ぶつかる拳、消え行く魂



【公園】

…しっ


ダンッ


【白髪黒長袖シャツの男が八極拳の形を打っている】


アズール


ようやく……会ったな

【黒髪短髪で上下黒ジャージの少年が近づいてくる】

【その瞳の奥に、信念の炎を燃やしながら】




…ん?

【振り返り】

…おー…久しぶりだ、な

【男の顔には無かったはずの大きな傷跡がある】

…じゃあ…やるか?


アズール


お前もわかってるみたいだな

【両手をポケットに突っ込み】

……先に言っとく




…ん?


アズール


これは、レーゲンボーゲンとはまったく関係ない

俺のプライドの問題だ

レーゲンは「世界平和」を掲げているけど全然平和じゃねぇからな

正直、俺はレーゲンを追い出されるかもしれねぇ

でも、そんなことより

絶対にお前だけには負けたくねぇんだよ……!!

命懸けてでもな!!




…命がけ…か…わかった

【瞬間】
【公園内に激烈な殺気が満ちる!】
【両手をダラリと下げ右足を後ろにずらし腰を少し落とす】

…龍氏八極門…李・龍(リ・ロン)…


推して

参る


アズール


男、山本一郎!!
【本名を大声で叫び】

……この全ての一瞬に

俺の泥まみれの人生を懸ける!!

【今までケンカで生き残ってきた男】
【その独特の殺気を出し、李の殺気とぶつかり合う】

別に、前に比べて魔法が使えるわけでも
剣が振れるわけでもねぇ
俺には拳しかねぇよ

無理だとわかってても越えないといけない壁が男にはあるだよォ!!

【両腕をまくり、構える】




…俺の人生を
…一撃に込める

【今までそうやって生きてきた】
【その生き方しか知らなかった】

…魔法も…能力も…ない
…俺「達」には…拳しか…ないわな

【似た者同士二人】
【漢が二匹】

…来いよ…「後輩」…っ!


アズール


あ?後輩?

ケンカに先輩も後輩もクソもあるかボケェ!!!

【その姿を見て誰もが言うだろう】

【怒りに身を任せた不良だと】

うおおおおおおお!!!

【走り出し、距離を詰めようとする】




…テメェは人生の後輩だろうがぁ…っ!

【ニヤリと笑う顔は獣のよう】
【タイミングを合わせて踏み込もうとする】


アズール


テンポ=180!!
【グン、と動きが速くなり】

テメェを先輩だと思ったことは一度もねぇ!!
【素早い速度で体を回転させながら、踏み込んでくる李に右裏拳を放ち】

テメェは俺の「壁」だ!!だから壊す!!
【瞬時に素早い速度で左フックを同じ頬に放つ】




…化勁っ


ゴッ
ダンッ


【裏拳はいなす、フック直撃】
【硬気功で大幅に軽減、奥歯がぐらつく】
【喰らいながら踏み込み】
【踏み込みながら…】








【鳩尾狙いの左肘打ち】
【直撃すれば吹き飛び悶絶する事になるだろう】
【運が悪ければ気絶するかもしれない】


アズール


ふっ!!
【素早い動作で左フックで傾けた体重に身を任せ、上半身を折り】
【肘打ちはアズールの腰の上を通過する】

【そのまま股下を通るように前転、踵が喉元に向かいかなりの勢いで飛ぶ】




…零勁

【義手の右腕で弾く】
【硬気功で大幅に軽減、ほぼ無傷】
【弾いた右腕で足を掴もうとする】


アズール


あぶね!
【両手を地面につき、掴まれる前に両腕で体を飛ばし、距離をとる】
【両足で着地】

(……感触が違う……義手か!!
 となると右手にダメージは溜まらないか
 なにが「拳しかない」だ……いいもの持ってるじゃねぇか)




…次に撃つ技は…俺がこの世界で見つけた…一つの答えだ
…行くぞ

【踏み込もうとする】
【速度は先ほどと変わらないが「鋭い」】


アズール


チッ!!
【踏み込んでくる相手に左前蹴りを鳩尾に向かって放ち】

【瞬時に右回し蹴りを頭に向けて放つ】




…かあっ


ガガンッ


【前蹴りを右腕で、回し蹴りを左腕で弾く】
【硬気功で大幅に軽減、右腕ほぼ無傷、左腕痺れ】


ダンッ


【踏み込みながら…】

…俺流『阿修羅』連携一式


崩撃

雲身

双虎掌


【鳩尾狙いの右掌打→背中でのタックル→胸部狙いの両手掌打を順に放つ】
【一撃一撃、直撃すれば吹き飛び悶絶する事になるだろう】
【その速力は人を超えている】
【「一撃を受けて吹き飛ぶ前に二撃三撃が入る」と言えば…その速力が異常なのがわかるだろうか】
【運が悪ければ気絶するかもしれない】
【二撃三撃と入った場合、その確率は更に上がるだろう】


アズール


(なぜ……だ?)

