一種か?)
【避けも受けもせぬ士道の胸部に肘は突き刺さり、派生で裏拳が当たるが】
【山田は「技」の拳で戦っているため、硬化し床で固定された士道を吹き飛ばすほどの「剛」を生み出すのは不可能だろう】

【だが、まともに喰らったならばそのダメージはその箇所より身体に染み込み「残る」かもしれない】

ぬっ――!
【前足となった右足の親指で地を蹴り後ろに対する推進力を生み出そうとし距離をおこうとするが】
【ゼロ距離から打ち出した後一瞬のうちに離脱するなど出来はしない】
【士道が追撃したならば山田は避ける術は持っていないだろう】

士道

・・・・・・。
【その二打をともを、まともに受けても尚、そこから揺るがず、動かず】
【まるで、地面に根を張り巡らした一本の大木のように、その場に立っていた】

・・・・・・。
(・・・やはり、わしは頑丈じゃのぉ)
【裏拳が命中し、鼻っ柱が折れ、鼻血を垂らした顔が、その山田の拳の向こうで、ニィと歪んだのが、山田から見えるかもしれない】

(李さん(阿修羅のおっさん)直伝・・・)

  セイノケン
「 生 の 拳 」

【士道の右拳に光のような、何か暖かい物が集まっていき、左手を包む】
【その光に包まれたその拳を、垂らしたまま】
【右足を後ろに下げ、その親指が地面に触れた瞬間】

【その右足に跳ねさせるように、しかし、地面とは離さずに、踏み込み】
【右拳一本で、山田の額、鼻、胸、腹部、股間、それぞれの中心を打ち抜く勢いで放とうとする】
【正中線五段突き、だ】
【その速度、常人では目で追うことすら敵わず、一般人からすれば、同時に放ったような錯覚に陥ることだろう】

山田

ぬ――
【山田は40年を空手に捧げた達人である】
【それにより常人を遥かに越える<見切り>が備わっているが……】

――おぉぉおおッッッ!!!
【……士道の拳は山田の眼を持ってしても余りに速く、多すぎた】
【山田は蹴り足により後ろに推進力を発生させるが、その距離は踏み込みにより相殺され意味を為さなくなる】

【神速の突きは山田の認識をも突破する。山田がその突きに気付いたのは額を打ち抜かれた瞬間であった】
【額が僅かに凹み、肉が飛び血が吹き出る】

【次は鼻。防御しようにも間に合う由も無い。へし折られ鼻血が噴き出す】
【呼吸を大きく阻害されるだろう】

【胸の時点で漸く山田の反応が追いつき始める】
【山田はその一撃を「打たせた」】
【打たせると同時にもう一回の後ろへの蹴り足で士道の打撃の衝撃を推進力の足しとし射程からの離脱を試みる】
【だが、そんな無理な離脱法で山田が無事で済むわけが無い。肋骨は1~4番までまとめてへし折れる】
【そのまま行けば山田の体は10mは飛ぶだろう】

【――山田は飛ばされながらも静かに瞳を閉じ、胸を打たれた瞬間全身から吐き出された酸素を補給しようとする】
【呼吸は酷くしにくく、するたびに肋骨が激痛を走らせるが】

士道

【山田に離脱されたことによって、三撃目で士道の打は打ち止めとなる】
【右拳を前に突き出したまま、ゆっくりと、「息吹」を解く】

・・・ぜはっ・・・・・・。
【途端に、肺、鼻、肋骨に激痛が走る】
【いくら一時的にとはいえ、耐え切れても、山田の打は、士道にはあまりにも「重」すぎた】
こっ・・・・・・。かっ・・・――!!!
(一発一発が・・・李さんの・・・一撃級・・・!!)
【左手で胸を押さえて、息を整えようとしている】
げはっ・・・・・・!ぜっ・・・ぜっ・・・。
(・・・こ・・・こげな打が・・・肉体だけで打てるんけ・・・!?)
【士道は、山田の肉体の完成度に、恐怖し、感服し、憧れた】
【これだけの肉体を作り出した人物を、心から尊敬した】

・・・・・・。
【士道は、飛んでいく目の前の男を、ただ、見つめた】

山田

――ぐッおおおおぉぉおッッ!!
【瞳を閉ざしたまま、山田は地に足をつける】
【だがそのまま1mほど地面を引き摺られ、黒と赤の混ざった血と摩擦の線を描きながらブレーキをかける】
【鉄のように鍛えられた山田の足裏だが、その表面の皮はズタズタに裂かれていた】

