"烙印を押された人々"

対訳





あらすじ

  • アルヴィアーノは背が曲がった醜い男で、現実を逃避して、エリジウムという島に理想の美を求めて、仲間たちと理想郷を創り出す。だが、仲間の貴族たちは、美の空間だけでは物足りず、町の美しい娘たちを攫っては、島に作った洞窟で享楽的な日々を送っており、町では少女誘拐に市民が怯えていた。アルヴィアーノはそんなこととは露知らず、自分が創った理想郷のエリジウムを、ジェノヴァの市民にも開放して楽しんでもらいたいと、市に寄贈を申し出たのである。
  • 舞台はここから始まる。仲間の貴族たちは、自分たちの悪事がばれるのを恐れて、アルヴィアーノに寄贈を思いとどまらせようとする。が、アルヴィアーノは公証人を呼んで、寄贈の手続きを進めている。

訳者より

  • フランツ・シュレーカー(1878〜1934)は、『はるかな響き(Der ferne Klang)』(1912)、『烙印を押された人々(Die Gezeichneten)』(1918)、『宝捜し(Der Schatzgraeber)』(1920)などのオペラ作品で知られる作曲家で、主にウィーンで活躍した。1920年にベルリン高等音楽学校の校長となり、当時、シュレーカーはリヒャルト・シュトラウスに次いで最もよく上演されたオペラ作曲家だった。が、ナチスの台頭とともに、ユダヤ人であったために職を失った。
  • その後、ナチスはユダヤ人作曲家の作品を“頽廃芸術”として、上演禁止とした。
  • 戦後、70年代頃から“頽廃芸術”とされた作曲家の作品は、復活上演され始める。1979年にフランクフルトで『烙印を押された人々』が上演されて評判となり、それ以降、シュレーカーはヨーロッパ各地で上演されるようになる。私は1979年フランクフルトで『烙印を押された人々』の上演を見ているが、その時のパンフレットには、長らく封印されていた、このオペラを知らない人のために、台本や参考資料が載せてある。今回、訳出するに当たり、当時のパンフレットを参考にした。
  • ドイツ語のタイトル、“Die Gezeichneten”はもともと「印をつけられた人々」という意味だが、これだとどんなオペラか、内容が想像つかない。これを『烙印を押された人々』と訳したことにより、このオペラの内容が、見当がつくものになる。つまり、ここに登場するのは3人の“烙印を押された人々”である。一人は、醜いアルヴィアーノで、自分の求める美と、自分自身の醜さとの落差に委縮して、目の前に愛する女性がいても、その女性に手を触れることができない。その女性、カルロッタは美しいけれど、心臓が弱く、手しか描く事のできない画家で、一言でいえば“病んでいる”。もう一人は、色男のタマーレで、彼は望むものは何でも手に入ると思っている。だから、カルロッタから拒否されると、いっそう狂おしく彼女を求める。アルヴィアーノの愛が精神の愛なら、タマーレの愛は肉体の愛で、まさにアガペーとエロスを代弁している。一人の女性(ソプラノ)をテノールとバリトンが争うという点でも、オペラの典型である。シュレーカーはこの台本を自分で書いている。

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@ Aiko Oshio

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最終更新:2017年08月10日 23:37