【攻撃を防がれながらふと】

(攻撃を軽減できるならわざと食らうはずだ
 さっきの踵も、俺ならあえて食らって、カウンターで一撃を狙うが……急所は軽減できないのか?)

(いや、まて、やらないんじゃなくて……)

!!!
【攻撃の速さに驚き、素早く一撃目を身をよじって回避】

【しかし、あまりにも対応が遅すぎた】
(まにあわねぇ!!)
ドゴッ!!ドガッ!!

【タックルと掌打が直撃し吹っ飛び、地面を転がる】

……ハァ……ハァ!!

【体勢を起こし、膝をつきながら】




…ち

【『本気モード』解除】

(…やはり…速い、な…一撃目を外し…無意識にだろうが…自ら飛んで…二撃三撃を軽減しやがった)

…どうした?…まだ…終わりじゃあない…だろ?


アズール


ハァァァァァ!!根性ォ!!

【本来なら倒れているダメージだ】
【だが今回は命を懸けている】
【その名の通り、根性だけで立ち上がる】

おわらねぇよ……俺がテメェを倒すまでな!!

うおおお!!テンポ=240!!!

【周りの空気が重くなり、再び構える】
行くぞォ!!

【ダッ、と走り出した瞬間、目で追えない速さで懐まで近づき】
【右アッパーを顎に向けて放つ】




…ぐっ


ガゴンッ


【直撃】
【硬気功で大幅に軽減、軽い脳震盪を起こす】

(…見えん…っ!)

…震っ

【踏み込もうとする】


アズール


(一撃目は直撃したが倒れないから軽減されている!)

(もしも……もしもそうなら!!
 一発勝負だ!読みが当たるか当たらないか!)

はぁぁっ!!
【李なら見えるかもしれない】

【氣が、体内を動き周り】

【最後の攻撃に備えていることを】

【そしてその攻撃には】

【死が伴っていることを】

(来い……!!)




(………野郎)

【李には見えている】
【その一撃は】
【「殺す」一撃だと】
【その名を…『阿修羅』と言う】

…ふうううううううう

【氣が見えない者でも感じるだろう】
【李の一撃は「生かす」一撃だと】
【己を…そして相手を】
【李が『阿修羅』を使えぬ理由である】
【李がいくら殺す気になろうとも】
【『一撃』が両方を生かすのだ】
【『一撃』が李の『阿修羅』を「殺して」いるのだ】

…行くぞ

【『阿修羅』殺せし『生』への『一撃』放つ為、踏み込もうとする】


アズール


うおお!!

【踏み込む相手に対して目で追えない速さのまま右フックを頭に】
【左ストレートを鳩尾に入れようとする】




…っ!


ボグンッ


【フックを右腕で防御、ストレート直撃】
【硬気功で大幅に軽減、右腕に薄く凹み、内臓損傷】

…ぐぶっ…

【吐血】


ダァンッ!


【踏み込みながら…】
【ストレートで伸び切った腕を掴もうとする】


アズール


くっ……!!
【速さが元に戻り、簡単に掴まれる】

【まだ奥の手は出ていない】
【勝負は次の攻撃だろう】




…ぐぶっ…ぐっ

【引き込みながら…】

…勝負…!






【引き込みながら背中でのタックル】
【最大の勁の一撃】
【触れた瞬間意識は頭から飛び出す事になるだろう】


アズール


テンポ=300……【……そう呟いた瞬間】

【消える】

【いや、タックルを掴まれながら素早く避けたが正しい】

【だが、その動きは肉眼でとらえることは難しいだろう】

【そして、右腕を掴まれながら左拳で、鼻、顎、喉、鳩尾を狙い一瞬で左ストレートを順に放つ】

【それはまるで弾丸の如く速さ】

【鉛のようなものが弾丸と同じ速度で飛ぶ】

【これが……最後の攻撃】




ゴゴゴゴンッ!


【全弾直撃】
【頭蓋骨にヒビ、喉部圧迫により呼吸困難、鳩尾へのさらなるダメージにより内臓の損傷深刻化】
【つまり…】

…………ぐぶっ………

【今】
【腕を掴んだまま、気絶せずに立っている事自体奇跡だという事】


アズール


【姿が見える】

【その姿は、棒のように立ち尽くしたものだった】
【これ以上は戦えない】

【そして、少しずつ氣が薄れていっている……】




【抱きしめる】

…ぐぶっ…バカ野郎…

(…死なせん…っ!絶対に………死なせてたまるかぁ!)

