ある剣客の昔話


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【約三年前 櫻の国のどこか】


「あのさ、何でクソ親父の葬式で俺がこんな働かなきゃいけないわけ?」
『お前が長男だからだ、世の中そういうものだからな』
「それ言ったら姉ちゃんだって長女だろ」
『・・・もう成人して二年も経つのにこの子はなんで常識がないの?』

姉貴とこんな会話をしたのはこれが最後だったかな
鬱陶しい親父が死んでようやく髪が伸ばせるなんて喜んでた頃だ
母上が亡くなった時と違って涙なんて一滴も出なかった
なんで?そりゃあ親父が世界でただ一人俺にだけ家族からバレないように暴力を振るうからさ
道場開いてるだけあってガキの頃から無理やり教え込まれた剣術じゃ歯も立たない
見つからないように顔だけは狙わなかったり悪質だったぜまったく

「言っとくけど俺は道場なんて継がないからな」
『想像してたがだめだ、長男はお前しかいないんだぞ?」
「長男長男うっせーよチビ。さっさと結婚して旦那に継がせろ」
『フッ、どうせ二十代後半で剣術しかとりえのない私なんて・・・』

確か俺が15のあたりで姉貴と身長が逆転したんだ
それまで俺も140cmあるかないかっていう超絶チビで・・・・
よく姉貴にもいじられてたんだが今じゃ50cm近い差がある
この人は俺を理解してくれるし話もわかるから好きだけどな
それでも身長と年齢で責めるのは隠れた日課だ、楽しい

「・・・・・にしてもあいつ、心臓麻痺だっけ?」
『ああ、父上もお年を召されていたからな。無理が祟ったのだろう』
「俺焼く前のあの人見せてもらえなかったんだがそれはどういう?」
『・・・うるさい、心臓麻痺といったら心臓麻痺だ』

本当に嘘をつくのが下手なんだよなこのお姉さまは
そりゃ毎日のようにじゃれあって遊んでりゃ痣にも気付くだろうよ
仲間の間じゃ自慢でもないが中心にいた俺が虐められるはずもない
剣の腕もまぁまぁ立つ、それじゃ一体誰が弟にこんなことを――
姉貴、あの日嫌に黙り込んで愛刀を握り締めてたよな

「ハァ・・・・・ちょっと涼んでくるから先寝てろよ」
『カツアゲに気をつけるのだぞ、ちゃんとハンカチは持ったか?』
「もう22だっての、それに小学校でもハンカチは邪魔なだけだった」
『トイレから出た後使うだろう・・・。まぁ、お休み』

そんなこんなで昼間と打って変わって静かな廊下を歩いて玄関に
姉貴にも内緒にしてた『能力』を利用して買った靴を履いて外に出たんだ
特に行く当てもないし何より深夜、そこで若き日の俺は墓に足を運んだよ
親父に会うとかそういうことじゃなくて本当になんとなくさ
それにもし会うんだったら親父じゃなくて母上に会いに行くっての

「結構冷えるな・・・八月だからって薄着なわけじゃないが・・・・」
「しかしなーんでここに親父と母上が一緒なのか納得いかねぇな」
『おい』
「あ?」

地味に広い霊園をゆっくり歩いてうちの墓にたどり着いた時だ
女神って言ったら言いすぎだがそんな母上と親父が一緒なんて嫌だろ?
いや少なくとも俺は嫌だったからでかい墓石を見ながら呟いたのさ
つい十時間前にも納骨で見た古臭くて苔が生えただっさい墓を見ながら
そしたら後ろから聞き覚えのある声がする、俺は誰かも気付かずに振り向いたんだ

「・・・・・・・・・いやいやいやいや、酒飲んでないから」
『青ざめた顔でよくわかる。ところで蘭に道場を任せると遺言を・・・』
「勝手に何言ってんのコイツ・・・おーいお坊さ――ッ!」
『それとお前にはこれをくれてやる。隠れて居合い練習してただろ』

まぁわかるよな、後ろにいたのは青白く透けた親父だったよ
正直ぶっ殺されるかと思ったんだが首に刀押し付けられるだけで済んだのは奇跡だ
前に口答えしたら骨折られて気付かれないようにしろって言われたからな
で、姉貴への遺言と俺への刀の贈呈が終わるとさっさと消えやがった
お前だけかよとも思ったが足は自然と家に向かって全力ダッシュしてたから人ってすごいぜ

「嘘だろ・・・死んだばっかりでお盆に帰ってくんなよ・・・」
「とりあえず姉貴に・・・もう寝てるしやめとくか?」
「・・・・あーもう悩んでも仕方ねぇ、とりあえず着替えだ着替え」
「(それにしてもこの刀なんで墓場にあったんだか・・・・いやだわー)」

暑苦しい喪服を脱いで外に出かけるような服に着替えて一度道場に向かったな
奥の部屋に真剣が置いてあるんで使えるかなーと思って持っていったわけだ
それからまた家に帰って財布と携帯を取り朝飯を作って隣にメモを置く
俺なりの配慮ってやつだ、メモ一枚置いといたら多分卒倒するからなあの人は
ちなみにメモの内容は単純に旅に出るってやつだ、メアドは変えないとも書いた

「んーにしてもあれか?幽霊に逢って剣も手に入れたから旅ってもしかすると馬鹿か?」
「ま、金は問題ないしどこ行こうかな・・・この櫻の国からは出て行きたいよな」
  ――――――――――――――――――――――――――――――
『朝か・・・おーい帰ってるか紫え・・・・おおぅ!?』
『あ、味噌汁じゃなくてお吸い物だーやったー』

俺も味噌汁よりお吸い物が好きなんだよ、あれおいしいよな
それと姉貴が言いかけたのは「紫炎」で要は俺の本名なんだよ
クソだっせー名前付けやがって今なら名付けたアホ親父殺せるってのに・・・
姉貴には蘭なんて可愛らしい名前付けたのに俺は名前書くたびに笑われるんだぜ
マジで馬鹿みたいな話だが親父が死んで俺は旅に出たのさ、今は違うぜ?

『へぇ、それじゃあ次は眼鏡屋の女の子とか上司さんについて聞こうか』
「眼鏡屋の子はな・・・・あれは店長と出来てる、お前あそこの店長はやばいぞ」
『まぁ僕が狙ってるのはその店長の子供さんなんだけどね』
「嘘だろ。あとあれだ、俺の上司は下手に手を出すと爪がなくなるタイプだからな」

まったくこんなこと誰にも話してないんだからな
お前がここいらで最初の友人だから話すんだ、金貨三枚かけてもマジだぜ
‥いや、俺お前に能力説明したっけ?まぁいいや、とにかくいい友人だよお前は
こうやって誰かに昔のことを話すのも案外悪くないかもしれないな
それじゃそろそろ帰るぜ、上司様に機関を探れなんて言われて忙しいんだ

「あんな事言ったが家帰って寝ちまうかねぇ・・・・でもあの悪魔君うっさいんだよな」
「・・・ゼリー買っていこう、確か次はブドウがいいんだったか」
「俺もブドウは好きだがゼリーに関してはみかんが最強だって言うのに」

「姉ちゃんに背伸びたかメールしてみようかな」

       ――END―― デーン