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目次

訳者より

  • 音楽劇「ヘラクレス」は、ギリシャ神話を題材とした英語台本による演奏会形式の劇的作品で、「セメレ」と対をなすヘンデル円熟期の傑作です ──── とは現代における評価で、初演当時はどちらも評判が良くありませんでした。劇場はお客が入ってナンボの世界です。自ら興行主でもあったヘンデルは、その後この世俗路線を完全にあきらめ、宗教的オラトリオによって作曲家人生の終盤を固めていくことになります。
  • 個人的には、それがどうしようもなく残念だと何度も感じながらの訳出作業でした。この路線でもっと続けて欲しかったのですが…
  • 作品のテーマは「嫉妬」です。ヘラクレスの妻デイアネイラは、夫が若い女に心を移したのではないかとの思いに捕らわれ、愛を蘇らせようと起こした行動で逆に夫を殺してしまいます。台本作者のブロートンは元ネタとしてソポクレス「トラキアの女たち」やオウィディウス「変身譚」を参考にしたそうですが、ヘラクレスがイオレを愛しているという噂は全くの流言であり(彼は完全に誠実な理想的英雄として描かれている)、夫の主張よりもデマを信じてしまったデイアネイラ一人に惨劇の原因を負わせている点が特徴です。それだけに夫を失った彼女の後悔と自分への怒りは尋常でなく、第3幕・第3場で幻覚を見て狂乱する場面は、作品中最大のクライマックスとなっています。
  • 恋愛感情には付き物の嫉妬ですが、恋愛感情それ自体も「誰に・いつ・どこで・なぜ・どのように」起こるか分からないものです。「恋に落ちる」という表現が示す通り、気がついた時にはどうにも手がつけられない状態になっている…(笑)。だから到底思いが叶わぬ相手に恋をしてしまうのも珍しいことではありません。「ヘラクレス」ではイオレを好きになってしまうヒュロスがそれです。彼女の父を殺したのは自分の親…そんな相手が自分の思いに応えてくれるわけがないのに、熱い気持ちは抑えられないのです。
  • ここで愛の理不尽さを説く合唱は、嫉妬の醜悪さを叫ぶそれと同様、人間心理を深くえぐり出す鋭い視点が印象的です。これは「心の声」または「天の声」とでも考えればいいのでしょうか、オペラ的な舞台演出を前提としない作品ならではの手法です。
  • 台本上の特徴としては他に、第三幕最初の「時間の逆転」があります。つまり第1場のリカスによる報告の後、第2場では時間が戻ってヘラクレス死の場面になるのですね。テレビドラマの回想シーンのようなものだと思っていただけばいいと思います。リカスが随所で状況の説明役を担っていて、聴衆の目の代わりになっているのも上手い工夫です。
  • この作品も多くのヘンデルの演奏会形式作品同様、その劇的な内容のために現在ではオペラ風上演が珍しくありません。ですが「嫉妬」の感情自体は心の中の問題なので動きに乏しく、逆にヘラクレス最期の場面などはリアルに舞台化すると、グロテスクになって品が無くなります。ここは訳しながら「言葉と音楽だけで観客に想像させるからこその表現」と感じた部分でした。
  • 訳し終わってから改めて通して聴いてみましたが、台本と音楽で全て語り尽くされており、ハンパに舞台化して歌手に演技の負担をかけるよりも、演奏会形式の方がよほど良いと思います。少なくとも「セメレ」ほど視覚要素を加えるメリットはないのではないでしょうか。
  • タイトル役ヘラクレスはギリシャ神話最大の英雄です。ヘンデルの「アドメート」にも登場して、アドメート王の妻アルチェステを地獄から連れ戻しますし、ヴィヴァルディ「テルモドンテのエルコレ(←ヘラクレスの伊名)」では女傑アマゾン族と戦う強者一味の総司令官役です。ヘラクレスの父・最高神ゼウス(ジュピター)は「セメレ」同様、最後に彼の仰せにより若い男女が結ばれることで、タイトル役が悲しい死を遂げても、物語が明るく終わるように上手く使われています。
  • 色々とバロック時代の台本を読むと、当時の台本上の常識がだんだん分かってきて、後世のものと比較して非難されがちな点も「これが当時のパターンだから」と許せるようになります(笑)。とはいえこの「ヘラクレス」はそんな許しを請わなくても、非常に良く出来た台本だと自信を持ってお薦めできます。ぜひヘンデルのドラマチックかつ美しい音楽と一緒にお楽しみ下さい。

おことわり

  • 訳文中の人名・地名などの固有名詞は、当作品に関係するヘラクレスの物語の日本語情報がすでに多いことを考え、ギリシャ神話名を中心とした一般的な呼び名にしました。(なおヘラクレスの幼名「Alcides」も「ヘラクレス」と訳しています)
  • 音源を聴きながら訳文を読む場合、英語発音と異なる点をご了承ください。例えば英語では「Hercules」は「ハーキュリーズ」、「Dejanira」は「デージャナイラ」と聞こえます。

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@ REIKO
Handel,George Frideric/Hercules



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