…ぐっ…おぉぉぉォォォォォォォォォォォォ!!

【そのまま最後の氣を振り絞った内養功発動】
【李の命を削る内養功だ】
【アズールを助ける!】
【李の心はそれだけだった】


アズール


【すさまじい内養功により傷が全て塞がる】

【しかし、依然氣は薄れていく】

何やってんだよ……
俺……勝ったのか?

【内養功により少しの会話ができるまでになったようだ】




…バカ野郎…まだまだ…これからだろ…?

【内養功は続いている】
【李の怪我も回復している】
【だが続ける】
【李には見えている】
【アズールの氣の薄れが見えている】
【命の内養功続行】


アズール


じゃぁ……俺の負けか……
ハハハ……仲間の壁になるって言って……壁が動いたらそりゃ……負けるよな

【たどたどしく言葉をつなぎながら】

【ふいに】

俺さ……中学の時はケンカなんてしたこと無かった

【しゃべり始める】





【内養功を続けながら耳をかたむける】


アズール


友達も普通で、将来の夢もあって、そのために一生懸命勉強して、高校は進学校に進んだ
高校の勉強はつらい時もあったけど、頑張ったな……

いつぐらいだっけか……
友達数人と街を歩いていると、不良に絡まれたんだ……
俺は怖くて逃げ出したかった……
でも空手やってたからさ、逃げずに立ち向かった
その時に……良くも悪くも能力が覚醒したんだ……

不思議な感覚だったけど、友達を護るということで頭がいっぱいだった……
俺の手は腫れ上がって、不良は病院送りになった……




…もう…いい

【内養功を続けながら】


アズール


【しゃべり続ける】

その日から俺の人生は狂った……

職員室に呼び出され、先生から不良扱いされた……
その噂は学校中に広まった……

護った友達からも徐々に白い目で見られ、グループからはずされた……

さらに、不良を病院送りにした噂が市外にも広まり、ケンカを売りにくる奴が後を絶えなかった……
学校を護るため、そして自分でまいた種でもあるから、全て相手をし、追い払った

そして、追い払う度に先生から指導が入る

生徒から避けられる

学校での居場所がなくなる……

もう嫌になってきた時……この世界に飛ばされた




……もう……喋るな…っ

【内養功は続いている】


アズール


この世界は違った
力が力を支配する世界、力が認められる世界

そして、護られることを肌で感じられる世界……

俺はレーゲンの壁になるって決めた……
何故ならこの世界の護られてる人は、「自分が護られている」ことを自覚しているから……!

俺はこの世界が好きだ……
俺を受け止めてくれる世界……

【目尻から涙が落ちる】

レーゲンのみんな……ゴメンな……
結局護れなかった……
ちっぽけな自分のプライドしか……

【内養功で留まっていた氣が薄れ始める】




…バカ野郎!待て!行くな!

【内養功を続けたまま叫ぶ】

まだ死ねないだろうが!?ここだ!この世界で!俺達は生きていいんだぞ!?

【涙が出る】

だから…死ぬなぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァ!!

【最後の内養功】


アズール


【内養功を受ける】

【しかし、手遅れに近かった】

【能力の副作用により、ただ疲労を取ったり傷を治したりのような簡単なものでは無い】

【そして、戦う前から覚悟していた事だ】

【命を懸ける……と】

俺……死ぬのかな
死ぬのって……怖いのかな




死なん!死なせん!

【命を振り絞る】

生きろ!生きてくれ!

【内養功は体内に氣を巡らせる事によって体内の自浄力を高める技だ】
【本来なら氣も回復するはずだが…】

頼む!一郎!生きてくれ!


アズール


バーカ……本名で呼ぶんじゃねぇ……

【その必死になる姿が】

【自分の父親と重なる】

……親父……俺、楽しかったぜ
この世界で……たくさんの仲間ができたこと……親父に言いたかった……な……

【氣が】

【全て消える】




…!

【李にはわかる】
【今】
【アズールの氣が消えた事が】

…お…
おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォっ!!!

【慟哭】


アズール


【少しずつ体温が奪われていくその顔は】

【誇らしげな顔だった】




……行くぞ…バカ野郎…お前の…「仲間」の所に…

【アズールの身体を背負い歩き出す…】

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最終更新:2009年07月27日 10:03