目次
作品について
- 「三文オペラ」は1928年に初演されたブレヒト/ヴァイルのコンビでは一番有名な作品となります。中でもオープニング・ナンバーの「どすのマックの大道歌」あるいは「匕首マッキー」は「マック・ザ・ナイフ」のタイトルで、ジャズのスタンダードナンバーとして知られているので、「三文オペラ」を知らない人でも、「マック・ザ・ナイフ」のメロディーは知っている人が多いのではないでしょうか。「マック・ザ・ナイフ」はサッチモことルイ・アームストロングやサミー・デイビスJr、ボビー・ダーリンやスティングの歌唱や、ソニー・ロリンズのサックス演奏などでも知られています。
- 「三文オペラ」はタイトルにこそ「オペラ」とは書かれていますが、ブレヒト自体は「歌付き音楽芝居」と呼んでおり、「魔笛」のような台詞の間に歌が入るジンクシュピールに属する物と言った方がよいかも知れません。実際、「三文オペラ」の録音で「全曲盤」と称される物のほとんどは台詞のほとんどがカットされて、オペラの盤と言うよりはミュージカルの全曲盤と同じような扱いになっていたりします。ブレヒトの大家である岩淵達治先生は「三文オペラはミュージカルではない」と言い切っていますが、広義のミュージカルと言っていいのかも知れません。
台本について
- 今回の訳出テキストのベースはLondonから出ている
ジョン・モーセリ盤
の歌詞カードがベースで、それに若干、ロッテ・レーニャがジェニー役で歌っている
ブリュックナー・リュックベルク盤
から歌詞を補った形になっています。
- 本当ならばSuhrkampから出ているブレヒトの出版台本かKurt Weill Editionのものをベースとすべきなのでしょうが、ブレヒトの台本は
- 冒頭の「Sie werden heute Abend eine Oper…」の口上がない、
- 「Lucy's Arie」がない、
- 上演後にブレヒトが歌詞をいじっているのでビックリするくらい歌詞とメロディが合わない、
- ほとんどのCDでは台詞がカットされているが台本ではCDに入っていない台詞が多い、Kurt Weill Editionは素人がちょっと手が出せるお値段じゃない
と言う理由から、今回はこの形にさせて頂きました。
- いずれ全台詞も含めた完全版で訳出できればいいなと思っています。
録音について
- 「三文オペラ」の録音は有名な作品の割りに意外と少ない印象です。全曲盤と謳っている物はいくつかあるのですが、本当の意味で全曲盤と言えるのは、台詞がほとんど全て納められている
ジェイムズ・ラスト盤
の2枚組CDと、これまでの全曲盤同様に台詞はカットされているけれどKurt Weill Edition準拠で劇中に流れる器楽曲も含めて全曲納めた
HKグルーバー盤
、フランス語訳だし意外と歌の2番とかがカットされてるみたいだけど台詞がほとんど入っているオズワルド・ダンドレア盤の3つしかないのではないかと思います。ブリュックナー・リュックベルク盤はレーニャが歌っているし、歴史的に重要な盤ではあるのだけれどレーニャのためにいじった部分があるし、ジョン・モーセリ盤はウテ・レンパーやミルバの歌が聞けていい盤だけどミルバのために「海賊ジェニィ」が2回入ってたりするし、その他の盤だと古い録音では「ルーシーのアリア」が聞けないのが寂しかったりします。
- 上に挙げたジェイムズ・ラスト盤は1枚組と2枚組の2種類あって、1枚組の方は「Songs & Szenen」とか書いてあるくせに台詞は完全カットなので、騙されて買わないように注意が必要です。HKグルーバー盤はジャケットのニナ・ハーゲンの写真がお澄まし顔のとビックリ顔のとがあるのですが、中身に違いがあるのかないのかは分かりません…。
- 全曲盤ではないですが1930年録音の
テオ・マケーベンの13曲抜粋盤
は若い頃のロッテ・レーニャの声が聴けるし、1928年の初演キャストのエーリッヒ・ポントが出ていて初演の雰囲気を伝える貴重な盤になります。何よりもこの盤では初演のブラウン役のクルト・ゲロンが口上とブラウン役を務めているのが重要です。ほんの3コーラスしか歌っていないのですが「モリタート(大道歌)」は
ゲロンのもの
が一番だと自分は思っています。
- 余談ではありますが、クルト・ゲロンの悲劇的な生涯については「Prisoner In Paradice」と言うドキュメンタリー映画が作られ、
「ナチス、偽りの楽園」
のタイトルで2011年に日本でも上映されていたみたいです。その中でも少しだけゲロンの歌声を聴くことができます。
おまけのお話
- 「ピーチャムの朝の賛美歌」のメロディーは「三文オペラ」の元ネタとなったゲイ/ペプシュの「乞食のオペラ」の中にも出てきています。
- 「ルーシーのアリア」の歌詞も、ほとんどこのままの形で「乞食のオペラ」の台詞に出てきています。
- 1999年のドイツ映画に
「バンディッツ」
と言うのがあるのですが、登場人物の1人が恋人とのなれ初めを語る場面の台詞が、よく聞くと「三文オペラ」の「メロドラマ」そのままだったりします。字幕では分かるようには訳されていなかったけど…。
最終更新:2012年10月27日 09:30