ぜぇ……はぁ……がぁっ……
【荒い息を吐きながら、けして少なくない量の血を絶え間なく垂れ流しながら】
【それでも山田は構えていた】
【最初同様左足を前とし右足を後ろとする組み手立ち】
【激痛に耐えながらも、40年間気が遠くなるほど続けたその構えは一片の乱れも無かった】

良い拳だ士道君よ……
ははは……近い将来、李君をも凌駕するかもしれないな……
【山田は笑っていた。どれだけの苦痛があろうとも、一切笑顔は絶やさない】

それでこそ――死合いというもの……ッ!
【だが、山田の纏う気配はその笑顔ほど優しくはない】
【巨岩の如き山田の闘気は死地に達してなおその濃度を増し続ける】

……其処退き空けろ……鬼 が 舞 う ぞ

【山田は地より響くような声で言葉を発する】
【それと同時に開眼。その目には、戦に笑う鬼の気が宿されていた】
【山田の闘気は濃度を更に高め、常人から見ればその姿は巨岩の上で――】

……はは、はははははッッ!
【――鬼が舞い踊るように見えるかもしれない】

【山田は足をスイッチする】
【右足を前足とし、左足を後ろ足とする逆構え】
【山田の「殺気」の構えである】

【山田は摺り足で徐々に、徐々に士道の元へと距離を詰めていく】
【重症でありながら、その姿はそれを感じさせぬほど力強く、乱れが無かった】

士道

・・・・・・。
【士道は、荒く息をしながらその鬼を呆然と見据えていた】
【これほどまでに、「人」を鍛え上げたものは、士道の人生の中で一人しか知らない】
【その一人こそ、士道の父親であり、虎殺しを達成させた「初代 平野流」その人だった】
(・・・親父ぃ・・・・・・!!)
【士道は、山田の姿を父親と重ね合わせ、そこからなお、山田を一人の「武人」として見た】
【何時の間にか、士道の息は整っていた】

・・・・・・闘ろう。
【まるで狼のように、鋭く尖らせた左目と】
・・・山田さん。
【眼球が丸々すっぽりと抜けた、その奥にはまるで闇が広がっているように錯覚する漆黒の右目で、じぃっくりと、山田を見据え】

一世一代の・・・最ッッ高ッッの空手を・・・!!
【ニィと笑って】

(これを実践で使うんわ・・・初めてになるのぉ・・・)
「平野流空手術 士の型」

  ガンクツオウ
「 岩 窟 皇 」

【構えた】
【左手を手刀の形にして前に、右拳を固く握り右の腰にそえ】
【右足を開き、下げ、左足はそのままジィと指先で山田を睨みつける】
【その状態で身体の中心に体重をかけ、構える】
【この世界にきて、初めて使う型だった】
【その型を今、山田にぶつけようと、士道は山田を待ち構える】

山田

行くぞ士道君……ッ!
互いの<道>を……比べようッッ!!

【山田は士道より4mほどの位置まで近づくとそこで停止する】
【そして、その場で低く、低くこれまでに無いほどに腰を落とした】
【ただでさえ低いその身長は、士道の腿辺りの高さに顔があるほどだ】

こぉぉぉぉおおぉぉお……すぅぅぅぅううぅう……
【大きく、息を吸い、吐く。吐くと同時に口から血が溢れ出た】
【それと同時に、右後ろ足親指を強く、強く、限界まで地面に押し当てる】
【左拳は引き絞るように後方に肘を突き出すほどまで引かれ】
【右拳は人中直線上に開いた状態で置かれている】

――ぬんッッッはぁぁぁぁあああッッ!!
【山田の右後ろ足親指が渾身の力で床を蹴り、爆音と共に前方に推進力を発生させる】
【極端に低い体勢のまま、レールガンの如く撃ち出された山田の体は瞬く間に4mの距離を埋めるだろう】
【山田のぎらついた鬼の眼が、下方より一つの動作も見逃さぬようにと射抜くように士道を見ている】

士道

(岩窟皇・・・これに使うは・・・ただ、一撃・・・)
(一撃を・・・放つのみ・・・!)
【開いていた左手を握り、逆に右手を開き、その指先を折り曲げ】

・・・・・・ッッ!!!
【右足の親指で板を割り、蹴る】
【その勢いのまま】

かぁぁああぁぁああぁあぁああぁああぁぁぁあッッッッッ!!!!!
【怒声、まさに地面が揺れるほどの、道場内が轟くほどの怒声を張り上げ】
「平野流空手術」

  バクサイガン
「 爆 砕 岩 」
【山田がこちらに飛び込んでくるのに、タイミングを合わせ、右足を地面に降ろし、踏み込み】
【山田の脳天目掛け、右手刀を振り下ろす】
【唐竹割りだ】
【――現時点で出来る、士道の、渾身の一撃だ】

山田

(強い……だが―――ッッ!)
【山田はそれを、「視る」】
【山田のこの構えは受けに最大限まで特化させた形である】
【身体を低くし、また、構えにより正面から見える横面積をも減らす】
【それにより「当てることの出来る場所」を最大限まで限定させるのが狙いである】

(――私に打つには単調すぎるぞッッッ!)
【前に突き出した右手は、畳んだ身体のほぼ全ての位置をカバーできる鉄壁の受け手と化し】
【その見切りはほぼ2ヶ所程度を視るだけで良いため、更に対処能力は上昇する】

【だがその分体勢が低すぎるため相手への攻撃の到達速度が低下し】
【更にまともな打撃が打ち辛くなるという欠点もあるが】

おぉぉぉおおッッッ!!
【山田は頭を狙う右手刀に対し、右腕を斜めに傾けた形で】
【膝を伸ばし、下から伸び上がるようにして手首目掛け右腕をぶつけようとする】
【上からの攻撃を最大限まで逃がす山田渾身の上げ受けである】
【無論、逃がしきれる由も無く、受け流せたとしても山田の右腕には甚大なダメージが奔るだろう】

【もし受け流すことが出来たならば、山田は引き絞った利き腕の左拳を士道の胸目掛け打ち出すだろう】

士道

ぉあぁああぁぁああッッッ!!!!
【なおも怒声を張り上げる。腹の底からの叫びを】
【全て、この一撃に込める】
【――込めた】
【込めたはずなのだ】

・・・・・・ッッ!!
【だが、受け流された】
【――渾身の、精一杯の一撃をッッッ】

・・・・・・。
(見事・・・)
【手刀は弾かれ、懐ががら空きになった所に】
【左拳が命中】
【メシリ、と言う鈍い音とともに】

(見事じゃのぉ・・・・・・ッッッ)
【力を使い果たした士道の身体は、あまりにも軽く浮き上がり】
【道場の壁へと、吹っ飛んでいった】
【しかし、その吹っ飛ぶ最中、微かに士道はニィィと笑った】

山田

……ぐ……がぁ……
【放った瞬間、山田も崩れ落ちる】
【最大限力を逃がしてなお、山田の右腕は砕かれていた】
【ダラリ、と力なく垂れ下がり、動かそうにもピクピクと痙攣するばかりであった】

が……はぁ……はぁ……
【膝を付き、血を吐き出す】
【無理に身体を動かした結果山田の肋骨は複雑骨折し、立つこともままならぬ激痛となり襲う】
【鼻は折れ、額は裂け、ボロボロの姿であった】

……士道君、君の空手は……強く、美しい……
君と戦えた事を……私は誇りに思う……
【吹き飛ぶ士道を、山田は温かな笑みで見ていた】

……強く、育ったな……
【士道の完成度を、ただただ讃える】
【その表情は、組み手前に見せたような子を見る親のようなものであった】
【山田はこの瞬間、残してきた我が子と士道を重ね合わせていた】

士道

・・・・・・。
【そのまま壁に激突】
こふっ。
【その衝撃で小さく息を吐くも、士道は既に意識を手放していた】

・・・・・・・・・。
【壁にもたれた状態から】
・・・・・・。
【ずるずると、崩れていき】
・・・。
【最後には、その道場の冷たい床板に、頬をすり合わせていた】

山田

さ、て……
【山田はボロボロの道着の中から左手で包帯を取り出す】
【それで顔と胸をグルグル巻きにすると、ヨロヨロと士道へと近づく】

……応急処置は、しておかねばな……
【意識を失った士道に、出来る限りの治療を施すと】

……今はゆっくりと、眠るがいい――士道
明日はまた、一つ強くなった君がいることだろう……
【ゴツゴツした左手で頭を撫でると、自身もその場で倒れ伏した】

ぐおー!ごぉぉぉおおーー!
【そして、けたたましい寝息と共にすぐに眠りに入っていった】